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「サリエル…!!」
 
 黒炎が渦を巻くようにして二人の体から離れた。黒に金の蔦の紋様をその身に絡み付かせた男神は、嫌がるミハエルをその腕で抱いたまま自室まで転移すると、やれ仕方がないと言わんばかりにその身を離した。
 
「ミハエルは怖いなあ。なぜそんなに怒る?あの息苦しい場所からお前を助けてあげたのに。」
「あんな、まるで言い逃げみたいに!」
「息子様の否定でまた嫌な思いしたかった?あいつはお前の気持ちなんぞ涙一滴分すら理解ってないぞ。俺は俺の可愛い愛し子にこれ以上悲しい思いをしてほしくはなかったのですよ。」
 
 調子のいいことを言いながら、サリエルは憤慨するミハエルの腕を掴む。サディンがつけた火傷の後にべろりと舌を這わせると、小さく息を詰めたミハエルの腕を引いて、ガブリと鼻の頭に噛み付いた。
 
「いっ…!」
「ほら、鈍臭い。お前はばかで間抜けで、愚図でのろま。頭でっかちでツラしか誉められぬ愚か者だが、俺はお前を愛しているぞ。ミハエル。」

 鼻を押さえたミハエルを、サリエルが正面から抱き込む。子供がお気に入りのぬいぐるみを抱きしめるかのようなそれは、ミハエルにとっては苦しいほどの力の強さだった。
 
「はな、離しなさい!」
「おやあ、お前は俺に命令できるほど偉いのか。うふふ、この腕がサディンだったらよかった?男を見る目もないとは恐れ入る。」
「ひ…!!」
 
 サリエルによって持ち上げられた体は、簡単に床から離れた。抱きしめたままふわりと浮かび上がったサリエルは、体から金の紋様を浮かび上がらせるとミハエルの身を絡め取る。
 
「この俺の紋様こそが執着の証。お前が容易く諦めようとするから、かわいそうに俺にの模様が薄くなってきた。酷い子ですねえミハエル。」
「い、意味がわかりません…!はなし、っうぁ、あ!?」
 
 サリエルはがじりと細い首筋に歯を立てる。犬歯がぎりぎりと食い込み、ミハエルの顔が一気に青褪めた。何か琴線に触れて怒らせてしまったのか。喉奥で笑うようにくつくつと楽しそうにしながら、サリエルはその大きな掌でゆっくりとミハエルの尻を揉む。まるで、自分がされていることをわからせるようにゆっくりと肉を手で寄せるように揉みながら、食い込んだ犬歯に伝う、甘やかな血の味を舌で楽しむ。
 
「ゃ、やだぁ…っ…あっちいって…っ、」
「お前は程々でいい。だっけか。うふふ、」
「え、…?」
 
 ジュル、と啜るように吸い付くと、片手で素肌に這わされる。服に侵入した真っ黒な手が背筋を撫でると、サリエルは馬鹿にするようにサディンの言葉を口にする。べろりとひと舐めをして止血すると、口元をミハエルの血で濡らしたサリエルが不遜な態度で見つめてきた。
 
「お前の決意を否定するな。と言う割にはあまりにもうぶがすぎる。お前はやっぱり温室育ちですねえ。」
 
 サリエルの一言は、ミハエルの心を揺らがせるには十分だった。自分からやると言った癖に、経験値が少なすぎている。こんなことでは潜入に成功したとしても、シスやサディンの足を引っ張ることになってしまう。
 
「お前の決意は口八丁かあ、うふふ、いいぞ。俺はそれでも構わない。ここぞと言うときに怖気ずいて逃げ出しても、所詮あなたは素人だから、仕方ないで終わるもの。」
 
 だが、あいつらはどうだろうなあ。サリエルが甘く囁く。黒い手がミハエルの衣服を魔法のように燃やしてしまった。晒された素肌を撫でるように手が這うと、怯えるミハエルの額に己の額を重ねた。
 
「お前の言う決意とは、随分と薄っぺらい責任感のことを言うのだなあ。」
「僕は、っ…サディン以外に、…」
「押し付けがましい好意こそ執着だ。うふふ、醜い想いと言うのは大変に美しいものですね。挽回はしたくはないのですか。」
 
 細い腰を鷲掴むサリエルは、引き寄せるようにして己の下肢を押し付ける。紋で縛り上げたミハエルを簡単にベットへと押しつけると、その体を意図も容易く己に背を向けさせるようにと裏返した。
 
「男娼とはね、尻で男を喜ばせるのは知っているだろう。」
「やだ、いやだサリエル…!」
「安心おし、お前は息子様のために変わるんだよ。俺はその手伝いをするだけ。」
「い、入れないで…僕を抱かないでサリエル!」
「いいよ、その代わりに上手に男を喜ばせなさい。」
 
 覆い被さるサリエルが、ミハエルの頸に噛み付く。鋭い痛みに涙を滲ませながら、悲鳴を上げないように慌てて口を塞いだ。薄い腹に黒い手が這わされる。中指と人差しびの合間に挟むかのようにしてミハエルの性器に触れると、サリエルはミハエルの手を後ろ手に引き寄せて己のそこに触れさせた。
 
「いやだ…っ!」
「入れたくないなら、手と口を使いなさい。あーあ。俺はこの柔らかな尻に埋まりたいのに。ミハエルは意地悪だ。」

 楽しそうにそう呟く。ミハエルが無理やり握らされたサリエルのそこは、酷く熱い。頭ではわかっている。後ろを使いたくないなら、別の方法で満足させなくてはいけないことを。
 
「俺がしてあげるみたいに、手を動かしなさいな。男を誘うように、お前は淫に乱れなさい。」
「ひぅ、ん…っんンっ…」
 
 震える手がゆっくりとサリエルのそれを握り返した。怖い、少しだけ柔らかい棘のようなものがある。ミハエルは訳がわからないまま、ゆるゆると摩擦する。サリエルが足を担いで仰向けにさせると、離れた手とサリエルの手が先走りで繋がった。
 
「下手くそだなあ、自分で扱かないのですか。俺がお手本を見せてやるから、お前は黙って見ておけよ。」
「へ、あっ…!」
 
 呆れた顔をしたかと思うと、サリエルの腰がミハエルの目の前に突き出される。目の前に大きな人外の性器を見せつけられながら、胸元に腰を下ろされたせいで少々苦しい。
 
「ン、うふふ…は、ぁ…ほら、ごらん…っ」
「ひゃ、サリエル…っ」
「っぁー…、気、持ちいこと…大、好き…あは、」
 
 歪んだ笑みを浮かべると、自身の裏筋をなぞるかのようにしてサリエルが性器に触れる。筒状にした手の中に通すように擦りながら、片方の手はゆっくりと袋を揉む。にゅち、と絞るように先端を握るように擦るせいで、トロトロと溢れる先走りが、先ほどからポタポタとミハエルの胸元を汚すのだ。
 
「や、み、見せないで…だ、だめ…」
「ほら、足を開きな。っンん…、ミハエルも、やるんだよ、うふふ、っ…」
「僕、も…?」
 
 任務、きちんとやるのでしょう。サリエルの言葉に、ミハエルがおずおずと頷いた。一人でするわけではない。いくら恥ずかしかろうと、サリエルがこうして自慰のお手本を見せてくるのだ。ミハエルは、まるで誘われるようにゆっくりと足を開く。
 
「っ、ひぅ…、」
「わは、…っそうそう、」
 
 頑張らなくては、足手まといにはなりたくない。ミハエルが恥ずかしい思いをするだけでこの任務がうまくいくのなら、それでいいのだから。
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