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第二巻 エピローグ

エピローグ2 ~ 弾劾裁判 ~

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     ☯

「ふむふむ、なるほど……。それで、リオナちゃんはリィちゃんをダンジョンから突き落とした、ということだね?」

「ああ、そういうことだ」

 ≪ランブの塔≫を降りた次の日、リオナの姿はギルドの三階――ギルドマスターの部屋にあった。
 三人掛けの長いソファに足を組んで座り、退屈そうな様子で欠伸あくびを一つ漏らす。
 彼女の正面には、この部屋の主たるハイドルクセンが、難しい顔でうなりながらリオナの話を聞いていた。

「……そうか。あれだけ街を騒がせた盗賊団の長が、まさか齢十三にも満たない子供だったとは……。いやはや、世界は残酷というか何というか、時に私如きでは到底抗えぬような過酷な運命を私達に課し――」

「テメェの感想なんざどうでもいい。今日オレがここに来たのは、オレの行く末を聞きに来たからだ。孤独な一匹おおかみの遠えは、オレのいねえ所でやってくれ」

 吐き捨てるように言うリオナ。
 ハイドルクセンは困った顔で肩をすくめた。

「……で、どうなんだ? オレを処罰するのかしないのか、どっちなんだ?」

「そうだね……。ミラちゃんとリオナちゃん、双方の話を聞く限り、どちらもうそは言っていないようだ。リィちゃんがドモスファミリーのボスで、リオナちゃんが彼女を倒したというのも本当だろう」

「最初からそう言ってるだろ? いいからさっさと結論を話せ」

 いらたしげに眉をひそめるリオナの前で、ハイドルクセンはしばしの間瞑目めいもくした。

「……リオナちゃんも知っての通り、ギルドは冒険者か否かを問わず、殺人行為を全面的に禁止している。だが、相手がギルドの指名手配したお尋ね者だったり、自らの命が危険にさらされていたりする場合には、例外的に殺人を犯してしまっても許されるケースがある」

 そこで、ハイドルクセンは閉じていたまぶたを開き、スカイブルーの瞳でリオナの金眼を真っ直ぐ見つめると、

「――幼い子供を殺したという点には納得しかねるが……今回は、あのドモスファミリーの頭領が相手だったということもある。君の殺人については、不問に付すこととする!」

 そう強い口調で宣告した。

「そうか。寛大な処置をありがとよ!」

 ニッと笑い、リオナが立ち上がる。
 そのまま部屋を出て行こうとした彼女に、ハイドルクセンは声をかけた。

「リオナちゃん!」

「ん?」

 振り向きはせず、ネコ耳だけハイドルクセンの方へ傾ける。
 ハイドルクセンは、僅かに逡巡しゅんじゅんした後、

「……リオナちゃんは――命が大切だと思わないのかい?」

「……何だ、ミラから聞いたのか?」

「………………」

 ハイドルクセンは無言だった。
 何かに迷うように、じっと口をつぐんでいる。

 彼の返事を待つこともなく、リオナは口を開いた。

「……さてな? 手あたり次第食い散らかす獣には成り下がっていねえつもりだが――命の価値なんざ、とうの昔に忘れちまったさ」

 何処どこか遠くを見るような金眼で答えるリオナ。
 背を向けている所為せいで、その表情はハイドルクセンの方からうかがえない。
 しかし、彼女の声音に含まれた寂しげな響きだけが、彼のイヌ耳にいつまでもまとわりついていた。

 暫くその正体を追い求めていたハイドルクセンだったが、答えの出ぬ問いに、考えることを諦めた。
 頭を振り、思考を切り替えるようにして、彼は言った。

「……だがしかし、こういうのはこれっきりにしてくれたまえよ? 理由はどうあれ、顔見知りを裁かねばならないなど、そう経験したいものではないからね」

「善処するよ」

 リオナはそのまま手をヒラヒラと振りながら、ギルドマスターの部屋を後にした。

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