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「行きずりというか、まあ買ってもらったんです。稼ぎ減ってたから助かりました。」
「おい、ちょっとお前黙っててくれないか」
「あれま、」
ルキーノは苦笑いをしたがら、程々にしてくださいねと言っている。サディンの腕に手を絡ませるわけでもなく、ただ寄り添って楽しそうにしている二人の関係が恋人だったらよかったのにとミハエルは思った。
だって、それならまた泣けば済むだけだ。でも、それが男娼であるなら、サディンは本当にミハエルでは駄目だということになる。
やすい男娼ではない、しなだれかかるような婀娜っぽい仕草をしないのは、きっとサディンが騎士だということをきちんと理解しているからだ。
「ああ、そうか…今日はミハエルの誕生日か。」
「バルに行ってみたいというからな。連れてきたんだが…まさかお前に会うとは。」
「あー‥、」
「兄さん、引き留めるのも良くないですよ。サディンもプライベートなんですから。」
困ったように頭を掻くサディンの横で、綺麗な人が不思議そうにミハエルを見る。ミルクティーの髪は緩く結ばれ、ミハエルと同じ薄緑の瞳と視線が絡まる。どうしたらいいかわからなくて、ミハエルはお辞儀をした。しかもなぜか腰を折るほど丁寧に、初対面である彼にお辞儀をするものだから、ぽかんとされてしまったが。
「お、おとうさん…もういこう、あっち、あっちにいいお店がありそうです、」
「ん?ああ、じゃあまたな。お前もサディンにだけはのめり込むなよ。」
「おやまあ、お気遣い痛み入ります。」
ダラスの腕に手を絡ませてゆるく引く。男娼は可笑しそうにくすくす笑うと、その白い手をゆるゆると揺らす。横にいたサディンだけはミハエルを見ず、黙っていたままだった。
「おめかししたけど…会えたけど会いたくなかったよ。」
あのあと入ったバルでは、ミハエルは相変わらず涙腺が馬鹿になってしまったようで、何を食っても塩味であった。ダラスは泣くほど美味いのか、そうかよかったなあと頓珍漢なことを抜かしていたので、そこは有り難く乗っからせてもらったが。
ルキーノは怪訝そうな顔でミハエルを見ていたが、多分ごまかせたと思う。
ずびりと鼻を啜る。もう擦り過ぎて、鼻まで赤い。鏡を見ても笑っちゃうくらいブサイクだ。お家に帰るまでずっとこんな具合だったから、ダラスがテイクアウトしてやるから泣き止みなさいと変な方向で甘やかしてくれたので、ミハエルの明日のお弁当はバルでたべたバケットサンドに決まってしまった。
お風呂に入って、歯を磨いて、今日は大変な一日だったけど、誕生日おめでとうといってお祝いをしてくれた。ミハエルにとって、特別忘れられない一日になった。
ミルクティーの彼は、とても綺麗だった。ミハエルはベッドに見を預けながら、生白い自分の手のひらを見つめる。
サディンは、彼を買ったという。男娼になる人はたくさんの理由があると聞いたことがある。ミハエルの物差しで測るのは良くないけれど、きっと彼も理由があって男娼になって、そしてサディンに選ばれた。
多分、自分よりも年上で、色々な経験をしている。ミハエルのように、実家ぐらしで温室育ちと言われてもおかしくないような恵まれた環境では、しないであろう経験もしているのだろう。
そんな彼と己を比べてしまうのが失礼な気がして、ミハエルは頬を擦り付けるかのようにして枕に顔を埋めた。
「…僕が、経験してればいいのかな。」
サディンはミハエルよりずっと大人だ。だから、子供のミハエルは相手にしない。そんなわかりきった答えを、現状を変えないままにどうにかしようったってだめなんじゃないだろうか。
ベッドに身を投げだしたまま、そんなことを思う。でも、ルキーノもダラスもきっと怒るだろう。怒られたくない、ならどうしたらいいんだろう。
もそりと身動ぎして、恐る恐る下肢の中心部に触れた。
「……はあ、」
情けないため息は枕に吸い込まれていく。精通は迎えた。おねしょをしたのかと思って大泣きしていたら、ルキーノによって大人になったのですといわれた15の時。あのときは、サディンと漸く同じになることができたと思って嬉しかったなあ。
それからミハエルは、自慰をあまり、というか、本当に驚くくらいしていない。
3年間で、多分2回。具合が悪くなっても触らなかった。そのたびに魔力でこまめに散らしていったのだ。お陰でそれが訓練のようになり、ミハエルはダラスの血も引いているせいか、驚くほど魔力のコントロール力があがった。
自慰一つまともにできない男が、好きな人に身を捧げることなんてできるのか。ミハエルの悩みは、人に相談するのははばかられる。経験値がなさすぎてどうしていいかわからない。
じゃあカインに聞く?と思っても、それはそれで指を刺されて大笑いされるのが関の山だった。
「おい、ちょっとお前黙っててくれないか」
「あれま、」
ルキーノは苦笑いをしたがら、程々にしてくださいねと言っている。サディンの腕に手を絡ませるわけでもなく、ただ寄り添って楽しそうにしている二人の関係が恋人だったらよかったのにとミハエルは思った。
だって、それならまた泣けば済むだけだ。でも、それが男娼であるなら、サディンは本当にミハエルでは駄目だということになる。
やすい男娼ではない、しなだれかかるような婀娜っぽい仕草をしないのは、きっとサディンが騎士だということをきちんと理解しているからだ。
「ああ、そうか…今日はミハエルの誕生日か。」
「バルに行ってみたいというからな。連れてきたんだが…まさかお前に会うとは。」
「あー‥、」
「兄さん、引き留めるのも良くないですよ。サディンもプライベートなんですから。」
困ったように頭を掻くサディンの横で、綺麗な人が不思議そうにミハエルを見る。ミルクティーの髪は緩く結ばれ、ミハエルと同じ薄緑の瞳と視線が絡まる。どうしたらいいかわからなくて、ミハエルはお辞儀をした。しかもなぜか腰を折るほど丁寧に、初対面である彼にお辞儀をするものだから、ぽかんとされてしまったが。
「お、おとうさん…もういこう、あっち、あっちにいいお店がありそうです、」
「ん?ああ、じゃあまたな。お前もサディンにだけはのめり込むなよ。」
「おやまあ、お気遣い痛み入ります。」
ダラスの腕に手を絡ませてゆるく引く。男娼は可笑しそうにくすくす笑うと、その白い手をゆるゆると揺らす。横にいたサディンだけはミハエルを見ず、黙っていたままだった。
「おめかししたけど…会えたけど会いたくなかったよ。」
あのあと入ったバルでは、ミハエルは相変わらず涙腺が馬鹿になってしまったようで、何を食っても塩味であった。ダラスは泣くほど美味いのか、そうかよかったなあと頓珍漢なことを抜かしていたので、そこは有り難く乗っからせてもらったが。
ルキーノは怪訝そうな顔でミハエルを見ていたが、多分ごまかせたと思う。
ずびりと鼻を啜る。もう擦り過ぎて、鼻まで赤い。鏡を見ても笑っちゃうくらいブサイクだ。お家に帰るまでずっとこんな具合だったから、ダラスがテイクアウトしてやるから泣き止みなさいと変な方向で甘やかしてくれたので、ミハエルの明日のお弁当はバルでたべたバケットサンドに決まってしまった。
お風呂に入って、歯を磨いて、今日は大変な一日だったけど、誕生日おめでとうといってお祝いをしてくれた。ミハエルにとって、特別忘れられない一日になった。
ミルクティーの彼は、とても綺麗だった。ミハエルはベッドに見を預けながら、生白い自分の手のひらを見つめる。
サディンは、彼を買ったという。男娼になる人はたくさんの理由があると聞いたことがある。ミハエルの物差しで測るのは良くないけれど、きっと彼も理由があって男娼になって、そしてサディンに選ばれた。
多分、自分よりも年上で、色々な経験をしている。ミハエルのように、実家ぐらしで温室育ちと言われてもおかしくないような恵まれた環境では、しないであろう経験もしているのだろう。
そんな彼と己を比べてしまうのが失礼な気がして、ミハエルは頬を擦り付けるかのようにして枕に顔を埋めた。
「…僕が、経験してればいいのかな。」
サディンはミハエルよりずっと大人だ。だから、子供のミハエルは相手にしない。そんなわかりきった答えを、現状を変えないままにどうにかしようったってだめなんじゃないだろうか。
ベッドに身を投げだしたまま、そんなことを思う。でも、ルキーノもダラスもきっと怒るだろう。怒られたくない、ならどうしたらいいんだろう。
もそりと身動ぎして、恐る恐る下肢の中心部に触れた。
「……はあ、」
情けないため息は枕に吸い込まれていく。精通は迎えた。おねしょをしたのかと思って大泣きしていたら、ルキーノによって大人になったのですといわれた15の時。あのときは、サディンと漸く同じになることができたと思って嬉しかったなあ。
それからミハエルは、自慰をあまり、というか、本当に驚くくらいしていない。
3年間で、多分2回。具合が悪くなっても触らなかった。そのたびに魔力でこまめに散らしていったのだ。お陰でそれが訓練のようになり、ミハエルはダラスの血も引いているせいか、驚くほど魔力のコントロール力があがった。
自慰一つまともにできない男が、好きな人に身を捧げることなんてできるのか。ミハエルの悩みは、人に相談するのははばかられる。経験値がなさすぎてどうしていいかわからない。
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