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二章 百貨店にくる顧客に情緒をかき乱される俺の話なんだけど。(大林梓編)
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「体調悪いでしょ。」
「え?」
大林の頬に手を添えた榊原は、その整った顔を上げさせる。本人は自覚していないだけなのだろうか、風呂上がりだけではない頬の赤みと、少しだけ濡れたような瞳を見つめ返すと、端的な母音で返事を返された。
「おいで、熱があるかもしれない。」
「ないよ、そんなの」
「ダメだ。いい子だから。」
なんて蕩けた瞳でこちらを見るのだと思ったが、単純に体調不良の大林に悪戯することもできない。榊原は促すままに素直にソファに腰掛けた大林を置いて、キッチンに体温計を取りに行った。
戸棚の引き出しを開ける。目的のものと、風邪薬を持って戻ると、ぼんやりとした大林がソファの上で膝を抱えて小さくなっていた。それが、なんだか黒猫のように見えてしまうのは、己が貸したスウェットのせいだろうか。
「先に髪の毛乾かしちゃうね。もしかして、昼から具合悪かった?」
「具合悪くない。」
「そんな赤い顔してよく言うよ。」
黒髪を隠すようにしてタオルを被せる。ドライヤーのスイッチを入れて髪の毛を乾かし始めると、大林はされるがままにおとなしくなった。
もっと早く気にしてあげられればよかった。昼間、普通にしているから気が付かなかったが、今思えばあの時の顔の赤みは、発熱していたからじゃないのかと気がついて、榊原は浮かれてしまった己を恥じた。
あらかた乾かし終え、ドライヤーをかたして戻ってくれば、大林が膝をかかえた腕に顔を埋めてしまっていた。足早に歩み寄ると、隣に腰掛ける。その黒髪を耳にかけるようにして首筋に手を当てると、体温計で確認せずともわかる熱の高さだった。
「気持ち悪いとか、ない?とりあえず、ベットに行こう。」
「やだ、帰る。」
「帰るったって、熱出てるのに返せるわけないでしょ。」
「だって、明日仕事だし、それに、ここ、あんたんち、」
「そう、僕のうちだから君も良く知っているよね。ほら、駄々こねてないで。」
「わ、っ」
軽い押し問答に痺れを切らしたらしい。榊原は大林の両脇に手を差し込むと、小さな子供を抱き上げるかのようにして抱え上げた。大林の体が、熱以外で熱くなる。そのまま正面から抱え上げられるように抱かれながら、重さを感じさせない足取りで寝室に戻ると、そっと己のベットの上に横たえさせた。
「あ、あんたの寝床じゃん!」
「隣で寝るよ。」
「うつす、って!」
「そしたら君が面倒を見てくれ。」
胸の上まで布団をかけられると、大林は戸惑ったように榊原を見上げた。ベットに腰掛けて、そっとその黒髪を撫でる。くすぐったそうに目を細める大林を前に、榊原は柔らかな口調で言った。
「ごめんね。家事なんてやらせて、疲れてるのに。」
「仕事だから、それは構わないけど、」
「…でもこうやって、君が無理をしてしまうんだったら、」
榊原が、そう言いかけて唇を噤む。大林は、小さく息を詰めた。もしかして、今更この関係をやめろっていのか。あんたが、勝手に始めたこの関係を。大林の瞳が揺れる。ただ黙って大林の前から立ち上がった榊原に、自分の意思を解さずに体が勝手に動いた。立ち上がった榊原の手を、握ってしまったのだ。
「風邪薬と、飲み水取りに行くだけ。すぐに戻ってくる。」
「やだ、」
「…大林くん、薬飲まないと熱下がらないから、」
「俺は、やめたくない、」
声が震えた。
大林の言葉に、榊原の目が僅かに見開いた。目の前の己が気に入りの青年が、何を言ったのか捉えかねるほど、その言葉は榊原の動きを止めるのに十分な効力を発揮した。
「お、俺は、まだ…、っ、や、やめたく、ない、」
静かな部屋に、時計の針の音と大林の呼吸の音だけが聞こえる。それだけ息が上がってしまったのだ。榊原の服の裾を握りしめた掌に、そっと手を添えられる。離したくなくて、自然と握りしめる手に力が入る。嫌だ、終わらせないで。大林の頭の中は、二つの感情が鬩ぎ合っていた。
子供染みた駄々を捏ねるなという、大人な部分の嗜めと、自分から傷つくのが目に見えている関係に嵌るなという警告。
頭の中が飽和状態のまま、大林は口にしてしまった言葉を後悔し始めていた。何を、言ってしまったんだろうと、自分の口から出てしまった言葉に、信じられない気持ちになっていた。
心の奥底で燻っていた思いが、こんな形で出てくるだなんて。馬鹿だ、既婚者に、俺は何を言っているんだと思った。
榊原の手によって、握りしめていた服の裾から手を外される。ただそれだけのこと、離されなかったら自分から外すという、当たり前の動作一つが、大林の涙腺を叩く。
「君は、本当に、」
頭の痛そうな、榊原の声がした。震える喉が熱くなって、じんわりと目の奥に響いてくる。俯いたまま、外された手を引き寄せようとしたのだが、それは榊原によって阻まれてしまった。
「…あのね、俺にちゃんと、大人をやらせてくれよ。」
「え、」
聞いたこともない榊原の俺という口調に、思わず顔を上げた。大林の前で、自分の髪をガシガシと手で乱す。たったそれだけで、こんなにも雰囲気が変わるのか。目の前の、粗野な榊原は知らなかった。向けられた、気だるそうな目。その瞳の奥に宿る仄かな熱が大林を捉える。
「泣くなよ、そんな顔で、俺にどうしろってんだよ。」
「ふ、っ…」
「…かっこつけさせてよ、大林くんの前で、俺をダサい男にしないで。」
衣擦れの音がして、大林はゆっくりと榊原に抱きしめられた。同じシャンプーの香りと、男らしい体格に見合った力の強い腕の中に、閉じ込められた。ただでさえ、熱のせいで頭が馬鹿になっているというのに、ずるいと思った。
肩口に、額を寄せる。嗚咽を漏らしたくなくて、ゆるゆると咥えた榊原の肩口の生地。節張った指が、宥めるように髪を柔らかく撫でてくるのが恥ずかしいのに、離れられそうになかった。
「泣くと、熱上がるでしょ。もうどこにも行かないから、薬は明日にして寝よう。」
「やだ、」
「…やだじゃなくて、なあ、俺のいうこと聞いて。」
「やだ、」
肩口にかかる吐息が熱い。榊原は、ぐっと眉間に皺を寄せ、唇をつぐんだ。仕方なくその長い手足で囲うように大林を抱き込むと、小さい子供をあやすように背中を撫でながら、枕にもたれ掛かる。そのうち、腕の中から堪えきれなかったのか、ヒック、と小さな嗚咽が漏れてくる。その柔らかな黒髪を撫でながら、そっと髪に口付けた。
「無理させたいわけじゃないんだよ。だから、やめようって言おうとした。」
「…や、だっ」
「うん、でも体疲れるだろ。仕事の休みに時間もらってるわけだしさ。」
「だって、あ、あんたが、言い出したんじゃん、っ」
「仕方ないだろ、だって嫌だったんだから。」
大林の声はくぐもっていて聞き取りづらかった。榊原は濡れていく己の服は気にしないことにして、大林を抱きしめたまま天井を見上げる。腕の中の青年は、己の体に腕を回さないくせに、控えめに服を握るのだ。そんな可愛らしいことを、しないでほしい。少しだけ参る。
榊原の言葉を気にしたらしい。大林が腕の中で小さく身じろぐ。長い手足を器用に折り畳みながら腕の中に収まっているが、動きづらくないのだろうか。
「言うと怒るじゃん。君。」
「既婚者のうわついた言動なんて、誰が信じるか。」
「急に饒舌になったな。つか、結婚してないし。」
「……?」
腕の中から、勢いよく顔を上げた大林が、その瞳に涙を溜めたまま榊原を見上げる。顎に頭がぶつかりそうになるのを避けたまま、榊原は間抜けにも首を逸らした状態で言葉を続ける。
「あ、もしかしてそういう、」
「指輪、」
「ああ、これね。」
か細い声で、小さく呟く。大林の手が、榊原の左手を掴む。その薄い掌を握り返すようにして目線の位置まで持ってくれば、そっと柔らかな掌の内側に口付けた。
「これ、虫除け用ね。」
「むし、よけ?」
榊原の唇が触れた掌が、ピクンと反応する。大林がわかり兼ねるといった顔で見つめ返すと、その顔かわいい、などと気の抜けたことをぬかす。
指の股を割るように、節張った指が絡まる。榊原はその手の甲にも口付けを送ると、ゆっくりと語り出した。
「既婚者ってことにしておかないと、縁談持ち込まれたりすんだよね。社長から。」
「…なんで、もっと早く言わないの、」
「聞かれなかったから?って、嘘嘘、怒んないでって、いったい!」
揶揄うような返答に、大林が腕の中から抜け出そうともがく。なんだそれ、と思ったのだ。こっちは、お前のせいで情緒を振り回されたのだ。そんな具合に、不服を顔に貼り付けて離れようとする大林を、榊原は押さえ込むようにしてキツく抱きしめた。
同じ男でも、体格が違うからか、いとも簡単に抑え込まれるのが癪でならない。思わずがじりと肩に噛み付くと、榊原はギョッとした。
「わかったから、正直に言うから怒んないでよ。」
「腹立つ…」
「ごめんってば。」
大林の頭の上に、榊原が顎を乗せる。体全体で抑え込まれながらも、絆されてなるものかと腕の中で抵抗することだけは諦めない。それでも、大きな掌が優しく背中を撫でる感覚に、大林は徐々に宥められていく。体も少しだけ熱を自覚してきたというのもあるが、榊原の抱きしめる力が少しだけ強くなったのだ。
離さない。そう口にされるよりも余程、大林を大人しくさせるのには効果覿面だったのだ。
「え?」
大林の頬に手を添えた榊原は、その整った顔を上げさせる。本人は自覚していないだけなのだろうか、風呂上がりだけではない頬の赤みと、少しだけ濡れたような瞳を見つめ返すと、端的な母音で返事を返された。
「おいで、熱があるかもしれない。」
「ないよ、そんなの」
「ダメだ。いい子だから。」
なんて蕩けた瞳でこちらを見るのだと思ったが、単純に体調不良の大林に悪戯することもできない。榊原は促すままに素直にソファに腰掛けた大林を置いて、キッチンに体温計を取りに行った。
戸棚の引き出しを開ける。目的のものと、風邪薬を持って戻ると、ぼんやりとした大林がソファの上で膝を抱えて小さくなっていた。それが、なんだか黒猫のように見えてしまうのは、己が貸したスウェットのせいだろうか。
「先に髪の毛乾かしちゃうね。もしかして、昼から具合悪かった?」
「具合悪くない。」
「そんな赤い顔してよく言うよ。」
黒髪を隠すようにしてタオルを被せる。ドライヤーのスイッチを入れて髪の毛を乾かし始めると、大林はされるがままにおとなしくなった。
もっと早く気にしてあげられればよかった。昼間、普通にしているから気が付かなかったが、今思えばあの時の顔の赤みは、発熱していたからじゃないのかと気がついて、榊原は浮かれてしまった己を恥じた。
あらかた乾かし終え、ドライヤーをかたして戻ってくれば、大林が膝をかかえた腕に顔を埋めてしまっていた。足早に歩み寄ると、隣に腰掛ける。その黒髪を耳にかけるようにして首筋に手を当てると、体温計で確認せずともわかる熱の高さだった。
「気持ち悪いとか、ない?とりあえず、ベットに行こう。」
「やだ、帰る。」
「帰るったって、熱出てるのに返せるわけないでしょ。」
「だって、明日仕事だし、それに、ここ、あんたんち、」
「そう、僕のうちだから君も良く知っているよね。ほら、駄々こねてないで。」
「わ、っ」
軽い押し問答に痺れを切らしたらしい。榊原は大林の両脇に手を差し込むと、小さな子供を抱き上げるかのようにして抱え上げた。大林の体が、熱以外で熱くなる。そのまま正面から抱え上げられるように抱かれながら、重さを感じさせない足取りで寝室に戻ると、そっと己のベットの上に横たえさせた。
「あ、あんたの寝床じゃん!」
「隣で寝るよ。」
「うつす、って!」
「そしたら君が面倒を見てくれ。」
胸の上まで布団をかけられると、大林は戸惑ったように榊原を見上げた。ベットに腰掛けて、そっとその黒髪を撫でる。くすぐったそうに目を細める大林を前に、榊原は柔らかな口調で言った。
「ごめんね。家事なんてやらせて、疲れてるのに。」
「仕事だから、それは構わないけど、」
「…でもこうやって、君が無理をしてしまうんだったら、」
榊原が、そう言いかけて唇を噤む。大林は、小さく息を詰めた。もしかして、今更この関係をやめろっていのか。あんたが、勝手に始めたこの関係を。大林の瞳が揺れる。ただ黙って大林の前から立ち上がった榊原に、自分の意思を解さずに体が勝手に動いた。立ち上がった榊原の手を、握ってしまったのだ。
「風邪薬と、飲み水取りに行くだけ。すぐに戻ってくる。」
「やだ、」
「…大林くん、薬飲まないと熱下がらないから、」
「俺は、やめたくない、」
声が震えた。
大林の言葉に、榊原の目が僅かに見開いた。目の前の己が気に入りの青年が、何を言ったのか捉えかねるほど、その言葉は榊原の動きを止めるのに十分な効力を発揮した。
「お、俺は、まだ…、っ、や、やめたく、ない、」
静かな部屋に、時計の針の音と大林の呼吸の音だけが聞こえる。それだけ息が上がってしまったのだ。榊原の服の裾を握りしめた掌に、そっと手を添えられる。離したくなくて、自然と握りしめる手に力が入る。嫌だ、終わらせないで。大林の頭の中は、二つの感情が鬩ぎ合っていた。
子供染みた駄々を捏ねるなという、大人な部分の嗜めと、自分から傷つくのが目に見えている関係に嵌るなという警告。
頭の中が飽和状態のまま、大林は口にしてしまった言葉を後悔し始めていた。何を、言ってしまったんだろうと、自分の口から出てしまった言葉に、信じられない気持ちになっていた。
心の奥底で燻っていた思いが、こんな形で出てくるだなんて。馬鹿だ、既婚者に、俺は何を言っているんだと思った。
榊原の手によって、握りしめていた服の裾から手を外される。ただそれだけのこと、離されなかったら自分から外すという、当たり前の動作一つが、大林の涙腺を叩く。
「君は、本当に、」
頭の痛そうな、榊原の声がした。震える喉が熱くなって、じんわりと目の奥に響いてくる。俯いたまま、外された手を引き寄せようとしたのだが、それは榊原によって阻まれてしまった。
「…あのね、俺にちゃんと、大人をやらせてくれよ。」
「え、」
聞いたこともない榊原の俺という口調に、思わず顔を上げた。大林の前で、自分の髪をガシガシと手で乱す。たったそれだけで、こんなにも雰囲気が変わるのか。目の前の、粗野な榊原は知らなかった。向けられた、気だるそうな目。その瞳の奥に宿る仄かな熱が大林を捉える。
「泣くなよ、そんな顔で、俺にどうしろってんだよ。」
「ふ、っ…」
「…かっこつけさせてよ、大林くんの前で、俺をダサい男にしないで。」
衣擦れの音がして、大林はゆっくりと榊原に抱きしめられた。同じシャンプーの香りと、男らしい体格に見合った力の強い腕の中に、閉じ込められた。ただでさえ、熱のせいで頭が馬鹿になっているというのに、ずるいと思った。
肩口に、額を寄せる。嗚咽を漏らしたくなくて、ゆるゆると咥えた榊原の肩口の生地。節張った指が、宥めるように髪を柔らかく撫でてくるのが恥ずかしいのに、離れられそうになかった。
「泣くと、熱上がるでしょ。もうどこにも行かないから、薬は明日にして寝よう。」
「やだ、」
「…やだじゃなくて、なあ、俺のいうこと聞いて。」
「やだ、」
肩口にかかる吐息が熱い。榊原は、ぐっと眉間に皺を寄せ、唇をつぐんだ。仕方なくその長い手足で囲うように大林を抱き込むと、小さい子供をあやすように背中を撫でながら、枕にもたれ掛かる。そのうち、腕の中から堪えきれなかったのか、ヒック、と小さな嗚咽が漏れてくる。その柔らかな黒髪を撫でながら、そっと髪に口付けた。
「無理させたいわけじゃないんだよ。だから、やめようって言おうとした。」
「…や、だっ」
「うん、でも体疲れるだろ。仕事の休みに時間もらってるわけだしさ。」
「だって、あ、あんたが、言い出したんじゃん、っ」
「仕方ないだろ、だって嫌だったんだから。」
大林の声はくぐもっていて聞き取りづらかった。榊原は濡れていく己の服は気にしないことにして、大林を抱きしめたまま天井を見上げる。腕の中の青年は、己の体に腕を回さないくせに、控えめに服を握るのだ。そんな可愛らしいことを、しないでほしい。少しだけ参る。
榊原の言葉を気にしたらしい。大林が腕の中で小さく身じろぐ。長い手足を器用に折り畳みながら腕の中に収まっているが、動きづらくないのだろうか。
「言うと怒るじゃん。君。」
「既婚者のうわついた言動なんて、誰が信じるか。」
「急に饒舌になったな。つか、結婚してないし。」
「……?」
腕の中から、勢いよく顔を上げた大林が、その瞳に涙を溜めたまま榊原を見上げる。顎に頭がぶつかりそうになるのを避けたまま、榊原は間抜けにも首を逸らした状態で言葉を続ける。
「あ、もしかしてそういう、」
「指輪、」
「ああ、これね。」
か細い声で、小さく呟く。大林の手が、榊原の左手を掴む。その薄い掌を握り返すようにして目線の位置まで持ってくれば、そっと柔らかな掌の内側に口付けた。
「これ、虫除け用ね。」
「むし、よけ?」
榊原の唇が触れた掌が、ピクンと反応する。大林がわかり兼ねるといった顔で見つめ返すと、その顔かわいい、などと気の抜けたことをぬかす。
指の股を割るように、節張った指が絡まる。榊原はその手の甲にも口付けを送ると、ゆっくりと語り出した。
「既婚者ってことにしておかないと、縁談持ち込まれたりすんだよね。社長から。」
「…なんで、もっと早く言わないの、」
「聞かれなかったから?って、嘘嘘、怒んないでって、いったい!」
揶揄うような返答に、大林が腕の中から抜け出そうともがく。なんだそれ、と思ったのだ。こっちは、お前のせいで情緒を振り回されたのだ。そんな具合に、不服を顔に貼り付けて離れようとする大林を、榊原は押さえ込むようにしてキツく抱きしめた。
同じ男でも、体格が違うからか、いとも簡単に抑え込まれるのが癪でならない。思わずがじりと肩に噛み付くと、榊原はギョッとした。
「わかったから、正直に言うから怒んないでよ。」
「腹立つ…」
「ごめんってば。」
大林の頭の上に、榊原が顎を乗せる。体全体で抑え込まれながらも、絆されてなるものかと腕の中で抵抗することだけは諦めない。それでも、大きな掌が優しく背中を撫でる感覚に、大林は徐々に宥められていく。体も少しだけ熱を自覚してきたというのもあるが、榊原の抱きしめる力が少しだけ強くなったのだ。
離さない。そう口にされるよりも余程、大林を大人しくさせるのには効果覿面だったのだ。
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