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第二巻 第一章 「その異世界人、買い物につき」

第一章 第十節 ~ 影との戦い ~

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     ☯

 こちらの勝利条件は既に決まっている。
 なら、後はその条件を満たす為にどう動くかだ。

(その為には、できるだけ早く目の前のナイフ野郎を突破して、ミラと合流しなきゃならねえ。オレが無理矢理ヤツらを倒しちまってもいいが、ミラには何か考えがあるみたいだしな……たまには、アイツに花を持たせてやってもいいか)

 自らの役割と取るべき行動を確認すると、リオナは早速行動に移した。

「そらいくぜッ‼‼」

 まずは、強引に正面突破ができないか試してみる。
 影に潜るナイフ使いとの距離を詰めるべく、右へ左へと蛇行しながら駆け出した。
 当然のように、相手も接近を防ぐ為に投げナイフで牽制けんせいしてくるが、的を絞らせないリオナの動きに対応しきれていない。

「ハッ!」

 投げナイフの充填の隙を突き、跳躍して一気にナイフ使いとの距離を詰める。
 そのまま落下の勢いに任せて、強烈な手拳を繰り出すが、

「≪影討ち≫」

 ナイフ使いはスキルで影の中に潜り、リオナの攻撃をかわした。
 相手を討ち損ねた拳が民家の壁に派手な亀裂を生む。
 別の影から姿を現したナイフ使いの投げナイフが飛んで来て、リオナは慌ててその場から飛び退いた。

「ふう、やっぱ影に潜って逃げられちまうか」

 一息いたところに、今度は手斧ておの使いの一撃が飛んで来る。
 横ぎに繰り出されたその攻撃を、リオナはバク転で躱した。
 距離を開けようとするリオナに、次々と投げナイフによる援護射撃が襲い来る。

(コンビネーションも抜群だな!)

 斧、ナイフ、ナイフ、斧、ナイフ、ナイフ、ナイフ、斧、ナイフ……
 絶え間なく繰り出される連撃に、リオナは内心で舌を巻いた。
 だが、幾千幾万の戦いを制してきた無敵の〝獣王〟が、この程度の攻撃で大人しくなるはずもない。

 リオナは盗賊達の猛攻を回避しながら、獅子人族ライオネルの怪力で石畳の一部を剥ぎ取ると、その破片を無造作に盗賊達に投げつけた。

「オラ、褒美だぜッ!」

 散弾となって飛来する石の破片に、流石さすがの盗賊達も攻撃の手を止めざるを得なかった。
 影に潜り、あるいは手斧で打ち落として、それぞれリオナの攻撃を防ぐ。
 その間に、リオナは手斧使いの間合いから脱出し、次の攻撃の準備をした。

(影使い相手となりゃあ、やっぱこいつかな。使わないに越したことはなかったんだが、ちょいと正面突破はキツそうだからな)

 ポケットの中から、とあるアイテムを取り出す。
 それを握りしめ、再び盗賊達に向かって突貫する。

 目標はナイフ使いの男。
 しかし、その前に手斧使いが立ち塞がった。

「≪ブレイバー≫ッ‼‼」

 大上段から高威力の振り下ろしを繰り出す剣スキル≪ブレイバー≫。
 闘技場でコリエという剣士が使用していたが、重量系の刃物であれば、剣でなくとも使用できる。

 防御ごとたたき斬らん勢いで振り下ろされる盗賊の手斧。
 無骨な刃が迫るのを常人離れした動体視力で目視しつつ、リオナは盗塁王をもしのぐ美しいスライディングで、大柄の手斧使いの股下を抜けた。

「よっ、と!」

「ッ⁉」

 手斧使いが驚愕きょうがくする気配が伝わる。
 それに気を留めることもなく、リオナは一目散にナイフ使いの下へと駆け出した。

 距離を縮めるリオナに、ナイフ使いは鋭い視線で迎撃の構えを取る。
 投げナイフは効かなかったので、今度は近接戦を挑むつもりなのだろう。
 リオナ相手には一見悪手とも思えるが、ナイフ使いには影潜りのスキルがある。
 近接戦に優れたリオナとも互角に渡り合えるはず――

 そんなナイフ使いの期待を、リオナはあっさりと打ち破った。

(ここだッ!)

 握りしめていたアイテムを地面に叩きつける。
 パリンという何かが割れるような音が小さく響き、リオナの目の前に透明なレンズ状のシールドが現れる。
 それが何であるかは、その場にいる全員が知っていた。

「……〝光の結晶〟? 一定時間魔法攻撃の威力を半減させる光の壁を作り出すアイテム……。それが何だと……」

 ナイフ使いに対して、魔法攻撃減少のアイテム。
 その意味がわからず、ナイフ使いは困惑したが、リオナは構わず突っ走って来る。
 折角作った光の壁を放置して、だ。
 彼女の狙いが気になるところだったが、向かって来る敵を迎撃しないわけにもいかない。

 ナイフ使いは両手にナイフを構え、彼女の裏をくべく再び影に潜り――

「ッ⁉」

 そこで気付いた。

 自らのスキル≪影討ち≫の効果が消えていることに。

 その理由を探して足元を見たところで、その原因と同時に、彼女の真の狙いについても理解が及んだ。

 結晶で作り出される光の壁は、透明でレンズのように湾曲した形状をしている。
 その疑似的なレンズが路地裏に差す太陽の光を屈折させ、ナイフ使いの足下を照らしていた。
 結果、太陽光に照らされた地面は影を失い、影潜りのスキルが使用できなくなっていたのだ。

(なんと柔軟な発想……ッ‼‼)

 遂にナイフ使いとの距離を詰めたリオナがニヤリと笑う。

「影使いの弱点は、影がなきゃ無力だってトコだ」

 リオナの蹴りがナイフ使いの頭蓋を打ち抜く。

 軽い脳震盪のうしんとう気味になってよろめいたナイフ使いの脇を、リオナは華麗にすり抜けてミラの下へと駆けて行った。
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