だいきちの拙作ごった煮短編集

だいきち

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ヤンキー、お山の総大将に拾われる~理不尽が俺に婚姻届押し付けてきた件について~

大天狗だって甘えたい 5

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「ん、…っ、んん…?」

 なんだか久しぶりの肌触りな気がする。天嘉は素肌に感じる寝具の感触にピクリと瞼を震わすと、ゆっくりと目を開けた。

「…………。」

 落ちる前は、たしか布団の上にはいなかった。胸元に温もりを感じて、寝ぼけながら視線を下にやると、天嘉の腕枕ですやすやと琥珀が眠っていた。

「んん…、ふぁ、あー…」

 腕の中の琥珀を引き寄せて、優しく抱きしめた。その丸く可愛らしい額に唇を寄せると、幼児独特の甘やかな香りが鼻を突いて、再びうとりとした。いけない、服を着なければと思うのに、子供体温が湯たんぽになって天嘉をあまやかす。

「こは、とうさんは…」
「んんぅ、ぷぅ…」
「ぷぅ…」

 ぷぅってなんだ。天嘉は寝ぼけている息子に小さく吹き出すと、小さな紅葉がむにりと無い胸に触れる。眠っているときは、こうやって天嘉の胸に触っていると落ち着くらしい。膨らみもないのに、こんなのでいいんだと思わなくもない。
 琥珀に好きなようにさせながら、天嘉はもそもそと寝返りをうつ。無論抱きしめた琥珀も仰向けになった天嘉の上にべちょっとしがみついて眠っている。
 蘇芳は一体どこにいるのだと思いながら、なんとなく奥座敷からみえる庭に目を向けた。

「…っ、晩御飯!!」

 外の景色は、気がつけばもう暗くなっていた。米も炊いてねえ!!はっと慌てて起きようとしたが、腹の上に琥珀を載せていたのだ。琥珀が落ちないように支えながらゆっくりと起き上がると、ねこける息子の尻を支えながら布団をまくろうとした。

「起きたか。」

 素肌で琥珀を抱いていた天嘉に、板の間から顔を出した蘇芳が声をかける。寝癖でぼさぼはの天嘉の焦り顔に小さく笑うと、蘇芳は奥座敷の長持から天嘉の着替えを取り出す。

「お前が気をやってしまったからな、腰は平気か。」
「へいき…っ、晩飯まだできてねえ!」
「ふは、よいよい。こんばんはツルバミに頼んで作ってもらった。琥珀の離乳食は、ぱうちだかなんだかに入っていた粥にしたが、良かっただろうか。」
「琥珀の飯も済ましてくれたの?」

 いつも蘇芳のお膝の上で、天嘉に食べさせてもらいたいと甘える琥珀に、どうやら蘇芳は一人で食べさせることに成功したらしい。中々の難敵だったと笑う様子に天嘉がホッとした顔をすると、蘇芳はその細い肩にそっと着物をかけてやる。

「お前はもう甘えなくていいの?」

  きょとりと蘇芳を見上げた天嘉に、若干頬を染めながらちいさく頷く。どうやら琥珀の前では威厳を保ちたいらしい。天嘉は布団をまくると、琥珀の隣をポンポンと叩いた。

「なんだ?」
「お前ここ寝っ転がってみ。」
「うん?」

 よくわからかいといった顔で首を傾げた蘇芳が、言われるがままに横になる。天嘉が寝転ぶ蘇芳に寝ている琥珀を渡すと、蘇芳は琥珀を抱きしめながら、ぽかんとした顔をする。

「寝るのか?飯は食わんのか。」
「食うよ。だけどちょっとだけ。ほら、頭上げな。」

 天嘉の細い腕がそっと蘇芳の頭の下に差し込まれた。開いた手で布団を引き寄せると、そのまま蘇芳に布団をかけてやる。腕枕とは反対の手で蘇芳の頭をなでると、された蘇芳は頬を染めながら戸惑ったように天嘉を見た。
 どうやら撫でられるとは思っていなかったらしい。天嘉に引き寄せられるように頭を抱き込まれると、間に挟まれた琥珀がもにょりと喃語じみた声を漏らした。

「ど、どうし」
「うち子供二人いるじゃん。」
「おいまさかそれは俺のことか。」

 天嘉の一言に蘇芳が食い気味に言う。その勢いが面白すぎて、思わず吹き出して笑ってしまった。別に悪い意味では無いのだが、蘇芳は承服しかねるといった様子である。

「だってさ、すーぐ、俺もできる俺も一緒に行くって言うじゃん。琥珀がそれ見て俺も俺もってお前の真似すんの、超うけるよな。」
「父の背中を追うのはいいことだ。琥珀は実に度量の深い男になるだろう。」
「度量の意味わかっていってる?」

 お前はそうでもないぜと付け加えながら、ムスくれた蘇芳の眉間のしわに口付ける。可愛らしい啄むようなそれに、蘇芳がもにょ、と口を動かす。照れると出るその仕草が天嘉は好きだった。

「お前は夫を誂って楽しそうだなあ。」
「うん、ふふ。いや、変な意味じゃねんだけど、蘇芳ってまじで素直だよな。」
「む。曲がったことが嫌いという意味では、そうだなあ。」
「口にしなくてもわかるときもあるし。」

 蘇芳の腹に顔を押し付けてぷうぷう眠る琥珀の背を優しく撫でるその手は、無骨なのにとても優しい。

「天嘉、」
「ほら、チューしろって顔してる。」
「ぐぬぅ…」

 だって今そういう雰囲気だっただろうといった顔もだ。天嘉の目が優しく細まる。息子の名は、蘇芳がいっとう好きな色からとった。
 天嘉の瞳の中に映る自身の姿がひどく幼く見える。蘇芳はなんだかそれが気恥ずかしくて、背に回した手を押して天嘉の体を抱き寄せると、せっかくの嫁の腕枕から抜け出した。
 
 こうして甘やかされるのは確かにいい。だけど蘇芳は、こうして自分の懐に宝物を収めるのが好きだった。大きな羽と体でこうして包みこんで、誰にも見せたくないという、自分勝手な愛情だ。
 
「目、つむったらキスしてやる。」
「そんなことしたらお前が見えなくなるだろう。」

 蘇芳の言葉に天嘉が笑う。押し付けがましいそれを、そんなふうに笑って許してくれる。そんな懐の大きな天嘉の前では、大妖怪で総大将でもある蘇芳だって、ただの一人の男に成り下がるのであった。
 
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