47 / 111
2
しおりを挟む
「魔獣が出たぞ!! すぐに門を閉めて対処しろ!! くそ、なんだってこんな時に!!」
「街の中に一歩もいれるなーー!! 水属性は前衛へ!! 湿らせて動きを鈍らせるんだ!!」
がなる声や、武器を持って走る金属の擦れ合う音。けたたましい敵襲の鐘が市井に鳴り響く中、フリヤは鋼の剣を持って城壁の外にいた。
砂漠が、蠢いている。フリヤの琥珀の瞳は、異常現象をしっかりと捉えていた。
「砂の魔獣って、サンドワームくらいしかいねえんじゃ」
「種類なんぞ後回しで構わない。あれは自在だ。良かったじゃないか、お前試合には出たくないと言っていただろう」
「っ、ヘルグ隊長、それとこれとはべつ……!!」
見えない磁石によって持ち上げられるかのように、大量の砂が天に向かって伸びていく。
長く、暗い影が大地を横切るかのように地べたを塗りつぶす。砂はみるみるうちに巨大な毒蛇へと姿を変えたのだ。
「てしらべだ、受け止めてもらおうか」
ヘルグの足元から円環状に吹き上がった風が、灰色の外套を忙しなくばたつかせる。腰に挿していた鋼の剣を引き抜くと、ヘルグはその刀身に指をすべらせた。
「た、隊長なにするつもり!?」
「切れるか試す」
「っ、やばいみんな、ヘルグ隊長が攻撃するぞ!!」
フリヤの声に、わかりやすく周りにいた兵士は顔を青褪めさせた。動かぬ蛇の魔物を前に、背を向けるように兵士が走り出す。
ヘルグの術の範囲外へと向かわなければ、巻き添えを食らうことは目に見えている。つまりそれ程、ヘルグの放つ風の属性術は範囲が広いのだ。
「風よ」
ボソリと呟いた。その途端、ヘルグの剣は鈍色から透き通った瑪瑙の剣に姿を変えた。不思議な光を纏った剣が、澄んだ音を立てる。柄が応えるようにかちりとなると、ヘルグの瞳が淡く輝いた。
外套が、灰色の翼を広げるように背後へ伸びる。それほどまでに、繰り出した突きの一筋が素早かったのだ。
一瞬の静寂の後、太鼓にも似た音が深く響いた。体を揺らす程の振動に、煽られるようにフリヤがよろめいた僅かな間、目にしたのは魔物の体を通して見えた抜けるような青空であった。
「へ、」
それは、大蛇の体に窓をつけたかのように違和感のある光景であった。丸く切り取られた青空が、大蛇の首元にポカリと存在したのだ。
体から切り取られた砂が、水をまくように砂漠へ戻る。その時、空から何かが落ちてきた。
「フリヤ」
「っ、人だ!」
ヘルグの言葉とほぼ同時に、フリヤは剣を捨てて飛び出した。鬼族の身体能力なら、地面に衝突する前に受け止めることは可能だろう。走りにくい砂地を、足の裏に空間魔法を施すことで馴染ませる。砂煙を立てながら真下へと辿り着けば、フリヤは慌てて両腕を前に突き出した。
「ぅわ、っ」
「どぅわ、っ」
両腕に鋭い衝撃が走った。体重に引きずられるかのように、体がよろついたかと思えば、途端に足元の砂が緩くなった。踏み込んだ一歩が、砂地に飲み込まれる。踏ん張りが効かぬまま、まるで湯の中に飛び込むようにして、フリヤはもう一人と共に沈み込んだ。
まさか、踏み込んだ場所が流砂のへそだなんてついていないにもほどがある。
咄嗟に腕の中に抱き込むようにしたが、このままでは二人して地上には戻れないだろう。
(あ、やばい死ぬかも)
受け止めた子は、無事だろうか。重い砂が、体の隙間に入り込むようにして腕の力を奪っていく。
腕の中に抱いていたはずの感触がするりと消えて、慌てて水の中をもがくように手を伸ばす。伸ばしたふりやの腕を、力強い力で掴まれた。もしかしたら、ヘルグ隊長が助けてくれたのかもしれない。
襟首を引かれるようにして、ぐっと体が上昇する。砂の重みと、体重をものともしないその力によって、フリヤは砂を散らすようにして地上へ引きずり出された。
「っ、げほ、っげほっ、ぐ、うえっ」
「フリヤ!!」
「フリヤ大丈夫か!」
背後から、ヘルグの聞き慣れた声がした。よたつきながら振り向けば、慌てたようにこちらに向かってくる姿があった。
フリヤの腕は、ヘルグだと思っていたものに掴まれたままであった。
朦朧とする意識の中、腕を掴む人物を見上げる。逆光のせいで顔立ちは見えなかったが、大きな獣の耳が頭に生えていた。
(え、誰……)
二つの琥珀が、鈍く光った気がした。仲間の声が近付く中、フリヤの意識はそこまでが限界であった。
「街の中に一歩もいれるなーー!! 水属性は前衛へ!! 湿らせて動きを鈍らせるんだ!!」
がなる声や、武器を持って走る金属の擦れ合う音。けたたましい敵襲の鐘が市井に鳴り響く中、フリヤは鋼の剣を持って城壁の外にいた。
砂漠が、蠢いている。フリヤの琥珀の瞳は、異常現象をしっかりと捉えていた。
「砂の魔獣って、サンドワームくらいしかいねえんじゃ」
「種類なんぞ後回しで構わない。あれは自在だ。良かったじゃないか、お前試合には出たくないと言っていただろう」
「っ、ヘルグ隊長、それとこれとはべつ……!!」
見えない磁石によって持ち上げられるかのように、大量の砂が天に向かって伸びていく。
長く、暗い影が大地を横切るかのように地べたを塗りつぶす。砂はみるみるうちに巨大な毒蛇へと姿を変えたのだ。
「てしらべだ、受け止めてもらおうか」
ヘルグの足元から円環状に吹き上がった風が、灰色の外套を忙しなくばたつかせる。腰に挿していた鋼の剣を引き抜くと、ヘルグはその刀身に指をすべらせた。
「た、隊長なにするつもり!?」
「切れるか試す」
「っ、やばいみんな、ヘルグ隊長が攻撃するぞ!!」
フリヤの声に、わかりやすく周りにいた兵士は顔を青褪めさせた。動かぬ蛇の魔物を前に、背を向けるように兵士が走り出す。
ヘルグの術の範囲外へと向かわなければ、巻き添えを食らうことは目に見えている。つまりそれ程、ヘルグの放つ風の属性術は範囲が広いのだ。
「風よ」
ボソリと呟いた。その途端、ヘルグの剣は鈍色から透き通った瑪瑙の剣に姿を変えた。不思議な光を纏った剣が、澄んだ音を立てる。柄が応えるようにかちりとなると、ヘルグの瞳が淡く輝いた。
外套が、灰色の翼を広げるように背後へ伸びる。それほどまでに、繰り出した突きの一筋が素早かったのだ。
一瞬の静寂の後、太鼓にも似た音が深く響いた。体を揺らす程の振動に、煽られるようにフリヤがよろめいた僅かな間、目にしたのは魔物の体を通して見えた抜けるような青空であった。
「へ、」
それは、大蛇の体に窓をつけたかのように違和感のある光景であった。丸く切り取られた青空が、大蛇の首元にポカリと存在したのだ。
体から切り取られた砂が、水をまくように砂漠へ戻る。その時、空から何かが落ちてきた。
「フリヤ」
「っ、人だ!」
ヘルグの言葉とほぼ同時に、フリヤは剣を捨てて飛び出した。鬼族の身体能力なら、地面に衝突する前に受け止めることは可能だろう。走りにくい砂地を、足の裏に空間魔法を施すことで馴染ませる。砂煙を立てながら真下へと辿り着けば、フリヤは慌てて両腕を前に突き出した。
「ぅわ、っ」
「どぅわ、っ」
両腕に鋭い衝撃が走った。体重に引きずられるかのように、体がよろついたかと思えば、途端に足元の砂が緩くなった。踏み込んだ一歩が、砂地に飲み込まれる。踏ん張りが効かぬまま、まるで湯の中に飛び込むようにして、フリヤはもう一人と共に沈み込んだ。
まさか、踏み込んだ場所が流砂のへそだなんてついていないにもほどがある。
咄嗟に腕の中に抱き込むようにしたが、このままでは二人して地上には戻れないだろう。
(あ、やばい死ぬかも)
受け止めた子は、無事だろうか。重い砂が、体の隙間に入り込むようにして腕の力を奪っていく。
腕の中に抱いていたはずの感触がするりと消えて、慌てて水の中をもがくように手を伸ばす。伸ばしたふりやの腕を、力強い力で掴まれた。もしかしたら、ヘルグ隊長が助けてくれたのかもしれない。
襟首を引かれるようにして、ぐっと体が上昇する。砂の重みと、体重をものともしないその力によって、フリヤは砂を散らすようにして地上へ引きずり出された。
「っ、げほ、っげほっ、ぐ、うえっ」
「フリヤ!!」
「フリヤ大丈夫か!」
背後から、ヘルグの聞き慣れた声がした。よたつきながら振り向けば、慌てたようにこちらに向かってくる姿があった。
フリヤの腕は、ヘルグだと思っていたものに掴まれたままであった。
朦朧とする意識の中、腕を掴む人物を見上げる。逆光のせいで顔立ちは見えなかったが、大きな獣の耳が頭に生えていた。
(え、誰……)
二つの琥珀が、鈍く光った気がした。仲間の声が近付く中、フリヤの意識はそこまでが限界であった。
5
お気に入りに追加
399
あなたにおすすめの小説
僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした
なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。
「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」
高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。
そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに…
その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。
ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。
かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで…
ハッピーエンドです。
R18の場面には※をつけます。
R18禁BLゲームの主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成りました⁉
あおい夜
BL
昨日、自分の部屋で眠ったあと目を覚ましたらR18禁BLゲーム“極道は、非情で温かく”の主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成っていた!
弟は兄に溺愛されている為、嫉妬の対象に成るはずが?
狂宴〜接待させられる美少年〜
はる
BL
アイドル級に可愛い18歳の美少年、空。ある日、空は何者かに拉致監禁され、ありとあらゆる"性接待"を強いられる事となる。
※めちゃくちゃ可愛い男の子がひたすらエロい目に合うお話です。8割エロです。予告なく性描写入ります。
※この辺のキーワードがお好きな方にオススメです
⇒「美少年受け」「エロエロ」「総受け」「複数」「調教」「監禁」「触手」「衆人環視」「羞恥」「視姦」「モブ攻め」「オークション」「快楽地獄」「男体盛り」etc
※痛い系の描写はありません(可哀想なので)
※ピーナッツバター、永遠の夏に出てくる空のパラレル話です。この話だけ別物と考えて下さい。
【完結】祝福をもたらす聖獣と彼の愛する宝もの
透
BL
「おまえは私の宝だから」
そう言って前世、まだ幼い少年にお守りの指輪をくれた男がいた。
少年は家庭に恵まれず学校にも馴染めず、男の言葉が唯一の拠り所に。
でもその数年後、少年は母の新しい恋人に殺されてしまう。「宝もの」を守れなかったことを後悔しながら。
前世を思い出したヨアンは魔法名門侯爵家の子でありながら魔法が使えず、「紋なし」と呼ばれ誰からも疎まれていた。
名門家だからこそ劣等感が強かった以前と違い、前世を思い出したヨアンは開き直って周りを黙らせることに。勘当されるなら願ったり。そう思っていたのに告げられた進路は「聖獣の世話役」。
名誉に聞こえて実は入れ替わりの激しい危険な役目、実質の死刑宣告だった。
逃げるつもりだったヨアンは、聖獣の正体が前世で「宝」と言ってくれた男だと知る。
「本日からお世話役を…」
「祝福を拒絶した者が?」
男はヨアンを覚えていない。当然だ、前世とは姿が違うし自分は彼の宝を守れなかった。
失望するのはお門違い。今世こそは彼の役に立とう。
☆神の子である聖獣×聖獣の祝福が受け取れない騎士
☆R18はタイトルに※をつけます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる