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「ミハエルが…っ…ぼ、僕が寝こけていたりしたから…っ…!」
「落ち着けルキーノ。こういう時に俺たちがいるんだあ。ダラス、お前心当たりはあるか。」
「そんなもの、心当たりしかないわ…!!」
ミハエルが失踪してから一時間。帰宅して真っ先に異変に気づいたダラスは、大慌てでルキーノの眠る寝室に駆け上がった。
扉を開け放つと、血相を変えたルキーノが胸に飛び込んできた。手には小さな紙を握りしめており、今にも倒れてしまいそうなほど顔を青ざめさせていた。
そこからは、もう怒涛だった。
ダラスによって呼び出されたエルマーは、話を聞くと深夜にもかかわらず飛んできた。ウィルとギンイロはサジを呼び出して見てもらうことにしたらしく、ナナシはルキーノと共に屋敷に残るつもりでついてきたようだった。
「ルキーノ、えるが見つける、だからナナシと二人で待っていよう、ね?」
「うう…っ、み、ミハエル…っ…」
身代金目的の誘拐であることは明白であった。ダラスは忌々しそうにそう語る小さな紙切れを握りしめると、ナナシの腕の中で大泣きをするルキーノを見た。
「必ず取り返す。だからお前はここで帰りを待っていろ。」
「いやだ…っ!僕も行きます…!!」
「ルキーノ、お前がいたら気が散る。ナナシが何のためにここにきたと思ってんだ。俺らに任せとけ。」
「でも…っ、」
エルマーの言葉に小さく息を詰まると、ルキーノは悔しそうに唇を噛み締めた。エルマーのいう通り、非戦闘要員であるルキーノがいたところで、足手まといに他ならない。身を震わして泣くルキーノを抱きしめながら、ナナシはエルマーを見上げる。
「える、早く帰ってきて。怪我してもナナシが治すよ。」
「だとよ、でけえ魔法ブッパしてもいいってさ。」
今にも殺さんと言わんばかりに殺気立つダラスの様子に、エルマーは言わなくてもするつもりかと笑う。そろそろもう一人がくる頃かと窓を開け放つと、次いで屋敷に飛び込んできたのはミュクシルにまたがったサディンであった。
「外を見回ってきたけど、馬車の痕跡があった。幼児連れってなると一人の犯行とは考えにくい。」
「おー、ご苦労さん。なら嫁さんたちは自宅待機、こっからは旦那の仕事だあ。」
「エルマー、匂いを辿れるか。」
「ならサディンだな。」
ダラスが握りしめた紙切れを受け取ると、エルマーはサディンにそれを渡す。人外の龍の血を引くサディンがその魔力を張らせると、その赤い髪がざわりと揺らめき大きな狼のような耳を表した。
「嫁に似てまあ立派なお耳だこと。」
「うるさいよ父さん。…うん、うん…、覚えた。」
金色の目を光らせて魔力の残滓を嗅ぎ分ける。ナナシの本性を受け継いだサディンは人外になることで鋭い嗅覚とその身を転化することができる。下の子のウィルは同じ容貌で恐ろしいほど高度な結界を展開させることができるのだ。
エルマーは頼もしい息子の様子に満足そうに頷くと、サディンが開け放った窓に手をかけた。
「ダラス、馬がねえ。お前はどうする。」
「俺を誰だと思っている。馬がなければ、呼び出すまでのこと。」
体に濃度の高い魔力を張らせたダラスが、人を辞めたようなあくどい顔で笑う。開け放った窓からいの一番に飛び出ると、鮮やかに展開をさせた陣を空中に解き放った。
「やるぅ。」
「感心してないで、俺らも行くよ。」
「どわっ、」
ダラスが召喚したのは死霊を統率する能力を持つハルピュイアだ。女の顔に鷲の体を持つその魔獣は死の淵を経験しなければ使役することはできないものである。非常に獰猛なその魔獣を操ると、その背に跨る。乗りなれている様子から付き合いは長いらしい、全く侮れぬ男の姿に、半ば引き摺り下ろされるかのようにサディンに窓から落とされたエルマーは、引き攣り笑みを浮かべた。
黒き異形の幽鬼でもあるミュクシルにまたがったエルマーは、自足で駆けるサディンをダラスと共に追いかける。夜明けまではまだ遠い。しかし凍てつく寒さに晒されていたらと思うと、ダラスは腹に渦巻く恐ろしいまでにどろつく怨嗟の塊をぶつけてやらねば気が済まない。
「ぶっ殺してやる!!」
腹の凝りを吐き出すかのように、ダラスが吠えた。まるで主人の怒りを感じ取ったかのように、身の毛のよだつ恐ろしい声で高笑いのような鳴き声を発した雌型の魔獣は、状態異常をひき起こす鳴き声を迷惑にも撒き散らしながら飛ぶものだから、サディンは自分とエルマーの上に結界を展開させながら走る羽目になったのであった。
「落ち着けルキーノ。こういう時に俺たちがいるんだあ。ダラス、お前心当たりはあるか。」
「そんなもの、心当たりしかないわ…!!」
ミハエルが失踪してから一時間。帰宅して真っ先に異変に気づいたダラスは、大慌てでルキーノの眠る寝室に駆け上がった。
扉を開け放つと、血相を変えたルキーノが胸に飛び込んできた。手には小さな紙を握りしめており、今にも倒れてしまいそうなほど顔を青ざめさせていた。
そこからは、もう怒涛だった。
ダラスによって呼び出されたエルマーは、話を聞くと深夜にもかかわらず飛んできた。ウィルとギンイロはサジを呼び出して見てもらうことにしたらしく、ナナシはルキーノと共に屋敷に残るつもりでついてきたようだった。
「ルキーノ、えるが見つける、だからナナシと二人で待っていよう、ね?」
「うう…っ、み、ミハエル…っ…」
身代金目的の誘拐であることは明白であった。ダラスは忌々しそうにそう語る小さな紙切れを握りしめると、ナナシの腕の中で大泣きをするルキーノを見た。
「必ず取り返す。だからお前はここで帰りを待っていろ。」
「いやだ…っ!僕も行きます…!!」
「ルキーノ、お前がいたら気が散る。ナナシが何のためにここにきたと思ってんだ。俺らに任せとけ。」
「でも…っ、」
エルマーの言葉に小さく息を詰まると、ルキーノは悔しそうに唇を噛み締めた。エルマーのいう通り、非戦闘要員であるルキーノがいたところで、足手まといに他ならない。身を震わして泣くルキーノを抱きしめながら、ナナシはエルマーを見上げる。
「える、早く帰ってきて。怪我してもナナシが治すよ。」
「だとよ、でけえ魔法ブッパしてもいいってさ。」
今にも殺さんと言わんばかりに殺気立つダラスの様子に、エルマーは言わなくてもするつもりかと笑う。そろそろもう一人がくる頃かと窓を開け放つと、次いで屋敷に飛び込んできたのはミュクシルにまたがったサディンであった。
「外を見回ってきたけど、馬車の痕跡があった。幼児連れってなると一人の犯行とは考えにくい。」
「おー、ご苦労さん。なら嫁さんたちは自宅待機、こっからは旦那の仕事だあ。」
「エルマー、匂いを辿れるか。」
「ならサディンだな。」
ダラスが握りしめた紙切れを受け取ると、エルマーはサディンにそれを渡す。人外の龍の血を引くサディンがその魔力を張らせると、その赤い髪がざわりと揺らめき大きな狼のような耳を表した。
「嫁に似てまあ立派なお耳だこと。」
「うるさいよ父さん。…うん、うん…、覚えた。」
金色の目を光らせて魔力の残滓を嗅ぎ分ける。ナナシの本性を受け継いだサディンは人外になることで鋭い嗅覚とその身を転化することができる。下の子のウィルは同じ容貌で恐ろしいほど高度な結界を展開させることができるのだ。
エルマーは頼もしい息子の様子に満足そうに頷くと、サディンが開け放った窓に手をかけた。
「ダラス、馬がねえ。お前はどうする。」
「俺を誰だと思っている。馬がなければ、呼び出すまでのこと。」
体に濃度の高い魔力を張らせたダラスが、人を辞めたようなあくどい顔で笑う。開け放った窓からいの一番に飛び出ると、鮮やかに展開をさせた陣を空中に解き放った。
「やるぅ。」
「感心してないで、俺らも行くよ。」
「どわっ、」
ダラスが召喚したのは死霊を統率する能力を持つハルピュイアだ。女の顔に鷲の体を持つその魔獣は死の淵を経験しなければ使役することはできないものである。非常に獰猛なその魔獣を操ると、その背に跨る。乗りなれている様子から付き合いは長いらしい、全く侮れぬ男の姿に、半ば引き摺り下ろされるかのようにサディンに窓から落とされたエルマーは、引き攣り笑みを浮かべた。
黒き異形の幽鬼でもあるミュクシルにまたがったエルマーは、自足で駆けるサディンをダラスと共に追いかける。夜明けまではまだ遠い。しかし凍てつく寒さに晒されていたらと思うと、ダラスは腹に渦巻く恐ろしいまでにどろつく怨嗟の塊をぶつけてやらねば気が済まない。
「ぶっ殺してやる!!」
腹の凝りを吐き出すかのように、ダラスが吠えた。まるで主人の怒りを感じ取ったかのように、身の毛のよだつ恐ろしい声で高笑いのような鳴き声を発した雌型の魔獣は、状態異常をひき起こす鳴き声を迷惑にも撒き散らしながら飛ぶものだから、サディンは自分とエルマーの上に結界を展開させながら走る羽目になったのであった。
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