狼王の贄神子様

だいきち

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貴方のためにいつまでも *

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 脳みそが溶ける。ティティアは、そんなバカみたいなことを思ってしまった。
 思考が桃色で、ドロドロの何かに変わって溶けていく。頭の中が経験したことのない気持ちよさで溢れて、頑張ろうにも頑張れないのだ。
 広い部屋のはずなのに、視界が黒鉄色に染まっている。限界まで開かされた足は、きっと股関節が外れているのだろう、揺さぶられるままにだらしなく足を振るだけだ。

「ぁ、ぁあ、ん、んっうぅ、ぅく、っか、ぇれ、ふ……っゃ、あ、あっぁぐ、っ」
「ヴぅ……っ……ぐ、っ……‼︎」
「やぁ、ああぁ、あっも、ぃ、っ……いや、ら、っ……き、もひ……ぃのや……ぁ……っ」

 体を囲うように、顔の横に肘をついたカエレスの腕に縋り付く。ティティアがあまりにも泣いてよがるから、涙やら唾液で上等な毛並みは湿っていた。
 素直な黒髪は汗で張り付き、縋り付く黒鉄色との境を曖昧にする。白い寝具に押さえつけられるように薄い腹を何度も掘削されては、ところどころに精をしみ込ませる。
 あれから、数時間をかけて慎重に収めたカエレスの性器は、ティティアの腹を不自然に膨らませていた。腰回りに筋を作る赤い血は、カエレスが逃げる腰を鷲掴んで出来た傷だ。
 苦しみと同時に迎えた、己の体が作り変わる恐怖を耐えた。それほどまでに、ティティアが堪え、挿入を受け入れた証だった。
 大きな手のひらが、時折確かめるように愛おしげに腹を撫でる。無理を強いて貫いた体を労わりたい。そんな気持ちを表すかのようだった。

「ティ、ティア……っ、わ、たしをみろ……っ」

 まるで、肺に溜まる熱を吐き出すように苦しげな声だった。黒髪の隙間から、輝くカエレスの金糸水晶の瞳を朧げに捉える。
 腹をなでていた手がティティアの頬に滑る。涙を拭えば、カエレスの両腕は閉じ込めるようにティティアの頭上へと回された。鼻先を寄せられ、視界を奪うかのようにむせかえる暗闇に閉じ込められる。

(気持ちいい、だめだ、これ……頭おかしくなる)

 だらしない顔を晒していると思う。下半身の感覚を失ったまま、ティティアは与えられるままにカエレスの唾液を舌で受け止めた。薄い体は、カエレスの鋭い爪によて、ところどころ傷をつけていた。痛いはずなのに、それすらも疼痛に感じてしまうから始末に追えない。華奢な体に、跡を残される。毛皮で覆われたカエレスへと痕跡を刻めないのが、少しだけ不満だ。
 甘えるように、口に含まされた指先に歯を立てては、窘められるように腹を穿たれるの繰り返しだ。それほどまでに、この体を求めるカエレスは、先ほどから本能に抗えないようだった。

「痛い、きっと、私は、ひどく噛んでしまう……っ」
「きゅ、う……っ、ぁ、ああ、あっつ、ょい、や、あぁーーーー‼︎ っひぅう、っ‼︎」
「頼む、死ぬな……っ、私の、ために生きて、くれ……ったの、む……っ」

 獣のような、それでいて獰猛な表情には似合わないほどの悲痛な懇願だった。
 激しくなる腰の打ちつけに、ああ、もうすぐ孕まされると自覚した。関節が外れて、バカみたいにだらしなく開いた足を腰で支えられながら、命を作る営みなのに生きてくれと願われる。
 それが切実で、必死で。ティティアは、俺はカエレスのためならなんでもしてあげられるのに、なんで泣きそうに言うんだろうと思った。
 蕾で必死に咥え込む生殖器の根元が、一滴も溢さないと言わんばかりに不自然に膨らむ。ティティアは縋り付く腕に額を擦り付けるようにして、上半身をよろよろとひねる。きっと、噛むならここだろうと思ったのだ。
 震える手で晒した頸に、カエレスの息を呑む音がした。脳がバカみたいに判断能力を鈍らせているのに、カエレスのして欲しいことはわかるなんて、本能のようじゃないか。
 誰からも教わっていない。それなのにわかるのは、きっと、ティティアも同じ分だけの思いをカエレスへ向けているからだ。
 水滴が、黒髪をおさえる手の甲に当たる。震えるカエレスの吐息が頸を撫でて、熱い舌がねとりと這わされた。

「すまない、……っ、噛む……叫んでくれても、構わない……」
「い、いょ……っ……か、んでっーーーー……‼︎」

 ティティアですら知らない奥の奥に、ぐぽんと押し込まれた。込み上げるものを堪えられずに、ティティアが思わず寝具を汚したその時、恐ろしい量の精液が熱の奔流となって腹の奥に叩きつけられた。
 声のない悲鳴は、汚れた枕に飲み込まれる。華奢な体をキツく抱き込まれたかと思えば、熱湯がかけられたような強い痛みが頸に走った。









 まるで地獄のような現場だったと、カエレスの部下は口を揃えていった。
 明け方、今まで聞いたことのないようなカエレスの絶叫が城に響き渡ったのだ。もしや、まだヴィヌスの信徒が紛れ込んでいたのか。それぞれの役割の場所にいたハニたちは、慌てふためく侍従たちを取りなして、ティティアの部屋へと駆けつけた。
 濃厚な血の匂いに真っ先に気がついたのは、先ほどまでヴィヌスとマルカを拷問にかけていたニルだった。血の匂いが、己の体からするものじゃないと気がつくなり、切羽詰まった表情で扉を蹴り開けた。
 いつもの軽口すらこぼさない、呆然と立ち尽くしたニルの横に並ぶように、ウメノを背負ったロクが遅れて到着すれば、目にしたのは言葉を失うほど凄惨な光景だった。

 真っ白な部屋の寝具の上で、血塗れのティティアを抱きしめるカエレスがいたのだ。



「本当に、生きててくれてありがとう」
「覚えてないけど、大変だったんだねえ」
「いや他人事がすぎるだろ。心臓に毛でも生えてんのか」

 寝台近くの床にあぐらをかいたニルが言った。その横では、恐ろしくやつれた表情のカエレスが、ショリショリとリンゴの皮を剥いていた。
 耳心地のいい音と爽やかな香りに、ティティアの腹がくるりとなる。一週間の昏睡状態から目覚めてみれば、寝起きに勘弁してもらえないだろうかと思うほど大騒ぎになってしまった。

「俺知らないうちに出産終わってたのかと思ったよね」
「いやまだ確認できてない。ほらカエレス様、いつまでも泣いてないで早くリンゴ剥いて。ティティア様お腹すいたって‼︎」
「この一週間で、カエレスの扱いすごく変わってない?」
「いいんですよティティア様。今この部屋でいちばんの権力を持っているのは紛れもないあなたなんですから」

 ウメノに言われて、大きな体を丸めながらリンゴをすりおろす。まさかカエレスのそんな姿を目にすることになるとは思わなくて、まじまじと目線を向けてしまった。

「い、っ……て……」
「っ、ティティア」
「首動かさないで‼︎ 治癒したけど折れてたんだよ⁉︎」
「嘘でしょ俺なんで生きてんの!」

 見たこともない形相でウメノが怒るのも無理はない。カエレスとの行為で、ティティアの体はボロボロになっていた。
 予想通り、股関節は外れていただけでなく、会陰まで裂傷していた。カエレスが本能に抗えず強く噛んだ頸はしっかりと肉を穿ち、首まで折る羽目になったのだ。
 強く抱きしめたせいで両腕は圧迫骨折。内臓破裂はしなかったものの、精液を受け止めた腹は不自然に膨らみ、光を失った瞳でぐったりするティティアの様子は、まるで崖から落ちたと言っても騙されるほど酷い状態だったのだ。
 ウメノによる治癒が三日三晩。その間カエレスは一睡もせず、おうおうと泣き叫んで本物の獣のようだったという。
 過去に唯一番いがいた王様も、同じように番いを抱き潰して大怪我を負わせたことがあった。その時も、城にいた侍医やその部下が三日三晩寝ずに治癒を施してことなきを得たという。
 そんなわけあるか、大袈裟だろうと小馬鹿にしていたが、全くもって大袈裟なんかではなかった。おかげさまでアモンはウメノの魔力タンク代わりにされて、おとなしく瞳の中で眠っている。
 治癒に使われた特殊な陣が残っていて本当に良かった。詠唱破棄が可能なウメノが陣を描いたのは、初めて魔術を学んだとき依頼だとぶすくれていた。


 
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