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第二巻 第五章 「その異世界人、反攻につき」
第五章 第六節 ~ 帰りを待つ者達 ~
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(リオナさん……!)
無言で佇む漆黒のドームの前で、ミラは魔法の発動と同時にひっくり返した砂時計を両手で握り締め、リオナの安否を案じていた。
リオナ達が≪新月≫に飲み込まれてから既に五分。
外からは一切中の様子が窺えず、音も聞こえてこないので、状況がどうなっているかはわからない。
「………………」
何か手助けしなければと思うが、ドームの外からでは如何なる干渉もできない。
彼女を信じて待つ以外にない現状に、ミラはまるで生きた心地がしなかった。
(……リオナさんの計画では、発動から十分後に術を解除することになっています……。暗闇が晴れた時、そこに立っていた者が、この戦いの勝者……!)
緊張し、手が赤くなる程拳を握るミラの下へ、リィが歩み寄って来た。
不安に揺れる赤い瞳を見上げ、服の裾をチョイチョイと引っ張りながら、
「ウサギのお姉さん……」
「リ、リィさん⁉ 動いて平気なのですか⁉」
「へ? どうしてだい?」
「だって、ドモスファミリーに捕まっていたはずじゃあ……」
「ああ、そのことかい? 大丈夫だよ。別に縛られたりしていたわけじゃないし、乱暴なこともされてないから」
そう言って、ピコピコとキツネ耳を震わせるリィ。
その様子から見ても、彼女が無事なことは明らかだった。
「リィさん!」
「わあ!」
ミラがリィを思いきり抱き締める。
ずっと気を揉んでいただけに、反動で押し寄せる感情が抑えきれなかったのだろう。
もふもふの髪を優しく撫でられて、リィもほっこりと表情を綻ばせた。
リィとの再会を果たしたミラは、ふと気になった疑問を口にした。
「……そう言えば、他の団員達はどうされたのでしょう? 見たところ、このフロアにはドモスとウォーリアしかいないように思いますが……」
「あ、それなら、お姉さん達が来る前に、総出で塔から逃げて行ったよ。ギルドマスターに居場所がバレちゃったんじゃあ、流石に留まるわけにはいかないよね。ボスだけは、ここでお姉さん達を待つって聞かなかったんだけど」
「そうですか……」
今後の為にも、本来ならこの場で全員を御用にしておきたかったのだが、一足遅かったようだ。
悔やまれるものの、幸か不幸かドモスだけはまだここに留まっている。
団長がいなくなれば、組織は自然消滅することも考えられるし、今は他の団員の行方より、彼を捕らえることに注力すべきだ。
チラと手の中の砂時計を見遣る。
黄金色の砂がもうじき落ち切ろうとしていた。
(……そろそろ十分……。リオナさんのことですから、そう簡単に負けたりするとは思えませんが、場合によっては、リィさんだけを先に逃がすという選択も……)
リィの髪を撫でる手が僅かに震える。
それを感じ取ったか、リィがニッコリと微笑みながら、ミラの手を握り返した。
「……大丈夫だよ、お姉さん。答えはきっとすぐにわかる。それまでじっと、待っていようじゃないか」
「リィ、さん……?」
彼女の言葉の意味は少しわからなかったが、その琥珀色の瞳には、一切の恐れも不安も映ってはいなかった。
こんなに幼い少女が毅然としているのに、自分だけがビクビクと怯えていたのでは、冒険者として示しがつかない。
ミラはブンブンと頭を振り、不安を無理矢理払いのけた。
(……信じましょう、リオナさんを! あの人は決して、こんな所で躓くようなお方ではないはず……!)
砂時計の上半分が空になる。
覚悟を決めたミラは、魔力の供給を中断して、展開していた魔法を一息に解除した。
一瞬にして掻き消える暗闇。
形を失う漆黒のドーム。
それまで隠されていた内部が明らかになる。
内壁の亀裂から差し込んだ陽光が、暗闇に閉じられていたその領域を一直線に照らした。
現れた人影は、たった一人分だけだった。
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