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第二巻 第二章 「その巨塔、予測不能につき」
第二章 第一節 ~ 新装備 ~
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三日後、リオナ達は再び〝リリアンズ・テーラー〟に足を運んでいた。
リリアンに頼んでいた冒険者用の衣服を受け取る為である。
ファッションには興味の無いリオナだが、この後に予定しているダンジョン攻略が待ち遠しくて、何処か浮足立っていた。
「思ったよか、早かったな」
「ええ、だから申し上げたでしょう? リリアンさんの仕事は早くて安くて上手いのだと」
「仕事の出来はまだ見てねえけどな」
そのうちに、路地裏にひっそりと佇む古ぼけた店の看板が見えてきた。
相変わらず商売する気があるのかないのか、店は薄暗い雰囲気を漂わせている。
リオナは店の入り口の前に立つと、
「≪白式・翔龍――」
「させますかアアァァァッ‼‼」
渾身のハイキックを繰り出そうとしたリオナを、ミラがすんでのところで阻止した。
≪ムーンショット≫をこれでもかと言う程乱射し、全力で彼女を扉の前から引き剥がす。
「どうしてリオナさんは穏やかに扉を開けることができないんですかっ⁉」
「いや、毎度毎度気になってたんだ。どうしてゲームの主人公ってのは、どいつもこいつも行儀良く扉を開けるんだろうな? 壊しゃあ手っ取り早いだろうに」
「その発想に至る人がいなかったからでしょう……。扉の存在意義を考えてあげてくださいよ……」
これ以上弁償費を出捐しない為にも、ミラはそそくさと店の扉を開けた。
中では、彼女達の外でのやり取りなどつゆ知らずといった様子で、リリアンが呑気に二人を待ち構えていた。
別に彼女が悪いわけではないのだが、ミラはそのほえほえした顔を若干恨めしく思ってしまった。
「お二人共お待ちしていましたよ~! 準備はできてますから早速試着のお時間といきましょう!」
「……ええ、お願いします。……できれば、自由奔放な異世界人の動きを封じられる拘束具的な感じのものだとありがたいのですが……」
「? でもそれじゃあ戦えなくなってしまうでしょう?」
「デスヨネ……」
ミラが乾いた笑い声を上げるそばで、リリアンが完成した衣装を持って来た。
「Tシャツはボディラインを強調する為にピッタリとした作りにしてありますが伸縮性に富んだ素材なので動きの妨げになることはないでしょう。よく鍛え上げられた腹筋をチラ見せするのもワンポイントです! 下は今回はミニスカートを採用。スパッツと合わせてこちらも動きやすさと解放感を重視しました! 上下とも単色のシンプルな作りなのでスカートにはプリーツを入れておしゃれと可愛らしさをプラスです! 機動性は勿論のことどんな装備にも合うデザインとなっています。どうぞお試しください♪」
「ふむ」
225文字に及ぶリリアンの説明を右ネコ耳から左ネコ耳に軽く聞き流し、衣服を受け取る。
そのまま着替えようと、自身が今着ているパーカーの裾に手をかけると、
「ちょ、リオナさんっ⁉ いくら何でも、人前でいきなり着替えるのは如何なものかと⁉」
「あん? 別に女同士なんだからいいだろ?」
「よ、良くありません! ちゃんとあちらに試着室があるのですから、そちらへ‼‼」
「チッ、面倒臭えな……」
一緒に温泉まで入った仲だが、それとこれとはまた話が別らしい。
どうもその辺の女性の感覚は、今のリオナにはよくわからなかった。
渋々試着室へ向かい、手早く着替えを済ませる。
五分と経たないうちに、新しい服に身を包んだリオナが戻って来た。
それを見て、ミラとリリアンが揃って感嘆の声を上げた。
「どうだ?」
「ふふ、流石はリリアンさんです! この短時間でこんなにも素晴らしい衣装を作ってくださるとは!」
「素材が良かったのよ~! リオナちゃんを見た瞬間にわたくしの中の美少女センサーがビビビッ!って反応したんだから~♪」
「ささ、リオナさん! 早くこちらへ! とってもよくお似合いですよ!」
ミラに促されるまま、姿見鏡の前に立ってみる。
そこには、飾りっ気のない黒のパーカーとハーフパンツ姿の自分ではなく、きちんとコーディネートされた一人の女性が立っていた。
「……まあ、悪くねえんじゃねえの?」
凝った衣装ではないものの、少なくともゲームでよく見るヒロインくらいの可愛らしさにはなった気がする。
身体のあちこちが外気に撫でられ、無防備な感じがしないでもないが、それもそのうち慣れるだろう。
(……まさか、このオレが女物の服を着ることになろうとはな)
新天地を垣間見たかのような心地になっているリオナのそばで、ミラとリリアンが食い入るようにリオナの姿を眺め、頬を上気させていた。
「う~んいいですねえ~! 戦う女性の美しさと獅子の野性味が表れています!」
「そうですねー! この服なら、ニーハイソックスなんかを合わせると良い感じでしょうか? 絶対領域が際立って可愛らしさアップです!」
「フィンガーレスグローブやジャケットと合わせてよりワイルドに仕上げるのもおススメですよ~!」
「あ、その手がありましたか! お金が貯まったら、防具屋さんで買い足してみましょうかねえ~?」
「トレンチコートなどを羽織ることで大人っぽさを演出することもできます♪」
「なるほどなるほど……。若々しくキュートなリオナさんに、ワイルドでカッコいいリオナさんに、大人っぽく色気のあるリオナさん……どれも違った魅力がありそうです!」
「オイ、そこの女性陣」
キャッキャと騒ぐ彼女達に、リオナは溜息を吐いて呆れた視線を向けた。
互いにリオナに似合いそうなファッションを想像する彼女達の様子を見ていると、着せ替え人形にでもされた気分だ。
リオナの全身を隈なく観察していたリリアンが言った。
「サイズ感とかどうですか~? もう少し緩くして欲しいところとか逆にきつくして欲しいところとか~」
「いんや、特に問題は無え。動きやすさ抜群だぜ!」
太極拳らしき動きをしながら答えるリオナ。
まるで意思を持っているかのように彼女の動きに合わせて伸び縮みする衣服に、彼女は大満足だった。
彼女の答えに頷いたリリアンは、
「ではそちらに合わせて仕上げましょう! 魔術付与は攻撃系と防御系、速度系などありますがどう致しますか?」
「攻撃系――と言いたいトコだが、この過保護なウサギが防御系にしろとうるさくてな」
「当然です! 冒険者なら不要なリスクは避け、十分に安全マージンを取るべきです!」
「んなもんわかってらぁ」
いくら自信家のリオナでも、死亡する可能性くらいは考えている。
恐らく、この世界でHPが0になれば、本当に命を落とす。
それを怖いと思ったことはないが、安全を第一にすべきというミラの意見には、概ね賛成であった。
二人のやり取りを微笑ましく見守っていたリリアンは、作製した衣服とその代金を書き込んだ伝票を一枚千切ってミラに渡した。
「それじゃあこれ今回のお代ね」
「はい――って、こんなにお安くしてもらっちゃっていいんですか⁉」
「いつも贔屓にしてもらってるサービスよ~♪ それにリオナちゃんを存分に間近で拝ませてもらったし。その時点でもうお代は貰ってるようなものよ~!」
「ふふ、わかりました。そういうことでしたら、お言葉に甘えさせて頂きます!」
「壊れたり直して欲しい所があったりしたら遠慮なく持って来てね~」
「ああ」
服が揃えば、いよいよダンジョン探索に出かけられる。
リリアンの魔術付与が終わり、ついでに先日買った剣と防具も装備したリオナは、ボールを追いかける猫の如き勢いで店を飛び出した。
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