【北の果てのキトゥルセン】 ~辺境の王子に転生したので、まったり暮らそうと思ったのに、どんどん国が大きくなっていく件について~

次元謄一

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最終章 大黒腐編

第283話  決別

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ラドーが魔剣ランドスケープを敵軍に向ける。



相対するは北ブリムス連合の残存兵だ。



ぐっと握った手に力を入れると、



敵兵が数人爆発し、ぶっ飛んだ。



続けて何度も爆発を起こす。



向かってくる敵軍の前線で血肉が弾け、



全体の勢いが緩まった。



敵兵達の恐怖に慄く顔が、



ここからでも見えた。



「なるほど。



威力の調節は大体掴んだが、



距離感が難しいな」



爆発の能力を有する魔剣ランドスケープは、



元々北セキロニア帝国のものだった。



魔剣使いの羊人族の双子は



【千夜の騎士団】ギルギットに敗れ、



魔剣だけ回収されていた。



ラドーはさらに何十回と、



敵軍に向けて爆発を見舞った。



『おいラドー。ここはミュンヘル王国に近い。



斥候は出してるが、油断するな』



ナルガセから通信が入った。



『ふん。



ミュンヘル軍はオーク軍と刺し違えたのだろう?



女王も死んで、あの魔剣の使い手はいないはずだ。



もう俺たちが恐れることはない』









同じ戦場の違う場所では、



ナルガセが魔剣オキトリアを発動させていた。



『次の魔剣使いを用意してあるかもしれん。



ミュンヘル王国は、



伊達に古くから生き延びている国ではない。



したたかな連中だ。



注意しすぎることはない』



あの男は部下だった時から変わっていない。



いつも何かに怒っていて、



強気で怖いもの知らずだ。



ナルガセはため息をついた。



敵陣の一画が根こそぎ倒れる。



外傷はない。



ただ、どの兵も苦しみ抜いた顔つきだった。



「ふむ、そういうことか。



一帯の酸素濃度を薄めれば窒息、



高めれば中毒……といった具合だな」



ナルガセは酸素濃度を高め、



部下に火矢を射らせた。



途端、目の前に業火が上がる。



敵兵の阿鼻叫喚が耳をつん裂く。



物理攻撃はほぼ無いに等しい。



地味な能力だが、



使い方次第ではかなり強い部類に入る。



暗殺にも使える。



私の性格にぴったりだ。



ナルガセは部下が突撃してゆくのを尻目に、



魔剣を繁々と眺めながら一人ほくそ笑んだ。

















テアトラが本格的に軍を動かしたと報告が入り、



俺もついに本軍を率い進軍を開始した。



今までは大陸中央の北ブリムス連合と、



南ブリムス連合の戦争に、



両国は部分的に参戦しているだけだった。



しかし、今回は主戦力同士がぶつかり合う、



激しい戦いが予想されるだろう。



戦況は劣勢だ。



前線はだいぶ押されており、



今にもキトゥルセン連邦まで押し込まれてしまうのではないか、



という段階になっている。



北ブリムス連合はすでに主力軍を失い、



各地でゲリラ戦を展開している。



クロエ、ネネルは、



そんな北ブリムスの各戦線を忙しく飛び回り、



敵軍を何とか押し止めている。



大戦力の二人には、



とにかく敵兵の数を削ることを、



第一目標としてくれと言ってある。



敵の魔戦力と戦っている場合ではないので、



会敵したらすぐに退くよう厳命してある。



そのおかげか、有利になる小さな戦場が増加、



結果的に多くの友軍が生き残って合流し、



何とか力を取り戻しつつある、



といったところか。



こちらはと言うと、



まずモカルが新たに【王の左手】に加わった。



ガラスを操る魔剣グラスリムの戦力は大きく、



本音は単体で前線へ送り、



クロエとネネルの負担を軽減させてやりたかったが、



まだ実戦経験が少ないので、



俺の目の届く所に置くことにした。



主力軍の中核を担うのはミルコップ軍、ベミー軍、



そして、旧ザサウスニア軍を束ねるメビナ軍で構成される。



女将軍メビナは前将軍アラギンの副官だった。



かつては敵だったが、



今では信頼できる優秀な将だ。





報告では、敵本軍4万を率いるのは、



魔剣ゾルティアークを持つバルロック。



大陸ど真ん中、青砂街道を侵攻中だ。



西軍2万を率いるのはラドーとナルガセ。



二人は魔剣使いになったらしい。



ウルバッハの仕業に違いない。



ミュンヘル王国沿いに北上してきている。



東軍2万を率いるのは、



【千夜の騎士団】クガとパム。



シャガルム帝国の跡地を通り、



各所の小さな戦場を圧し潰しながら、



着実に進軍してきている。



東軍も西軍も地理的に山岳地帯を避け、



中央の本軍に合流するはずだ。



ぶつかる場所は最南端の都市スラヴェシと予想。



既に南の城門は閉ざされ、



城壁の上には多くの兵を配備済みだ。

















「さすがに山脈越えはキツかったな」



「お疲れ様。



パムの土を操る能力以外、



この軍勢を運べる奴なんていないよ」



山の中腹の野営地から、



遠くに街の明かりが見えた。



「あれがルーゲンね。



もうキトゥルセン国内が見える」



「ああ、小さな町だが、



後退した北ブリムスの兵が合流して、



中々の戦力みたいだ」



パムとクガは、



野営地から少し離れた木立の中にいた。



「ミュンヘルの精霊を操る魔剣……



オウルエールだっけ?



使い手の女王は死んで、



今はどうなってるのかしら。



あんた知ってる?」



「いや、僕も知らないな。



あれは最強の魔剣の内の一つだからな。



脅威だよね」



少し離れたテントでは、



部下の兵達が焚火を囲んでいた。



敵の斥候や夜襲を警戒して、



みな静かに食事している。



「明日、遂に開戦ね。



誰が来るのかしら。あー楽しみ。



雷魔でもオスカーでもいいけど、



やっぱり……クロエよね。



あいつと決着付けないと、



気分悪くて仕方ないわ」



パムは手のひらに拳を叩きつけた。



「楽しそうだね。



倒したら団長に褒められるよ」



「そうね、それが目的」



パムは少女のように笑う。



冷たい風が頬を撫でた。



ここまで来るとだいぶ冷える。



クガは黒い外套のポケットに手を突っ込んだ。



「……でもパムは、誰も倒せないよ」



一瞬何を言われたか分からない、



といった怪訝な表情で、



パムは振り返る。



「……は? 何言ってんの?」



クガは銀色で円形の装置をパムに投げた。



「ぐっ!! 何……すんのよ、クガ!!」



装置はパムの頭上で紫の電気を放ちながら制止した。



「魔素抑制装置だよ。君も知ってるだろ?」



パムは能力を完全に封じられ、



身体の自由も奪われた。



「冗談、はよしてよ、



明日、戦争、だってのに……」



眉間にしわを寄せて、



パムはクガを睨んだ。



「本当にすまないと思ってる。



君は全くの無関係だもんね。



でも、僕の目的の邪魔になるし、



いずれ必ず衝突するのは目に見えてるから。



ごめん、パムの事は気に入ってたんだけど……」



クガは眉根を寄せて、



悲しい表情でパムを見つめた。



そして魔剣シェイクルーパをすらりと抜く。



パムの目に恐怖が宿った。



冗談ではないと悟ったのだろう。



「……もしかして、



初めから、裏切る、つもりだったの?」



バチバチと紫の電気が爆ぜる。



パムは苦しそうだ。



「……裏切るも何も、



初めから騎士団に忠誠は誓ってないよ。



不死の僕にとっては、



今の肩書は一時的なものだ」



クガは魔剣シェイクルーパの力を発動させた。



「ばいばい、パム」



空気を揺さぶる振動波で、



パムの身体はバシャっと、一瞬で掻き消えた。



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