[改稿版]これは百貨店で働く俺の話なんだけど

だいきち

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二章 百貨店にくる顧客に情緒をかき乱される俺の話なんだけど。(大林梓編)

29 *

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 馬鹿で、思い込みが激しくて、見た目の割にきちんとしていて、自分と同じで取り繕うのが上手い、心が脆い可愛い子。
 今も、榊原の言葉を前に、素直に慣れない甘え下手な子。
 他の男には手練れのように振る舞えるのに、自分の前だと途端にうぶになる。そっちの方が、随分とズルい。榊原は、それに気づいてから、ずっと思っていた。
 早く俺を選べばいいのにと。
 
「俺の腕の中に帰りたかったんだろ、なら、もうそれでいいじゃないか。」
「榊原、さ、」
「俺を見て、梓。俺だけって示して、俺を安心させて、そんで、俺をこの体で覚えて。」
「は、ぁ…っ…」

 頬に当てた唇を、ピアスのついた耳に滑らせる。耳朶を甘く食むようにして囁けば、大林の反応はより一層可愛くなった。
 榊原だけの雌になって、俺だけって言って、寝ても覚めても、俺のことを考えて、俺のために笑って、泣いて、怒って、感じてほしい。
 大林を前にすると、そんな征服的な欲が止まらないのだ。今まで我慢した分、こうして己の前に身を差し出されて、止まれるわけがないじゃないか。獣じみた凶暴な欲を押し殺しながら、榊原はいい子に振る舞い、我儘を言う。
 大林に跨ったまま、上体を起こす。自分よりも一回り小さな手のひらを、そっと顔に触れさせる。

「覚えて、俺がどんな顔でお前を抱くのかを。」
「あ、っ…」
「俺の手で可愛くなって、梓。」

 そう言って、大林の指をがじりと噛んだ。見たこともない榊原の雄らしい表情は、まるで肉食の獣を思わせる。シャツの隙間から見える鍛え上げられた体に触れさせる。薄い生地越しでもわかるほど、しなやかな筋肉が大林の手の内側で動きを見せる。身をかがめた榊原が、大林の細い脚に腕を通して抱え上げる。甘えるようにその膝に頬を寄せると、そこにもがじりと歯を立てた。
 じゅわりと口の中に分泌された唾液を、こくんと飲み下す。今から、抱かれるのかもしれないという期待と、やっと榊原のものになれるのだと言う喜びで、腹の奥がキュウと鳴いた。
 立ち上がった性器を、隠すようなことはもうしない。はしたない姿も、全部見てほしいと思ったのだ。素直な体の反応に気がついた榊原が、その造作の整った顔で嬉しそうに笑うから、早く俺の体で気持ち良くなってほしいと思ってしまった。

「諒って呼べよ。」
「りょう…、」
「ン、」

 可愛い、名前を呼んだだけで、はにかむように笑った。この人は俺よりも年上なのに、随分と無邪気だ。大林が気恥ずかしそうに呟いた名前に答えるかのように唇に口付けを送ると、榊原はその首筋の痕に唇を寄せて、がじりと噛み付いた。

「ひ、ぁっ…!」
「気持ちいと、そんな声でんのお前。」
「ち、ちが、」
「可愛いね、」
「ぅ、」

 甘い言葉が、じわじわと体に浸透してくる。榊原の言葉一つで、大林は可愛くなってしまう。耳まで顔を赤く染めたまま、噛み付いた部分を優しく舌で舐められる。獣が味見をするようなものだろうか。大林は、ジクジクと痛む首筋をそのままに、そんなことを思った。
 
「お前が脱がせて、」
「う、ん…」
「指震えてる、大丈夫だよ。」

 お前と言うくせに、優しいのもずるい。緊張で震える指先で、もたつきながらシャツのボタンを外す。大きな手のひらが優しく大林の頬を撫で、首筋に触れ、髪をかき上げるかのようにして、手のひらで愛を囁いてくれる。ハチミツのようなとろけた目が優しく見守り、上手にボタンを外すたびに、顔に唇が降ってくる。
 セックスとは、ここまで甘いものなのだろうか。大林の知らない夜がそこにはあって、それを与えてくれるのが好きな人だという贅沢。
 ああ、だめだ、あんなに嫌だったのに、思考が勝手に雌になる。

 鍛え上げられた男らしい体が晒されると、下腹部に向かって走る血管にそっと触れた。榊原のそこは勃ち上がっている。己の性器と布越しで触れ合うだけで達してしまいそうだった。

「どこが好き、教えて梓。」
「く、び…」
「首?」
「か、噛まれる、の、気持ち、い」

 歯を立てられたあの瞬間、体の細胞が大騒ぎをした。思えばあれがスイッチだったのかもしれない。榊原は小さく笑うと、大林の耳に口付けてから、その華奢な体を裏返した。

「なら、後ろから噛んであげる。抱きしめて、噛み付いて、俺のもんだって教え込む。」

 向けた背筋をグッと押されて、尻だけを高く上げた状態にされる。衣擦れの音がして、榊原がシャツを脱いだことがわかった。顔の横に手がつく。ギシリと音がして、大きな手のひらが、大林の背筋を撫でるようにしてスウェットを捲り上げ、素肌の背筋を晒す。

「俺が噛みやすいように、頭を下げてごらん。」
「はぁ、っ…り、諒、」
「スウェットから頭抜いて、うん、いいこだ。」

 両腕の肘のあたりで生地が溜まる。吐息が熱い、心臓がバクバクと喧しいせいで、寒くもないのに体が勝手に震えてしまう。
 背中に、ピトリと榊原の素肌が重なった。それだけであえかな吐息が漏れて、大林は腰を震わした。手のひらが、後ろから抱き締めるかのようにして大林の胸元に這わされる。ない胸を寄せるように、指の関節で胸の突起を挟まれると、思わず高い声が漏れた。

「ひ、ぅ…っ」
「かわい、腰浮いてる、」
「ぁ、ま、まって、」
「やーだ。」

 喉の奥で、意地悪に笑う。榊原の呼気が頸に当たると、思わず肩が竦んだ。身を跳ねさせたことで、挟まれた胸の突起を自らで刺激する形となってしまう。この体勢は、もしかしたらやばいのかもしれない。そう思ったのも束の間で、次いできたのは最も弱い首筋への刺激だった。

「ぁ、あっ、あ、っ」

 柔らかな肉に、犬歯が食い込む。後ろから押さえつけられ、胸元を虐められながらのそれは、大林から思考を奪う。
 胸への刺激が気持ちいい。首筋の痛みが気持ちいい。尻に押しつけられた布越しの榊原の熱い性器も、興奮材料の一つであった。
 ガジガジと首筋を噛まれながら、榊原の手は大林の腰を撫でるかのようにボトムスに侵入する。尻の形を確かめるかのように手が這わされると、その長い指が会陰に触れる。

「こんなとこまで先走り垂らしてたのな。」
「ぃ、わな、いで、…」
「なんで、こんなに可愛いって思ってんの、梓には伝わってない?」
「ぅや、あ、あ、あ、っ」

 ぐに、と指で押しこまれるように、ボクサー越しに会陰を刺激される。背筋を駆け抜ける性感が、大林の腰を震わせて吐精を促した。布越しに、性器がビクビクと震える。抑え込まれた精液はだらしなく布地の内側で広がり、その染みの範囲を広げた。

「…お前は本当に、俺を喜ばせるね。」
「は、ぁ、…あ、…」

 だらしなく口からこぼれた唾液が、じんわりとスウェットに染み込む。射精をしたことで、下腹部に凝っていた感覚が軽減される。
 その身を震わしながら、余韻に浸る大林の後頭部に口付けを送ると、榊原は精液を塗り広げるかのようにして蕾へと指を滑らせた。手のひらで小ぶりな袋を揉み、転がすようにして会陰から蕾までを指先でゆっくりとなぞった。
 素直な体が、その指先に媚びるかのように反応する。指の腹で触れた蕾の縁はふくりと縦に腫れ、刺激される度に、僅かに収縮する。

「そ、こ…は、っ」
「ここで、俺を覚えるんだよ。」
「ふぁ、っ…ま、待って、あっ、」

 そうだ、ここで榊原の性器を受け入れるのだ。大林の当たり前を、口に出して言われるだけで現実味を帯びてくる。吐精し、程よく力の抜けた体は実に雄弁だ。榊原の指先へと口付けをするかのような蕾の反応に顔を真っ赤に染め上げると、覆いかぶさってきた榊原が宥めるように頬に口付けた。

「前よりも、後ろから挿れる方が楽だから、もう少しこのままな。」

 そんな、優しく労られたことなんてない。こんなに大切にされているとわかるセックスは初めてで、大林は感情の行き場がなくて、その瞳には涙が溜まる。一粒溢れたそれを隠すようにスウェットに顔を埋めれば、頭を優しく撫でられた後に、後頭部に口付けをされた。
 どうしよう、恥ずかしい、恥ずかしいのに、嬉しい。
 己の顔の横についた榊原の手に、そっと頬を寄せた。戯れるようにその指先で唇を撫でられると、ゆっくりと榊原の指が蕾の中へと沈んでいった。

「ぁ、あ、あ、あ、」
「大丈夫、上手に力抜けてる。」
「し、知らな、っ…」
「俺が知ってる。いいでしょ。」
「ぅ、う、うー…っ…」

 つぽつぽと、ゆっくりと指を抜き差ししながら、楽しそうに宣う。自慢する相手が間違っていると言ってやりたいのに、唇を撫でる手が大林のことを甘やかすから、口を開けない。
 猫のように顎下をくすぐられたり、頬に這わされた手の小指で悪戯に唇を撫でられる。手のひらで愛情表現をされてしまえば、もう大林は溶けるしかない。嬉しい、気持ちい、いい子だねと褒められているようで、榊原にもっと答えたくなってしまう。
 恥ずかしさからぐずっていた大林の肩口に、宥めるようなキスがふる。腹の内側を優しく擦られて、すでに大林のボクサーの中はぐちゃぐちゃだった。
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