初期レベ廃人ゲーマーと獣人少女の異世界終焉遊戯<ワールズエンド・ゲーム>

安野蘊

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第二巻 第一章 「その異世界人、買い物につき」

第一章 第四節 ~ 天より与えられし緩衝材(天然素材) ~

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     ☯

「残念でしたね……」

「……何がだ?」

「あまり良い剣が見つからなかったのでしょう? 表情を見ていればわかります」

「別に構いやしねえ。元々そんな期待していたわけじゃあなかったからな」

 買ったばかりの片手剣を手に持ちながら、リオナ達は再び≪サンディ≫の街を歩いていた。
 いつもは〝何事も楽しむ〟をモットーにしているリオナの表情が明らかにかげっているのを見て、ミラは彼女を励ますように、ムンッ!と言った。

「……さあ! 気を取り直して、次は防具屋に向かいましょう!」

「いや、防具は要らねえ。ゴテゴテと色々身に付けんのは好きじゃない」

「ダーメーでーす! リオナさんの防御力じゃ、いつ致命傷を受けて命を落とすかわかりません! 多少動きにくいかもしれませんが、まずは安全を第一に考えてですね……」

「……ったく、過保護なヤツだな」

「過保護で結構! 私としても、リオナさんに死なれては困りますので」

 面倒とは思ったが、彼女の言うこともわからなくはない。
 自らの紙耐久っぷりは、リオナ自身ひしひしと感じていた。

(……ま、多少アーマーとかを着ける分には、大した障害にならないか……?)

 そんなことを考えながら、リオナはミラに半ば強制的に防具屋へと連れて来られた。

 店内の様相は武器屋とさほど変わらなかった。
 武器屋では武器種ごとに区画が分けられていたが、ここでは身体の部位ごとに区画が分けられているようだった。
 全身甲冑かっちゅうもあったが、予算を大きく越えてしまうし、第一リオナの趣味ではない。

「そうですね、まずはアーマーと……あと、グローブとシューズがあればよいでしょうか? マントやピアスなんかの装飾品も用意できるとよかったのですが……」

「そんなに要らねえ。手っ取り早く決めちまおうぜ」

 そう言うと、リオナはスタスタと〝身体〟部分の防具コーナーに歩を進めていった。
 ミラもその後に続き、二人で手頃なアイテムを探し始める。

「うーん……リオナさんは典型的なスピードファイターですから、身軽さを重視して、上半身だけの装備などが良いでしょうか? となると……やはり胸当てですかね?」

「まあ、そんなところだな。全身よろいなんて代物、可憐かれんなオレにはとても扱えねえからな!」

「よく言います。リオナさんなら、その辺の男性よりよっぽど力持ちでしょうに」

「あんまりそういうことを乙女に言うとモテないぜ?」

「リオナさんが乙女を語りますか……」

 無駄口をたたきながら、鉄の塊が詰め込まれた箱を二人であさっていると、

「……あ! これなんていいんじゃありませんか⁉ 表面にあしらわれた花柄模様がとってもキュートですよ! 私もこんなのが欲しいですねー」

 取り出した胸当てを自身の胸に合わせながら、ミラが上機嫌にそばに置かれた鏡をのぞいていた。
 滑らかなクリーム色で塗装された表面と、そこにさりげなく施された花柄の彫刻が、愛くるしい彼女によく似合っている。

 彼女に勧められて、リオナも花柄の胸当てを自分の胸に合わせてみた。が、

「……胸が苦しい」

「うぐっ⁉」

 リオナの胸の大きさを考慮して、できるだけ大きめの胸当てを選んだつもりだったが、彼女の豊満な胸を収めるには、少しばかり体積が足りていなかった。
 喉を絞められた鶏のような声を上げたミラは、返された胸当てを沈鬱な表情で元の箱に戻した。

「う……まさか、リオナさんの胸がここまで大きくてらっしゃるとは……」

「風呂場で一回見ただろ?」

「一回見ただけじゃ、女性の胸の大きさなんてわかりませんよ……」

「じゃあ、んでみるか?」

「揉みませんっ‼」

 顔を赤くしてえるミラにケラケラと笑いつつ、その後も二人は棚や箱の隅々すみずみまで漁ってみた。
 しかし、なかなか満足のいく一品には巡り会えなかった。

 デザインもそうであるが、まず何より、女性用のアイテムが少ないのである。
 冒険者のほとんどが男性で、女性は少ない所為せいだろう。
 その上、リオナの平均以上の胸囲に合うものとなると、かなり数が限られてしまう。

「……キャラメイクへのこだわりが、まさかこんな所であだになるとはな……」

「? リオナさん、何か言いました?」

「いや、何でも」

「……それならよいのですが。……しかし、こうもリオナさんに合う装備が見つからないとなると、オーダーメイドで注文するしかなさそうですね。かなりお値段は張ってしまうのですが……」

 財布の中を覗きつつ、不安げな表情をしたミラが向こうにいる店主に声をかけた。

「すみませーん! オーダーメイドをお願いしたいのですが!」

「はいはい、少々お待ちを!」

 作業部屋と思しきカウンター奥の部屋から、作業着を着た店主が姿を現した。
 他の街では珍しい女性の職人で、ネコ耳と尻尾を生やしていた。

「えーと、こちらの方の胸当てを造って頂きたいのですが」

「……ほほう、これはこれは立派なものをお持ちだねえ! なるほど、確かにそのサイズじゃあ、その辺のアイテムはキツいだろうね!」

 リオナの容姿をざっと見た店主が、朗らかな笑みを浮かべながら、リオナを手招いた。

「それじゃあ、採寸をしたいから、こっちに来てもらえるかい?」

「ああ」

 促されるままに、リオナがカウンターの中に足を踏み入れ、指定のポーズを取る。
 メモリの付いたひもを取り出した店主が、彼女の身体のあちこちを計り始めた。

 店主が採寸している間、リオナは造ってもらう装備の詳細をミラと話し合っていた。

「オイ、予算はどれくらいだ?」

「そうですね……防具以外に消耗品とかを買うことも考えると……多くても十万ちょっと、と言ったところでしょうか。多少は私のポケットマネーから出せますが、持ち合わせも多いとは言えなくて……」

「別にそこまで迷惑をかけるつもりはねえ。予算がギリギリだってんなら、必要最小限の装備で構わねえ」

「それはいけません! ダンジョン攻略において、防御力は命の次に大事です! 特に、レベルの低い序盤のうちは、しっかりと防御を厚くしてですね……」

「んなもん経験と技術と勘でどうにかなるだろ。それよか、もっとビシバシ攻撃力を鍛えてだな……」

怪我けがでもしたらどうするんですか! 世の中には、痛いのは嫌なので防御力に極振りしている方だっているんですよ?」

「そんなに心配なら、胸のクッションでも育てとけばいいだろ?」

「まだ胸の話を引っ張りますか⁉」

 二人が言い合っているうちに、チラリとメモリを読み取った店主は、

「ふむ、バストは……92㎝だね!」

「………………」

 その瞬間、絶望に濁った赤い視線がリオナの身体の一点に注がれた。

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