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「ミハエルに服従魔法?」
あの後、庭先で訓練という名目の、もはや体罰と言っても過言ではないお仕置きをされたジキルとカルマが漸く出した本題に、エルマーはじゃがいもを口に運ぼうとしていた手を止めた。
「そー、先生んとこにたまたま俺らがいたから解けたけど、前に一回かけてるっぽい。二重がけにして発動するやつ。」
「うんま。なにこれ、なにはいってんのこれ」
エルマーが作った、ただ鍋に打ち込んだだけの料理という一品は、隠し味にバターが入っているらしい。とろとろの玉ねぎにウインナーが実に合う。
カルマは口を動かしながら、説明を全部自分に任せるジキルの頭をひったたくと、芋のかけらが鼻に入ったらしい、盛大に噎せていた。
「服従魔法の二重がけ…なにそれすごい面倒くさいことするんだね。」
「物品に触れたらかかるようになってた。まあ呪いみたいなかんじだったなあ。」
ウィルが顔を顰める。ミハエルとは仲が良いし、家族ぐるみの付き合いだ。あのおっとりとした青年が人の悪意に気づかないのは今に始まったことではないが、それにしても悪戯では済まされない。
「あのさ、それで茶髪にジキルと同じ位の背丈の騎士、エルマーさんとこにいない?」
「ざっくりすぎるだろぉ。まあ名前も言われてもわかんねえけど。」
「あんたもざっくりすぎるなぁ!」
「拗らせた恋心ってやつじゃねえの?」
「だとしたら騎士の風上にも置けねーだろ。それにもしあんたんとこの騎士なら、監督不行き届きでボスにつっつかれるぜ。」
面倒くさそうな顔をしたエルマーが、ジキルの一言にピクリと反応する。ナナシもウィルも、うちでジルバのワードはNGだと言うのをすっかり忘れていた。
「ボスボスってよぉ、猿山の大将気取りかってんだバカヤロー」
「おいカルマ、こいつ俺らのこと猿って言ったぞ。」
「大体何が蜘蛛の巣だああ!!節足野郎はてめえだけだろうがぁ!」
「あー、そこ付いちゃったかぁ…」
喚くエルマーを、ウィルが嗜める。握りしめていたパンはギンイロがしっかりと口に加えて胃袋に避難させていた。
「もしそんなバカ野郎がサディンの騎士団にいたんならとっちめてやる。主に私情で。」
「私情とかいっちゃうあたり全然かっこよくねぇ。」
でもそっちも大切だけど事件もあるじゃんとカルマが続けると、ウィルが首を傾げた。しまった、言わないほうが良かったかもしれない。カルマはぺたりと口を抑えたが、時すでに遅し。エルマーの腕に手を添えたナナシが、金色のまあるいおめめで顔を逸らす旦那を見上げた。
「える、また危ないことするのう。」
「しませんけど!」
「ふうん、ナナシには言えないことするんだ。」
「し、ませんけど…」
珍しい、あの不遜で暴虐無人でサドを地で行くようなエルマーさんが押し負けている。エルマーの肩に顎を載せ、腕に抱きついてじっと見つめてくる嫁に、エルマーの喉から変な声が漏れる。やめろ、やめなさいって。そんな心の声が聞こえてくるくらい、目の前の赤髪の美丈夫の顔色は悪くなる。
「父さん、任務で危ないことするときはおかーさんに言うっていったもんね。まさか内緒になんかしないもんね?」
「ウィルもこう言ってる、えるぅ?」
「しゅ、守秘義務!!」
「またナナシの知らない言葉言う!」
なんだ、俺たちは一体目の前で何を見せられているのだと思うくらいには、羨ましい光景であった。
エルマーは腕にしがみつかれるようにして、ふんすとむくれている嫁からの圧力に負けかけている。
そういえば、任務の内容で危険を帯びる場合は嫁に話していると言っていたか。
ウィルも唇を突き出してむくれたかと思うと、どうやら無駄だと感じたらしい。ちらりとジキルがウィルの瞳に捉えられた。嫌な予感がする。
「ジキルくん、ウィルに教えてくれたらいいことしてあげる。」
エルマー譲りの見事なハニトラは、どうやらウィルも受け継いでいたらしい。細い手指がそっと無骨な指に絡まった。親指で指の付け根を撫でるオプション付だ。ジキルはひくりと口端を引くつかせると、慌ててカルマを見た。
「どどどど、どうしよう!?!?」
「俺今蚊帳の外だから話ふっかけんの辞めてくんない。」
「うらぎりもっ、ひぇ…」
そっとウィルの手がジキルの頬に添えられたかと思うと、ぐいっと顔を引き戻された。ウィルの白磁の肌に、少し赤らんだ唇が目に毒だ。ゆっくりと頬を撫でられる。
「僕がジキルに話しかけてるんだけっ、いたい!」
「何やってんだやめろ。」
パコンといい音がしたと思うと、ジキルの頬からウィルの手が離れた。危うく口にするところだったと慌てて体を話して見上げれば、握り拳をつくったサディンがウィルの頭を叩いたのだろう。呆れたような目で見下ろしていた。
「サディン、おかえりなさい。」
「ただいま母さん、んで、なんでお前らがいるわけ。」
「お呼ばれしまして…」
エルマーにくっついたままぱたぱたと尾を振る母の頭をわしゃりと撫でると、頭を抑えて机に突っ伏すウィルを無視して二人を見る。か細い声が机から漏れているので、余程痛かったらしい。
「はあ…、まあなんだっていいけどさ…」
「父さんが任務隠すからサディンに叩かれたじゃーん!!」
「うわびっくりした。」
おでこを赤くしたウィルが、ガバリと起き上がる。ひしりとナナシに抱きついてむすくれる息子に、おやおやと慣れた手付きで治癒を施す。どうやらこのやりとりは日常茶飯事らしい、エルマーはしっぶい顔をしながらサディンを見ると、溜息で答えられた。
「父さん、言う決まりにしたのは自分なんだから、守らないと。」
「だってよぉ、言いづらくね?娼館だなんて。」
「言ってる言ってる、エルマーさんそれ言ったならあとも言えるって。」
嫁の大きなお耳が拾った娼館という言葉に、キョトンとしていた顔がみるみるうちにしょぼくれ始める。へニョンと耳を垂らして無言で落ち込むナナシに、ジキルもカルマもこの姿が見たくなかったのかと納得するくらいには、大人しく落ち込んでしまった。
あの後、庭先で訓練という名目の、もはや体罰と言っても過言ではないお仕置きをされたジキルとカルマが漸く出した本題に、エルマーはじゃがいもを口に運ぼうとしていた手を止めた。
「そー、先生んとこにたまたま俺らがいたから解けたけど、前に一回かけてるっぽい。二重がけにして発動するやつ。」
「うんま。なにこれ、なにはいってんのこれ」
エルマーが作った、ただ鍋に打ち込んだだけの料理という一品は、隠し味にバターが入っているらしい。とろとろの玉ねぎにウインナーが実に合う。
カルマは口を動かしながら、説明を全部自分に任せるジキルの頭をひったたくと、芋のかけらが鼻に入ったらしい、盛大に噎せていた。
「服従魔法の二重がけ…なにそれすごい面倒くさいことするんだね。」
「物品に触れたらかかるようになってた。まあ呪いみたいなかんじだったなあ。」
ウィルが顔を顰める。ミハエルとは仲が良いし、家族ぐるみの付き合いだ。あのおっとりとした青年が人の悪意に気づかないのは今に始まったことではないが、それにしても悪戯では済まされない。
「あのさ、それで茶髪にジキルと同じ位の背丈の騎士、エルマーさんとこにいない?」
「ざっくりすぎるだろぉ。まあ名前も言われてもわかんねえけど。」
「あんたもざっくりすぎるなぁ!」
「拗らせた恋心ってやつじゃねえの?」
「だとしたら騎士の風上にも置けねーだろ。それにもしあんたんとこの騎士なら、監督不行き届きでボスにつっつかれるぜ。」
面倒くさそうな顔をしたエルマーが、ジキルの一言にピクリと反応する。ナナシもウィルも、うちでジルバのワードはNGだと言うのをすっかり忘れていた。
「ボスボスってよぉ、猿山の大将気取りかってんだバカヤロー」
「おいカルマ、こいつ俺らのこと猿って言ったぞ。」
「大体何が蜘蛛の巣だああ!!節足野郎はてめえだけだろうがぁ!」
「あー、そこ付いちゃったかぁ…」
喚くエルマーを、ウィルが嗜める。握りしめていたパンはギンイロがしっかりと口に加えて胃袋に避難させていた。
「もしそんなバカ野郎がサディンの騎士団にいたんならとっちめてやる。主に私情で。」
「私情とかいっちゃうあたり全然かっこよくねぇ。」
でもそっちも大切だけど事件もあるじゃんとカルマが続けると、ウィルが首を傾げた。しまった、言わないほうが良かったかもしれない。カルマはぺたりと口を抑えたが、時すでに遅し。エルマーの腕に手を添えたナナシが、金色のまあるいおめめで顔を逸らす旦那を見上げた。
「える、また危ないことするのう。」
「しませんけど!」
「ふうん、ナナシには言えないことするんだ。」
「し、ませんけど…」
珍しい、あの不遜で暴虐無人でサドを地で行くようなエルマーさんが押し負けている。エルマーの肩に顎を載せ、腕に抱きついてじっと見つめてくる嫁に、エルマーの喉から変な声が漏れる。やめろ、やめなさいって。そんな心の声が聞こえてくるくらい、目の前の赤髪の美丈夫の顔色は悪くなる。
「父さん、任務で危ないことするときはおかーさんに言うっていったもんね。まさか内緒になんかしないもんね?」
「ウィルもこう言ってる、えるぅ?」
「しゅ、守秘義務!!」
「またナナシの知らない言葉言う!」
なんだ、俺たちは一体目の前で何を見せられているのだと思うくらいには、羨ましい光景であった。
エルマーは腕にしがみつかれるようにして、ふんすとむくれている嫁からの圧力に負けかけている。
そういえば、任務の内容で危険を帯びる場合は嫁に話していると言っていたか。
ウィルも唇を突き出してむくれたかと思うと、どうやら無駄だと感じたらしい。ちらりとジキルがウィルの瞳に捉えられた。嫌な予感がする。
「ジキルくん、ウィルに教えてくれたらいいことしてあげる。」
エルマー譲りの見事なハニトラは、どうやらウィルも受け継いでいたらしい。細い手指がそっと無骨な指に絡まった。親指で指の付け根を撫でるオプション付だ。ジキルはひくりと口端を引くつかせると、慌ててカルマを見た。
「どどどど、どうしよう!?!?」
「俺今蚊帳の外だから話ふっかけんの辞めてくんない。」
「うらぎりもっ、ひぇ…」
そっとウィルの手がジキルの頬に添えられたかと思うと、ぐいっと顔を引き戻された。ウィルの白磁の肌に、少し赤らんだ唇が目に毒だ。ゆっくりと頬を撫でられる。
「僕がジキルに話しかけてるんだけっ、いたい!」
「何やってんだやめろ。」
パコンといい音がしたと思うと、ジキルの頬からウィルの手が離れた。危うく口にするところだったと慌てて体を話して見上げれば、握り拳をつくったサディンがウィルの頭を叩いたのだろう。呆れたような目で見下ろしていた。
「サディン、おかえりなさい。」
「ただいま母さん、んで、なんでお前らがいるわけ。」
「お呼ばれしまして…」
エルマーにくっついたままぱたぱたと尾を振る母の頭をわしゃりと撫でると、頭を抑えて机に突っ伏すウィルを無視して二人を見る。か細い声が机から漏れているので、余程痛かったらしい。
「はあ…、まあなんだっていいけどさ…」
「父さんが任務隠すからサディンに叩かれたじゃーん!!」
「うわびっくりした。」
おでこを赤くしたウィルが、ガバリと起き上がる。ひしりとナナシに抱きついてむすくれる息子に、おやおやと慣れた手付きで治癒を施す。どうやらこのやりとりは日常茶飯事らしい、エルマーはしっぶい顔をしながらサディンを見ると、溜息で答えられた。
「父さん、言う決まりにしたのは自分なんだから、守らないと。」
「だってよぉ、言いづらくね?娼館だなんて。」
「言ってる言ってる、エルマーさんそれ言ったならあとも言えるって。」
嫁の大きなお耳が拾った娼館という言葉に、キョトンとしていた顔がみるみるうちにしょぼくれ始める。へニョンと耳を垂らして無言で落ち込むナナシに、ジキルもカルマもこの姿が見たくなかったのかと納得するくらいには、大人しく落ち込んでしまった。
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