初期レベ廃人ゲーマーと獣人少女の異世界終焉遊戯<ワールズエンド・ゲーム>

安野蘊

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第二巻 第四章 「その異世界人、消息不明につき」

第四章 第七節 ~ リオナをたずねて三千里 ~

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 一夜明け、心身ともに万全の状態に整えたミラは、冒険に出る為の装備を固め、ギルドの一室にたたずんでいた。
 昨日とは違って早朝に目が覚めたので、頭はすっきりとえ渡っている。
 頭と身体の同調も申し分ない。

(……よし!)

 覚悟と共にうなずいたミラは、突風の如き勢いで部屋を飛び出した。

 バタンッ!と木の扉が壊れんばかりに開かれる。
 その音に驚いた冒険者が何事かと振り向くが、そこにはもう誰もいない。
 風を追い越す程の速度で走るウサギの姿を目に留められる者はいなかった。

 一陣の風がギルドを駆ける。
 身の危険を感じた冒険者達が慌てて道を空けてくれるお陰で、ミラは気兼ねなく全力を出すことができた。
 避けない者がいるとすれば、それは余程鈍感な人か――避ける必要性を感じないような強者だけである。

「……ん?」

 ミラがギルドの出入り口を出ようとした時、向こうから逆にギルドに入って来ようとする人影があった。

 その人影は見えない程の速度で駆けるミラの姿を捉えると、彼女に声をかけてきた。

「よお、ミラじゃねえか。そんなに慌てて、どっか行くのか?」

 その声に聞き覚えがあったので、ミラは思わず足を止めてしまった。
 飄々ひょうひょうとした様子で佇む彼女に、ミラは言葉を返した。

「あ、リオナさん! 実は、これからリオナさんを探しに≪怪鳥の渓谷≫へ向かうところなのですよ!」

「ほう、そうなのか。あそこはなかなかレベルの高いダンジョンだから、気を付けろよ?」

「はい、ありがとうございます! では……!」

 リオナとの会話を終え、両脚にバネをめたミラは、石畳の舗道を割らんばかりの膂力りょりょくで駆け出し……

(……あれ?)

 ふと違和感を覚えて振り返る。

 何処どこか面白そうな雰囲気をたたえる金眼と目が合った。

「ん? どうした? 行かねえのか?」

「………………」

 たっぶり六十秒程黙り込み、リオナの姿をまじまじと見つめたミラは、

「……い、いたーーーーーーっ⁉ リオナさんいたーーーーーーっ⁉」

「あん? 何だよ、人をそんな珍獣みたいに」

 あきれた顔で金色の後ろ髪をボリボリとくリオナ。
 見覚えのある彼女の癖に、ミラは彼女が他人の空似でも、双子の姉妹でも、ドッペルゲンガーの類でもないことを確信した。 

 全身の震えを懸命に抑え、ミラはリオナにつかみかかった。

「もう、一体何処に行ってたんですかっ⁉ 一言も言わずに消えてしまうなんて! 私、もうリオナさんが一生帰って来ないんじゃないかって、気が狂いそうになったのですよ⁉」

「オイオイ、そんな大げさな。大体、オレが何処に出かけようがそれはオレの勝手で……」

「口答えしない! 私がどれだけ心配して探し回ったと思ってるんですか⁉ 今回ばかりは、リオナさんがきちんと反省するまで逃がしませんよっ‼‼」

「……ちぇッ、聞くウサ耳持たずかよ」

 鬼のような形相で詰め寄るミラに、リオナは仕方なく閉口した。
 彼女としては、ちゃんと目的と算段があっての行動だったのだが、ミラの取り乱し様を見るに、相当心配されていたのだろう。
 怒りに混じって、時折泣きそうな様子で喉を引きらせるミラに、流石さすがのリオナも少しばかり罪悪感を覚えた。

 リオナは一つ溜息ためいきき、諦めたように謝罪の言葉を口にした。

「ハァ……わあったよ、今回はオレが悪かった。こんなことなら、書き置きの一つでも残してくんだった」

「全くです……! ≪ランブの塔≫まで行って見つからなかった時は、もう生きた心地がしなかったんですから……」

 リオナが珍しく素直に謝ったので、ミラもそれ以上の追及はしないことにした。
 スッとリオナの胸倉を掴んでいた手を離し、疲れた力の無い笑みを浮かべる。

「……お帰りなさい、リオナさん……!」

「……ああ、帰ったぜ」

 二人はささやかに笑い合った。

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