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その隔たり
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ルシアンは神に感謝した。それは、シグムントが今生での運命の出会いそのものだと思ったからだ。決して信心深いわけではないのだが、ルシアンには己の恋愛における女性の理想像というものがあった。それは、己が人生の転機のきっかけとなる女。つまり、ルシアンに依存をしてくれる女が第一の条件であった。
しかし、一口に依存と言っても、見目で惑わされてほしいわけではない。ルシアンの手で危険から救える女なら、なおのことよかった。命を助けたという印象は、ずっとついてまわる。命の恩人としてルシアンに尽くし、侍り、そして依存してくれる。そんな、この世にルシアンだけという宗教じみた盲愛を向けてくれる女ならよかったのだ。
シグムントは、ルシアンにとって理想の条件を満たす可能性が大いに高い女、であった。しかし、野暮なのは天敵である兄のイザルがいた事と、女を危険に晒してしまったきっかけが己だという事である。女。基、シグムントというらしい。その麗人は危険な目に遭わせたのはルシアンだというのに、こちらの怪我の心配をしてくるのだ。
これは挽回をすれば女をルシアンのものにできるという可能性を秘めているのではないか。真っ直ぐにシグムントを見つめ返す。ルシアンはシグムントの頭部に付けられた、角のような形をした黒曜石のバレッタ──── 何を隠そう本物の角である──── に手を伸ばして、そっと触れた。
男に慣れていないのだろう、身をすくませる様子はルシアンの心をほのかに色めかせる。
「シグムント、君のその」
「いつまでへたってんだてめえ、こっちこい」
「ひゃ、っ!」
しかし、ルシアンの甘やかなひとときは、痺れを切らしたイザルによって遮られることとなる。
シグムントの細腕を、イザルの手が鷲掴んで引き寄せる。外套を着ていてもわかるほどの頼りない腕だ。乱暴に立たされた華奢な体が蹌踉めく。薄い靴に包まれた足首の傷が痛むのだろう、痛そうに歪むシグムントの顔を前に、ルシアンはイザルへとくってかかった。
「貴様、婦女は丁重に扱え!」
「何言ってんだてめえ、先に見つけたのは俺だ」
「シグムントをもののように、っ」
「ま、待て、兄弟喧嘩はよくない!」
イザルは、ルシアンがなぜ苛立っているのかを理解した上で煽っていた。弟の恋心をさらったのが、イザルのコブであるシグムントという状況が愉快で仕方がなかったのだ。
シグムントの仲裁に、ルシアンは悔しそうに唇を引き結ぶ。しかし、イザルはいつだって人の言うことを聞かない。シグムントの制止も、悪巧みを思いついたイザルの前では無意味であった。
どう笑みを浮かべれば人を虜にできるか。を、きちんと理解した顔でイザルが笑みを浮かべる。イザルはシグムントの肩を抱き寄せると、まるで睦言を囁くかのように薄く尖り気味の耳に唇を寄せる。見せつけるような近い距離は、ルシアンへの揶揄いも含まれていた。
「な、なんだイザル」
「どうやらこいつはお前に惚れたらしい。シグムント、俺たちの目的のためにも、ルシアンは使える。お前、一芝居打ってくれないか」
「し、芝居など打ったことないが……俺にそれが出来るのだろうか……」
「大丈夫だ、お前は魔王で、男だということを伏せておけよ。いいか、ルシアンは城の遊撃部隊の隊長格だ。お前が王に謁見するためにも、ここは手篭めにしておいた方がいい」
「イザル、お前は悪魔か。しかし、払うべき犠牲、というわけか……。心苦しいが、目的達成の為ならやむおえぬ。俺もついに悪に染まる日が……」
真剣な顔をしてぶつくさと宣うシグムントを置いて、イザルはルシアンへと視線を向ける。
シグムントに恋心を抱いているのなら、ルシアンを手駒にして仕舞えばいい。城とは関わりたくはないが、逃げおおせるためには内部情報だって知る必要がある。だからイザルはシグムントに協力を要請した。
頼りなく、諸々の全てがおぼつかない貧弱魔族だとしても、顔面の出来だけは評価できる。同じ審美眼を持っていることだけは癪であったが、ルシアンがシグムントに惚れている以上有利なのはイザルだ。
役作りを入念に行なっていたらしい。シグムントが意を決したようにルシアンへと視線を向ける。イザルがニヤつきそうになる口元を叱咤しようとした瞬間、シグムントは胸を張って宣った。
「ルシアン。私はシグムント、見ての通り魔族である」
「ばかやろ、それはいうなって言ったろうが‼︎」
「ひゃぃんっ!」
大きな爆弾を落としたシグムントに、思わずイザルは声を荒げた。元魔王で男だと言うことを伏せておけと言ったが、馬鹿正直を発動しろとは一言も言っていない。シグムントの頭を勢いよく頭を叩けば、情けない声をあげてしゃがみ込む。
「やはり魔族か。なんとなくそんな気がしていた」
しかし、ルシアンは思いの外素直に受け止めているようだった。
魔族や魔物に対して強い偏見を持つ。この国の住民とは思えない弟の態度に、口には出さずとも頭の心配をしてしまったイザルである。
嫌な予感がする。イザルの表情が、わずかに歪められた。
予想が外れると、大抵物事の運びが悪くなる。黙りこくったルシアンを前に感じるのはまさしくそれだ。イザルはシグムントに熱い視線を向けるルシアンを、注意深く窺った。
「俺は……魔物討伐の遊撃部隊をしている。本来であれば、君は俺の討伐対象ということだな」
「ああ、イザルからは話を聞いている。……すまない、魔族である俺を助けたとわかれば、ルシアンは罰せられてしまうのではないか」
「俺……?」
「シグムントは、今流行りの俺っ子なんだ。気にするな」
「市井では聞き慣れんが……魔界では婦女も俺を使うのか?」
自分のことを俺と言ったシグムントに、イザルが慌てて訂正を入れる。ルシアンの半信半疑な様子に余計な冷や汗をかくハメになった。隣ではシグムントが青い顔をして口元を両手で押さえている。細められたルシアンの目に、シグムントもまたバレやしないかと妙な緊張を強いられるハメになった。
しかし、二人の緊張は杞憂に終わった。目元に切なさを宿したルシアンが、図らずともイザルの都合のいい方へと勘違いしてくれたのだ。
「……深くは詮索しない。おそらく君は、俺と呼ばざるをえない環境に身をやつしてきたのだろう。それに、君は魔族のくせに会話ができる。実は半魔とか何かか」
「違うぞ、俺はしょうしんしょうめ」
「シ、グ、ム、ン、ト! は魔界から亡命してきたんだよ! こんな性格だから弱っちいし、攻撃魔法もできねえってんで、なあ⁉︎」
「い、イザル、く、苦しい……」
無自覚の余計な一言は、イザルがシグムントの首に腕を回すようにして引き留める。白い手が抗議をするように腕を叩くが、イザルからしてみればいい加減学習しろの一言に尽きる。無言の圧力を拳に乗せると、シグムントの折れた角の根本へとぐりぐりと拳を押し付ける。
「貴様が魔界で出会って、保護したと言うことか」
「違う、ここまでひと」
「魔王城の地下で繋がれていたところを俺が助けたんだよ。文句あるかコラ」
「頑張ってここまできっ」
「なるほど、そこで亡命の話に繋がると言うわけか」
ことごとくイザルによって事実が書き換えられていく。シグムントとしては、一人で大変な思いをしながら頑張ってこの国に訪れたこと。それを、褒めてもらえるチャンスかと思っていたのにだ。
これは不当な扱いだと抗議をしようとすれば、イザルに口を塞がれた。ついむすりとしてイザルの手のひらの内側に歯を立てるべく口を開ければ、べちんと頭を叩かれて終わった。痛い。
「ルシアン、敵意のねえ魔族をお前は殺すのか」
「……言っておくが、魔族よりも俺はお前の方が嫌いだからな」
「いや俺人間だし。比較するんじゃねえ、そんなのわかってるわ」
人間、同じ血を分けたもの同士。瓜二つでもここまで嫌いあえるものなのだなと、シグムントは痛む頭を抱えながら思った。
とはいえ、本来ならばシグムントの命はルシアンの鏃の先なのだ。まさか、己へと恋心を抱かれているなどつゆほども知らない。イザルによって利用されてることすら自覚のないままであった。
頭上では、随分と治安の悪い笑みを浮かべているイザルの姿があった。ルシアンから惜しみなく注がれる殺意の込められた視線もどこふく風だ。二人の間には、色味の違う火花が散っているように思えた。
「シグムント、こいつは今、お前によく見られたくて俺と魔物を引き合いに出したんだぜ。要するに、俺よりも魔族のお前の方がよほど好ましいって言ってるんだ。クソ回りくどいやつだろう」
「俺はお前のそういうところが心の底から好きになれない」
どうしよう。シグムントは、静かに焦った。二人の間で会話が成り立っているが、シグムントは基本的に頭の出来が良くなかった。だからこそ、イザルがルシアンへと放った言葉の意味がちっとも理解できなかったし、ルシアンがイザルへと苛立ちを向ける理由も皆目見当がつかなかった。
どうにかせねばならない。少しでも二人の会話を理解していると思われなくては、年長者として立つ瀬がない。
シグムントはイザルの腕の中から何とか抜け出すと、おぼつかない足取りでルシアンへと歩み寄る。戸惑った表情で見つめてくるルシアンを前に、俺も実は戸惑っていますとは言えるはずがない。シグムントはルシアンの腕にそっと触れると、真っ直ぐに黒い瞳を見つめ返した。きっと二人は魔族としての己の立場について話しているに違いない。シグムントは、一先ずそう思うことにした。
「……ルシアン、太陽の国が俺たち魔族や魔物に対してどのような感情を抱いているのかは重々承知している。そして、俺がこうしてルシアンの助けを乞うことを、受け入れて貰えぬだろうことも」
「……この国に来た以上は、国王の定めた決まり事はみな平等の常識だ。シグムント、力にはなりたいが……君が魔族である以上俺は国を裏切ることはできない」
ルシアンの瞳の中には、小柄なシグムントが怯えを堪えているように見えた。華奢な体、色素の薄い容姿は神話から抜け出たように美しい。人を魅了するという点では、魔族であることは疑いようもないだろう。体の奥に宿る仄かな熱を自覚した無骨な指先が、シグムントの滑らかな髪に触れる。そのまま頬を撫でるように、尖り気味の耳に髪を流した。
シグムントの柔らかな眼差しが、遠慮がちに伏せられる。慎ましげな様子が、ルシアンの中の雄を静かに刺激する。
「ルシアン、いいんだ……これは、……わかっていたことだから」
本当は、何の話で兄弟二人盛り上がっていたのかは分かってはいない。けれど、シグムントはあえて分かっていたと口にした。単純に、仲間外れにはされたくなかったのである。
後ろめたさを誤魔化すように俯く様子が、ルシアンには効果覿面であった。シグムントの背後では、イザルが欠伸を噛み殺していた。
「シグムント……」
切なさの入り混じるルシアンの声に、シグムントの良心はわずかに傷んだ。
しかし、この展開はイザルにとっては好都合である。ルシアンは職務を忘れて惹かれているのだろう、メロドラマじみた恋の駆け引きを間近で見ることになるとは思いもよらなかったが、それでもこれから先の逃亡生活を鑑みればこの展開は上々である。
イザルは口元に笑みを浮かべた。それこそ、元魔王よりも魔王らしい狡賢さを滲ませたのだ。イザルの手が、シグムントの薄い腰を引き寄せる。戸惑い振り向いた細い顎に指先を滑らせると、イザルはシグムントの整った顔に頬を寄せた。
「だから言ったろ、シグムント。俺に出来ることが、こいつには出来ねえんだ。なんせルシアンには柔軟性がないからなあ……」
「……俺が、貴様よりも劣っているだと……?」
「おいおい、怖い顔すんなよ。まあ、俺にはてめえが初対面から成長がねえように見えるぜルシアン」
「貴様……」
ルシアンの瞳に、剣呑な光が再び宿る。間に挟まれたシグムントはというと、イザルの体温の近さに身を固くしていた。何より戸惑いもあるが、この場の重い空気に怯えてもいた。
人間の兄弟というのは優劣を決める為に、こんなに恐ろしい空気へと周りを巻き込むのかと、また一つ誤った学習をしたのだ。
「い、イザル、わっ!」
イザルの手が、シグムントの外套の隙間に侵入した。熱い手のひらが素肌に触れて、胸元へと移動する。指先が薄い胸の頂に触れた時、意思とは関係なく情けない声が漏れた。
「ひぅ、っん!」
「わかったら、俺たちの行く末を詮索するんじゃねえ。こいつは俺が拾った。だから俺のもんだ。なんでテメェが此処に来たのかは知らねえが、俺ぁ今一般市民って立場だぜルシアン」
「シグムント……っ‼︎」
「わかったら帰んな。それとも、最後まで見ていくかい」
イザルの手を拒まずに受け入れる。そんなシグムントの姿に、ルシアンは目を見開いた。イザルは、いつもルシアンの欲しいものを手に入れる。そのくせ酷く己の境遇を憂うのだ。しかし、シグムントにおいてはイザルが執着を見せていることに驚きもした。
ルシアンは国に縛られている。イザルのように、上手に国の縛りから抜け出すには理由だって必要だ。無断で隊から抜けるようなことをすれば、反逆者扱いを受けかねない。
ルシアンの拳がキツく握りしめられる。ままならない立場からくる恨みを、握り潰すかのように。
「……好きにしろ。だが、俺も好きにさせてもらう」
「ほう、そりゃあまた意味深なこって」
酷く嫌味ったらしく笑みを浮かべる。そんなイザルの弱みを握るとしたら、魔界から連れてきた女を飼っている。と言うことだろうか。
シグムントは魔王城の地下で折檻を受けていたと聞いている。不思議な髪飾りだと思ってたものは角であり、もう片方はてひどい拷問で折られてしまったのだろう。華奢な体で耐えてきた痛みの数々を想像するだけで、ルシアンは腹の奥で何かが煮えたぎるのを感じていた。
涙を滲ませるシグムントの瞳には、ルシアンが映っていた。諦めが悪いことだけは、イザルに似ているのかも知れない。そんなことを指摘すれば、たちまちルシアンは逆上するだろうが。
それでも、シグムントの涙を網膜に焼き付けるかのように見つめるルシアンの腹は、すでに決まっているように見えた。
しかし、一口に依存と言っても、見目で惑わされてほしいわけではない。ルシアンの手で危険から救える女なら、なおのことよかった。命を助けたという印象は、ずっとついてまわる。命の恩人としてルシアンに尽くし、侍り、そして依存してくれる。そんな、この世にルシアンだけという宗教じみた盲愛を向けてくれる女ならよかったのだ。
シグムントは、ルシアンにとって理想の条件を満たす可能性が大いに高い女、であった。しかし、野暮なのは天敵である兄のイザルがいた事と、女を危険に晒してしまったきっかけが己だという事である。女。基、シグムントというらしい。その麗人は危険な目に遭わせたのはルシアンだというのに、こちらの怪我の心配をしてくるのだ。
これは挽回をすれば女をルシアンのものにできるという可能性を秘めているのではないか。真っ直ぐにシグムントを見つめ返す。ルシアンはシグムントの頭部に付けられた、角のような形をした黒曜石のバレッタ──── 何を隠そう本物の角である──── に手を伸ばして、そっと触れた。
男に慣れていないのだろう、身をすくませる様子はルシアンの心をほのかに色めかせる。
「シグムント、君のその」
「いつまでへたってんだてめえ、こっちこい」
「ひゃ、っ!」
しかし、ルシアンの甘やかなひとときは、痺れを切らしたイザルによって遮られることとなる。
シグムントの細腕を、イザルの手が鷲掴んで引き寄せる。外套を着ていてもわかるほどの頼りない腕だ。乱暴に立たされた華奢な体が蹌踉めく。薄い靴に包まれた足首の傷が痛むのだろう、痛そうに歪むシグムントの顔を前に、ルシアンはイザルへとくってかかった。
「貴様、婦女は丁重に扱え!」
「何言ってんだてめえ、先に見つけたのは俺だ」
「シグムントをもののように、っ」
「ま、待て、兄弟喧嘩はよくない!」
イザルは、ルシアンがなぜ苛立っているのかを理解した上で煽っていた。弟の恋心をさらったのが、イザルのコブであるシグムントという状況が愉快で仕方がなかったのだ。
シグムントの仲裁に、ルシアンは悔しそうに唇を引き結ぶ。しかし、イザルはいつだって人の言うことを聞かない。シグムントの制止も、悪巧みを思いついたイザルの前では無意味であった。
どう笑みを浮かべれば人を虜にできるか。を、きちんと理解した顔でイザルが笑みを浮かべる。イザルはシグムントの肩を抱き寄せると、まるで睦言を囁くかのように薄く尖り気味の耳に唇を寄せる。見せつけるような近い距離は、ルシアンへの揶揄いも含まれていた。
「な、なんだイザル」
「どうやらこいつはお前に惚れたらしい。シグムント、俺たちの目的のためにも、ルシアンは使える。お前、一芝居打ってくれないか」
「し、芝居など打ったことないが……俺にそれが出来るのだろうか……」
「大丈夫だ、お前は魔王で、男だということを伏せておけよ。いいか、ルシアンは城の遊撃部隊の隊長格だ。お前が王に謁見するためにも、ここは手篭めにしておいた方がいい」
「イザル、お前は悪魔か。しかし、払うべき犠牲、というわけか……。心苦しいが、目的達成の為ならやむおえぬ。俺もついに悪に染まる日が……」
真剣な顔をしてぶつくさと宣うシグムントを置いて、イザルはルシアンへと視線を向ける。
シグムントに恋心を抱いているのなら、ルシアンを手駒にして仕舞えばいい。城とは関わりたくはないが、逃げおおせるためには内部情報だって知る必要がある。だからイザルはシグムントに協力を要請した。
頼りなく、諸々の全てがおぼつかない貧弱魔族だとしても、顔面の出来だけは評価できる。同じ審美眼を持っていることだけは癪であったが、ルシアンがシグムントに惚れている以上有利なのはイザルだ。
役作りを入念に行なっていたらしい。シグムントが意を決したようにルシアンへと視線を向ける。イザルがニヤつきそうになる口元を叱咤しようとした瞬間、シグムントは胸を張って宣った。
「ルシアン。私はシグムント、見ての通り魔族である」
「ばかやろ、それはいうなって言ったろうが‼︎」
「ひゃぃんっ!」
大きな爆弾を落としたシグムントに、思わずイザルは声を荒げた。元魔王で男だと言うことを伏せておけと言ったが、馬鹿正直を発動しろとは一言も言っていない。シグムントの頭を勢いよく頭を叩けば、情けない声をあげてしゃがみ込む。
「やはり魔族か。なんとなくそんな気がしていた」
しかし、ルシアンは思いの外素直に受け止めているようだった。
魔族や魔物に対して強い偏見を持つ。この国の住民とは思えない弟の態度に、口には出さずとも頭の心配をしてしまったイザルである。
嫌な予感がする。イザルの表情が、わずかに歪められた。
予想が外れると、大抵物事の運びが悪くなる。黙りこくったルシアンを前に感じるのはまさしくそれだ。イザルはシグムントに熱い視線を向けるルシアンを、注意深く窺った。
「俺は……魔物討伐の遊撃部隊をしている。本来であれば、君は俺の討伐対象ということだな」
「ああ、イザルからは話を聞いている。……すまない、魔族である俺を助けたとわかれば、ルシアンは罰せられてしまうのではないか」
「俺……?」
「シグムントは、今流行りの俺っ子なんだ。気にするな」
「市井では聞き慣れんが……魔界では婦女も俺を使うのか?」
自分のことを俺と言ったシグムントに、イザルが慌てて訂正を入れる。ルシアンの半信半疑な様子に余計な冷や汗をかくハメになった。隣ではシグムントが青い顔をして口元を両手で押さえている。細められたルシアンの目に、シグムントもまたバレやしないかと妙な緊張を強いられるハメになった。
しかし、二人の緊張は杞憂に終わった。目元に切なさを宿したルシアンが、図らずともイザルの都合のいい方へと勘違いしてくれたのだ。
「……深くは詮索しない。おそらく君は、俺と呼ばざるをえない環境に身をやつしてきたのだろう。それに、君は魔族のくせに会話ができる。実は半魔とか何かか」
「違うぞ、俺はしょうしんしょうめ」
「シ、グ、ム、ン、ト! は魔界から亡命してきたんだよ! こんな性格だから弱っちいし、攻撃魔法もできねえってんで、なあ⁉︎」
「い、イザル、く、苦しい……」
無自覚の余計な一言は、イザルがシグムントの首に腕を回すようにして引き留める。白い手が抗議をするように腕を叩くが、イザルからしてみればいい加減学習しろの一言に尽きる。無言の圧力を拳に乗せると、シグムントの折れた角の根本へとぐりぐりと拳を押し付ける。
「貴様が魔界で出会って、保護したと言うことか」
「違う、ここまでひと」
「魔王城の地下で繋がれていたところを俺が助けたんだよ。文句あるかコラ」
「頑張ってここまできっ」
「なるほど、そこで亡命の話に繋がると言うわけか」
ことごとくイザルによって事実が書き換えられていく。シグムントとしては、一人で大変な思いをしながら頑張ってこの国に訪れたこと。それを、褒めてもらえるチャンスかと思っていたのにだ。
これは不当な扱いだと抗議をしようとすれば、イザルに口を塞がれた。ついむすりとしてイザルの手のひらの内側に歯を立てるべく口を開ければ、べちんと頭を叩かれて終わった。痛い。
「ルシアン、敵意のねえ魔族をお前は殺すのか」
「……言っておくが、魔族よりも俺はお前の方が嫌いだからな」
「いや俺人間だし。比較するんじゃねえ、そんなのわかってるわ」
人間、同じ血を分けたもの同士。瓜二つでもここまで嫌いあえるものなのだなと、シグムントは痛む頭を抱えながら思った。
とはいえ、本来ならばシグムントの命はルシアンの鏃の先なのだ。まさか、己へと恋心を抱かれているなどつゆほども知らない。イザルによって利用されてることすら自覚のないままであった。
頭上では、随分と治安の悪い笑みを浮かべているイザルの姿があった。ルシアンから惜しみなく注がれる殺意の込められた視線もどこふく風だ。二人の間には、色味の違う火花が散っているように思えた。
「シグムント、こいつは今、お前によく見られたくて俺と魔物を引き合いに出したんだぜ。要するに、俺よりも魔族のお前の方がよほど好ましいって言ってるんだ。クソ回りくどいやつだろう」
「俺はお前のそういうところが心の底から好きになれない」
どうしよう。シグムントは、静かに焦った。二人の間で会話が成り立っているが、シグムントは基本的に頭の出来が良くなかった。だからこそ、イザルがルシアンへと放った言葉の意味がちっとも理解できなかったし、ルシアンがイザルへと苛立ちを向ける理由も皆目見当がつかなかった。
どうにかせねばならない。少しでも二人の会話を理解していると思われなくては、年長者として立つ瀬がない。
シグムントはイザルの腕の中から何とか抜け出すと、おぼつかない足取りでルシアンへと歩み寄る。戸惑った表情で見つめてくるルシアンを前に、俺も実は戸惑っていますとは言えるはずがない。シグムントはルシアンの腕にそっと触れると、真っ直ぐに黒い瞳を見つめ返した。きっと二人は魔族としての己の立場について話しているに違いない。シグムントは、一先ずそう思うことにした。
「……ルシアン、太陽の国が俺たち魔族や魔物に対してどのような感情を抱いているのかは重々承知している。そして、俺がこうしてルシアンの助けを乞うことを、受け入れて貰えぬだろうことも」
「……この国に来た以上は、国王の定めた決まり事はみな平等の常識だ。シグムント、力にはなりたいが……君が魔族である以上俺は国を裏切ることはできない」
ルシアンの瞳の中には、小柄なシグムントが怯えを堪えているように見えた。華奢な体、色素の薄い容姿は神話から抜け出たように美しい。人を魅了するという点では、魔族であることは疑いようもないだろう。体の奥に宿る仄かな熱を自覚した無骨な指先が、シグムントの滑らかな髪に触れる。そのまま頬を撫でるように、尖り気味の耳に髪を流した。
シグムントの柔らかな眼差しが、遠慮がちに伏せられる。慎ましげな様子が、ルシアンの中の雄を静かに刺激する。
「ルシアン、いいんだ……これは、……わかっていたことだから」
本当は、何の話で兄弟二人盛り上がっていたのかは分かってはいない。けれど、シグムントはあえて分かっていたと口にした。単純に、仲間外れにはされたくなかったのである。
後ろめたさを誤魔化すように俯く様子が、ルシアンには効果覿面であった。シグムントの背後では、イザルが欠伸を噛み殺していた。
「シグムント……」
切なさの入り混じるルシアンの声に、シグムントの良心はわずかに傷んだ。
しかし、この展開はイザルにとっては好都合である。ルシアンは職務を忘れて惹かれているのだろう、メロドラマじみた恋の駆け引きを間近で見ることになるとは思いもよらなかったが、それでもこれから先の逃亡生活を鑑みればこの展開は上々である。
イザルは口元に笑みを浮かべた。それこそ、元魔王よりも魔王らしい狡賢さを滲ませたのだ。イザルの手が、シグムントの薄い腰を引き寄せる。戸惑い振り向いた細い顎に指先を滑らせると、イザルはシグムントの整った顔に頬を寄せた。
「だから言ったろ、シグムント。俺に出来ることが、こいつには出来ねえんだ。なんせルシアンには柔軟性がないからなあ……」
「……俺が、貴様よりも劣っているだと……?」
「おいおい、怖い顔すんなよ。まあ、俺にはてめえが初対面から成長がねえように見えるぜルシアン」
「貴様……」
ルシアンの瞳に、剣呑な光が再び宿る。間に挟まれたシグムントはというと、イザルの体温の近さに身を固くしていた。何より戸惑いもあるが、この場の重い空気に怯えてもいた。
人間の兄弟というのは優劣を決める為に、こんなに恐ろしい空気へと周りを巻き込むのかと、また一つ誤った学習をしたのだ。
「い、イザル、わっ!」
イザルの手が、シグムントの外套の隙間に侵入した。熱い手のひらが素肌に触れて、胸元へと移動する。指先が薄い胸の頂に触れた時、意思とは関係なく情けない声が漏れた。
「ひぅ、っん!」
「わかったら、俺たちの行く末を詮索するんじゃねえ。こいつは俺が拾った。だから俺のもんだ。なんでテメェが此処に来たのかは知らねえが、俺ぁ今一般市民って立場だぜルシアン」
「シグムント……っ‼︎」
「わかったら帰んな。それとも、最後まで見ていくかい」
イザルの手を拒まずに受け入れる。そんなシグムントの姿に、ルシアンは目を見開いた。イザルは、いつもルシアンの欲しいものを手に入れる。そのくせ酷く己の境遇を憂うのだ。しかし、シグムントにおいてはイザルが執着を見せていることに驚きもした。
ルシアンは国に縛られている。イザルのように、上手に国の縛りから抜け出すには理由だって必要だ。無断で隊から抜けるようなことをすれば、反逆者扱いを受けかねない。
ルシアンの拳がキツく握りしめられる。ままならない立場からくる恨みを、握り潰すかのように。
「……好きにしろ。だが、俺も好きにさせてもらう」
「ほう、そりゃあまた意味深なこって」
酷く嫌味ったらしく笑みを浮かべる。そんなイザルの弱みを握るとしたら、魔界から連れてきた女を飼っている。と言うことだろうか。
シグムントは魔王城の地下で折檻を受けていたと聞いている。不思議な髪飾りだと思ってたものは角であり、もう片方はてひどい拷問で折られてしまったのだろう。華奢な体で耐えてきた痛みの数々を想像するだけで、ルシアンは腹の奥で何かが煮えたぎるのを感じていた。
涙を滲ませるシグムントの瞳には、ルシアンが映っていた。諦めが悪いことだけは、イザルに似ているのかも知れない。そんなことを指摘すれば、たちまちルシアンは逆上するだろうが。
それでも、シグムントの涙を網膜に焼き付けるかのように見つめるルシアンの腹は、すでに決まっているように見えた。
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俺のことを憎んで、俺に冷たく当たっても俺は貴方を信じたい。
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義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。
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生意気な弟がいきなりキャラを変えてきて困っています!
あああ
BL
おれはには双子の弟がいる。
かわいいかわいい弟…だが、中学になると不良になってしまった。まぁ、それはいい。(泣き)
けれど…
高校になると───もっとキャラが変わってしまった。それは───
「もう、お兄ちゃん何してるの?死んじゃえ☆」
ブリッコキャラだった!!どういうこと!?
弟「──────ほんと、兄貴は可愛いよな。
───────誰にも渡さねぇ。」
弟×兄、弟がヤンデレの物語です。
この作品はpixivにも記載されています。
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真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~
シキ
BL
全寮制学園モノBL。
倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。
倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……?
真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。
一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。
こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。
今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。
当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。
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主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
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婚約破棄された冷血小公爵はライバルの最狂ヤンデレ騎士にらちかんされました
ひよこ麺
BL
「『姫』であるマリーノ・ゴールド伯爵令息より拒絶され婚約破棄となったため、フレデリック・コルヌイエ・リシュリュー小公爵より、『騎士』の資格を剥奪する」
その言葉を皇帝陛下から言い渡されたフレデリック・コルヌイエ・リシュリュー小公爵は絶望した。男しかいないこの世界では『姫』と『騎士』と呼ばれるふたつの役割により生殖をおこなう。
『姫』とは美しい花のような存在で『騎士』から愛され守られる存在で、『騎士』とは『姫』に忠義を捧げて守り愛し抜く存在であるとされている。
『騎士』は自らが愛する『姫』を選び、『騎士』に選ばれることで『姫』となる。『騎士』は『姫』に選ばれなかった者がなり、愛と忠義を捧げる『姫』を求める存在となる。
全ては愛される『姫』が優位な世界。
その世界で、一度忠義を捧げた『姫』から拒絶された『騎士』は『落伍騎士』とされ以降『姫』への求婚を禁じられる。
自身が『姫』となる以外では、事実上、独り身で生きることが確定する。
一般市民であればそれでも構わないが公爵家の嫡男であるフレデリックにとってそれは最大の瑕疵となり、家を繋ぐことができない以上は家督も継げないため家からも追い出されることを意味していた。
プライドの高いフレデリックは絶望からその場にへたりこんでいた。周囲で嘲り笑う声が響く中、ある男がフレデリックの側に進み出た。
それはずっとフレデリックをなぜかライバル視してきた辺境伯にして現在帝国最高の騎士と誉高いマティアス・ベラドンナ・バーデンだった。
「……辺境伯卿、私に何か御用ですかな」
「もう、そのように無理をしないでください。美しい姫君にこの冷たく汚れた床は似合わない」
何故かお姫様抱っこでマティアスに持ち上げられたフレデリックにさらに信じがたい言葉が聞こえる。
「では……皇帝陛下の甥であり《《麗しい青薔薇の姫君》》である、フレデリック・コルヌイエ・リシュリュー小公爵との婚姻を認めて頂きたい」
初恋拗らせヤンデレ騎士に連れ去られてらちかんされたフレデリックの運命はいかに!?
※が付くところは背後注意な性的な表現があります。
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俺にとってはあなたが運命でした
ハル
BL
第2次性が浸透し、αを引き付ける発情期があるΩへの差別が医療の発達により緩和され始めた社会
βの少し人付き合いが苦手で友人がいないだけの平凡な大学生、浅野瑞穂
彼は一人暮らしをしていたが、コンビニ生活を母に知られ実家に戻される。
その隣に引っ越してきたαΩ夫夫、嵯峨彰彦と菜桜、αの子供、理人と香菜と出会い、彼らと交流を深める。
それと同時に、彼ら家族が頼りにする彰彦の幼馴染で同僚である遠月晴哉とも親睦を深め、やがて2人は惹かれ合う。
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