上 下
42 / 151

41

しおりを挟む
 なんだろう、ミハエルはまるでふわりとした膜に己が身を投じたかのような不思議な感覚を体で感じた。全身の神経が鋭敏に研ぎ澄まされる。ぴくんと瞼が震え、股で挟んだジキルの腰の太さと、そしてガッシリとした男らしい身体つきが輪郭を帯びる。あ、自分は今からこの人とそういう事をするのだと自覚した。
 插入は伴わない。理解している。涙目で顔を背けるように壁を薄めで見やると、ジキルが耳元に唇を寄せる。

「先生、しっかりと煽れ。男娼は半魔しか雇われねえ。人間のふりした淫魔のつもりでやってみな。」
「は、ぁあっ、…そ、んな、っ…」

 ぐっと腰を押し付けられる。半魔は見た目じゃわからない、だからこそこういう欲を伴う行為で本能に素直になるという。ミハエルは羽も尾も顕現させることはできない。ならば恥ずかしがってはいられないのだ。

「ぁ、や、っ…ね、…お、おしぇ、て…僕に、どうしたら、いいか…っ…」
「…あんたはただ、目ぇ瞑ってりゃいい。」
「でも、っ…」
「ああクソ、ひどい仕事だぜ全く…」
「ひぁ、っ…!」

 がじりと首筋に歯をたてられ、その胸元に大きな手が這わされた。熱い猛りがしっかりと股座に押し付けられながら揺さぶられる。ミハエルの性器も、布越しに摩擦されるように何度も擦り上げられるものだから、ジキルは自分の合わせた下肢でミハエルが反応しているのがわかると、ぐるると喉を鳴らす。
 
「や、だ。だめぇ…っ!で、でちゃ、や、やぁ、あっあっ!」
「そのほうが、信憑性あるだろう…!」
「ゃだ、ぁっか、かた、ひぅ、うっ!ふぇ、えっ…!」

 恥ずかしい、羞恥で死んでしまうかもしれない。ジキルの首にすがりついていたミハエルが、突然びくんと体を大きくはねさせた。

「先生?」
「さ、さりぇ、や、やめて…ひぁ、あっ!」
「あ!?」

 腰回りに違和感を感じ、ジキルが下肢を覗き込む。ミハエルの足がしっかりと開かされたまま、半透明な黒い手がミハエルの性器をしっかひと握りしめていた。布を押し付けるようにしてその立ち上がった形を露骨に示し、先端は先走りで濡らしたせいで薄く肌色を見せる。
 サリエルってなんだ。ジキルはわけのわからないまま、目の前で謎の手に善がらされているミハエルの痴態に思わず怪訝そうな顔をしてしまった。ちゅくちゅくと音を立てながら筒上にした手が布越しに擦り上げる。柔らかな尻肉に挟まれた薄絹にごくんと生唾を飲むと、訳はわからないが、どうやら協力してくれるようだと解釈する。

「そのまま、そうやって感じてな。そっちのが都合が良さそうだ。」
「ゃ、と、とめ、とめてぇっ!」
「それは無理だわ。」

 泣きながら縋り付かれるのは、なんというかクるものがある。ジキルはそのまま首筋に愛撫をくわえながらゆさゆさと揺らしてやると、か細い悲鳴を上げながらプチュンという小さな水音を立てる。緊張からか強張っていた体がずるんとベッドに投げ出される。ジキルの目の前に晒されたのは、布に肌の色を透けさせたミハエルの下肢と、布の合間を縫うように素肌に伝う白濁だ。
 視覚的に、ちょっと。いや、かなりアレだ。ジキルは犬歯が疼く感覚に苛まれながら、少しだけ伸びた爪を誤魔化すようにして手を握り込む。この薄い腹に突き立ててやりたいが、まだ己の愚息には活躍してもらいたい。

「こういうのがまじもんの据え膳っつーのかなあ。」
「はぁ、あ…も、ゃだ…」
「あーーー、全くいい仕事しやがるぜ。」
「も、い、ぅっ、い、イった、からぁ、あっ!」
「あ!?」

 鋭い快感に悲鳴交じりの甘い声が高々と上がった。達したミハエルを追い詰めるような行為はしていない。ジキルはぎょっとしてその身体を見下ろすと、まるで濡れた先端を摩擦するかのように悪戯に擦り上げられていた。同じ男として辛い事を強いる謎の手を嗜めるにも、どうしたらいいかわからない。顔を真っ赤にしながら身を悶えさせ、シーツを乱すミハエルをもっと見ていたかったというのもあるが。

「ゃ、ぁで、でちゃっ、ひぅ、うっ!」
「でちゃう!?」
「ゃだ、あっ!やだぁあっ、も、やめ、っぅあ、あぁっン!」

 なにが!?と思わず鼻を抑えたのは、ジキルの興奮が如実に現れそうになったからである。散々刺激していた黒い手によって、一際強く擦り上げられたミハエルは、その蕩けそうな美しい緑の瞳から大粒の涙を零したかと思うと、まるで引き寄せるかのようにジキルを抱き寄せたかと思うと、ちいさく声を漏らした。

「ご、ぇ…ぁさ、っ…」
「へ、」

 子猫の泣くような声でちいさく囁かれた謝罪のあと、腰にミハエルの細い脚が絡まった。
 ちいさく腰を震わしたミハエルを抱きしめながら、ジキルはの謝罪の意味をようやく理解した。
 じわりと暖かな何がが、重ねた股座に徐々にしみ込んでいく。快感に極まってしまったミハエルがしてしまった粗相が、ゆっくりと腰回りに広がっていく。肩口に顔を埋めさせたまま、ひっくと声を震わして本格的に泣き始めたミハエルの小さな頭を撫でながら、これはこれでご褒美何じゃねえかなぁとそんなことを思った。





「別にジキルなんだから気にしないって、そんな泣くことないよー。」
「気にしゃあしねえけどよ、それをお前が言うのか。」

 あれからしばらくして、ジキルはインベントリから替えの下着とボトムを出して着替えたあと、毛布に包んだミハエルを抱きかかえながらバルを後にした。粗相の後始末はきっと慣れているだろうとふんでそのままにしてきた。防水シートも敷かれていたので、吸水だけはしておいたが。

「まじびびったよ、戻ってきたかと思ったら子犬ちゃん泣いてんだもん。てか着替え貸してやりゃ良かったじゃん?」
「俺の服着れるわけなくね?ウエストガバガバだぞ。」
「あー、なるほど。」

 シスによって事情を聞いて丸洗いされたミハエルは、今だ鼻の頭を真っ赤にしたままぐしぐしと泣いている。空き家のベッドの上、獣に転化したサリエルがご機嫌そうにミハエルの背もたれになりながら、優雅に組んだ前足の上に顎を載せながら、本日の相手をしたジキルを見上げる。

「実に良い仕事をしたでしょう。お前、この俺を信仰しろ。」
「うるっせえドラ猫!!お前がやりすぎたから泣かせちまっただろうが!」
「言葉遣いがよくないですね。焼き殺そうかミハエル。」
「っ、サリエルのばか、暫くお話したくない…っ…」
「そりゃあないぜミハエル、早くごきげん戻して、俺をほめてくれよ。」

 まるでご機嫌とりのように上目でミハエルを見上げるが、獅子の上目は怖いだけである。ジキルは顔を引き攣らせると、背後の扉がガチャリと開いた。
 現れたのは、真顔で静かにキレているサディンと、酷く疲れたような顔をしているカルマであった。


しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼第2章2025年1月18日より投稿予定 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完結】もふもふ獣人転生

  *  
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。 ちっちゃなもふもふ獣人と、攻略対象の凛々しい少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。 本編完結しました! おまけをちょこちょこ更新しています。 第12回BL大賞、奨励賞をいただきました、読んでくださった方、応援してくださった方、投票してくださった方のおかげです、ほんとうにありがとうございました!

処理中です...