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第二巻 第三章 「その異形、最凶につき」
第三章 第一節 ~ 天衝く笑声 ~
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「や……やった! やったのですよーーっ‼‼ リオナさんの勝利ですーーっ‼‼」
満面の笑みで、ピョンピョンと飛び跳ねるように走り寄って来るミラに、リオナは、
「そい」
「フギャアっ⁉」
ミラが飛びついて来る直前、彼女の顔面に反射的にアイアンクローを繰り出していた。
獅子人族の怪力が彼女の頭をギリギリと締め上げ、ギリギリギリギリギリギリと……
「い、いだだだだだっ⁉ ちょ、リオナさんっ‼‼ 本気で痛いですから離し――」
「ああ」
ふと我に返ったリオナがフッと右手の力を抜く。
突然の解放に不意を突かれたミラは、着地に失敗して思い切り尻餅を突いた。
「あうっ⁉ うぅ、痛いのです……というか‼‼ 乙女の顔にいきなりアイアンクローを決めるとはどういう了見ですかっ⁉」
「すまん、無意識だった」
「あ、そうですか。無意識なら仕方ない……ってなるかアァァァーーーーっ‼‼」
ビシビシビシビシと両ウサ耳による往復ビンタが飛んで来る。
それらをひょいひょいと躱しつつ、リオナは悪びれなく笑った。
「まあ、落ち着けよ! 減るモンじゃねえんだし!」
「いいえ減りました‼‼ 体感2ミリくらい頭蓋骨がヘコみましたっ‼‼」
「……小顔効果?」
「やかましいっ‼‼」
フィニッシュと言わんばかりに渾身のウサ耳が叩きつけられる。
聞き慣れた快音を響かせる彼女達の下へ、リィがおずおずと近付いて来た。
「ア、アタイ、夢でも見てるのかい……? あのボスが地に倒れ伏しているなんて……」
「どうした、狐ロリ? そんな狐につままれたような顔して?」
「……い、いや、ちょっと信じられないな、って……。だって、あのボスだよ? メチャクチャ強いんだよ?」
「なら、オレはハチャメチャに強かったってことだな!」
「……殺しちゃったの?」
リィの声に含まれる緊張が増した。
努めて感情を押し殺しているようだが、心の底から湧き上がる不安を抑えきれず、大きな琥珀色の目が泳いでいる。
リオナはいつもと何ら変わらぬ飄々とした調子で、
「いんや、命までは奪ってねえよ。アイツは悪党かもしれんが、そいつを裁くのはオレの仕事じゃねえからな」
「……そ、そう」
リィはホッとしたように息を吐いた。
ミラは何も言わなかったが、内心では、大事な仲間が人殺しにならずに済んだことに安堵していた。
「……とは言え、彼らは間違いなく罪人です。今この場で全員を捕らえて、ギルドまで連行します!」
安堵したのは一瞬。ミラはすぐに気持ちを切り替え、他の団員達を捕らえるべく、ダガーを引き抜いた。
見た目は可愛らしいものの、彼女とて熟練の冒険者である。
そんな彼女の殺気を向けられ、団員達は警戒心を露わにして臨戦態勢を作った。
が、ドモスに対して全面的な信頼を寄せていた団員達は、彼が倒されたことに動揺を隠しきれず、武器を持った手を震わせたり、身を強張らせたりしていた。
ダガーを構えたミラがじり……と団員達に詰め寄る。
団員達がたじろぎ、脂汗を滲ませながら半歩下がった。
両者の距離は十間程。ミラの魔法なら一網打尽にできる。
そうして、ミラが得意の結界魔法を発動させようと身構えた――その時だった。
ボス部屋の一角から、低く、野太い笑声が一同の鼓膜を震わせた。
「……フ、フクク……ハッハハハハハハハハハハッ‼‼」
「⁉」
広間にいた全員が笑い声の出所に目を向ける。
笑っていたのは、地に倒れ伏したままのドモスだった。
仰向けに寝そべり、天井に吐き捨てるように、高らかな哄笑を上げる。
気でも触れたのではないかと思える程高笑いする彼に、ミラは怪訝な視線を送った。
「……何が可笑しいのです?」
「フ、ハハ……! いや傑作だ! たかが冒険者になって一週間程度の小娘が、タイマンでこの俺に勝つかよ……ッ! ハッハハハ!」
「リオナさんはいずれ魔王をお倒しになるお方です。あなたのような盗賊風情が敵う相手ではありません!」
鋭い視線で睨むミラの前で、ドモスが漸く起き上がる。
足を投げ出した姿勢のまま、
「フ……そうか、魔王を、か……。それなら、まあ負けたのにも納得がいく」
「でしたら、無駄な抵抗はやめて、大人しくギルドまで――」
そこで、ドモスが不敵な笑みを浮かべた。
さっきまで何処か清々しい雰囲気であったのが一転、昏い光を瞳に宿して、ミラ達を睨み返す。
腹を据えたような気配に、ミラは何か嫌な予感がした。
立ち上がったドモスは、天を見上げながら、静かに言った。
「……だがな、俺は――俺達は、絶対に負けることは許されねえ! そうでなきゃ……強さを証明していかなきゃ、この糞溜まりみてえな世界で生きていくことはできねえ……! だから、俺達を倒したお前達には何としても――ここで消えてもらうぞ……ッ‼‼」
「っ⁉」
魔力が満ちると同時、ミラが秘かに準備していた魔法を瞬時に発動させる。
淡い半透明の結界がドモスを中心に形成され、盗賊達を一まとめに内部に閉じ込める。
しかし、その行動は僅かに遅かった。
元々、第20層はドモスファミリーが獲物を誘い出し、仕留める為の狩場だ。
ボス戦を終え、疲弊した冒険者に、団員総出で襲いかかる。
それ以外にも、様々な状況を想定して仕掛けられた細工がいくつも隠されている。
結界が完全に閉じ切る直前、ドモスが何かの物体を天高く放り投げた。
赤い煌めきを持ったその物体は、ホームランボールの如き勢いで高く高く舞い上がり、彼らの頭上、第29層の天井に着弾する。
そして――
ダンジョン全体を揺るがす大爆発が一同の獣の耳を襲い、上空から暴雨の如き瓦礫と、それらを覆う巨大な何かの影が落下して来た。
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