アイデンティティは奪われましたが、勇者とその弟に愛されてそれなりに幸せです。

だいきち

文字の大きさ
上 下
11 / 73

不運な報告 

しおりを挟む
「くそ……っ、本当に腹が立つ……‼︎」

 苛立った足音が、年季の入った木造の廊下を軋ませる。あれから、ルシアンは一度遊撃隊の詰所へと戻っていた。無論、それは兄でもあるイザルの不始末について報告をするためだ。今回ばかりは魔物ではなく人間相手だ。まあ、厄介なのは魔物と大差はないかもしれないが。それは今に始まった事ではない。単騎で出ていったルシアンは、勿論一人で戻ってきた。
 なんの負傷もない、遊撃部隊初めての事後報告。単独で動くことが許される立場にはあるが、それにしても前例がないだけでこんなにも億劫になるとは思わなかった。 
 そして、ルシアンが単独で動いたこと。それを誰も止めなかったのには理由があった。

「お帰りルシアン」
「メイディア……」
「非番なのによく働くなあ、うちの副隊長様は」

 メイディア・オルセンシュタイン。イザルの遊撃部隊に所属する、銃を得意とする男だ。氷属性を駆使して、敵の捕縛や行動制限など、部隊では相性の良いルシアンと共にバディを組んで敵を追い詰め、仕留めることもしばしば。
 成り上がり貴族の実家に嫌気が刺し、地方から一人で出てきたと言っていたか。焦茶の髪を一本の三つ編みで纏め、その整った中性的な顔を晒している。
 切長の二重に収まった瞳は狼の眼だ。太陽の国ではあまり見ない、緑の強いヘーゼルの瞳をしている。

「お前こそこんなところで何をしている」
「おおこわい、ご機嫌斜めはモテないんだぞ。……わかったよ、本題に入るから、視線だけで俺を殺そうとするな」
「チ、」

 メイディアの戯れも、受け止める余裕はないらしい。このまま無駄口の応酬を続けていれば、間違いなくルシアンの鏃の的となるだろう。空気の読める男は肩を竦めると、凭れていた通路の壁からその身を離した。

「ルシアン、悪い知らせだ。うちの古狸が団長室に進言しに行っている。無論、内容はいつものことだ」
「ガインか、言わせておけばいい。隊長があいつの言葉に惑わされるわけもないしな」
「だと良いけど、俺は一応忠告したぜ。この俺が、わざわざ終業後にお前の部屋の前まで待ち伏せしてな」
「……、メイディア、やけにしつこいな。どうした」
「あんなにご機嫌なガインなんてなかなかないぜ、俺は気になる」

 通路を照らす古臭い魔導ランプの光がくらくらと揺れている。メイディアの瞳は、オレンジ色の光に染められて不思議な輝きを放っていた。
 ルシアンの、推しはかるような視線すらものともしない。どうやら意地でも団長室まで同行させる心づもりのようだ。
 嫣然と微笑まれる。ルシアンを煽り返すような態度をとるメイディアは、隊内でルシアンの次に諦めが悪いことで知られていた。

「……行こう。ただしメイディア、お前もだ」
「そ? ルシアンが後悔する事にならなくて何よりだ」

 俺の鼻を信じてくれて有難う。メイディアはニコリと微笑む。ルシアンは顰めっ面で部下の上等な面を一瞥すると、団長室へと向かうべく来た道を戻るのであった。

 遊撃部隊は少数精鋭の為か、はたまた第一騎士団からのやっかみか。彼らの宿舎は城の敷地の中でも、特に離れた場所に位置していた。しかし、立地条件からしてみれば、特に文句はない。街と城の中間地点、それも深い森の近くに建てられているのだ。野外演習を行うには実に適しているその場所は、城勤めの薬師の診療所もまた近い。それに、遊撃部隊の彼らにとって距離なんて関係はない。騎士団のように馬を使うこともなく、皆がそれぞれの機動力を自負して国中を駆け回る。
 宿舎に年季が入っているだけで、ゴーストが出るわけでもなし。ルシアンは歩くたびに軋む廊下が気になるくらいで、内装のモダンさも気に入っていた。
 剥き出しの裸電球がぶら下がっている。それが点々と通路を照らしていた。応接間や、客人が通る通路は魔道ランプが採用されているが、部隊の生活スペースに関しては、実に飾り気のない家具ばかり。
 踏み締められ、色艶を濃くした板張りの通路に、二人分の足音が響いていた。木造の宿舎に嵌め込まれた格子状の窓の外はもう暗い。ルシアンが帰ってくる頃には真っ赤な夕焼けの空が広がっていた。時期柄、日没は早い。

「ガインはどんな様子だった」
「ルシアンの不在の日を狙っていたみたいだよ。やけに今日は機嫌が良かった」
「大方、またしょうもない文句だろう。俺本人に直接口に出来ない文句など高が知れている。隊長の時間を奪うに値しない」
「その隊長を見放して、さっさと帰ろうとしていた男が俺の目の前にいるんだがね」

 ルシアンは己の上官が詰める扉の前まで訪れた。どこの騎士の部屋とも変わりない一枚板の扉は、その色だけが他とは違う。心の持ち様が関係してくるのかはわからなかったが、ルシアンはなんの変哲もない扉を前にわずかに背筋を伸ばす。
 ここまで来たは良いが、己も不本意な事後報告を行わねばならないことを思い出した。隊長であるセタンナに報告するのは吝かではないが、メイディアとガインの前で説明をするとなると、それはまた違った心の準備が必要だった。
 真っ黒な扉の前で、眉を寄せて黙りこくる。そんなルシアンの横に並ぶように前に出たメイディアが、ほのかに口元を歪ませた。

「……ルシアン、中の様子がおかしい」
「どう言うことだ」

 メイディアの手が扉に触れるなり、静かに頬を寄せる。目を細め、中の会話へと注意深く耳をそば立てている。
 室内では、大袈裟に何かを喋るガインの声がした。
 セタンナは黙って聞いているのだろうか。しかし、メイディアが感じている違和感はそこではなかった。内側から聞こえるガインの声は、息継ぎをしていないかのように、延々と口から言葉が滑り落ちている。

「ルシアン、俺も行こう」
「後ろにまわれメイディア、ガインが馬鹿でなければいいのだが……」
「頭良さそうに見えるのかい?」
「いいや全く」

 ドアノブに手をかけると、ルシアンは入室の挨拶もないまま勢いよく扉を開け放った。
 部屋の中には二人の男女がいた。一人は金髪の髪を短く切り揃えた碧眼の麗人。そして、紅茶色の髪を撫で付けるように後ろへ流したガインだ。

「ガイン」
「……、ルシアン」

 
 室内は途端に静まり返った。背後に控えたメイディアも表情にこそ出しはしないが、その身に纏う空気は自然と張り詰めたものになっていた。

「入室の許可も得ずに扉を開けるとは、お前はいつからそんなに偉くなったんだ。あ?」
「ガイン、よせ。この室内での諍いは許さない」
「隊長、勘弁してくださいよ。そうやって依怙贔屓をするからコイツがつけあがるんだ」

 淡々とした口調の麗人、セタンナの言葉を受け入れず、ガインはゆらりとルシアンを視界に映す。ガインは近接を得意とする双刀使いだ。入団はルシアンよりも一年早く、ガインを差し置いて副隊長へとのし上がったルシアンに対しては、あまり良い感情を抱いてはいない。
 ガインの灰の瞳がゆらりと揺れた。体格はルシアンとほぼ同じである。共に風属性魔法を行使することが出来るせいか、何かと突っかかってくるのは今に始まったことではなかった。

「ルシアン、拳を握れ。扉のノックはこうしてするものだ」

 ガインが拳を押し付けるようにして扉を軋ませる。鼻先が触れ合うほどの距離まで顔を寄せられると、目元を歪めるようにして笑った。
 
「ガイン、お前、」

 灰色の瞳の奥。ルシアンは確かに、ガインの虹彩の中に潜む黒い靄のようなものが見えたのだ。何かの呪いを受けているのだろうか。煽りすら意に介さぬまま肩を掴むと、ルシアンは体を離すように押し返した。

「……おっぱじまっちまうのかと思った」
「メイディア。貴様は付き添いか」
「ええ、まあそんなところです。……悪気があったわけじゃないんですがね、外から聞こえたガインの様子が少し気にかかったもんで」

 一触即発かと思われた二人の前を、メイディアがそそくさと迂回してくる。セタンナの横に侍るように着くと、やれやれとため息を吐いた。
 目前で大柄な男ども二人が今にもぶつかりそうになっていると言うのに、セタンナは碧眼を細め傍観の姿勢をとるだけだ。
 形のいい唇が笑みを浮かべる。セタンナが微笑むときは大抵まずいことが起こるのだ。隣で空気に徹するつもりだったらしいメイディアの表情が、あからさまに引き攣った。 

「今回ばかりは、貴様の読みはあたっていたようだぞ」
「……やだなあ、外したことないでしょう。俺の勘」

 室内に冴えた冷気を纏う。体感でそう感じるほどの張り詰めた空気感。
 ガインの肩を掴んで牽制をしていたルシアンの手が、乱暴に振り払われる。わかりやすい火蓋が切って落とされたのだ。ガインの灰の瞳が鈍く光る。素早く伸ばされた手は、ルシアンによって制される。

「……勇者が身内にいると、七光りで階級も上がれるだなんて知らなかったよ。弟殿」
「これは俺の実力だ。そして、貴様が俺に負けたのも俺の実力だ、ガイン」
「運をも味方にってやつかい。そりゃあすげえや」

 ガインの容貌には、明確な悪意が滲んでいた。酔っているのだろうか。しかし、ガインからはアルコール独特の熟柿臭い匂いは感じられなかった。目が据わっている。少なくとも、いつものガインならこんな愚かをするような男ではなかった。ましてや団長であるセタンナの執務室でだ。何かの箍が外れてしまったかのような、そんな違和感をひしひしと感じる。

「ガイン、ここでやり合うべきではない。受けて立つから表へでろ」
「今この場でお前を殴らなきゃ気が済まねえといったら?」
「団長の執務室での暴挙は許されない。それはお前が口を酸っぱくして部下に教えていたんじゃなかったか」

 ルシアンは、両手で顔を覆うように肩を揺らし笑うガインを見た。

「メイディア」
「御意」

 ルシアンが身のうちの魔力を解放するのと、メイディアがセタンナの命令で結界を張ったのはほぼ同時だった。
 室内に唐突に吹き荒れた暴風は、ガインの魔術によるものだ。ルシアンは己の腕を顔の前に交差して防御も姿勢を取る。答えは出た。つまり、ガインは我欲を優先させたということだった。

「大っ嫌いなんだよ七光野郎、お前なんかいらねえんだ……‼︎」
「ガイン……‼︎」

 ルシアンは床を蹴るように背後へと飛び退った。視界に散らばる木端は執務室の扉のものだろう。強化魔法をかけたわけでもないだろうに、恐ろしい程の膂力でガインは扉を破壊したのだ。一枚板を振りかぶる。ガインによって勢いよく投げつけられた扉を、ルシアンは抜きざまの剣で両断する。

「ガインって強化魔法かけてましたっけ⁉︎」
「黙って見ていろ。じきわかる」

 大きな音を立てて、木片が散らばった。破片が突き刺さるのも厭わずに突っ込んでくるガインを、咄嗟に剣の腹で受け止める。
 セタンナは二人の様子を、吟味するかのように見つめていた。青みの強い碧眼は決して揺らぐこともなく、動揺するメイディアを静かに制する。
 ガインの足元から浮かび上がる、緑色に光る魔法陣。それはゆっくりとガインの身を通すように頭上へと移動すると、勢いよく回転し始める。
 風属性持ちのガインが得意とする強化術の応用だ。魔物相手の戦闘に使われていた術の一つが今、ルシアンへと向けられている。頭上の陣が回転を止め、消え去るまでは三分ほど。その間、ガインは人の活動限界まで己の体を酷使する。
 
「お前、それは、っ」

 ルシアンの瞳に、苦悶に歪むガインの表情が映った。
 なんで、そんな顔を。ルシアンの瞳が戸惑いで揺れたその瞬間、ガインによって放たれた一打に弾き飛ばされるように、ルシアンの体は窓の外へと投げ出された。



 
 


 
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

パラレルワールドの世界で俺はあなたに嫌われている

いちみやりょう
BL
彼が負傷した隊員を庇って敵から剣で斬られそうになった時、自然と体が動いた。 「ジル!!!」 俺の体から血飛沫が出るのと、隊長が俺の名前を叫んだのは同時だった。 隊長はすぐさま敵をなぎ倒して、俺の体を抱き寄せてくれた。 「ジル!」 「……隊長……お怪我は……?」 「……ない。ジルが庇ってくれたからな」 隊長は俺の傷の具合でもう助からないのだと、悟ってしまったようだ。 目を細めて俺を見て、涙を耐えるように不器用に笑った。 ーーーー 『愛してる、ジル』 前の世界の隊長の声を思い出す。 この世界の貴方は俺にそんなことを言わない。 だけど俺は、前の世界にいた時の貴方の優しさが忘れられない。 俺のことを憎んで、俺に冷たく当たっても俺は貴方を信じたい。

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

支配者に囚われる

藍沢真啓/庚あき
BL
大学で講師を勤める総は、長年飲んでいた強い抑制剤をやめ、初めて訪れたヒートを解消する為に、ヒートオメガ専用のデリヘルを利用する。 そこのキャストである龍蘭に次第に惹かれた総は、一年後のヒートの時、今回限りで契約を終了しようと彼に告げたが── ※オメガバースシリーズですが、こちらだけでも楽しめると思い

生意気な弟がいきなりキャラを変えてきて困っています!

あああ
BL
おれはには双子の弟がいる。 かわいいかわいい弟…だが、中学になると不良になってしまった。まぁ、それはいい。(泣き) けれど… 高校になると───もっとキャラが変わってしまった。それは─── 「もう、お兄ちゃん何してるの?死んじゃえ☆」 ブリッコキャラだった!!どういうこと!? 弟「──────ほんと、兄貴は可愛いよな。 ───────誰にも渡さねぇ。」 弟×兄、弟がヤンデレの物語です。 この作品はpixivにも記載されています。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~

シキ
BL
全寮制学園モノBL。 倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。 倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……? 真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。 一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。 こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。 今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。 当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

婚約破棄された冷血小公爵はライバルの最狂ヤンデレ騎士にらちかんされました

ひよこ麺
BL
「『姫』であるマリーノ・ゴールド伯爵令息より拒絶され婚約破棄となったため、フレデリック・コルヌイエ・リシュリュー小公爵より、『騎士』の資格を剥奪する」 その言葉を皇帝陛下から言い渡されたフレデリック・コルヌイエ・リシュリュー小公爵は絶望した。男しかいないこの世界では『姫』と『騎士』と呼ばれるふたつの役割により生殖をおこなう。 『姫』とは美しい花のような存在で『騎士』から愛され守られる存在で、『騎士』とは『姫』に忠義を捧げて守り愛し抜く存在であるとされている。 『騎士』は自らが愛する『姫』を選び、『騎士』に選ばれることで『姫』となる。『騎士』は『姫』に選ばれなかった者がなり、愛と忠義を捧げる『姫』を求める存在となる。 全ては愛される『姫』が優位な世界。 その世界で、一度忠義を捧げた『姫』から拒絶された『騎士』は『落伍騎士』とされ以降『姫』への求婚を禁じられる。 自身が『姫』となる以外では、事実上、独り身で生きることが確定する。 一般市民であればそれでも構わないが公爵家の嫡男であるフレデリックにとってそれは最大の瑕疵となり、家を繋ぐことができない以上は家督も継げないため家からも追い出されることを意味していた。 プライドの高いフレデリックは絶望からその場にへたりこんでいた。周囲で嘲り笑う声が響く中、ある男がフレデリックの側に進み出た。 それはずっとフレデリックをなぜかライバル視してきた辺境伯にして現在帝国最高の騎士と誉高いマティアス・ベラドンナ・バーデンだった。 「……辺境伯卿、私に何か御用ですかな」 「もう、そのように無理をしないでください。美しい姫君にこの冷たく汚れた床は似合わない」 何故かお姫様抱っこでマティアスに持ち上げられたフレデリックにさらに信じがたい言葉が聞こえる。 「では……皇帝陛下の甥であり《《麗しい青薔薇の姫君》》である、フレデリック・コルヌイエ・リシュリュー小公爵との婚姻を認めて頂きたい」 初恋拗らせヤンデレ騎士に連れ去られてらちかんされたフレデリックの運命はいかに!? ※が付くところは背後注意な性的な表現があります。

俺にとってはあなたが運命でした

ハル
BL
第2次性が浸透し、αを引き付ける発情期があるΩへの差別が医療の発達により緩和され始めた社会 βの少し人付き合いが苦手で友人がいないだけの平凡な大学生、浅野瑞穂 彼は一人暮らしをしていたが、コンビニ生活を母に知られ実家に戻される。 その隣に引っ越してきたαΩ夫夫、嵯峨彰彦と菜桜、αの子供、理人と香菜と出会い、彼らと交流を深める。 それと同時に、彼ら家族が頼りにする彰彦の幼馴染で同僚である遠月晴哉とも親睦を深め、やがて2人は惹かれ合う。

処理中です...