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第一巻 プロローグ
プロローグ ~ 旅の終焉 ~
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※本編は次話からです
☯
荒涼とした空間に、一時の静寂が満ちる。
周囲を取り巻くのは、果てさえ見えぬ永遠の暗闇。
所々にクレーターが空いた、生命の息吹も感じられぬ土地。
冷たいとも温かいとも言えない無機質な空気。
栄華の欠片もない殺風景なこの場所で、今正に世界の命運を賭けた死闘が繰り広げられていた。
舞台の一方。跡形もなく崩れ去り、もはや玉座のみを残すだけになったかつての居城を背にして、魔王は背筋に冷たいものが伝うのを感じていた。
城も、財産も、腹心も、自らの内にひしひしと燃えていた熱い野心も、全てを失くし、手に残ったのは己の身体と魔法一回分の魔力だけ。
正に絶体絶命と呼べるその状況の中で、魔王はひっそりと目を閉じた。
そう、自分は魔王。
絶対悪の化身にして、人を、獣を、怪物を、ありとあらゆるものを力でねじ伏せ、世界を我が物とする暴虐の存在。
世の中の物語はいつだって、そういう悪の魔王が倒されて幕を引くものと相場が決まっている。
ならば――
「勇敢なりし勇者よ! これで最後だ! 己の全てを賭して! 今! 私は! 私の生きた証を貴様に刻もうッ‼‼」
舞台の反対側、魔王と正面から対峙していた勇者に向かって、声高に宣言した。
勇者はそれに答えない。
ただ無言で剣を構え、その意思を示す。
かかってこい、と。
魔王は自らのアドバンテージ、1ターン4回行動のうち3回分を≪集中≫に使い、最期の大魔法の構えを取る。
一方の勇者も、魔王の全身全霊の一撃に応えるべく、集中力を極限まで研ぎ澄ませた。
互いの気迫によって周囲の空気が震撼する中、先の戦闘による衝撃で既に砕けていた石柱が思い出したように傾き始め、倒壊した。
そして――
「≪ブラックワールズエンド≫――ッ‼‼」
「≪ヴァーミリオンブラスター≫――ッ‼‼」
互いの全力の一撃がぶつかり合い、停滞していた空間が眩い光に包まれる。
光は水平に広がっていき、あっという間に辺り一帯を白く塗りつぶす。
大地の表面は削られ、石柱も石塔も玉座も、何もかもが光の本流に呑み込まれ、輪郭を無くす。
夜明けのような輝かしい煌めきは、しかし、次の瞬間には収束し、元の寂れた景観へと戻っていた。
そこに、先程まで佇んでいた魔王の姿は無い。
竜の炎で包まれた魔王は、灰すら残さずに消え去っていた。
勇者は周囲の気配に気を配りながら、ゆっくり魔王が立っていた場所に近付いてみた。
カラン、と魔王が提げていた一振りの魔剣が落ちていた。
勇者はそれを手に取り、その場で天を仰いでみた。
漆黒だった天蓋は、突如バリンッという派手な悲鳴を上げて砕け、割れ落ちたその隙間から、のどかな青空が覗いた。
温かな風、太陽の光、生命の匂い……それらが戦いで満身創痍になった身体に染み渡っていく。
勇者は視線を元の高さに戻し、感慨深く息を吸った。
―――勇者の長き旅は、無事に終焉を迎えたのだ。
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荒涼とした空間に、一時の静寂が満ちる。
周囲を取り巻くのは、果てさえ見えぬ永遠の暗闇。
所々にクレーターが空いた、生命の息吹も感じられぬ土地。
冷たいとも温かいとも言えない無機質な空気。
栄華の欠片もない殺風景なこの場所で、今正に世界の命運を賭けた死闘が繰り広げられていた。
舞台の一方。跡形もなく崩れ去り、もはや玉座のみを残すだけになったかつての居城を背にして、魔王は背筋に冷たいものが伝うのを感じていた。
城も、財産も、腹心も、自らの内にひしひしと燃えていた熱い野心も、全てを失くし、手に残ったのは己の身体と魔法一回分の魔力だけ。
正に絶体絶命と呼べるその状況の中で、魔王はひっそりと目を閉じた。
そう、自分は魔王。
絶対悪の化身にして、人を、獣を、怪物を、ありとあらゆるものを力でねじ伏せ、世界を我が物とする暴虐の存在。
世の中の物語はいつだって、そういう悪の魔王が倒されて幕を引くものと相場が決まっている。
ならば――
「勇敢なりし勇者よ! これで最後だ! 己の全てを賭して! 今! 私は! 私の生きた証を貴様に刻もうッ‼‼」
舞台の反対側、魔王と正面から対峙していた勇者に向かって、声高に宣言した。
勇者はそれに答えない。
ただ無言で剣を構え、その意思を示す。
かかってこい、と。
魔王は自らのアドバンテージ、1ターン4回行動のうち3回分を≪集中≫に使い、最期の大魔法の構えを取る。
一方の勇者も、魔王の全身全霊の一撃に応えるべく、集中力を極限まで研ぎ澄ませた。
互いの気迫によって周囲の空気が震撼する中、先の戦闘による衝撃で既に砕けていた石柱が思い出したように傾き始め、倒壊した。
そして――
「≪ブラックワールズエンド≫――ッ‼‼」
「≪ヴァーミリオンブラスター≫――ッ‼‼」
互いの全力の一撃がぶつかり合い、停滞していた空間が眩い光に包まれる。
光は水平に広がっていき、あっという間に辺り一帯を白く塗りつぶす。
大地の表面は削られ、石柱も石塔も玉座も、何もかもが光の本流に呑み込まれ、輪郭を無くす。
夜明けのような輝かしい煌めきは、しかし、次の瞬間には収束し、元の寂れた景観へと戻っていた。
そこに、先程まで佇んでいた魔王の姿は無い。
竜の炎で包まれた魔王は、灰すら残さずに消え去っていた。
勇者は周囲の気配に気を配りながら、ゆっくり魔王が立っていた場所に近付いてみた。
カラン、と魔王が提げていた一振りの魔剣が落ちていた。
勇者はそれを手に取り、その場で天を仰いでみた。
漆黒だった天蓋は、突如バリンッという派手な悲鳴を上げて砕け、割れ落ちたその隙間から、のどかな青空が覗いた。
温かな風、太陽の光、生命の匂い……それらが戦いで満身創痍になった身体に染み渡っていく。
勇者は視線を元の高さに戻し、感慨深く息を吸った。
―――勇者の長き旅は、無事に終焉を迎えたのだ。
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