68 / 112
第二巻 第二章 「その巨塔、予測不能につき」
第二章 第十節 ~ さらなる奥地を目指して ~
しおりを挟む☯
嫌な気配の消えたボス部屋で、ミラがホッと息を吐いた。
倒れた石柱に割れた地面が、激しい戦いのあったことを物語っている。
この戦いで誰一人欠けることなく生存できたことを、心の底から嬉しく思った。
武器を収めたリオナが、軽薄な笑みを浮かべて近寄って来た。
「終わったな」
「そうですね……。でも、リオナさん? さっきわざと鋏の間合いで戦っていたでしょう? リオナさんは一撃でも攻撃を喰らえば致命傷になり得るのですから、ああいう危険なことはもう二度と……」
「別にいいじゃねえか。普通に勝ったってつまらねえだろ? パターンのわかり切ってる相手だったんだし、どうせなら完封勝利して……」
「そういう慢心がダンジョンでの死に繋がるのです! 私としてはリオナさんを死なせるわけにはいかないのですよ! 世界の命運がかかっているということをお忘れですか⁉」
「勝手にかけたのはオマエだろ」
そうして言い合う二人の間に、赤褐色の三角耳がぴょこんと生えた。
「まーまー、お姉さん達! ボスは倒せたんだからいいじゃないか! ほら、収穫もこんなにたくさん……‼‼」
リィがスコーピオンからドロップした大きな魔晶石を両手で抱え上げた。
僅かな光を反射し、紫色の燐光を放つ様子は、モンスターから採れたとは思えない美しさだ。
「こんだけ大きければ、換金して10万ロンドくらいにはなるんじゃないかな? 普通なら5~6人のパーティーで山分けするトコだけど、アタイ達はたったの三人! 一人3万ロンド以上の儲けになるよ!」
「オイ、何ナチュラルに三人で山分けしようとしてんだ。オマエ、報酬は無くていいって言ってたろ」
「うぅー、そんな殺生なこと言わないでおくれよー! 確かに、報酬はタダでもいいとは言ったけど、こんだけの収穫があると多少は欲しくなっちゃうんだよー‼‼」
「ふふ、心配しなくても、ちゃんと報酬はお支払いしますよ」
「本当かい⁉ 約束! 約束だからね‼‼」
ケラケラと笑い合う一同。ボスが倒れ、平和な時間が戻って来た感じだ。
飛び跳ねて喜んでいたリィは、それから瞳を輝かせて言った。
「……それにしても、お姉さん達すごかったねえ! あのギガスコーピオンをたった二人で倒しちゃうなんてさ! こんなに強い冒険者、アタイ初めて見たよ!」
「どうもありがとうございます! ……実は、こちらのリオナさんはまだ初期レベルで、今日が初めてのダンジョン攻略だったのです。なので、クリアできるかどうか不安だったのですが……。無事ボスのフロアまで辿り着けてホッとしているのですよ!」
「……へえ、初期レベル、ね……。それはすごいねえ!」
「何だ? ミラ、オマエ、オレのこと信用してなかったのかよ?」
「い、いえ、そういうわけではないのですが……!」
「ハン! オレがこの程度のダンジョンでくたばるわけねえだろ? こんなの蠕動運動にもなりゃしねえよ!」
犬歯を剝き出しにして獰猛に笑うリオナ。
いくらレベル1に戻されたとは言え、ゲームをやり込んだ彼女にとって、適正レベル15程度のボスなど相手にならなかった。
彼女に睨まれそうになったミラは、慌てて話を切り上げた。
「さ、さて! 目的のフロアまではクリアできたわけですし、今日はこの辺りにして帰りましょうか!」
「そうだな。不完全燃焼ではあるが、今日は大した準備をして来てないし、続きはまた今度にするか」
「……おや、もう帰ってしまうのかい?」
「え?」
リィがミラの瞳を真っ直ぐ見て、言った。
「お姉さん達の実力なら、まだまだ先まで進めるだろう? もっとたくさん稼いで行ったらどうだい?」
「で、ですが、今日は第10層までの予定でしたから……」
「勿論、アタイも全力でサポートするとも! 正直、これ程の実力者に同行できる機会は稀でね。アタイもこの機会に、存分に稼いでおきたいのさ!」
「そんなこと言われましても……」
「大丈夫、お姉さん達なら絶対行ける! 第22層まで行ったことのあるアタイが保証するよ!」
薄い胸をトンと張り、自信ありげに笑うリィ。
彼女の期待の視線に、ミラは戸惑った。
(ど、どうしましょう……。第15層までならどうにか行けるかもしれませんが、そこから先は中級者向けのフロアです。レベルは兎も角、人数が……)
中級者向けのフロアになると、それまでと比べて出現するモンスターの種類がガラリと変わり、遭遇率も大幅に高くなる。
適正レベルは20以上となっているが、それよりも、十分なパーティー人数がいなければ、頻繁に襲い来るモンスターを倒し切ることができず、数で押し切られてしまう。
その危険性を、ミラはよく理解していた。
安全が第一の彼女は、この先に進むことに断固反対である。
しかし、それをリィにどう伝えたものか……
悩んでいるうちに、リオナが口を開いた。
「まあ、いいんじゃねえのか? 道中でドロップアイテムも入手できたし、もうちょい進む分には、問題ねえだろ」
「そ、そんな、危険です! ダンジョンマップすら持って来てないのに……」
「マップならここに入ってるさ」
トントンと自分の金髪の頭を人差し指で叩くリオナ。
彼女はこの世界に来たばかりだし、ダンジョン内部のことなど知らないはずだが、どうしてか、彼女が嘘を言っているようには見えなかった。
(……考えてみれば、宝箱やトラップの在り処を知っていたのも……)
理屈はわからないが、彼女はダンジョン内の構造を熟知している。
それを前提に攻略の仕方をシミュレートした結果、第15層――頑張れば、第20層のボスまでは辿り着けるかもしれない、とミラは脳内で結論づけた。
「……はぁ……わかりました。もう少しだけ進んでみましょう」
「やったー‼‼」
「へ、そう来なくちゃあな!」
「ただし! 私が危険だと判断したら、その時点で引き返しますからね! これだけは絶対に守ってください‼」
渋々といった様子で、第10層から先への進出を決める。
自分も知らない場所ではないし、何かあってもすぐ逃げればよい。大した問題は起こらないはず――とこの時のミラは思っていた。
果たして、鬼が出るか蛇が出るか、はたまた未知のモンスターが飛び出すか。
一同は秘めたる覚悟を胸に、≪ランブの塔≫第11層へと足を踏み入れた。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
友達の妹が、入浴してる。
つきのはい
恋愛
「交換してみない?」
冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。
それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。
鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。
冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。
そんなラブコメディです。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません
青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。
だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。
女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。
途方に暮れる主人公たち。
だが、たった一つの救いがあった。
三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。
右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。
圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。
双方の利害が一致した。
※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる