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第二巻 第五章 「その異世界人、反攻につき」
第五章 第二節 ~ 一筋の油断 ~
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ダウンしたウォーリアを蹴り飛ばし、距離が開いたところで、リオナは漸く一息吐いた。
二人を一遍に相手取るという数的不利を覆す為、常に動き回って戦っていたのだから、流石のリオナと言えど、多少息が上がっている。
コキコキと首の骨を鳴らす彼女の背後に、大きな気配を感じた。
「……ハッ、まだ諦めてはいねえみたいだな?」
「当然だろう」
ドモスが大剣を構える。
リオナはまだ彼に背を向けたままだが、実力者の彼女なら、振り返らずとも攻撃の気配を察知し、避けるなり反撃するなりの行動を取るだろう。
敵が背を向けているからと言って、迂闊に攻め込むのは悪手である。
ドモスの葛藤を見透かしたように、リオナは彼を挑発した。
「ほら、来いよ。見ての通り、オレは丸腰だぜ?」
「……フ、貴様は手に何も持たぬ状態が一番油断ならない。……が、その挑発、敢えて乗ってやろう!」
ドモスが駆け出す。
重量感のある足音と共に、彼がリオナに接近していく。
リオナはこれまでの戦いで暴いた彼のステータス情報を基に、そこから導き出される攻撃モーションを予想し、渾身のカウンターを打ち込む算段をつけた。
(……まだだ。まだ遠い)
心眼で見るように、背後のドモスの動きを感じ取る。
音、気配、空気の歪み……あらゆる情報から彼の一挙手一投足を脳内でシミュレートし、それに応じる為の最高の機を窺う。
表皮から産毛の一本一本に至るまであらゆる神経を総動員する中で、内心だけは穏やかな水面のように平静さを保っていた。
その内心のイメージの水面に何かが触れ、穏やかだった水面に僅かな波紋が生まれた。
「――≪狭霧流・水滸の理≫!」
それは、相手の攻撃に対するカウンターのみを追求し、その極致を切り拓いた狭霧流の奥義。
全身の神経を研ぎ澄ませ、攻撃が触れる直前に、ほぼ自動的な動作で迎撃する反撃の構え。
集中のあまり、一度構えに入ると集中が途切れるまで自分で解除することはできないという、正にカウンターのみに特化した武技である。
ドモスの振るった大剣がリオナに触れる――前に彼女は立ち位置を変え、ドモスの右斜め下に潜んでいた。
そこはドモスが剣を振った際に死角となる場所で、今この瞬間、彼はリオナの姿を視認できていない。
彼女のカウンターは確実に決まる――
そのはずだった。
リオナの拳がドモスの鳩尾に迫る。
吸い込まれるようにその一点に向けて放たれた拳は、
「ぬうおぉッ‼‼」
「何ッ⁉」
ドモスが強引に引き戻した大剣の腹で阻まれていた。
とてもじゃないが、攻撃を見てから反応できるタイミングではなかったはず。
にも関わらず、彼は本能的な動きだけで、リオナのカウンターを防いでみせたのだ。
受け止められたことには驚いたが、だからと言って思考を止めるような真似はしない。
逆に反撃されることを恐れたリオナは、そのまま力任せにドモスの剣を殴り飛ばし、反動で大きく後退した。
十間弱の間合いに戻ったリオナは、ふぅと息を吐きつつ、呆れたような声音で言った。
「やれやれ、絶対に殺れるタイミングだと思ったんだが……。いい勘してやがるぜ、全く!」
「……フ、褒め言葉と受け取っておこう」
ドモスは大剣をブンと回し、
「……だが、今のタイミングで俺を仕留められなかったのは、貴様にとって致命的だな」
「……何?」
訝しむリオナに、ドモスがニヤリと笑った。
「……既に気付いているぞ。貴様が――あの兎人族を背に守りつつ戦っているということを。貴様は俺達と対峙する時、必ずヤツと一直線上になる位置に身を置いている。そうして自分の身を盾にすることで、俺達がヤツに近付けないように立ち回っているのだ」
「………………」
リオナの表情は変わらない。
この程度で一々狼狽しているようでは、トッププレイヤー同士の駆け引きを勝ち抜くことなどできやしない。
だが、彼の言っていることは事実で、リオナは背筋に冷たいものが伝うのを感じた。
ドモスはそんなリオナの内心を見透かしたように、とびきり低い声で言った。
「……今こうしている間にも、貴様は俺が変な気を起こさないよう見張っているわけだが――そこでダウンしていると思い込んでいるウォーリアはどうかな?」
「ッ⁉ テメェまさか……ッ!」
リオナがドモスの口を封じる為に動く。
だが、いくらレベルが上がったとは言え、流石に20m弱もの距離を一瞬で詰められる敏捷性は持っていない。
彼女の手が届くよりも前に、ドモスはウォーリアに向かって叫んでいた。
「ウォーリアよッ‼‼ 後ろで控えているあの兎人族を狙えッ‼‼」
「グオオオオオォォォォォオオオォォォォオオオオオオ――――ッ‼‼‼‼」
ドモスの声が届くや否や、ダウン状態から復帰したウォーリアはけたたましい雄叫びを上げ、後ろで魔法術式を構成していたミラに突っ込んで行った。
その背中を追って、リオナも慌てて方向を変え、走り出すが、如何せん基本ステータスが違う。
ウォーリアの背中はみるみるうちに遠ざかっていく。
(クソッ……! やってくれたなあの野郎ッ‼‼)
ミラは魔法の構築に集中している。
ウォーリアの急襲に反応できるはずがない。
彼女がいなければ、リオナの作戦は成立しない。
そもそも、守るべき仲間を目の前で失うなど、彼女のプライドが許さない。
(仕方ねえ! ここでアレを使うッ‼‼)
「≪累≫ッ‼‼」
その瞬間、彼女の姿が消えた。
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