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こっち向いて、運命。ー半神騎士と猪突猛進男子が幸せになるまでのお話ー

酔った嫁ほど罪なものはない *

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 好奇心は時に身を滅ぼす。先人はそんなことを言ったらしい。エルマーはどこぞの飲み屋でそんなことを小耳に挟んで、なるほどなあと思ったわけである。しかし、世の中にはエルマーの嫁のナナシのように、好奇心の塊すぎる人物もいるのだ。
 それはもう、元の性格がおおらかなので、何があっても感情の振り幅は揺るがない。それってなんでかと聞いたところ、だって、ナナシが悪いもん。であった。なるほど、落とし所を見つけると人は優しくなれるらしい。
 
「だとしたらこの間の俺のわんぱくぶりも許してくんねえかなあ。」

 カロン、と傾けたグラスの氷が代わりに返事をした。
 先日、エルマーはナナシにサディンのおむつを履かせて大いにハッスルしてしまったのだ。無論、それ自体はいい。だって楽しかったし、それに大いに盛り上がった。ナナシは可愛くひんひんと泣いて、そして最終的には三日以上口を聞いてもらえなかった。いいや、聞いてもらえたのだが、全部ふんだ。だけだったので、初めての出会い以上に意思の疎通が困難を極めた。
 
「相変わらず尻の下に敷かれているのだな。」
「おうよ、つい俺の中のわんぱく心が前面にでちまってな。てかてめえもサジ相手だから変態プレイなんて慣れてんだろう。」
「ふむ。まあ夜も僕は騎乗獣としての役目を果たしているとだけ言っておこうか。」
「誰がうまいこと言えってったよ。」
 
 ふふん、と愉悦を滲ませるアロンダートも、大概市井かぶれしてきた。上品な部分も勿論あるのだが、さすがサジの番。こちらもこちらでそこそこに夜は忙しいらしい。
 
 今日は二人でギルドに向かったのだ。なんでもアロンダートがカトブレバスという毒を吐き出す大型の牛のような獣の素材が欲しいと言ったので、懸賞金山分けを約束してエルマーも手伝ったのである。どうやら毛皮を使って冬の寒い日でも心地よい暖かさを保てる絨毯を作るつもりらしい。なんだそれエルマーもほしいと思ったが、まあ空間収納機能つにの大布をくれたので、おねだりは次の機会に持ち越しになりそうであった。
 
「で、エルマーはどうやってご機嫌取りしたんだ。」
「ミセスマグノリアのチェリーパイとあいつが好きそうなぬいぐるみ買って献上した。あと土下座したわ。」
「ああ、それでナナシは?」
「ナナシ大人だから、赤ちゃんしないようって言って許してくれましたクソ可愛いいいいいいい。」
「相変わらずナナシのことになると途端に情緒が不安定になるなあエルマーは。」
 
 その勃起は足を組んで隠すがいい。笑顔のアロンダートが指摘したことで、ようやく己の起立に気がついた。足を組んで誤魔化すと、エルマーは串焼きをバクリと貪る。少し甘めの酒を気分で頼んだのだが、やはり柄じゃねえなあとすぐにチェイサーで口を濯いだ。
 
「ジュースみてえな酒だったわ。甘めェ…」
「ああ、りんごの風味らしい。ナナシが好きそうな味だな。」
「あー、確かに…。」
 
 アロンダートがエルマーの飲み差しを飲むと、そんなことを宣った。
 
「そういえば、ナナシは酒は飲むのか?」
「一回舐めさせたけどすぐに酔ってたなあ…ああ、まああん時はまだ小さかったしなあ。」
「大人になったから、もう飲めるかもな。もし飲めたら、僕はラム酒入りのタルトをナナシに食べさせてやりたいな。」
 
 どうやら最近はスイーツ作りにもハマっているらしいアロンダートが、手製のタルトの感想を聞きたいようだった。以前アロンダートが作った焼き菓子を、ブンブンと尾を振り回して平らげたのをみて承認欲求が満たされたらしい。口の周りに食べかすをつけながら、もいっこ食べたい!と珍しくおねだりをしていたのだ。
 
「酒、酒かあ…ふうん…もう卒乳してるしなあ。」
 
 エルマーの中の好奇心が顔をもたげる。ナナシに酒を悪戯させたらどうなるのだろう。もしかして、とんでもなくエロくなるのではないか。口元を押さえて、端正な顔に真剣な色味を宿したエルマーが、その実脳内でいやらしい想像を繰り広げる。アロンダートはバッチリと目にしてしまった。隠した口元がゆっくりと吊り上がって笑うという、狂気混じりのエルマーの微笑みを。なんだか自分は余計なことを言ったのかもしれない、アロンダートはそんなエルマーの様子を見てそう思った。ナナシにはすまないが、まあもし怒られたとしてもエルマーが悪いのでいいか。そう考えつくと、アロンダートも残りの酒をグビリと飲んだ。だって責任転嫁は王族の専売特許だし。まあ元が着くのだが。
 
 
 
 
 
 甘い甘いと文句を言っていたくせに、結局購入した。
 エルマーはアロンダートと飲み屋で別れた後、酒屋で同じ銘柄のりんご酒と桃の果実水を購入して家路へと着いたのだ。
 アロンダートから、濃いまま飲ませるのは怖いから、まずは果実水で薄めてみたらどうかとアドバイスをいただいたので、なるほどそれならエルマーも怖いことはないかもしれない。と思い早速それに習った次第である。
 万が一ナナシが酒乱だったらと考ても見たのだが、それはそれでちょっとだけみてみたい気もする。多分己はコテンパンにやられる未来しかなさそうだが。
 
「たでーま、ナナシ土産買ってきたぞー!!」
「今行くー!!」
 
 浴室の方から声が飛んできた。チャカチャカと足音がして、ゆりかごを咥えながらギンイロがリビングから歩いてくる。どうやら子守を任されていたようだ。
 
「お、サディン寝てんのか。」
「ナナシノフクニオシッコシタ。ダイマンゾクデスヤスヤー。」
「あっはは、おむつかえん時?俺もたまにやられるわ。」
 
 ギンイロからサディンを受け取ると、ぷうぷうと寝息を立てて爆睡だ。運ばれている途中で起きたりはしなかったらしい、エルマーがサディンの頬に口付けると、パタパタと軽い足取りでナナシが浴室から駆けてきて、滑って転んだ。
 
「ひゃいんっ!」
「ワー!!ナナシアタマゴチンシタ!!」
「ばっかやろ、お前湯上がりにかけんなって言っただろうが!」
 
 ひん…っと情けなく床で仰向けになるナナシに、ギンイロとエルマーが慌ただしく駆け寄る。ヒック、と涙は出ているが、サディンが寝ているので静かに泣いている。相変わらずびっくりして泣くのは変わらないらしい、ギンイロがナナシの着ていたパジャマを咥えて起き上がらせると、頭を擦り付けて慰めた。
 
「え、えるぅ…お、おかえりなさい…」
「あーあー、っと、たんこぶはねえな…治癒してやっから下向いてな。」
「ひうぅー…」
 
 ノソノソとした動きでサディンを抱えると、ふんふんと鼻をひくつかせた。どうやら痛かったしびっくりしたのだが、エルマーのお土産も気になったようだった。ギンイロがナニコレーと手土産を鼻で突くのに気がつくと、そのラベルを見てナナシの涙が引っ込んだ。
 
「りんご!」
「ああ、っと動くなっつの。後で飲ませてやっから。」
「ジュース?」
「と、酒。」
「お酒…はわ…大人なやつ…」
 
 エルマーによって無事に頭の痛いのもなんとかしてもらったナナシは、ワクワクした様子でリビングまでついてきた。エルマーが座ってていいよと言ったのに、ピトリとくっついて手元を見る。エルマーによってつくられた甘いりんご酒の桃の果実水割りは、なんだかとっても幸せな香りがした。
 
「濃いか?いや、こんなもんかね。」
「ナナシもあじみ」
「ミルク入れてもいいかもなあ。ほれ、」
「んんー…!」
 
 ぱくん、とエルマーが混ぜた匙を咥えると、目を輝かせて尻尾を振り回す。どうやら気に入りの味らしい。エルマーがナナシからサディンを受け取ると、代わりに水割りのコップを持たせた。
 
「サディン寝かせてくっから。あ、それ一気飲みすんなよ、一応酒だから。」
「はぁい!」
 
 元気よくいいこのお返事をしたナナシが、鼻をひくつかせてキッチンに前足を乗せたギンイロにもお裾分けをする。この時、エルマーが気をつけていればよかったのだが、まあ大丈夫だろうと楽観視して目を離したのがいけなかった。まさかのお裾分けをして減ったからと、ナナシが自分で酒を継ぎ足したのだ。当然見た目は変わらずともアルコールは濃くなる。ぺしょ、と味見をして、その濃厚な甘さと後を引くアルコールに、ナナシはしびびびっと尾を膨らませて感動した。
 
「ふぉ…大人のあじ…」
「ンワーー、アマアマダ!」
 
 んベッとギンイロが舌を出す。どうやら甘すぎたらしい。しかしナナシはこれくらいが好きだった。甘いのはすぐに幸せになれるのだ。コップを両手に持って、チマチマと大事そうに飲む。ソファに腰掛けると、ちゅう、とちょっとだけ多めに飲んでは、ほう…とうっとりするのだ。エルマーはサディンをベットに寝かせた後、やけにおとなしいナナシの恍惚とした顔を見て、ああ、気に入ったんだなあと納得すると、さて先にシャワーでも浴びてくるかと考えた。
 
「ナナシ、酔っ払ったらいけねえから水も飲めよ。桃のやつでもいいからよ。」
「ふぁい…」
「ああ、すげえ可愛い顔してらあ。」
 
 ギンイロに強請られて、いつもの器に口直しの水を注いでやった。わしりと人撫でしてから浴室に向かうと、エルマーは豪快に服を脱ぐ。鍛え抜かれた美しい体には無駄な脂肪がない。ナナシと揃いの傷跡を晒しながら、まだ微かに湯気の残る浴室に入ってシャワーを浴び始めた。
 頭と体をワシワシと洗い終えると、何やらペタペタと音がする。なんだあと振り向くと、どうやらナナシらしい。すりガラス越しのシルエットがあった。
 
「どうした、一緒に入るか?」
「うう、える…」
「ん?」
 
 ガラリと扉を開け、濡れた体を見せつけるかのように現れたエルマーに、ほんのり頬を染めたナナシがパタパタと尾を揺らす。なんだかいつもよりも目が潤んでいるし、少しだけ眠たそうである。酔っているらしいナナシの様子に、あんな少量で?とエルマーが首を傾げた。
 
「ナナシ、ナナシも入るう」
「構わねえけど、服脱ごうぜ。風邪ひいちまうしよ。」
「ぅ、やだなの、すぐがいいよう」
「ぉわ、」
 
 濡れた体なんてお構いなしに、ナナシがぎゅうぎゅうと抱きついてくる。普段なら素直にはぁいといいこのお返事をするナナシが、やだなのと言ってわがままを言う。これはいよいよおかしい。エルマーはナナシの体を抱き上げてバスタブの淵に座らせると、後頭部を支えるようにして唇を重ねた。
 
「ふ、ん、んぅ…」
「ん、んん…?なんか、酒つよ…」
 
 ナナシの熱い舌に己のそれを絡ませて口内を貪ったエルマーは、アルコールがほのかに残っていることに気がついた。ちゅ、と薄い舌に甘く吸い付いてから唇を離すと、よほど気持ちよかったらしい。ナナシがこてりとエルマーの肩口にもたれかかった。
 
「やだぁ…、もっとちゅう、」
「うわくっそかわい、って待て待て、水のもう。な、そしたらいやってほどしてやるからよ。」
「今がいいよぅ…やだ?ナナシとちゅうしたくないのう…?」
「ぐわーーーーーー可愛い!!!!!」
 
 両手で顔を隠して、天井を見上げる。なんてこったい、今日も嫁がすこぶる可愛い。酒に酔うとわがままを言うタイプとは恐れ入る。エルマーはしっかりと嫁の可愛さを股間で受け止めると、その小さな顔を包むように両手を頬に添えた。
 
「だってよ、ナナシ酔っ払っちまってんだもの。アルコール薄めねえと明日具合悪くなっちまうかもしんねえよ?」
「える…な、ナナシとちぅ…してくれないのぅ…ヒック、」
「な、泣き上戸…」
 
 嗚咽だかしゃっくりだかわからない声を漏らしながら、ナナシの大きなお耳がヘニョんと下がる。こんなのダメだろう、エルマーはくしゃっと顔を歪めてたっぷりと数秒間だけ悩んだ。ナナシのエロ可愛さと、エルマーの旦那としての使命。それを天秤にかけたのだが、秒速で天秤が傾いてしまった。ナナシがお水飲めばいいのう…?と泣きながら、シャワーを服の上から被ったのだ。当然服は透けて張り付くわけである。
 
「はあああけしからん、ざけんなくそエロいんだよ!」
「ふゎ…っ、え、える、ちぅするのう…?」
「んなもん唇もげるほどしてやらあ!!!」
 
 がばりとナナシを抱き込んだエルマーが、仄かに桃とりんごの風味がする柔らかな唇を奪う。ナナシの来ていた綿のパジャマが濡れて肌色が透けるのを見ると、やはり寝巻きは白に限るとエルマーが再認識してしまうくらいには、酔っ払ったナナシはエロかったのである。
 
   
       
 
 
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