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あれからミハエルが資材を置きにダラスのところへ戻ると、それはもうこの世の終わりかのような顔をして駆け寄ってきた。
顔を拭っただけでは誤魔化せなかったらしいミハエルの泣き顔に、親バカの筆頭であるダラスを含めた局員の者たちが詰め寄ってしまったのだ。
「お、お、おま、おまえなん、はああっ…」
「ああっ…ショックのあまり局長の語彙が消失しているうう!ミハエルちゃん、一体何があったのですか!?」
我先にと言わんばかりに駆け寄ってくる局員たちの勢いに負けて、父親でもあるダラスがどんどんと流されていく。ミハエルはまさか4回目の失恋をしましたなどとは口が裂けても言えず、曖昧に笑いながらジリジリと後退りをする。だってミハエルは嘘が下手だ。こんなこと言ってサディンの知る所となったら、いよいよ片思いすら許されなくなる。
白衣の汚れをいいことに、ミハエルは転びましたとだけいうと、人混みという名の局員たちを押し退けて向かってきたダラスががばりとミハエルを横抱きに抱え上げた。
「帰宅!!」
「ちょ、下ろしてください!」
「ついに単語でしか会話をしなくなってしまった…。」
よほど動揺しておられるようだと口々に宣いながら、大人しく二人を見送る局員たちとは裏腹に、ミハエルは顔から火が出そうだった。
まるで蹴り開けるように扉を開け放ったダラスは、持ち前の恐ろしいほどの魔力センスでミハエルごと転移した。たった一歩を踏み出す間に術を行使するなど、と考えて、そういえばエルマーさんもやっていたなあなどと思い返す。しかし今はそんなことどうでもいい。ミハエルは早く下ろしてほしくて身じろぎをすると、ようやくダラスからお許しが出たのは居間についてからであった。
「帰宅!!」
「うわ、びっくりし…ミハエル?」
「母さん…」
顔を真っ赤にしながらよろよろとしている愛息子の姿に目を丸くしたルキーノが、読んでいた本を閉じると慌てて駆け寄った。
明らかに泣いた形跡はあるが、年頃の息子だ、聞かれたくないこともあるだろうと察したルキーノは、そっと頭を撫でてやると優しく抱きしめた。
「お帰りなさいミハエル。今日もご苦労様でした。あなたの仕事での評判はきちんと母に届いていますよ。」
「ルキーノ!!これは俺に対する宣戦布告だ!!遺憾だ!!度し難い!!今すぐ犯人を突き止めて目ん玉を抉り出して素材にしてくれる!」
「うるさいですよ兄さん。あなたがそんなだからミハエルはいつまでも親を頼れないのです。少しは子離れしてください。」
「しかしな、」
「しかしではありません。ミハエルが助けてと言わないなら、親の出る幕はありません。あなたが息子を愛しているのはわかりますが、度が過ぎると嫌われますよ。」
びしりと言い放ったルキーノの言葉に、ダラスの声が詰まる。ルキーノは気恥ずかしそうに俯くミハエルの頬に手を添えて顔をあげさせると、そっとその頬を撫でて労った。
「今日は疲れたでしょう、ゆっくりお風呂に浸かって、食事にしましょう。明日は休息日でしょう?体の求めるままにゆっくりと休みなさい。」
「母さん…、僕。」
「今はやめておきなさい、また父さんに火がついたらどうするのです。ね?」
そう諭すルキーノの背後では、確かに承服しかねると言った具合にダラスが歯噛みしていた。親に愛されていることは嬉しい。だけど行き過ぎると気恥ずかしくて仕方がないのである。ミハエルは小さく頷くと、そっとルキーノに挨拶のキスを頬に送る。
「…お前は本当に兄さんの血を引いているのかと思うくらいに、素直でいいこですね。」
「ルキーノの血が濃いのだろう。しかしお前が気に病むのならいつでも俺が手を下し」
「ありがとう父さん、頼ることはないと思うので安心してください。」
言い切る前に、慌ててダラスの頬にも口付けを送る。こうするとすぐに機嫌が良くなるので扱いやすいが、18にもなって親に口付けを送るのは変なのではないかと少しだけ照れてしまう。
ルキーノのダラスも、それを知ってて指摘をしないのは、単に息子のその仕草が可愛らしいからに他ならない。揃いも揃って親バカなのに変わりはないのであった。
こうして久しぶりの実家に帰ってきたミハエルは、あとは寝るだけとなった今、自室でアルバムをめくっていた。
そこにファイリングされているのはミハエルの幼い頃の写真ばかりだ。
恋心に気づく前から、気づいた後の頃まで。顔つきが明らかに変わっている自分がそこには写されていて、大胆にもサディンの頬に口付けている写真まであった。
その一枚を手に取ると、ミハエルはそっと唇に触れた。
「子供の頃の方が、相手にされているなんて。」
写真は、頬に口を押し付けるような下手くそなキスを送られたサディンが、涙を流して笑っている姿だった。確かこの時はウィルの誕生日会の時で、ミハエルが七歳くらいの時だ。
どうしてもサディンのお嫁さんにしてほしくて、飾られていた花を持ってプロポーズをして笑いの渦に巻き込んだ。サディンに向かって、お嫁さんになってくださいと間違ったことを言ったせいで、大笑いしたエルマーさんが茶化したおかげで頬に口付けられたんだ。
今、そんなことをいたらいよいよ嫌われてしまうだろう。ミハエルはサディンを好きになってからは、勝手に涙が出てきて困ることだらけだ。
だって、好きになるなという方が無理だろう。ミハエルを助けてくれたあの時のサディンは、紛れもなくミハエルだけの王子様だったんだから。
顔を拭っただけでは誤魔化せなかったらしいミハエルの泣き顔に、親バカの筆頭であるダラスを含めた局員の者たちが詰め寄ってしまったのだ。
「お、お、おま、おまえなん、はああっ…」
「ああっ…ショックのあまり局長の語彙が消失しているうう!ミハエルちゃん、一体何があったのですか!?」
我先にと言わんばかりに駆け寄ってくる局員たちの勢いに負けて、父親でもあるダラスがどんどんと流されていく。ミハエルはまさか4回目の失恋をしましたなどとは口が裂けても言えず、曖昧に笑いながらジリジリと後退りをする。だってミハエルは嘘が下手だ。こんなこと言ってサディンの知る所となったら、いよいよ片思いすら許されなくなる。
白衣の汚れをいいことに、ミハエルは転びましたとだけいうと、人混みという名の局員たちを押し退けて向かってきたダラスががばりとミハエルを横抱きに抱え上げた。
「帰宅!!」
「ちょ、下ろしてください!」
「ついに単語でしか会話をしなくなってしまった…。」
よほど動揺しておられるようだと口々に宣いながら、大人しく二人を見送る局員たちとは裏腹に、ミハエルは顔から火が出そうだった。
まるで蹴り開けるように扉を開け放ったダラスは、持ち前の恐ろしいほどの魔力センスでミハエルごと転移した。たった一歩を踏み出す間に術を行使するなど、と考えて、そういえばエルマーさんもやっていたなあなどと思い返す。しかし今はそんなことどうでもいい。ミハエルは早く下ろしてほしくて身じろぎをすると、ようやくダラスからお許しが出たのは居間についてからであった。
「帰宅!!」
「うわ、びっくりし…ミハエル?」
「母さん…」
顔を真っ赤にしながらよろよろとしている愛息子の姿に目を丸くしたルキーノが、読んでいた本を閉じると慌てて駆け寄った。
明らかに泣いた形跡はあるが、年頃の息子だ、聞かれたくないこともあるだろうと察したルキーノは、そっと頭を撫でてやると優しく抱きしめた。
「お帰りなさいミハエル。今日もご苦労様でした。あなたの仕事での評判はきちんと母に届いていますよ。」
「ルキーノ!!これは俺に対する宣戦布告だ!!遺憾だ!!度し難い!!今すぐ犯人を突き止めて目ん玉を抉り出して素材にしてくれる!」
「うるさいですよ兄さん。あなたがそんなだからミハエルはいつまでも親を頼れないのです。少しは子離れしてください。」
「しかしな、」
「しかしではありません。ミハエルが助けてと言わないなら、親の出る幕はありません。あなたが息子を愛しているのはわかりますが、度が過ぎると嫌われますよ。」
びしりと言い放ったルキーノの言葉に、ダラスの声が詰まる。ルキーノは気恥ずかしそうに俯くミハエルの頬に手を添えて顔をあげさせると、そっとその頬を撫でて労った。
「今日は疲れたでしょう、ゆっくりお風呂に浸かって、食事にしましょう。明日は休息日でしょう?体の求めるままにゆっくりと休みなさい。」
「母さん…、僕。」
「今はやめておきなさい、また父さんに火がついたらどうするのです。ね?」
そう諭すルキーノの背後では、確かに承服しかねると言った具合にダラスが歯噛みしていた。親に愛されていることは嬉しい。だけど行き過ぎると気恥ずかしくて仕方がないのである。ミハエルは小さく頷くと、そっとルキーノに挨拶のキスを頬に送る。
「…お前は本当に兄さんの血を引いているのかと思うくらいに、素直でいいこですね。」
「ルキーノの血が濃いのだろう。しかしお前が気に病むのならいつでも俺が手を下し」
「ありがとう父さん、頼ることはないと思うので安心してください。」
言い切る前に、慌ててダラスの頬にも口付けを送る。こうするとすぐに機嫌が良くなるので扱いやすいが、18にもなって親に口付けを送るのは変なのではないかと少しだけ照れてしまう。
ルキーノのダラスも、それを知ってて指摘をしないのは、単に息子のその仕草が可愛らしいからに他ならない。揃いも揃って親バカなのに変わりはないのであった。
こうして久しぶりの実家に帰ってきたミハエルは、あとは寝るだけとなった今、自室でアルバムをめくっていた。
そこにファイリングされているのはミハエルの幼い頃の写真ばかりだ。
恋心に気づく前から、気づいた後の頃まで。顔つきが明らかに変わっている自分がそこには写されていて、大胆にもサディンの頬に口付けている写真まであった。
その一枚を手に取ると、ミハエルはそっと唇に触れた。
「子供の頃の方が、相手にされているなんて。」
写真は、頬に口を押し付けるような下手くそなキスを送られたサディンが、涙を流して笑っている姿だった。確かこの時はウィルの誕生日会の時で、ミハエルが七歳くらいの時だ。
どうしてもサディンのお嫁さんにしてほしくて、飾られていた花を持ってプロポーズをして笑いの渦に巻き込んだ。サディンに向かって、お嫁さんになってくださいと間違ったことを言ったせいで、大笑いしたエルマーさんが茶化したおかげで頬に口付けられたんだ。
今、そんなことをいたらいよいよ嫌われてしまうだろう。ミハエルはサディンを好きになってからは、勝手に涙が出てきて困ることだらけだ。
だって、好きになるなという方が無理だろう。ミハエルを助けてくれたあの時のサディンは、紛れもなくミハエルだけの王子様だったんだから。
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