初期レベ廃人ゲーマーと獣人少女の異世界終焉遊戯<ワールズエンド・ゲーム>

安野蘊

文字の大きさ
上 下
105 / 112
第二巻 第五章 「その異世界人、反攻につき」

第五章 第六節 ~ 帰りを待つ者達 ~

しおりを挟む

     ☯

(リオナさん……!)

 無言でたたずむ漆黒のドームの前で、ミラは魔法の発動と同時にひっくり返した砂時計を両手で握り締め、リオナの安否を案じていた。
 リオナ達が≪新月≫に飲み込まれてから既に五分。
 外からは一切中の様子がうかがえず、音も聞こえてこないので、状況がどうなっているかはわからない。

「………………」

 何か手助けしなければと思うが、ドームの外からでは如何いかなる干渉もできない。
 彼女を信じて待つ以外にない現状に、ミラはまるで生きた心地がしなかった。

(……リオナさんの計画では、発動から十分後に術を解除することになっています……。暗闇が晴れた時、そこに立っていた者が、この戦いの勝者……!)

 緊張し、手が赤くなる程拳を握るミラの下へ、リィが歩み寄って来た。
 不安に揺れる赤い瞳を見上げ、服の裾をチョイチョイと引っ張りながら、

「ウサギのお姉さん……」

「リ、リィさん⁉ 動いて平気なのですか⁉」

「へ? どうしてだい?」

「だって、ドモスファミリーに捕まっていたはずじゃあ……」

「ああ、そのことかい? 大丈夫だよ。別に縛られたりしていたわけじゃないし、乱暴なこともされてないから」

 そう言って、ピコピコとキツネ耳を震わせるリィ。
 その様子から見ても、彼女が無事なことは明らかだった。

「リィさん!」

「わあ!」

 ミラがリィを思いきり抱き締める。
 ずっと気をんでいただけに、反動で押し寄せる感情が抑えきれなかったのだろう。
 もふもふの髪を優しくでられて、リィもほっこりと表情を綻ばせた。

 リィとの再会を果たしたミラは、ふと気になった疑問を口にした。

「……そう言えば、他の団員達はどうされたのでしょう? 見たところ、このフロアにはドモスとウォーリアしかいないように思いますが……」

「あ、それなら、お姉さん達が来る前に、総出で塔から逃げて行ったよ。ギルドマスターに居場所がバレちゃったんじゃあ、流石さすがに留まるわけにはいかないよね。ボスだけは、ここでお姉さん達を待つって聞かなかったんだけど」

「そうですか……」

 今後の為にも、本来ならこの場で全員を御用にしておきたかったのだが、一足遅かったようだ。
 悔やまれるものの、幸か不幸かドモスだけはまだここに留まっている。
 団長がいなくなれば、組織は自然消滅することも考えられるし、今は他の団員の行方より、彼を捕らえることに注力すべきだ。

 チラと手の中の砂時計を見る。
 黄金色の砂がもうじき落ち切ろうとしていた。

(……そろそろ十分……。リオナさんのことですから、そう簡単に負けたりするとは思えませんが、場合によっては、リィさんだけを先に逃がすという選択も……)

 リィの髪を撫でる手が僅かに震える。
 それを感じ取ったか、リィがニッコリと微笑ほほえみながら、ミラの手を握り返した。

「……大丈夫だよ、お姉さん。答えはきっとすぐにわかる。それまでじっと、待っていようじゃないか」

「リィ、さん……?」

 彼女の言葉の意味は少しわからなかったが、その琥珀こはく色の瞳には、一切の恐れも不安も映ってはいなかった。
 こんなに幼い少女が毅然きぜんとしているのに、自分だけがビクビクとおびえていたのでは、冒険者として示しがつかない。

 ミラはブンブンと頭を振り、不安を無理矢理払いのけた。

(……信じましょう、リオナさんを! あの人は決して、こんな所でつまづくようなお方ではないはず……!)

 砂時計の上半分が空になる。
 覚悟を決めたミラは、魔力の供給を中断して、展開していた魔法を一息に解除した。

 一瞬にしてき消える暗闇。
 形を失う漆黒のドーム。
 それまで隠されていた内部が明らかになる。
 内壁の亀裂から差し込んだ陽光が、暗闇に閉じられていたその領域を一直線に照らした。



 現れた人影は、たった一人分だけだった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

見捨てられた万能者は、やがてどん底から成り上がる

グリゴリ
ファンタジー
『旧タイトル』万能者、Sランクパーティーを追放されて、職業が進化したので、新たな仲間と共に無双する。 『見捨てられた万能者は、やがてどん底から成り上がる』【書籍化決定!!】書籍版とWEB版では設定が少し異なっていますがどちらも楽しめる作品となっています。どうぞ書籍版とWEB版どちらもよろしくお願いします。 2023年7月18日『見捨てられた万能者は、やがてどん底から成り上がる2』発売しました。  主人公のクロードは、勇者パーティー候補のSランクパーティー『銀狼の牙』を器用貧乏な職業の万能者で弱く役に立たないという理由で、追放されてしまう。しかしその後、クロードの職業である万能者が進化して、強くなった。そして、新たな仲間や従魔と無双の旅を始める。クロードと仲間達は、様々な問題や苦難を乗り越えて、英雄へと成り上がって行く。※2021年12月25日HOTランキング1位、2021年12月26日ハイファンタジーランキング1位頂きました。お読み頂き有難う御座います。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

異世界転生漫遊記

しょう
ファンタジー
ブラック企業で働いていた主人公は 体を壊し亡くなってしまった。 それを哀れんだ神の手によって 主人公は異世界に転生することに 前世の失敗を繰り返さないように 今度は自由に楽しく生きていこうと 決める 主人公が転生した世界は 魔物が闊歩する世界! それを知った主人公は幼い頃から 努力し続け、剣と魔法を習得する! 初めての作品です! よろしくお願いします! 感想よろしくお願いします!

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

処理中です...