こっち向いて、運命。-半神騎士と猪突猛進男子が幸せになるまでのお話-

だいきち

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「行きゃあいいじゃん。」
「…火に油を注ぐことになるだろ。」
「え、なんで。」

 え?なんで?その場にいた全員が、エルマーの言葉の意味がわからなくて、思わず怪訝そうな顔をした。
 あのあと、シスによって一室設けられたのは、兵舎の中の会議室だ。幸い、土属性持ちが数人がかりで強化魔法をかけてくれたおかげで、風穴は空いたものの崩れずに立っている。
 一室設けた場所が壊れかけの兵舎だ。エルマーとサディン、そして麗しのナナシが中にはいると聞いて、我も我もと普段以上のやる気を見せて、あれよあれよと言ううちに行った。
 サディンからしてみたら、下心しかねえなあという感想であったが、その中にエルマーのかくれんぼ演習を少しでも軽いものにしてもらいたいというのも混ざっているとは理解していない。

 閑話休題、エルマーの発言である。

「だってよ、なんで自分のメス連れ戻すのに遠慮なんかすんだあ。年の差?なにしょっぺえこといってんの。俺なんか生まれ直ししたナナシを抱いて孕ませたぜ?身体も心も未成年、精神年齢なんて5歳くらいの。なあ?」
「エルマー、とても男らしい。ナナシは全部エルマーがハジメテ…、て、ちがう!今はそういうこと違うですね、もお!」
「なあ、そろそろ三人目作ろうぜ。ウィルも独り立ちしそうだしさあ。」
「二人ともマジで何しに来た。」

 サディンとシスの目の前で堂々と口説かないでほしい。エルマーは終始ご機嫌で、まるで輩のように不遜な態度でソファーに大股開きで腰掛けたと思うと。これが定位置と言わんばかりに足の間にナナシが腰掛ける。家でもこれなのでサディンは慣れてるが、シスは瞼の可動領域を駆使してこれでもかと言うほど目をかっぴろげていた。

「サディン、エルマーさんってこんなでれるの。」
「でれるもなにも、日常生活だな。」
「おっぱじめそうなんですけど。」
「おっぱじめてねえだけまし。」

 ナナシのお耳をはぐはぐと甘噛みしたり、べろべろと獣のように毛づくろいをする鬼教官は、ナナシの体を抱きしめたまま金色の目でサディンを見る。

「お前の番だろう、騎士団がどうのとか、年の差がうんぬんとか、そんな頭かってぇことでうだってんじゃねえ。あとからダラスがブチ切れて特急魔法繰り出してきやがっても、ナナシが防いでくれる。お前はさっさとメス囲って腹に教えこみゃいい。」
「親の発言とは思えないんだけど!?」

 エルマーの言葉に、サディンは頭を抱えた。そりゃあ確かに本能のままに行ければ楽だろう。だけど、ダラスの気持ちもわかるのだ。だからこそ友人に申し訳ないという気持ちも抱きながら、サディンはどうやって許しを得るかをまず考えなくてはならない。事件の事もあるのに、考えることが多すぎる。疲れたような顔をするサディンに、ナナシは言った。

「サディン、ぷ、ぷ、ぷら…むん…」
「プライベート。」
「ぷ、ぷらいべーとと仕事は分けるする。いっぺんに考えると、あたまパーンする。えるを見て、いまえるはぷらいべーと。」
「要は好きなやつと仕事は別個で考えろっていってんだ。お前は全部まとめてやろうとすっから悩むんだよ。効率重視はできる範囲でやれ。」

 ナナシの言葉を正しく伝えると、エルマーはにやりとヴィランのような顔で微笑む。まるで息子に対するアドバイスと言う前提を抜かせば、完全に悪魔の囁きだ。

「てめえのメスだろう。欲しいもんは欲しいでなにがわりいんだ。泥臭くいけ、後のことは後で考えろ。」
「サディンの教育方針雑すぎん?」
「うちは個人を尊重してンだあ。」
「聞こえだけは良すぎる…!」

 シスのツッコミがもはや追いつかない。ナナシはぴるぴるとお耳を動かして擽ったそうにしながら、エルマーの唇から逃げる。ソファの脇に置いておいたポシェット型のインベントリからよいしょっと首掛け看板のようなものを取り出すと、サディンはいよいよ渋い顔をした。

「サディン、おしおき。」
「いや、母さんそれはちょっと…」
「サディンには、とてもよいくすり。自然にミハエルにも会えるする。これはいっぱい良いことですね。」

 にこにことご機嫌に尾を振るナナシが、サディンが一番恥ずかしいと思っている事をしろという。エルマーもどうやら乗り気らしく、久しぶりだなあなどと言って、楽しげに首輪とリードもだす。シスはあられもない姿のサディンを想像したらしい、引いた顔をして隣りに座っていたはずの腰を浮かして少し離れた。





 エルマー達がサディンに対して、誠意の見せ方とはなんたるかという話をしているその頃、ジキルは静かな石造りの室内で、シスを刺した男娼と向かい合っていた。

「めそめそ泣いてたってなんも変わんねえって。お前の罪はうちの団員を傷つけた傷害罪だけど、まあある意味それ以外は被害者みてえなものだろ。いい加減口を開いてくれよマリー。」


 サディンが丸投げするせいで、ジキルもカルマも取り調べ紛いのことをすることとなった。あのマイアとかいうバカな貴族は、館の主とともに縛り上げられて、すべて吐き出すまでは人としての尊厳を奪うらしい。全く恐ろしいことである。担当がカルマだからかもしれないが、まあサディンが尋問したところで壊れるだけだから、妥当といえば妥当である。

「なあ、何ビビってんの。口割らねえ理由でもあるのか?」
「っ…、と、トイレ…」
「お前、そう言って逃げ出そうとしただろう。だめだ。そこでやれ。」

 ジキルは、騎士団の地下にある牢の中。つめたい冷たい石造りの室内で、手錠と首輪をつけられた男娼を見下ろす。木のベンチに腰掛け、足を組んでその鎖を握ったまま、細い足を震わして泣いているマリーに、面倒くさそうな顔をする。

「なあ、お前は何を知っている。お前だって尊厳は奪われたくないだろう。俺は優しく聞いてるんだけどなあ。」
「っ、…ぼ、ぼく…は、っ…」

 赤眼はとろりとした熱に浮かされている。人狼としての雄を前にした本能が出てしまったらしい。加虐心を煽る見た目もそうだが、ちょっと突いただけで骨だって折れそうな儚い見た目だ。ジキルはただ拘束だけして、自分から話すのを大人しく待っていた。だけど、その張り詰めた状態が良くなかったらしい。上位の雄に服従をしたがる本能だ、マリーはジキルと自分の立ち位置に本能を刺激されたらしい。

「ああ、もうこの状態になったら、どうしょうもねえものなあ。」
「う、っ」

 ちゃり、という音がした。ジキルがリードのように握りしめていた鎖を強く引き、マリーの細い体を引き寄せたのだ。

「雌、服従をしろ。お前の主はもういない。お前の本能に従って、俺に媚びろ。」
「ふあ、っ…」

 細い首を大きな手で掴む。苦しそうに声を漏らしたマリーが、ジキルのフェロモンに答えるかのように舌を出す。小さな水流の音が聞こえ、どうやら本当にトイレだったらしいことがわかった。ぴちゃぴちゃと静かな音を立てながら、うっとりとした顔で粗相をし、ジキルにヨシと言われるのを静かに待っている。
 その顎を掴み、無理やり唇を割らせる。マリーの差し出した舌に向けて、ジキルはマリーのボスになることを受け入れる証として、唾液を垂らして飲み込ませた。

「食わず嫌いはよくねえよな。」

 マリーの黒髪を掴み、顔を挙げさせる。首を掴んでいた手をゆっくりと下げ、薄い腹をぐっと押した。
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