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ヤンキー、お山の総大将に拾われる~理不尽が俺に婚姻届押し付けてきた件について~
水喰のお嫁さま 6
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幸の体は小さく震えていた。水喰の大きな手のひらで鷲掴んでしまったら、痕が残ってしまいそうなほど細い腰だ。引き寄せた体をもたれ掛からせた水喰は、鼻先で髪を掬うようにしながら幸の耳元に顔を寄せた。
「腹が立った。」
「え、っ……」
「幸、お前が蘇芳の嫁と褥をともにするのを見て。俺は腹が立ったよ。」
背中に手を這わし、幸の輪郭を確かめるようにしてキツく抱きすくめた。
水喰の厚い胸板に、幸のやわらかな頬が押しつけられる。心の水面は、幸と違って静かであった。波紋一つ無く、風も立たぬ。
水喰は、こうして幸を包みこむことがやりたかったのだと言わんばかりに満足げであった。
「み、水喰さま……、」
「お前は随分と大きくなったが、小さいままだな。」
「御身に比べれば、それは仕方のないことでざいます。」
「部屋に入るぞ幸、いいな。」
幸の小さな体を抱き込んだままの水喰が言った。
その意味の先を期待してしまうはしたない体の震えが、手のひらから伝わってしまうのではないかとドキドキした。
腕の中で、小さくその顎が頷いたのを見る。幼い頃ですら、こうして正面から、視界を遮るような抱きしめ方はしなかった。
大きな手のひらで腰を支えられたまま、水喰のもう一方の手が障子をあける。身を任せるままに部屋に足を踏み入れた幸は、二の句を告げなかった、
「幸は、……ッぅ、」
厚みのある唇が、幸の言葉を飲み込んだ。赤い眼を揺らし、薄い手のひらは戸惑いのままに水喰の袂を握りしめた。唇を喰まれ、思わず鼻にかかった吐息が漏れる。
僅かにきこえる水音が、互いの唾液を絡ませ合う音だと知って体温をあげる。
「水は、…ぅん…っ、っ…!」
これは、これは知らない口付けだ。幸の薄い舌の上を舐め上げるかのように、水喰の舌が口内を侵す。激しい鼓動で全身が震えた。
気持ちを、舌先に載せる。そう蘇芳は言っていたが、水喰のこれはまるで、腹の中におさめられてしまうのではないかと思うほどの、獣じみた捕食的な口付けに感じた。
穏やかな水喰からは想像できないほどの乱暴なそれは、幸から酸素と思考力を奪い、その華奢な体が抵抗をしなくなるまで続いた。
舌先を甘くはまれ、幸の唾液が飲み込まれる。どれだけ唇を合わしていたのかわからない。それほどまでに、幸の頭を馬鹿にさせた水喰が唇を離す頃には、幸は水喰の腕に支えられなければ、立っていられないほどであった。
「ふ、ぁ…」
「…、なんだろうな、お前を腹に収めてやりたくなった。」
幸の細い首を鼻先でなぞる。首と顎の境目に口付けをした水喰が、ボソリと呟く。
「あ、ま、待って…っ」
「喰ろうてしまったら、お前は俺の前から消えてしまうというのにな。」
「ひ、…っ…」
厚い舌で舐められ、甘く歯を立てられる。気づけば水喰の手のひらは幸の薄い肩を掴み、まるで擦るようにして着物をはだけさせる。
生々しい感覚だった。自分で脱ぐのとは違う。暗い部屋で、脱がされるというのはこんなにも緊張するものなのか。
水喰が歯を立てたところから走る疼痛が、幸の薄い肌を伝って全身に広がる。気づけば呼気が震えて、幸の目には薄い水の膜が覆っていた。
背に畳の冷たさを感じた。水喰によって組み伏せられたのだとわかると、幸はゆるゆると顔を上げて水喰をみた。
額が重なる。水喰の吸い込まれそうな紫の瞳が蛇のような鋭い瞳孔に代わっていた。
「食ろうて、くださいませ…」
幸の小さな手のひらが、そっと水喰の頬を包む。貪るかのように奪い、赤く色づいた唇から紡がれる言葉に、水喰は小さく息を詰めた。
「おそばに、おそばにいられるなら…幸を食ろうてくださいませ、」
ゆらめく幸の瞳から、一粒こぼれた。まろい頬を滑っていく涙を追うように水喰が幸の頬に唇を滑らすと、先ほどとは違った労わるような口付けが幸の唇に降ってきた。
「いやだ。」
水喰は、凪いだ瞳に幸を映すと、端的に曰う。
「そばにいたいと申すなら、全てよこせ。お前の自由を、感情を、全てこの俺に寄越せ。俺はお前の信仰以外何もいらぬ。」
「水喰様、…それは、」
「お前の遺骨すら、俺のものにしたかった。」
そう言ってのけた水喰に、幸は困ったように笑った。こんなに恐ろしいことを言われているのに、それが嬉しいと感じてしまう。あの滝壺に落ちた時点で、幸の第二の運命は水喰ものになった。だから、何も言わずに全て奪ってくれても良かったはずなのに、わざわざそんなことを言って、幸に嫌だと言わせる余韻を残す。優しい、幸の、幸だけの優しい神様だ。
「幸は、水喰様だけの供物になりとうございます。奪ってくださいませ、貴方の御心のままに、幸を、幸自身から奪って下さいませ。」
教え込んでください。貴方のものであると、この身の魂に強く刻んでください。
幸の言葉は水喰の瞳を僅かに開かせた。唇から鋭い犬歯がチラリと覗いた。赤い眼に映ったのは、緩く口端を歪め、恐ろしく不敵な顔で満足げに頬んだ水喰の顔だった。
「俺の心を満たすのは、やはりお前しかおらぬようだ。」
そう言って数百年ぶりくらいに笑った水喰は、恐ろしいくらい美しく整った顔を幸に近づけ、まるで飲み込むかのような口付けで幸の悲鳴を奪ってやった。
「腹が立った。」
「え、っ……」
「幸、お前が蘇芳の嫁と褥をともにするのを見て。俺は腹が立ったよ。」
背中に手を這わし、幸の輪郭を確かめるようにしてキツく抱きすくめた。
水喰の厚い胸板に、幸のやわらかな頬が押しつけられる。心の水面は、幸と違って静かであった。波紋一つ無く、風も立たぬ。
水喰は、こうして幸を包みこむことがやりたかったのだと言わんばかりに満足げであった。
「み、水喰さま……、」
「お前は随分と大きくなったが、小さいままだな。」
「御身に比べれば、それは仕方のないことでざいます。」
「部屋に入るぞ幸、いいな。」
幸の小さな体を抱き込んだままの水喰が言った。
その意味の先を期待してしまうはしたない体の震えが、手のひらから伝わってしまうのではないかとドキドキした。
腕の中で、小さくその顎が頷いたのを見る。幼い頃ですら、こうして正面から、視界を遮るような抱きしめ方はしなかった。
大きな手のひらで腰を支えられたまま、水喰のもう一方の手が障子をあける。身を任せるままに部屋に足を踏み入れた幸は、二の句を告げなかった、
「幸は、……ッぅ、」
厚みのある唇が、幸の言葉を飲み込んだ。赤い眼を揺らし、薄い手のひらは戸惑いのままに水喰の袂を握りしめた。唇を喰まれ、思わず鼻にかかった吐息が漏れる。
僅かにきこえる水音が、互いの唾液を絡ませ合う音だと知って体温をあげる。
「水は、…ぅん…っ、っ…!」
これは、これは知らない口付けだ。幸の薄い舌の上を舐め上げるかのように、水喰の舌が口内を侵す。激しい鼓動で全身が震えた。
気持ちを、舌先に載せる。そう蘇芳は言っていたが、水喰のこれはまるで、腹の中におさめられてしまうのではないかと思うほどの、獣じみた捕食的な口付けに感じた。
穏やかな水喰からは想像できないほどの乱暴なそれは、幸から酸素と思考力を奪い、その華奢な体が抵抗をしなくなるまで続いた。
舌先を甘くはまれ、幸の唾液が飲み込まれる。どれだけ唇を合わしていたのかわからない。それほどまでに、幸の頭を馬鹿にさせた水喰が唇を離す頃には、幸は水喰の腕に支えられなければ、立っていられないほどであった。
「ふ、ぁ…」
「…、なんだろうな、お前を腹に収めてやりたくなった。」
幸の細い首を鼻先でなぞる。首と顎の境目に口付けをした水喰が、ボソリと呟く。
「あ、ま、待って…っ」
「喰ろうてしまったら、お前は俺の前から消えてしまうというのにな。」
「ひ、…っ…」
厚い舌で舐められ、甘く歯を立てられる。気づけば水喰の手のひらは幸の薄い肩を掴み、まるで擦るようにして着物をはだけさせる。
生々しい感覚だった。自分で脱ぐのとは違う。暗い部屋で、脱がされるというのはこんなにも緊張するものなのか。
水喰が歯を立てたところから走る疼痛が、幸の薄い肌を伝って全身に広がる。気づけば呼気が震えて、幸の目には薄い水の膜が覆っていた。
背に畳の冷たさを感じた。水喰によって組み伏せられたのだとわかると、幸はゆるゆると顔を上げて水喰をみた。
額が重なる。水喰の吸い込まれそうな紫の瞳が蛇のような鋭い瞳孔に代わっていた。
「食ろうて、くださいませ…」
幸の小さな手のひらが、そっと水喰の頬を包む。貪るかのように奪い、赤く色づいた唇から紡がれる言葉に、水喰は小さく息を詰めた。
「おそばに、おそばにいられるなら…幸を食ろうてくださいませ、」
ゆらめく幸の瞳から、一粒こぼれた。まろい頬を滑っていく涙を追うように水喰が幸の頬に唇を滑らすと、先ほどとは違った労わるような口付けが幸の唇に降ってきた。
「いやだ。」
水喰は、凪いだ瞳に幸を映すと、端的に曰う。
「そばにいたいと申すなら、全てよこせ。お前の自由を、感情を、全てこの俺に寄越せ。俺はお前の信仰以外何もいらぬ。」
「水喰様、…それは、」
「お前の遺骨すら、俺のものにしたかった。」
そう言ってのけた水喰に、幸は困ったように笑った。こんなに恐ろしいことを言われているのに、それが嬉しいと感じてしまう。あの滝壺に落ちた時点で、幸の第二の運命は水喰ものになった。だから、何も言わずに全て奪ってくれても良かったはずなのに、わざわざそんなことを言って、幸に嫌だと言わせる余韻を残す。優しい、幸の、幸だけの優しい神様だ。
「幸は、水喰様だけの供物になりとうございます。奪ってくださいませ、貴方の御心のままに、幸を、幸自身から奪って下さいませ。」
教え込んでください。貴方のものであると、この身の魂に強く刻んでください。
幸の言葉は水喰の瞳を僅かに開かせた。唇から鋭い犬歯がチラリと覗いた。赤い眼に映ったのは、緩く口端を歪め、恐ろしく不敵な顔で満足げに頬んだ水喰の顔だった。
「俺の心を満たすのは、やはりお前しかおらぬようだ。」
そう言って数百年ぶりくらいに笑った水喰は、恐ろしいくらい美しく整った顔を幸に近づけ、まるで飲み込むかのような口付けで幸の悲鳴を奪ってやった。
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