だいきちの拙作ごった煮短編集

だいきち

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こっち向いて、運命。ー半神騎士と猪突猛進男子が幸せになるまでのお話ー

カルマの策略 2

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「ぶわははははは!!!やべっ、げっほごほっ!う、うける、か、カルマなんの任務につくのっ、げへっごほがはっ」
「髪切っただけでそんなに笑うかね!?」

 体裁を整えろ、そう少ない脳みその皺に刻み込んだカルマは、アイリスに言われた通りに髪の毛を切ったのだ。薄い灰色の瞳を晒し、もさついた黒髪はこざっぱりとした。カルマからしてみれば破魔の瞳を気味悪がられたきっかけで伸ばしていただけなのだ。よくよく考えれば、この騎士団にはそれを忌諱するものもいない。ならばこの機会にイメージチェンジを図るのも有りだろうと前髪を軽くしただけである。

「笑ってんなよ!どう!?似合う!?似合いませんかね!?」
「ぶふっ、ぐ、くくっや、み、見慣れなさすぎるっ!やめてこっちこないで!あっはっは!!」
「失礼すぎるだろこの淫魔!!」

 お前にアプローチする為だよ!!と叫びたかったが、シスがゲラゲラ笑うものだから、まあこれはこれでいいのかもしれないと思いはじめた。しかし笑ってる顔も可愛いなおい。カルマは苛立ちとときめきって両立するんだなどと、そんなことを思った。

「うわっ、…カルマか?」
「あ、団長。」

 演習場に入ってきたサディンはというと、見慣れない人物に顰めっ面をしたのだが、それがカルマだと理解すると目を丸くした。そういえばこの間ミハエルがこいつの恋愛相談に乗っていたなと思いだしたらしい。どうやらアドバイス通りにこざっぱりしてきたのだなと思い至ると、まじまじとカルマの顔を見た。

「こうしてみると、意外と童顔なんだな。」
「それ気にしてるからいっちゃ駄目なやつ!!」
「あっはっは!!」
 
 何の気なしのサディンの一言がトドメとなった。カルマは半ば悲鳴混じりに叫ぶと、いよいよ我慢できなかったらしいシスが、ひいひい言って地面に崩れた。

「あー、超笑った。ありがとカルマ。」
「どういたしましてえ!?」

 言うだけ言って満足したらしいサディンが、シスの後ろで号令をかけている。こう見えてシスも副官であるので、本当はサディンの方に行かなくては行けないのだが、なんと今日の午後の演習は免除らしい。連日の出だったらしく、今日は医術局に用事があるからと半休を貰ったそうだ。

「なんだよ、どっかわりいの?」
「うん?ああ、ここんとこ任務で夢渡しまくってたからさ、なかなかに眠りづらくなっちゃって。」
「寝れてねえんだ?」
「寝てんだけど、体が仕事モードになってるらしくて、気づいたら魔力使っちゃってるんだよね。」

 成程どうやら気が付けば魔力枯渇に陥っていると。シスはのんきだが、それってあんまり良くないのでは?とカルマが渋い顔をする。

「なんでお前がそんな顔すんのさ、やだやだ、睡眠不足はお肌の大敵だって言われてんのにさあ。」
「なあ、医術局俺もついてっていい?」
「は?なんか用事あんの?」
「ないけど。」

 むすくれたカルマの灰色の眼がシスを映す。なんだか少しだけ不機嫌そうな様子に、シスが片眉を上げる。

「なんか怒ってる?」
「怒ってるけど、お前にじゃない。」
「ええ?わっけわかんないなーもう、」

 結局いいよと言ってないのに着いてくるらしい。カルマはシスと共に医術局に向かう間も、ずっとむすくれたままだった。
 薬品臭くなってきた。どうやら今日はロンが医術局に顔を出しているらしい。そういえば子犬ちゃんの検診があるってサディンが言ってたっけ。
 シスはそんなことを思い出しながら、カルマを後ろに侍らせたまま、扉を開けた。

「ごめんくださーーい!第一騎士団のシスですけどロン居ますかー!」
「え、せんせーじゃないの?」
「うん、え?子犬ちゃんに会いに来たの?」
「ちがうけど!」

 なんで怒ってんだよー。不機嫌そうなカルマの口調にシスが面倒くさそうな声を出す。奥からロンの声がすると、シスはカルマを置いてけぼりにするかのように、先に部屋に入っていった。

「あ、シスさん!」
「や、検診おわったの?」
「はい、」

 雑多な室内を進んで、仕切られていたカーテンを許可も得ずに開いたシスは、どうやら医術局内ではたまにくる美人さんという扱いらしい。下心を感じるような目は、カルマが睨みつけて黙らせる。ロンはというと、ミハエルの診察を終えた器具を片付けると、シスにベッドへ座るようにと促した。

「んで、カルマは付き添い?髪切ったの似合ってんじゃん。」
「俺もそう思う。」
「自己評価たっか。」

 ロンとカルマの掛け合いが面白かったらしい、ミハエルが小さく吹き出した。シスは髪を解いてベッドに座ると、来ていたジャケットを脱いでカルマに投げ渡す。

「んでなんだっけ、夢見が悪いだっけ?」
「いや、寝てるときに魔力減ってんの、無意識のうちに夢渡してるみたいでさー。」
「寝れてないんですか?」
「少ししか寝れないんだよね。」

 先程と同じ掛け合いをするシスの顔は、確かに診察室の明るい照明の下では少しだけ隈ができていた。
 問診票にさらさらとペンを走らせていたロンが、こしりと目を擦るシスに目を向けると、その赤眼を大きく見開いて見つめた。

「な、…なんすか…」
「あーーー、うんうん、憑いてる。」
「え?」

 ついてる?と意味を理解しかねたらしい。ミハエルもシスの顔を覗き込むが、特段何かが付いているようなそんな様子もない。シスがインベントリから手鏡を取り出すと、カルマがその手を掴んで止めた。

「あ、丁度いいじゃん。カルマ祓ってあげれば?」
「え、え、祓うってなにを!?」
「ナイトストーカー。」
「なにそれ!?!?」

 どうやらその言葉に漸く意味がわかったらしい。カルマもロンも、そういったものが視える瞳を持っていた。どうやら先日の任務で幽魔に気に入られたらしい。シスが寝ているうちに魔力を吸い取っているらしく、その寝不足やら魔力枯渇はこいつのせいだった。

「祓えるっても昼間は出てこねえもん。」
「僕もねー、視えるけど無理なんだよね、呪い重ねがけして逃げ出させるくらいならできるけど。」
「こっわ!!え、こっわ!!いやなんだけど!?」
「さ、サディンに頼みますか!?」
「いや祓えるだろうけど、エルマーに似て雑だからなあ。」

 はて困った。と、ロン。しかしまあ、もうすぐ夕方でもあるし、それならシスが寝静まるのを待つか、深夜動き始める頃に祓う。というくらいしか方法はなさそうだった。シスは謎が解明したのは嬉しいけど気味が悪いと顔を青ざめさせる。

「ミハエルちゃんいるから悪さはしないよ、大丈夫大丈夫。」
「子犬ちゃんいると悪さしないの!?」
「だって二柱の神様に愛されてるし、腹に子供いるし。」
「な、なるほど?」

 いまいちよくわかっていなさそうではあるが、それならあまり側に居すぎると祓えるものも祓えないですよね、とミハエル。シスは怖がって一人にはなりたくないようだったが、ミハエルの読みはあたっている。
 ロンは破魔の瞳のカルマが出てきたところを瞳に移せば消え去るとアドバイスをすると、シスは死にそうな顔をしながらカルマの腕を握りしめた。

「カルマ僕だけを見ててえ!!」
「この流れじゃなかったら喜んでたよくそが!!」

 ただでさえわけのわからない輩にも好かれるくせに、ついには幽魔まで誑かしてくるとはどういう事だ。カルマの不機嫌の理由は正しくこれであった。

 結局、あんだけ悶々と悩んでいた割に、カルマの思いもよらぬ展開でシスとのイベントが舞い込んできたのだ。逃す手はないが腑に落ちない。
 今にも泣きそうなシスは、ホラー系が得意ではない。あの鬼ごっこ訓練のように、仕組まれたものなら平気なのだそうだ。
 こうして、まさかのシスの部屋にお泊りの運びとなった途端、ミハエルが真剣な顔で宣った、大好きでも同意無しで手を出すのは看過できませんからね!と念を押されたカルマは、とりあえず曖昧に頷くだけに留めておいた。


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