だいきちの拙作ごった煮短編集

だいきち

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ヤンキー、お山の総大将に拾われる~理不尽が俺に婚姻届押し付けてきた件について~

とある昼下がりのお話 2

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「んで二人してつまみ食いからの晩酌?人が外界に出向いて日用品買ってる間にようやるわ。」
 
 天嘉は縁側に胡座をかき、その足の間に琥珀を座らせていた。大男二人はというと、宴会の際に宵丸が持ってきていたむしろの上に正座をしていた。拳は膝の上と言われ、いつお仕置きをされるかわからないと言った顔である。表面上では反省はしているものの、蘇芳は蘇芳で天嘉の足の間に座らされている琥珀を見ては、モニョりと唇を動かして締まりのない顔を晒す。
 
「でもちゃんと琥珀にご飯あげてくれたのはサンキュ。」
「ふふ。父親だからな。」
「酒くせえのは許してねえんだけど?」
 
 ニッコリと笑う天嘉に、蘇芳は引き攣り笑みを浮かべる。やはりお許しをもらうにはまだ早すぎたらしい。宵丸は腹も満たされて満足したらしく、うつらと船を漕ぎ始める太々しさ。腕まくりをする天嘉を鴨丸が慌てて止めに入る。
 
「細君もこちらで夕食をとられるのはどうでしょう。」
「縁側でえ?」
「む、いいなそれは。左右兄弟を呼べば火なんてすぐだぞ。」
「うーーーーん、」
 
 しめた。天嘉が悩み始めたということは、うやむやにすることが出来るかもしれないということである。蘇芳が鴨丸に親指を立ててよくやったという意を示すと。十六夜は呆れたような顔つきになった。
 
「まあ、琥珀にもいろんな経験してもらいたいしなあ。」
 
 それでいいのですかという目で十六夜は天嘉を見る。うまく丸め込まれているということは気づいていないようである。天嘉は足の間に座らせていた琥珀を抱き上げると、優しく微笑んだ。
 
「琥珀が楽しそうならいっか。」
「ぁう、」
 
 天嘉の鼻にぺたりと触れた琥珀が、ふくふくと笑う。こうして愛息子の笑顔を見ると、やっぱり蘇芳に似ているなあと思うのだ。可愛い。
 
「蘇芳は酒臭えから宵丸と風呂。俺は十六夜に手伝ってもらって飯の支度するわ。」
「ツルバミも間も無く帰ってくるのでは?」
「まあ煮焼きする時に帰って来れば手伝ってもらうよ。」
「なるほど、たいみんぐというやつですな。」
「そんな感じ。おら宵丸、お前もさっさと風呂行ってこいや。」
「ふがっ…、」
 
 蘇芳に半ば引きずられるようにして、宵丸が風呂場へとつれ去られていく。天嘉によって、琥珀を抱きたいのならさっさと酒の匂いを消してこいと言われたためである。
 
 天嘉は琥珀を抱っこ紐で体に括ると、さてやるかと腕まくりをした。
 
 庭先で、盛大にバーベキューである。十六夜と鴨丸が集めた落ち葉に、影法師たちが作った即席の竈門。そこに網や瓦を乗せれば、もう準備はバッチリである。
 準備が大方整った頃には、友人と共に川釣りに出掛けていたツルバミが戻ってきて、成果である鱒や岩魚を串に刺して調理する。
 
「帰宅早々、庭先での宴にお招きいただけるとは、なんとも風情がありますなあ。」
 
 ゲコりと鳴きながら嬉しそうに縁側に座るツルバミは、天嘉によって待機を命じられていた。
 
「普段色々やってもらってんしな。たまにはみてなって。」
 
 琥珀をあやしながら、熱した瓦の上では焼きそばを焼く。天嘉が外界で買ってきたそれはツルバミのお気に入りでもあった。
 
「天嘉どのは誠にできた嫁でございまする。一介の侍従にまでこのような気配りをなされるとは。」
 
 ツルバミは手伝いたそうにしながらも、天嘉のことを見守っている。鴨丸からはことの顛末てんまつを先ほど聞いた。流石に蘇芳と宵丸には呆れたが、こうして僥倖ぎょうこうを得られるのなら、月に一度くらいは天嘉殿の導線に火をつけてもらいたいなあなどと思っていた。
 
「加減はいかがでしょう。」
「ン、もうちっと強めて。」
「御意。」
「十六夜殿はもはや天嘉殿の部下のようですなあ。」
 
 
 
 左右兄弟が起こした火の番をかって出た十六夜が、楽しげに竹筒で火おこしをする。煙が出てくると、天嘉は琥珀を気にしてツルバミに預けた。
 
「外界ではバーベキュー流行ってんだって言ったら、なんかやる気に火ぃつけた。」
 
 菜箸片手に天嘉が言うが、おそらく十六夜のやる気に火をつけることを見越しての発言であることは明白であった。
 
「実に愉快ですな。いやしかしこれは張り合いがある。外でこうして火を囲んだ宴会というのも、男心を擽るものがありまする。」
「今度十六夜んとこのお市さんとぼん呼んでやろうよ、水喰と幸も呼ぶし。」
「いいですなあ、ならば青藍殿ご家族もお呼び致しましょう、規模が膨らんでも、まあなんとかなるでしょう。」
「炊き出しみたいになりそー。」
 
 ケラケラ笑いながら、出来上がった焼き魚を皿に移す。影法師たちが運んできたクーラーボックスには、これまた外界で買ってきたジュースやら缶チューハイが入っている。今回の件で缶チューハイは日の目を浴びなさそうだが、リンゴジュースのパッケージを見た影法師たちは大いに張り切っている。毎回天嘉が外界に買い物を行くたびに欲しいものを聞いてくれるのだ。嬉しくないわけがない。
 
「お、帰ってきた。」
 
 そんなこんなをしているうちに、風呂から上がってきた蘇芳たちが匂いに誘われてやってきた。天嘉は蘇芳に残りの肉も焼くように菜箸を押し付けると、舞掛けを外してツルバミの元に向かう。
 
「俺ちょっと琥珀にご飯あげてくる。」
「素直に授乳と言えばいいだろう。」
「それを言って興奮するバカがいるからやだ。」
「誰のことだ。」
「蘇芳殿のことですなあ。」
 
 あと宵丸。そう付け加えると、天嘉は琥珀を抱きながらそそくさと奥座敷に向かう。なんとなく見られるのはやはり恥ずかしい。ツルバミや影法師たちに見られるのは全然恥ずかしくないのに、なぜか蘇芳にはあまり見られたくないのだ。まあ、天嘉が逃げても蘇芳が逃しはしないのだが。
 
「こら、」
「うわあ!」
 
 菜箸を宵丸に任せてきた蘇芳が、奥座敷に逃げ込んだ天嘉の腹に腕を回す。琥珀を抱いたまま腰を引き寄せられた天嘉は、顔を赤らめながらピシリと固まった。
 
 出産してから半年が過ぎた。しかし前のように性的な接触はしておらず、それは蘇芳が天嘉の体を気にかけているからというのも理解している。だからこうして急に近くなる距離が気恥ずかしい。
 
「お前は本当に頑なに俺に授乳を見せないなあ。産後はそうでもなかっただろうに。」
「だって、産後は授乳回数多いだろうが。気にしてらんねもん。」
「なら今も気にしなければいいだろう。俺は寂しいぞ天嘉。」
 
 腹に回った男らしい腕が天嘉を引き寄せる。耳に唇を寄せないでほしい。腰が震えてしまう。天嘉はもぞりと動いて蘇芳から逃れようとするのに、それを許してはくれない。
 腕の中の琥珀が口寂しいのか指を吸い始めたのを見て、天嘉はようやく諦めがついた。
 
「わかったから離れてくんね。も、ご飯あげらんねえからさ…。」
 
 心なしか天嘉の耳が赤い。嫁の可愛らしい様子に満足げに蘇芳が微笑むと、ようやっと解放してくれた。
 奥座敷の襖から、蘇芳が座布団を持ってくる。天嘉はそこに胡座をかくと、きていたカットソーをまくって胸を晒す。
 授乳をするようになってから、少しだけ天嘉の突起は赤みを増した。蘇芳はチラリと見えたそこに小さく喉を鳴らすと、琥珀に授乳をさせる天嘉の華奢な体を後ろから抱き込んだ。
 
「邪魔くせえなあもー…、」
「琥珀が羨ましいな。俺もお前に甘やかされたい。」
「お前はもう卒乳して何年立ってんだよばか!」
 
 蘇芳の真剣な声に天嘉が思わず吹き出す。琥珀がはぷりと上手に吸い付く姿を見て、蘇芳は右は琥珀の分だなあなどと宣って天嘉から頭突きを食らう。
 
「痛い!」
「右も左も琥珀のですう!!!」
「ふは、お前は誠に可愛らしいなあ、首まで赤いぞ。」
「やかましいわ!!!」
 
 だから嫌なんだよと喚く天嘉にも蘇芳は気にもとめない。飲み終えた琥珀を抱き、背中をトントンと叩いてゲップをさせ終えるのを見届けると、蘇芳はニッコリと笑って立ち上がった天嘉を琥珀ごと正面から抱きしめた。
 
「……。」
「おやしおらしい。鉄拳の一つでも飛んでくるかと思ったぞ。」
「…今琥珀抱いてんし。」
「その割には鼓動が早いなあ。」
「うぐぅ…」
 
 珍しく言いくるめられて仕舞えば、さすがの天嘉も白旗を上げたのか、ごん、と蘇芳の胸板にもたれ掛かるように頭突きをする。二人に挟まれた琥珀はというと、顔を赤らめて俯く天嘉を下から見上げ、なんだか嬉しそうに笑っていた。
 
「顔を上げねば口付けもろくにできぬ。俺はしたい気分なのだがなあ。」
「酒臭えからやだ。」
「風呂で濯いできた。」
「…恥いからやだ。」
「そちらが本音か。」
 
 くすくす笑いながら、蘇芳がつむじに口付ける。甘く啄むような音を立ててやれば、小さく身を震わす天嘉の様子に、蘇芳はその様子に腹の奥底が欲を持ってざわつくのを感じた。
 
「…てん、」
「天嘉殿ーーーーーーーーーー!!!!!!」
「嘉、」
 
 久方ぶりのいい雰囲気であったのに、野暮な蛙の声が高々に木霊する。蘇芳はぴたりと固まると、天嘉も赤らめた顔の火照りを覚ますかのように手で仰ぎながら、今行くと叫ぶ。
 なかなかにそういった雰囲気に持っていくのは難しくなったと苦笑いを浮かべていれば、天嘉に小さく名を呼ばれた。
 
「蘇芳、」
「なん、」
 
 襟元を引かれて唇を押しつけられた。優しく啄まれ、そっと唇が離れた。蘇芳が口付けを深くしようと顔の角度を変えようとすると、ひらりと交わされたが。
 
「あとでな。」
「な、」
 
 消え入りそうな小さな声であった。蘇芳はじわわっと血流が全身に巡ったのを感じると、ごくりと音を立てて唾液を飲み込んだ。
 ちょっと、すぐには行けそうにもない。蘇芳は顔を抑えると、嫁のささやかな口付け一つで兆してしまった己の雄の部分に、お前は少し落ち着けと小さく呟いたのであった。
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