初期レベ廃人ゲーマーと獣人少女の異世界終焉遊戯<ワールズエンド・ゲーム>

安野蘊

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第二巻 第一章 「その異世界人、買い物につき」

第一章 第七節 ~ ダンジョン ~

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     ☯

「要するに、コイントスを決闘の内容とした時点でオレの勝ちは決まっていたってわけだ」

「あ、有り得ない有り得ないのです有り得ないのですよ……コイントスの結果を全てピタリと言い当てられるなんて、そんな……そんなことって……」

 隣の席に置かれた薬草の一杯詰まった袋をポンポンと上機嫌にたたくリオナの前で、ミラはどんよりとうわ言のようにつぶやいていた。

 予算が浮いたのは、ミラにとってもうれしいことだ。だが、

「うぅ、魔王復活の予言を受けた時の私ですら、あそこまで絶望的な顔はしていなかったのですよ……。店主さん、大丈夫でしょうか……?」

 店を出て来る際にチラリと見えた少女の泣き顔を思い出しながら、ミラは目の前に置かれたコーヒーカップを口に運んだ。

 一通り買い物を終えたリオナ達は、昼食を取る為に、街の飲食店を訪れていた。
 有名店ではないようだが、お昼時だけあって、店内はそれなりのお客でにぎわっている。
 リオナは〝カニバルフィッシュのソテー〟を注文し、未知の味を堪能した。

 食後のコーヒーを飲み干し、気持ちを切り替えるようにして、ミラは言った。

「さて! 私達はこれから冒険者の基本的な職務となるダンジョン攻略に挑んでいくわけですけども! 〝ダンジョン〟については、リオナさん、ご存知ですか?」

「ああ……この世界のものでないヤツも含めてな。
 〝シェーンブルン〟におけるダンジョンは、地形が固定で、宝箱の中身や各フロアに出現するモンスターの種類も変わらない。だが、モンスターの出現ポイントだけはランダムであり、いつ、何処どこで、どのモンスターが襲って来るかはわからない。挑戦者は常に敵の襲撃に備えながら、できるだけ最短ルートを辿たどって、最深部を目指すのが基本だ」

「ええ、その通りです。最深部への道はマップでわかっていますから、場合によっては、モンスターを避けながら、一度も戦闘をせずにクリアすることも可能です。――唯一つの例外を除いて」

「〝ダンジョンボス〟のことだな?」

 ミラがこくりとうなずく。

「はい……。ダンジョンの決まったフロアには、強力なボスモンスターが配置され、次のフロアへの進出を阻む大きな壁となります。一度倒してしまえば、再出現にはしばらく猶予がありますが、きちんと対策を練ったパーティーを組まないと、打倒は難しく……」

 MMORPGシェーンブルンに登場するボスは基本的にレイドボスであり、複数人での攻略が前提となっている。
 ソロでも攻略できないことはないが、ボスによっては、HPゲージを削り切るのに数時間かかる場合もある。

(……まあ、MMOである以上、ボスにソロで挑む機会なんて、ストーリーかイベントくらいでしか無いんだがな)

「……それで? そう都合のいいパーティーメンバーは、すぐ集まるモンかよ?」

「そうですね……ギルドで募集をかければ、どうにか。こう言っては何ですが、私はそれなりに顔が利きますので」

「そうか」

「リオナさんが近接戦メインの前衛、私は魔法による後方支援がメインの後衛です。となると、少なくとも前衛の〝戦士〟がもう一人、それに回復担当の〝修道士〟が必要ですね」

「そうだな」

「できれば〝ブロッカー〟役の前衛も欲しいところですが、短時間で集められるかどうかはわかりません……。敵の攻撃を最前線で受け止めなければならないブロッカーは、危険度が高くて、人口も少ないですから……」

「なるほど」

「……通常、パーティーは六人程度で組むものですが、まあ、最低限の役割分担をすれば、四人でも行けないことはないでしょう。リオナさんもいることですし、無理をしなければ大丈夫です!」

「わかった」

「では、私はギルドに行って、早速募集をかけて来ます! きっと腕の立つ方を見つけて来ますから、どうぞ大船に乗ったつもりで待っていてくださいね!」

「よし」

 ミラの説明を聞き終え、大仰に頷くと、リオナは実に満足げな笑みを浮かべて、

「だが断るッ‼‼」

「な、なんでですかあぁーーーーっ⁉」

 思わず椅子から立ち上がってしまったミラに、店内の無数の視線が集まる。
 一つせき払いを挟んだ彼女は、赤面して静かに腰を下ろした。
 それから、声を潜め、

「ど、どうして止めるのですか……?」

「オレはパーティーを組む気なんかねえ。ダンジョン攻略なんぞ、オレとテメェの二人で十分だ」

(もっと言やぁ、オレ一人いれば十分だ)

「正気ですか⁉ ダンジョンには強力なボスモンスターが存在するとたった今お伝えしたばかりでしょう⁉ いくら何でも無謀過ぎますっ‼‼」

生憎あいにくオレは今までパーティーを組んだことがなくてな、勝手がわからん。それに、戦闘での指示やらドロップアイテムの所有権やらの面倒事に巻き込まれんのもゴメンだ。一人で挑めば、その分得られる報酬も増えるしな」

「それはそうかもしれませんが、しかし……っ‼‼」

 ミラとしては、リオナのレベルの低さをカバーする為にも、パーティーを組むのは必須だと思っていた。
 しかし、こういう時に彼女が頑固で、決して自らを曲げようとしないことも、ミラにはわかっていた。

 ミラは暫く歯みした後、結局リオナの心を変えることはできないと折れることにした。

「はぁ……もう、好きにしてください……。どうせ大して難しくもないダンジョンに行くつもりなんです……リオナさんの実力なら、少なくとも死ぬことはないでしょう……」

 ガックリとウサ耳ごと項垂うなだれて、椅子に寄りかかるミラ。
 そんな彼女に、リオナはケラケラと笑いながら尋ねた。

「『大して難しくもない』って、一体何処のダンジョンに向かうつもりなんだ?」

 ミラは椅子に寄りかかったまま、指だけでその方角を示して言った。

「――≪ランブの塔≫。はるか天上にまで続いていると言われる、神の塔です」

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