初期レベ廃人ゲーマーと獣人少女の異世界終焉遊戯<ワールズエンド・ゲーム>

安野蘊

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第二巻 第三章 「その異形、最凶につき」

第三章 第三節 ~ 碧死眼の魔王 ~

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 MMORPGシェーンブルンには、俗に〝ルインシリーズ〟と呼ばれるモンスターが何種類か存在する。
 その名の通り、冒頭に『ルイン』の名を持つモンスターの総称で、プレイヤー間でも屈指の知名度を誇る。

 だが、ルインシリーズが著名な理由は、名前が特徴的で覚えやすいなどという短絡的なものでは決してない。
 一度でもルインシリーズと戦ったことのあるプレイヤー達は皆、畏怖と畏敬をもってその名を口にする。

 ルインシリーズは、唯の一つの例外もなく、強力なステータスと固有のスキルを持ち、これまで数えきれない程のプレイヤー達を葬ってきた正真正銘の化物なのである。

 その中の一体、〝ルイン=コバルト・ウォーリア〟は≪ランブの塔≫第30層に座するボスであり、ある程度ゲームに慣れた中級者が最初につまずく定番のポイントとなっている。
 今でこそトッププレイヤーとして名をせるリオナだが、彼女もゲーム序盤で、このモンスターに苦戦を強いられた苦い記憶がある。

 そんな因縁とも言える強敵を前に、リオナは次の行動を慎重に考えていた。

(……アオヤギの適性レベルは45以上……オレは勿論もちろんのこと、ミラですら届いてない可能性が高い。加えて、メンバーもアイテムも体力も、何もかもが不足している。真っ当に戦って勝てる可能性は……まずないな)

 隣で震えるミラをチラリと見る。

 ここまで冒険を共にして、彼女の実力はある程度わかってきた。
 推定レベルは40程度。
 この世界でレベル40というのはそこそこの実力者らしく、プレイヤースキルは見かけのレベルよりも高い。
 兎人族アルミラージらしい高い敏捷性びんしょうせいかし、〝潜伏〟や状態変化魔法を多用するサポートキャラだ。

 しかし、根本的に臆病な性格で、咄嗟とっさにモンスターに狙われたりすると、恐怖で判断が鈍ってしまう。
 いつ敵に襲われるともわからない冒険者にとって、それは致命的な弱点だ。

 そんな彼女をウォーリアと戦わせるのは、あまりに危険だった。
 特にウォーリアは特殊行動が多く、咄嗟の判断が求められる。
 それら全てを伝えている時間は無いし、狙われたが最後、彼女では太刀打ちできない。

(……なら、どうにかして逃げねえとな。ったく、天井をぶち抜いて上層のボスを下層に落とすとか、無茶苦茶過ぎんぞ。運営には大クレームだな)

 もっとも、この世界には抗議すべき運営も、コンタクトを取る為のお問い合わせフォームもありはしないのだが。

 悪態をくリオナの隣で、ミラはじっと目の前のモンスターを凝視していた。
 恐ろしい見た目をしているが、目をらすわけにはいかない。

(……目を離した瞬間に、られる……っ!)

 緊張するミラの視界の中で、着地後の硬直から復帰したウォーリアが、ゆっくりと動き出した。
 目の前に現れた獲物を認めると、ウサ耳をつんざくような咆哮ほうこうを上げながら、緩慢な動きで体重を前に傾け、右足から順に地面を蹴飛ばして、ゆっくりと目的の獲物目掛けてその手を伸ばし――



 ウォーリアの鋭い爪がすぐ目の前まで迫っていた。



「……ぁ」

「ボサッとしてんじゃねえッ‼‼」

 怒声を上げたリオナが、タックルでミラの身体を思い切り吹き飛ばした。
 二人してもつれるように地面を転がる。
 ミラに覆い被さるリオナのネコ耳にウォーリアの手刀がかすった。

 そのまま車輪のように転がったリオナとミラは、ウォーリアの間合いから逃れたところでようやく立ち上がった。
 パンパンと衣服に付いたすなぼこりはたきつつ、リオナが、

「……ミラ、オマエは下がってろ。アレと戦うには分が悪すぎる。オレが足止めしてる間に、どうにか脱出方法を考えろ」

「そ、そんな! リオナさん、またお一人で……」

「平気だ。あんな暴れるしか脳のねえヤツに負けるつもりなんざ、1ミリたりともありゃしねえよ!」

 ニヤリと悪戯いたずらっぽく笑うリオナ。
 勝算はなかったが、それを顔に出す彼女ではない。

 ミラは一瞬逡巡しゅんじゅんしたのだが、咆哮を上げるウォーリアの姿を見て、身がすくんでしまった。
 恐らく、自分ではアレに勝てない。
 それを本能的に悟ってしまった彼女は、震える足で身を翻し、その場を後にした。

(ごめんなさい、リオナさん……! どうかご無事で……っ‼‼)

 ヨタヨタと走り去って行くミラの背中を見送りながら、リオナはウォーリアと対峙たいじした。

「……さて、と! テメェにはゲームあっちで随分世話になったからなあ……! あん時の借り、返させてもらうぜッ‼‼」

 拳をかち鳴らし、鋭い犬歯を剝き出しにして笑うリオナの金眼は、新しい玩具おもちゃを前にした子供のように、爛々らんらんと輝いていた。

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