だいきちの拙作ごった煮短編集

だいきち

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ヤンキー、お山の総大将に拾われる~理不尽が俺に婚姻届押し付けてきた件について~

ホムセンという魔窟 3

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「なんか、どっと疲れた…」

 ホー厶センター真横のベンチで、天嘉はどかりと腰を下ろして項垂れる。現在、蘇芳と琥珀は手洗いに行っていた。最初のうちに蘇芳に使い方を教えていたということもあるが、今は琥珀のおむつを替えてくれている。天嘉は荷物番をしながら、ちぅ、と購入したアイスコーヒーを啜る。

 がさごそとビニールを漁る。買ったものの確認がてら、琥珀が食べたがったお煎餅を取り出した。それをベビー用品を詰めたカバンの中にストック分としていくつか分け入れていると、天嘉の真上に影が差す。

「ん?」
「こんちは、いま大丈夫ですか?」
「あん?」

 ニッコリと笑って、徐に中年ほどの男性が隣に腰掛けてくる。全然大丈夫だとも言っていないのに随分と押しがつよい。天嘉は無視を決め込むと、一切真横を見ないようにしてスマホをいじる。

「あ、機嫌損ねちゃいました?いやまいったなあ、いや、僕ね?都内で事務所を構えているものでして、」
「都内には行かねえ。悪いけどほかあたんな。」

 ツンとあしらう天嘉に、男はきょとんとした。田舎で、この年頃の青年はそういった業界に興味があるかと思ったのだ。ドラマ撮影の小道具を買いに来たら、売りにできそうな面の天嘉が居たのだ。声をかけないほうが失礼だろう。

「え?いや、話だけでもどうですか?今近くでドラマの撮影、」

 やってるんですよ、という言葉を続けようとした時である。

「誰のものに手を出している。」
「へぁ」

 低く甘い声が降ってきたかと思うと、急に自分に影が差す。声をかけていた青年が振り向くのに釣られて己も振り向くと、自分よりも頭一個分高い位置で、大層な美丈夫が幼児を抱きながら見下ろしていた。

「とっ、あっ!!!あなっ、あなた芸能界とか興味ないですか!?!?」

 これは海老で鯛を釣るというやつか!と失礼なことを思いながら、見下ろしてきた蘇芳に一気に近寄ると、驚いたらしい琥珀がふぇっと愚図る。背後で天嘉が静かにキレているなど露ほど気づかず、グイグイと近づく男の頭をがしりと蘇芳が鷲掴かむ。

「そうか、ならお前に問おう。お前は地獄には興味はあるか。」
「へ、地獄?」
「蘇芳、やめろ。洒落にならねーって。」
「む。」

 蘇芳によって鷲掴まれたせいでズレた眼鏡を正す。大柄な美丈夫を簡単に手で制した青年は、人好きのする笑みを浮かべると、ずいっと中年を見下ろした。蘇芳と呼ばれた男が大きいせいで気がつかなかったが、この青年もなかなかに上背がある。距離を詰められ一歩下がる。締めていたネクタイのノットをキュッときつくされると、肩をぽんぽんと叩かれる。

「事務所の名刺くれる?」
「勿論だよ、詳しいことは都内まで来てもらわなくてはいけないけど、君たちならきっと、」
「うん、わかった。俺この事務所にクレーム入れっからよ、戻ったら宜しく。」

 にこやかな顔で名刺をもぎりとった天嘉が、それをしっかりと尻ポケットに突っ込む。蘇芳はひんひん愚図る琥珀の尻をあやすように撫でながら、相変わらずの不遜顔で見下ろしている。

「くっ、クレーム!?な、なんでだ!そんな悪いことしたか!?」
「先走って俺の子供泣かせたろ。それにこっちはいらねーってんのに人の旦那にも詰め寄りやがってよ。お前の会社は天下の御旗か?それがバックにあると全部うまくまかり通る気でいるわけか?」
「てっ、てんかのみは…だ、だって有名人になれるチャンスだぞ!?」
「はい、しつこいっつーワードも加えるわ。田所さんね、ノルマあるのかわかんねーけど一度痛い目見たほうがいい。」

 やけに古風な言い回しをして窘めたかと思えば、旦那と子供というワードにぎょっとする。もしかして、女性だったのだろうか。確かに体つきは中性的だが、声は女性的ではない。思わず怪訝そうな顔をしてしまうと、天嘉がスマホを出したのを見て大慌てで断った。

「わ、わかった!もう何も言わない!君たちのことは諦めるから、事務所に俺の名でクレームを入れることだけは勘弁してくれ!」

 ただでさえ人材が少ないのだ、こんなことで文句をつけられたら仕方がないと言い逃れもできない。心底残念そうな顔をして引き下がる様子を見て、天嘉がもらった名刺を小さく折りたたんで、田所のスーツのポケットに入れる。

「天嘉、やはりお前でなくては泣き止まぬ。」
「ん、おいで。やかましいおじちゃんはもう帰るからなー。」
「ぅー…や!!」
「わかったわかった。」

 小さい子まで嫌と言われる。申し訳無さそうにぺこりと頭を下げると、売れる人材の獲得に失敗した田所は、荷物をまとめて歩いていく三人を見る。美丈夫がたくましい腕で片手で荷物を持ちながら、まるで引き寄せるかのように青年の細腰に腕を回す。男性同士であるが、なんとも絵になるシーンであった。その時、田所の頭に一つのイメージが湧いてきた。

「そうか、耽美…!!!」

 まるで秘密を覗き込むかのような、美しい男性同士のやり取りを売りにすれば、きっと目玉になるだろう。神話でもあるじゃないか。そうだ、きっとそれがいい!まさかの天嘉と蘇芳のやり取りが光明になっているなどついぞ思わぬ本人たちは、土産のたい焼きの甘い香りに腹を鳴らしていた。

「うむ、実に無駄のない牽制であった。やはり俺の嫁は勇ましく美しい。」
「俺はともかくお前まで絡まれんのすげぇいやだもの。」
「おかしゃ、たいやきたべぅ」
「今川焼きは?」

 琥珀はもうご機嫌になったらしい。天嘉の首に短い腕を回しながら、先程のおじさんがご機嫌にスキップ混じりに去っていく様子を不思議そうに見ながら、今はたい焼きの気分などとませたことを宣った。


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