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ヤンキー、お山の総大将に拾われる~理不尽が俺に婚姻届押し付けてきた件について~
ホムセンという魔窟 2
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「きゃーあ!」
「わかったわかった!」
蘇芳に抱きかかえられながら飛び立った天嘉であったが、大根リュックからのびたリード片手に、元気よくぷよぷよ空を飛ぶ息子に冷や汗をかきながらの飛行であった。
大きな羽を拡げて伸びやかに飛ぶ蘇芳とともに、同じ色をした羽をぱたつかせながらくっついて飛ぶ琥珀は、呑気に時折天嘉をみては手を振る。頼むから前を見て翔べと言いながら、ようやっと境界まで辿り着く。
「心臓とまるかとおもったわ…」
「おい、いい加減慣れろ。俺たちは空を駆ける天狗だ。」
「俺飛べねえし!」
「お前の羽はこの蘇芳で充分だろう。」
ごきげんに天嘉のこめかみに口付ける蘇芳は、勢いよく飛ぶせいで折角まとめた黒髪から後れ毛が出ている。なんだかサロンモデルもかくやという仕上がりだ。それはそれで似合ってはいるが。
「こは、いいか。ここでは蘇芳みたいに人間のふりをしなくちゃいけない。そうしないと、悪い人に連れてかれちゃうかもしれないからな?」
「そんな不届き者がいたら、俺の鉤爪の餌食にしてやるからな。」
「外界歴俺のが長いんだから黙っててくんね?」
にこにこしてなんてこと言うんだと思わず突っ込む。琥珀はぴょんと跳ねて元気に手を上げると、あい!といい子のお返事をした。
「つるちゃんがね、おかしゃこまらせたらだめよぅっていってたから、こはいいこにするねぇ」
「ツルバミにたい焼き全種類持ってくか。」
「過ぎたるは及ばざるが如しという言葉があるぞ。」
蘇芳の言葉をまるっと無視しながら、琥珀は天嘉によって抱き上げられる。尻ポケットからだしたスマホのドキュメントを開くと、それを蘇芳に手渡した。
「ん、」
「心得た。」
ここ数年で、スマホの扱い方も慣れたものである。蘇芳は操作の仕方は完全におじいちゃんのそれであるが、数歩後ろに下がるとパシャリと天嘉の写真を撮る。
「いや心得たじゃねえ、心得てねえな。メモ持っとけって言う意味なんですけど。写メれってんじゃないんですわあ。」
「ふむ、よく撮れている。」
「どれ見せて。あ~~~琥珀がかわい~~。」
スマホ片手に登山道でキャッキャする。こんな藪の中で顔の造作がえらく綺麗な二人の男が、赤子はさんで楽しそうにしているのだ。ちょうど脇の道を抜けたハイキングをしている人々は二度見した。
暫くして、ようやくはしゃぐにしても場所がアレだったと気づいた天嘉が人里に降りる道まで移動をすると、降りたがった琥珀のリードを持ちながら、3人で仲良く歩く。
「おかしゃ、たぬき!」
「お、ほんとだ。義骸んとこのかな?」
「ああ、そうっぽいな。もうバスとの力比べは辞めたらしい。」
「あー…」
ぺこりとお辞儀をして藪に消えていく狸。天嘉が立てた看板が功を奏したらしい。義骸からは世話をかけたと言われたが。市道が近い場所に立てたそれは、熊ならぬ狸飛び出し注意の看板だ。狸とかウケると思うことなかれ、奴らはつねに全力である。日々鉄の化け物と言っている車に対して、いつか一杯食わせてやると鍛錬を重ねているのだ。
「あーーーー!いざよぃ!」
「あれは野良烏だ。似ているが違う。」
「山出てきても割と知り合いに会うんだよなー。」
横に立ってる古木に気付く。蘇芳からしてみれば、会うのでは無くて挨拶をしに来ているのだとわかっているが、それを言えば天嘉が恐縮するだろうと思っていっていない。
そんなこんなで下ること数十分。山が家だと足腰が鍛えられる。琥珀は疲れたと言って2、3度浮かびかけたのを慌てて天嘉に掴まえられてから、腕の中で大人しくしている。
「いいにおいするぅ!」
「こはの好きな今川焼き屋さんの匂いだなあ」
「ほっとけいきみっくすとやらは今日は買わぬのか?」
「あれ、もうなかったっけ?」
「無いな。あれは美味いから買ってほしい。」
「あいよ、そういえば小太郎もほしいって言ってたから買っとくか。」
小豆洗いが洋菓子に目覚めたらしい。まずはどらやきとか作ればと言ったが、頑なにホットケーキを焼きたがる。どうやら意中の妖かしに好評だったということだ。実にげんきんな奴である。
「今川焼きは最後な、先に、日用品かわねーと。」
「はーくんのおむつ!」
「あと蘇芳のな。」
「おい、省くなぼくさーといえ。」
それだと俺もおむつを履くみたいな言い回しだと渋い顔をする。無論わざとである。ホームセンターの中に入ると、琥珀を子供用のカートに載せてやる。玩具のハンドルが付いたそれを嬉しそうにいじる愛息子に、蘇芳が無言でカメラを起動させた。
「んーと、これとこれと、」
はしゃぐ琥珀に好きにさせながら、スマホのメモを蘇芳に読んでもらいながらドサドサと荷物を載せていく。結構な量だが、境界に入ってしまえば御助が荷運びを手伝ってくれる。烏天狗に頼んだことがあったのだが、まるで大名行列のように一人一個で連なられてからは、まとめて布で巻き付けて運んでくれる御助にたよってばかりだ。
「あ、めっけ!」
「なんだそれは。」
「サンダル。下駄みたいに履くんだよ。蘇芳これから慣れてスニーカー履けるようになれよ。」
「ああ、あの分厚い足袋のことか。あれを履いていたら転化したとき邪魔だろう。」
「あーーー。」
確かに。蘇芳が肩にスニーカー引っ掛けて飛んでくるのをイメージすると少し面白くはあるが。ともあれ、天嘉には必要だ。足のサイズを確認してそれも籠に入れると、がろがろとカートが進み出す。
「ーーーーーーー、」
ガシリと持ち手を掴む。触れてないのに勝手知ったる様子で動き出せば誰だって驚くだろう。絶句したままの天嘉を琥珀が見上げると、ニコニコしながら宣った。
「おにびしゃ、」
「ああ、付いてきたのか。」
琥珀の鞄からぷかりと上がった発光体を慌てて手のひらで隠す。そんなことある!?といった顔で蘇芳を見上げると、ニコリと笑われた。
「琥珀の気に入りのそれに宿ったんだろうよ。喜ぶならとその台車にも力を宿そうとしたらしい。」
「あ、え、AI仕様ってごまかすのも無理があるだろう!!」
いわゆる人魂だ。天嘉は慌てて琥珀の鬼火に、たのむから大人しくしててくれとお願いをしてからリュックに戻す。バレてはいないが、心臓には悪い。
ガシリとしっかりとカートを握りしめると、他に宿ってないよな!?と目を皿のようにして移動する。まさかホムセンまできてこんな警戒をするとは思わなかった。
蘇芳はというと、やはり俺の嫁は勇ましい。などとご機嫌に頷いているが、そういうことではないと、声を大にして叫びたかった。
「わかったわかった!」
蘇芳に抱きかかえられながら飛び立った天嘉であったが、大根リュックからのびたリード片手に、元気よくぷよぷよ空を飛ぶ息子に冷や汗をかきながらの飛行であった。
大きな羽を拡げて伸びやかに飛ぶ蘇芳とともに、同じ色をした羽をぱたつかせながらくっついて飛ぶ琥珀は、呑気に時折天嘉をみては手を振る。頼むから前を見て翔べと言いながら、ようやっと境界まで辿り着く。
「心臓とまるかとおもったわ…」
「おい、いい加減慣れろ。俺たちは空を駆ける天狗だ。」
「俺飛べねえし!」
「お前の羽はこの蘇芳で充分だろう。」
ごきげんに天嘉のこめかみに口付ける蘇芳は、勢いよく飛ぶせいで折角まとめた黒髪から後れ毛が出ている。なんだかサロンモデルもかくやという仕上がりだ。それはそれで似合ってはいるが。
「こは、いいか。ここでは蘇芳みたいに人間のふりをしなくちゃいけない。そうしないと、悪い人に連れてかれちゃうかもしれないからな?」
「そんな不届き者がいたら、俺の鉤爪の餌食にしてやるからな。」
「外界歴俺のが長いんだから黙っててくんね?」
にこにこしてなんてこと言うんだと思わず突っ込む。琥珀はぴょんと跳ねて元気に手を上げると、あい!といい子のお返事をした。
「つるちゃんがね、おかしゃこまらせたらだめよぅっていってたから、こはいいこにするねぇ」
「ツルバミにたい焼き全種類持ってくか。」
「過ぎたるは及ばざるが如しという言葉があるぞ。」
蘇芳の言葉をまるっと無視しながら、琥珀は天嘉によって抱き上げられる。尻ポケットからだしたスマホのドキュメントを開くと、それを蘇芳に手渡した。
「ん、」
「心得た。」
ここ数年で、スマホの扱い方も慣れたものである。蘇芳は操作の仕方は完全におじいちゃんのそれであるが、数歩後ろに下がるとパシャリと天嘉の写真を撮る。
「いや心得たじゃねえ、心得てねえな。メモ持っとけって言う意味なんですけど。写メれってんじゃないんですわあ。」
「ふむ、よく撮れている。」
「どれ見せて。あ~~~琥珀がかわい~~。」
スマホ片手に登山道でキャッキャする。こんな藪の中で顔の造作がえらく綺麗な二人の男が、赤子はさんで楽しそうにしているのだ。ちょうど脇の道を抜けたハイキングをしている人々は二度見した。
暫くして、ようやくはしゃぐにしても場所がアレだったと気づいた天嘉が人里に降りる道まで移動をすると、降りたがった琥珀のリードを持ちながら、3人で仲良く歩く。
「おかしゃ、たぬき!」
「お、ほんとだ。義骸んとこのかな?」
「ああ、そうっぽいな。もうバスとの力比べは辞めたらしい。」
「あー…」
ぺこりとお辞儀をして藪に消えていく狸。天嘉が立てた看板が功を奏したらしい。義骸からは世話をかけたと言われたが。市道が近い場所に立てたそれは、熊ならぬ狸飛び出し注意の看板だ。狸とかウケると思うことなかれ、奴らはつねに全力である。日々鉄の化け物と言っている車に対して、いつか一杯食わせてやると鍛錬を重ねているのだ。
「あーーーー!いざよぃ!」
「あれは野良烏だ。似ているが違う。」
「山出てきても割と知り合いに会うんだよなー。」
横に立ってる古木に気付く。蘇芳からしてみれば、会うのでは無くて挨拶をしに来ているのだとわかっているが、それを言えば天嘉が恐縮するだろうと思っていっていない。
そんなこんなで下ること数十分。山が家だと足腰が鍛えられる。琥珀は疲れたと言って2、3度浮かびかけたのを慌てて天嘉に掴まえられてから、腕の中で大人しくしている。
「いいにおいするぅ!」
「こはの好きな今川焼き屋さんの匂いだなあ」
「ほっとけいきみっくすとやらは今日は買わぬのか?」
「あれ、もうなかったっけ?」
「無いな。あれは美味いから買ってほしい。」
「あいよ、そういえば小太郎もほしいって言ってたから買っとくか。」
小豆洗いが洋菓子に目覚めたらしい。まずはどらやきとか作ればと言ったが、頑なにホットケーキを焼きたがる。どうやら意中の妖かしに好評だったということだ。実にげんきんな奴である。
「今川焼きは最後な、先に、日用品かわねーと。」
「はーくんのおむつ!」
「あと蘇芳のな。」
「おい、省くなぼくさーといえ。」
それだと俺もおむつを履くみたいな言い回しだと渋い顔をする。無論わざとである。ホームセンターの中に入ると、琥珀を子供用のカートに載せてやる。玩具のハンドルが付いたそれを嬉しそうにいじる愛息子に、蘇芳が無言でカメラを起動させた。
「んーと、これとこれと、」
はしゃぐ琥珀に好きにさせながら、スマホのメモを蘇芳に読んでもらいながらドサドサと荷物を載せていく。結構な量だが、境界に入ってしまえば御助が荷運びを手伝ってくれる。烏天狗に頼んだことがあったのだが、まるで大名行列のように一人一個で連なられてからは、まとめて布で巻き付けて運んでくれる御助にたよってばかりだ。
「あ、めっけ!」
「なんだそれは。」
「サンダル。下駄みたいに履くんだよ。蘇芳これから慣れてスニーカー履けるようになれよ。」
「ああ、あの分厚い足袋のことか。あれを履いていたら転化したとき邪魔だろう。」
「あーーー。」
確かに。蘇芳が肩にスニーカー引っ掛けて飛んでくるのをイメージすると少し面白くはあるが。ともあれ、天嘉には必要だ。足のサイズを確認してそれも籠に入れると、がろがろとカートが進み出す。
「ーーーーーーー、」
ガシリと持ち手を掴む。触れてないのに勝手知ったる様子で動き出せば誰だって驚くだろう。絶句したままの天嘉を琥珀が見上げると、ニコニコしながら宣った。
「おにびしゃ、」
「ああ、付いてきたのか。」
琥珀の鞄からぷかりと上がった発光体を慌てて手のひらで隠す。そんなことある!?といった顔で蘇芳を見上げると、ニコリと笑われた。
「琥珀の気に入りのそれに宿ったんだろうよ。喜ぶならとその台車にも力を宿そうとしたらしい。」
「あ、え、AI仕様ってごまかすのも無理があるだろう!!」
いわゆる人魂だ。天嘉は慌てて琥珀の鬼火に、たのむから大人しくしててくれとお願いをしてからリュックに戻す。バレてはいないが、心臓には悪い。
ガシリとしっかりとカートを握りしめると、他に宿ってないよな!?と目を皿のようにして移動する。まさかホムセンまできてこんな警戒をするとは思わなかった。
蘇芳はというと、やはり俺の嫁は勇ましい。などとご機嫌に頷いているが、そういうことではないと、声を大にして叫びたかった。
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