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第二巻 エピローグ
エピローグ2 ~ 弾劾裁判 ~
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「ふむふむ、なるほど……。それで、リオナちゃんはリィちゃんをダンジョンから突き落とした、ということだね?」
「ああ、そういうことだ」
≪ランブの塔≫を降りた次の日、リオナの姿はギルドの三階――ギルドマスターの部屋にあった。
三人掛けの長いソファに足を組んで座り、退屈そうな様子で欠伸を一つ漏らす。
彼女の正面には、この部屋の主たるハイドルクセンが、難しい顔で唸りながらリオナの話を聞いていた。
「……そうか。あれだけ街を騒がせた盗賊団の長が、まさか齢十三にも満たない子供だったとは……。いやはや、世界は残酷というか何というか、時に私如きでは到底抗えぬような過酷な運命を私達に課し――」
「テメェの感想なんざどうでもいい。今日オレがここに来たのは、オレの行く末を聞きに来たからだ。孤独な一匹狼の遠吠えは、オレのいねえ所でやってくれ」
吐き捨てるように言うリオナ。
ハイドルクセンは困った顔で肩を竦めた。
「……で、どうなんだ? オレを処罰するのかしないのか、どっちなんだ?」
「そうだね……。ミラちゃんとリオナちゃん、双方の話を聞く限り、どちらも嘘は言っていないようだ。リィちゃんがドモスファミリーのボスで、リオナちゃんが彼女を倒したというのも本当だろう」
「最初からそう言ってるだろ? いいからさっさと結論を話せ」
苛立たしげに眉を顰めるリオナの前で、ハイドルクセンは暫しの間瞑目した。
「……リオナちゃんも知っての通り、ギルドは冒険者か否かを問わず、殺人行為を全面的に禁止している。だが、相手がギルドの指名手配したお尋ね者だったり、自らの命が危険に曝されていたりする場合には、例外的に殺人を犯してしまっても許されるケースがある」
そこで、ハイドルクセンは閉じていた瞼を開き、スカイブルーの瞳でリオナの金眼を真っ直ぐ見つめると、
「――幼い子供を殺したという点には納得しかねるが……今回は、あのドモスファミリーの頭領が相手だったということもある。君の殺人については、不問に付すこととする!」
そう強い口調で宣告した。
「そうか。寛大な処置をありがとよ!」
ニッと笑い、リオナが立ち上がる。
そのまま部屋を出て行こうとした彼女に、ハイドルクセンは声をかけた。
「リオナちゃん!」
「ん?」
振り向きはせず、ネコ耳だけハイドルクセンの方へ傾ける。
ハイドルクセンは、僅かに逡巡した後、
「……リオナちゃんは――命が大切だと思わないのかい?」
「……何だ、ミラから聞いたのか?」
「………………」
ハイドルクセンは無言だった。
何かに迷うように、じっと口を噤んでいる。
彼の返事を待つこともなく、リオナは口を開いた。
「……さてな? 手あたり次第食い散らかす獣には成り下がっていねえつもりだが――命の価値なんざ、とうの昔に忘れちまったさ」
何処か遠くを見るような金眼で答えるリオナ。
背を向けている所為で、その表情はハイドルクセンの方から窺えない。
しかし、彼女の声音に含まれた寂しげな響きだけが、彼のイヌ耳にいつまでも纏わりついていた。
暫くその正体を追い求めていたハイドルクセンだったが、答えの出ぬ問いに、考えることを諦めた。
頭を振り、思考を切り替えるようにして、彼は言った。
「……だがしかし、こういうのはこれっきりにしてくれたまえよ? 理由はどうあれ、顔見知りを裁かねばならないなど、そう経験したいものではないからね」
「善処するよ」
リオナはそのまま手をヒラヒラと振りながら、ギルドマスターの部屋を後にした。
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