だいきちの拙作ごった煮短編集

だいきち

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ヤンキー、お山の総大将に拾われる~理不尽が俺に婚姻届押し付けてきた件について~

大天狗だって甘えたい。

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「へえ、ついにパクッと食べられちゃったのかあ…。」
 
 二人が契りを交わした一週間後。あれ以来幸が全然顔を見せなくなったせいか、天嘉はずっとそわそわしていた。もしかして、お仕置きされているんじゃないだろうか。そんな心配事を抱いていたのだが、庭先の池から鮭と清酒と幸を抱えた水喰が、泉の精よろしく相変わらずの無表情顔で現れたものだから、天嘉は驚きすぎて変な声が出てしまった。
 
「ん?じゃあ夫婦?まじで結婚すんの?」
「夫婦…と、言いますか…ええと…まだ、そのようなお言葉は頂戴しており、」
「嫁になってもらう。腹にややこも宿させる予定だ。世話になったな雌。」
「はわぁ…」
 
 幸の言葉を遮るようにして宣った水喰に、顔を真っ赤にした幸が妙竹林な声を漏らした。天嘉は、名のある妖怪ってなんで総じて人の話を聞かねんだろうなあと、しらけた目で水喰を見つめながら、ズっ、と茶を啜る。
 
「子はいいぞ。己の心の内や振る舞いが、実に豊かになるからな。」
「おおっとなんでお前がここにいるんだあ?」
 
 仕事は?と胡乱げに蘇芳を見つける天嘉の視線に、笑顔で見つめ返す。どうやらまた琥珀を構うために仕事中に抜け出してきたらしい。
 
「契りを結んだそうだな。おめでとう。これでお前も立派な男だ。だからもう天嘉を俺に返しなさい。」
「返すも何も、俺は幸のカーチャンでもあるもの。なー?」
「天ちゃん…」
 
 何世迷言よまいごとを抜かしてんだと、天嘉。蘇芳は幸が泊まりに来るたびに琥珀と幸とで天嘉を離さないせいで、自分に順番が回ってこぬと腹にすえかねていたらしい。
 しかし、どうやらそれは右に同じだったようである。
 
「雌。お前も子離れをしろ。幸はいつまでもお前の可愛い子ではおられぬ。この水喰のものだからな。」
「み、水喰様…」
「マジ似たもの同士なんですけど…。」
 
 今日こちらにきたのも、どうやらこのことを言うためだけだったらしい。顔は相変わらず表情がなくて読めないが、幸が頬を染めながら照れているので、まあ幸せではあるのだろう。
 
「琥珀にも挨拶をしたかったのですが…」
「あー、今寝てんだよね。ごめん。寝顔だけでも見てく?」
「いえ、起こしたらかわいそうですし…、またにします。」
「ん、ならこんどは旦那抜きで琥珀と遊ぼうぜ。」
「是非に!」
 
 二人のやりとりに、蘇芳も水喰も思わず反応した。大妖怪と水の神様は仲間はずれの予感を鋭く察知したらしい。
 
 結局水喰の顔に影がさし、それに気づいた幸がそっと手を握ってご機嫌をとっていた。全くもってご馳走様である。水の神様は言うだけ言って満足したらしい。しっかりと嫁の手を握り締めると、帰ると言ってさっさと消えてしまった。
 最後まで幸は天嘉に甘えたそうにしていたが、もしかして天嘉も子離れをしなくてはいけないのかもしれない。己の子供が嫁いでいく親の気持ちってこんな気分なのかなあと漏らして、蘇芳にお前は何を言っているのだと言われたが。
 
「んで、お前はさっさと仕事に行けばか。」
「生憎午後は雨が降るようでなあ、と言うわけで帰ってきた。」
「マジかよ、洗濯物取り込んでくる!」
「まずは喜ぶとかないのかお前は!」
 
 マイペースな天嘉だ。蘇芳が予想した、早く帰ってきてくれて嬉しい!という言葉と共に来る予定であった接吻はどうやらお預けらしい。
 若干の物足りなさを感じつつ、蘇芳は天狗装束を脱ぐと、天嘉の洗濯物を取り込むのを手伝いに庭先へ出る。
 
 真っ白い寝具を抱きしめるかのように抱えて運ぶ嫁の姿が可愛らしい。蘇芳よりも小さな体で、本当によく働くいい嫁だと思う。
 
「どれ、よこしなさい。畳むのは俺がやろう。」
「いいよ、蘇芳下手くそだし。」
「む、心外だな。俺だって伊達に寝転んでお前の姿を見ていないさ。」
「そこ威張るところでもねえんだよなあ。」
 
 普段は仕事でも文字通り飛び回っている分、天嘉は蘇芳が寝転がっていても邪魔さえしなければ文句は言わない。寝転がっている時は大体琥珀のおもちゃになっているので、その間に家事ができると重宝してのことだったのだが、どうやら蘇芳は琥珀の相手をしながらも嫁の尻を追いかけていたらしい。
 
 見ようみまねで、琥珀のタオルケットを畳んでみせる。慣れていないせいで天嘉が畳むよりはずっと遅いのだが、どうやら本人は満足げである。
 琥珀と同じ顔をして誇らしげにするものだから、なんだかそれが可愛くて面白い。
 思わず琥珀にするように頭を撫でてしまった。
 
「あ、間違えた。」
「……。」
 
 頭を撫でられることが慣れていないからか、蘇芳がしばし固まった。その間にちゃっちゃと洗濯物の畳みを終わらせると、そんな蘇芳を放っておいて、天嘉は奥座敷に備え付けてあるタンスに着替えを入れていく。
 桐の箪笥に、少しずつ琥珀のものが増えていくのが嬉しい。思わず口元が緩んだとき、天嘉の顔の横に蘇芳の手がついた。
 
「…何。」
「頭を撫でられると言うのは、実に面映いものだなあ…」
「あ、そう…、ねえなんで挟むの。ちょっと退いてくんね?」
「お前の手のひらは優しい。久方ぶりに母の手を思い出してしまった。」
「人の話聞いてる?」
 
 天嘉は、これって壁ドンの派生かなあと思いながら、己の体を挟むようにして逃げ道を閉ざした蘇芳の両腕にため息を吐く。
 ペチペチとその腕を叩きながら立ちあがろうとすると、蘇芳の肘が曲がり、天嘉の肩口に蘇芳の顔が埋まった。
 
「もおお、なんなんだよ変に甘えてきやがって!」
「甘えたい。」
「はい?」
 
 もごり、と聞き取りづらい声でそんなことを宣った。まさか蘇芳がそんな言葉を口にするとは思わず、天嘉は思わず黙り込んだ。
 
「ここ最近、夫婦の時間というものがないだろう。お前の体を気にしているのもそうなのだが、まあ…俺も甘えたくなるのだ。」
「おぅ…ふ……。」
 
 肩口に埋まった蘇芳が熱い。そんなとこでもごつくから声だって聞き取りづらいし、呼気が天嘉の肩を温める。しかしそれ以上に蘇芳の掌が熱い。どうやら照れているらしいと言うことだけは、鈍い天嘉でも理解した。
 
 
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