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こっち向いて、運命。ー半神騎士と猪突猛進男子が幸せになるまでのお話ー

カルマの策略 3

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「だからってこれは無いと思う。」
「なんも悪くないよ!!寝た仲なんだから照れるなって。」
「だからってこれは無いと思う!?!?」

 怖いから一緒に寝て!!と飛びつかれ、まじでミハエルのあの言葉を再認識するイベントが唐突に始まったことに嘆いた。
 おのれナイトストーカー、なんでよりにもよってシスなのだ。カルマはシスから顔が怖いよと指摘された表情のまま、シスと同じベッドの上で天井に向かってキレていた。

「いやまじでほんと、まじでほんとに!!」
「ちょ、うるっさいなさっきから!そんなに僕と寝るのが嫌なワケ!?」
「嫌じゃねえよ!据え膳だよ!だけど仲良く仰向けにしてたら祓えないでしょうが!!だからくっつくのやめてくれませんかねえ!?」

 こちとら怒濤のごとく舞い込んでくるラッキーイベントに振り回されて満身創痍なんですわ!!シスはカルマのわけのわからないキレ方に、こいつも何かに憑かれてるんじゃないかと思った。
 
「まじでお前まで憑かれてたとかやめてよね!?うわああやだやだナイトストーカーって何!?どんなの出てくんの!?僕寝てたほうがいいの!?怖くて寝れないんだけど!?」
「あれだよ、ロンの本性みたいなやつ。」
「めっちゃ怖いじゃんやだあああ!!!」

 喧しいことこの上ない。カルマはガバリと起き上がると、こんな己の主導ではない展開などに振り回されてたまるかと言わんばかりに、クワっと目を見開いた。
 
「もういい!!お前びびってんなら寝たふりでもなんでもいいから目ぇ瞑ってろ!!」
 
 そういうと、カルマはシスの部屋の電気を一番暗いものにした。あたりが闇に包まれる。いくらシスが淫魔だからといって、カーテンも閉め切った部屋の暗さは不安になる。カルマの破魔の瞳だけが薄ぼんやりと浮かび上がった。
 
「寝たふり!?んな無茶ばっか言わないでってば!!」
「目ぇ閉じて。それが無理なら魔力滲ませて。」
「どうやって!?」
「だあああもおお怒るなよ?絶対に怒るなよ!?」
「怒んないからなんとかしてってば!!」
 
 そう言うと、暗闇の中でカルマは上半身の服を脱ぎ捨てた。明かりのついた部屋の中でならば、その鍛えられた男らしい体に目を奪われていたことだろう。
 ギシリと音がして、カルマがベットに乗り上げる。そのまま寝具越しに押さえつけるように抱きすくめると、シスはギョッとした声を上げた。
 
「何!?」
「びびって魔力出せないなら、本能刺激するしかないだろ。」
「この状況でヤんの!?」
「ヤらない!」
 
 うっそでしょ!と喚くシスを押さえつけると、カルマは半ば腹立たしそうにしながらも、探るようにして寝具越しからシスの細腰を鷲掴んだ。ぐっ、と引き寄せれば、そのまま膝を立たせて持ち上がった尻にカルマの下肢を押し付ける。
 
「ぎゃああ布ごし!!マニアックすぎて逆に嫌!」
「うるっせえなあーお前はああ!!俺だって直がいいわ!!」
「直でいいじゃん!?布団まくればいいじゃん!?」
「おま、そっちのが変態くさいでしょうが!」
 
 カルマの妙な遠慮に、今度はシスが吠える羽目になった。こっちは早く終わらせて安眠したいのだ。となればカルマの遠慮に付き合ってやる暇なんかない。シスはモゾモゾと動いて布団から抜け出すと、ポカンとしているカルマの手を手探りで引き寄せた。
 
「どわ…っ!!」
 
 半ば寝具の中に引き摺り込まれるかのように中に入ると、人肌の温もりが移ったベットシーツの上に押し倒された。カルマの胸板に、やわらかな掌が添えられる。あれよあれよと言ううちにシスが腹筋の上に跨ってしまった。
 
「淫魔になればでてくるんでしょ、なら手伝って!!」
「あっハイ。」
 
 よほど切羽詰まっているらしい。暗闇の中でもカルマの特殊な瞳は無防備なシスの体を捉えた。薄絹の寝巻きに包まれた柔らかな尻が乗せられ、髪を下ろしたシスはカルマを見下ろす。ごくりと生唾を飲み込んだのは己だけなようで、カルマは不謹慎にも祓おうとしている幽魔に感謝した。
 
「おま、意外と腹筋あるな!?」
「意外とってなんだ!一回見たことあるでしょうが!!」
「ひゃ、っ」
 
 カルマの腕がシスの背中に回った。そのまま上半身裸の己の身の上に乗せるかのようにして抱き竦める。肩口に、シスの小さな頭を埋めさせると、カルマは寝巻きの裾から手を滑らせてシスの滑らかな背筋を撫で上げた。
 
「う、て、手つきがいやらしい…!!」
「いいから早く本性晒せよぉ!」
「ちょ、耳元で叫ぶな、っぁ、く」
 
 カサついた指の腹で、翼の付け根部分をグッと押された。シスの腰からシュルシュルと淫魔の尾が浮かび上がると、すかさずにカルマは細いそれに指を絡ませる。
 
「ほら、もっと出して。」
「ぅあ、ん…っ!ち、ちんこ当たってる…!」
「勃つなって方が無理。」
 
 がじり、と尖り気味の耳を甘く噛まれ、シスは熱い吐息を漏らす。こんな、まるで恋人みたいに抱きすくめられながら、柔らかな愛撫をされるだなんて思わなかった。シスははあはあと徐々に呼吸を荒くさせながら、その身に淫魔である証を晒していく。
 
「ぁ、っか、カルマ…っ、僕のも触って…!」
「片手開けなきゃ無理だから自分でしこってて。」
「くそ悪食ドSちんこ男おおお!!」
「いってぇな噛むなって!」
 
 ひぐひぐと気持ちよさに愚図り出したシスが、がじりとカルマの肩口に噛み付いた。じゅ、と甘やかなカルマの血を舐めとると、瞬く間にシスの体は淫魔らしく褐色に染まりきる。カルマの精気を少々いただいたその瞬間、シスはまるで背中から何かが抜けていくような不快感に身を震わせた。
 
「ーーーーっ、ぅあ!」
「きた…!!」
 
 腕の中のシスが、小さく悲鳴を上げた。鳥肌が止まらない背を宥めるように撫でながら、カルマはシスから飛び出てきたそれに目を向けた。
 部屋の空気が重くなる。シスは小さく震えながら、ぎゅっとカルマにしがみつく。怖い。怖気が走るように、明らかな何かが自分の背後で存在を主張するのだ。カルマはシスの顔を肩口に埋めさせるように押さえ込むと、腕の中のシスが小さくなって縋り付く。
 
「悪いんだけど、もう勘弁してやって。」
 
 暗闇に光る一対の破魔の瞳が怪しく輝き出す。空虚な穴を三つ開けたような顔でシスを見下ろすナイトストーカーは、名残惜しそうにその黒い靄を手のようにして触れようとした。宥めるようなカルマの手つきに救われながらも、ブワリとざらつきのような不快な感覚がシスに襲いかかった時だった。
 
 キン…、とした澄んだ音が部屋に響く。途端、あんなに不快感に苛まれていたシスの体が、風が吹き抜けたような爽快感に変わったのだ。まるで、全身の魔力の流れが滞りなく活動を再開し、指の先まで心地よく巡るようなそんな感じであった。

「ん。もう終わったよ。」
「え、」
 
 パチン、という音がして、部屋の電気が明るくなった。シスは恐る恐る目を開けると、ゆっくりと顔を上げる。先程までの威圧感のある空気はなく、本当に、いつも通りの自分の部屋だ。何も怖いことなどなく、軽くなった空気を吸い込むように、ゆっくりと深呼吸をした。
 
「は、祓えたの…?」
「ああ、幽魔?うん。そこに転がってる。」
「転がってる!?」
 
 ギョッとしたシスが体を起こすと、床にぽてりと落ちた真っ黒な石のようなものを見た。カルマはムクリと起き上がり、床にしゃがみ込んでまじまじと見ているシスの顔の横からその石を摘み上げた。
 
「ちっさ、こんなん下位の下位じゃん。淫魔好きの幽魔だし、まあこんなもんか。」
「おいなんか侮辱された気分なんすけど。」
「で、これいる?」
「結構です!!ポイしてきなさい!!」
 
 カルマの破魔の瞳によってその身を魔石に変えた幽魔は、その身を指の力だけで砕け散らせた。どうやら美人局で殺された男のゴーストが魔力を蓄えて幽魔に転換したらしい。シスに取り付いたのは、単純に好みのタイプだったようである。カルマはインベントリから聖水を取り出して手にかけて清めると、シスはこんなに早く終わるなんて思っていなかったようだ。取り乱したことを恥じるかのように頬を染めた。
 
「今回はお漏らししなくてよかったねシスちゃん。」
「もうしないし!!むかつく!!」
「いったい!!」
 
 カルマの余計な一言にキレたシスの鋭い蹴りの一撃が、尻に直撃した。情けなく声を上げたカルマがベシャリと床に転がると、その腰の上にどかりとシスが腰を下ろす。
 
「ムカつくけど、一応感謝はしてあげる。あんがと。」
「す、素直じゃねえ…っ、ああもう、さっきはあんなに可愛く縋り付いてきたくせに!」
「そっちこそ僕にちんこ立ててたんだからおあいこじゃね!?」
「好きなやつのエロい姿に立たないわけないでしょうが!!!」
 
 ああもううるさいなあ!!とカルマが叫んだ。正直、まだ股間は痛いのだ。ブスくれたままシスを転がして起き上がると、シスに乗られるなら違うシチュエーションがよかったわなどと思う。カルマはガシガシと頭をかきながら、脱ぎ捨てていた服を拾い上げた。呆気に取られたままカルマを見ているその目に気がつかないまま、部屋を出て行こうとした時だった。

「い、今なんかすごいこと言われた気がするんだけど!?」
「すごい…あ。」

 ぱしん、と音がつくくらい勢いよくカルマが口を抑えた。しまった、己は今シスに向けてなんと言ったのか。シスの目の前で、目に見えてわかりやすく、カルマの顔色が信号機のように忙しない色に変わっていく。
 己の計画、まあ計画もクソもないのだが、まさか自分で自分の言動まで予期できなかったとは、大きな誤算である。
 灰色の瞳で、恐る恐るシスを見る。そこには顔を真っ赤に染め上げて、なぜか髪を整え出すという。こちらもこちらで動揺が見て取れるような行動をしていた。

「き、聞いてた?」

 カルマの声に、シスが慌てて背中を見せた。なんだかまともに顔が見れない。シスはなんで僕がこんなに動揺しなきゃいけないのさと大いに泡を食っていた。

「ねえシス。」
「や、やり直ししろ!!」
「え。」

 カルマに背を向けてしゃがみ込んだシスがそんなことを宣った。ポカンとしたカルマの間抜けっつらが簡単に想像がつく。シスは熱い頬を取り繕うかのように押さえながら、ジトリと振り向きざまに睨みつけた。

「告白の指南書読んでから出直してこい。そ、そうしたら考えてやるから。」
「え、え!?マジで!?」
「声でっけえなあ!!もう!!」

 シスがまさかそんなことを言うとは思わなかったらしい。カルマは飛びつくようにシスに背後から抱きつくと、目を輝かせながら言い募る。曰く、シスはまともな告白というものを受けたことがなかったらしい。なので、カルマが本気で付き合いたいのなら、きちんとしたシチュエーションで告白をしてくれとのことだった。おそらく、ジキルなら面倒くせえで一蹴するだろうが、さすがのカルマはいい子にぶんぶんと頷いた。蜘蛛の巣で一番の犬気質がまさかのカルマである。シスは背中にカルマをくっつかせたまま、なんだかムカつくと説得力のない声色でつぶやいた。




   
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