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第二巻 第三章 「その異形、最凶につき」
第三章 第二節 ~ 絶望は瓦礫と共に ~
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次々と第20層へ降り注ぐ巨大な瓦礫。
それらをピョンピョンと跳び回って躱しながら、ミラは狼狽した声を上げた。
「な、一体何が……っ⁉」
その隣で、同じように瓦礫の雨を避けていたリオナが、
「さあな⁉ だが、何かしやがったのは間違いねえだろうよッ!」
ドモスが天井目掛けて投げた物――
あれは〝火の結晶〟だったのだろう。
そして、天井にも予め結晶が仕掛けられていて、連鎖的に大爆発を引き起こした、というのが、リオナの予想だった。
だが、そんなことをすれば、同じフロアにいる彼ら自身もタダでは済まないはず……
(単なる自爆技か? ……いや)
そこで、リオナは一つの可能性に思い当たった。
(……10層毎に設けられているボス部屋は、全て垂直線上に並んでいる。つまり、今オレ達がいる第20層の真上は、第30層に繋がってるってことだ。ということは……)
リオナの想像が一つずつ、パズルのように、音を立てて組み合わさっていく。
そして、その想像は珍しく――本当に珍しく、リオナの焦燥感を煽り立てた。
「オイ、ミラ。今すぐこのフロアから脱出しろ」
「……え?」
「いいから言う通りにしやがれッ‼‼」
ミラがビクリと身を震わせる。
今この場で起きている事態より、リオナの剣幕に怯えた様子であった。
「し、しかし、盗賊達は……」
「んなもん後回しだッ! テメェだけでも早く――」
その声がウサ耳に届かぬうちに、瓦礫に混ざって落ちて来た巨影が第20層のフィールドへ着地し、広間全体を激しく揺らした。
弾みで積み上がっていた瓦礫の一部が崩れ、第19層へ降りる階段が塞がれる。
退路は断たれてしまった。
(チッ……そんな王道展開アリかよ……!)
内心で舌打ちしながら、落ちて来たモノの正体を見遣る。
せめてその予想だけでも外れてくれれば……と期待したが、
「……何ですか、あれ……?」
瞳を揺らしながら、同じくそれを見つめていたミラが問う。
それは、目測で体長3m強はある巨大な山羊だった。
体色は不気味な青。
人のように後ろ足二本で屹立し、だらりと垂れたひょろ長い腕と、その先に鋭い爪の生えた手が備わっている。
尻尾は硬質な鱗で覆われており、先が二又に分かれていた。
それらの特徴だけでも、それが異形の存在であると理解するのに十分過ぎたが、更に一点、額の中心に埋め込まれた禍々しい瞳が、人の理解の範疇を超えたそれの醜悪さをより鮮烈に物語っていた。
正しく正体不明。
そんな怪物を前にして、ミラは極寒の地にでもいるかのように、身と声とウサ耳を震わせていた。
それの正体はわからない。
理解もできない。
だが、恐怖だけは心の奥底に刻まれている。
リオナは苦虫を噛み潰したような顔をして、その怪物の名を呟いた。
「……〝ルイン=コバルト・ウォーリア〟――別名〝碧死眼の魔王〟! 一般モンスターでありながら、あまりの強さ、理不尽さ故に『魔王』と呼ばれ恐れられた――最悪のクソモンスターだ……ッ!」
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