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最終章 大黒腐編
第274話 騎士と姫
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時は少し遡る。
マハルジラタン諸島 カロ島
漁師の男は早朝の漁を終えて、
船着き場で網を直していた。
ふと顔を上げ、海の方を見ると、
水平線が黒く染まっていた。
なんだ、あれは。
今まで見たことがないぞ。
男は立ち上がった。
他の漁師も異変に気付く。
時間が経ち、
やがてそれらは大量の船だということが分かる。
いつの間にか、
町からも大勢の人が見物に来ていた。
誰かが叫ぶ。
「オークの船団だ!」と。
人々は慌てて対岸まで駆け出した。
大通りを逃げてくる人々に逆らって、
海岸に続く道を歩く二人がいた。
「いいんだね……フェシア」
男が女に問いかける。
男は帯刀していた。
「私はたくさんの人を殺してきた。
ここで死なせて」
女の目は決意に満ちていた。
「あの時助けた事、まだ怒ってるか?」
「……ううん。もういいよ。
短い間だったけど、
ここであなたとのんびり暮らせて幸せだった。
最後に、いい思い出ができたわ」
二人はそっと手を繋いだ。
「始めからここで二人で暮らして、
今みたいに魚獲って最低限のお金だけ稼いでさ、
後は自給自足で暮らしていれば、
どんなに幸せだったのかしら」
女は目に涙が溢れそうになって、
ぐっと堪えた。
「君の能力ならいつでも魚取り放題だったからな。
たくさん稼ごうと思えば稼げたさ」
男は優しく笑いかけた。
「ダメよ、私たちは目立ってはいけないの」
女は繋いだ手に力を入れる。
「……ナザロ教ではね、
死んだら別の世界に生まれ落ちるのよ」
「フェシア、ナザロ教徒になったの?」
「ううん。
知り合いがナザロ教徒でね、
よく話を聞いていたの。
……その人だけは、
まぁある程度信用できたのよね」
「その人、男?」
男は眉間にシワを寄せる。
「こんな時まで嫉妬してくれるの?」
女がからかうように言うと、
二人は同時に笑った。
「……同じ世界に行けるといいね」
男がそう呟いた時、
二人は浜辺に到着した。
「おい、お前ら」
振り向くと二人の武装した男がいた。
人相の悪いひげ面の方は腕が機械化されていた。
やや若く小ざっぱりした方は両足が機械だ。
「……〝ラウラスの影〟の工作員か」
こんな時に……
そう思いながらエイクは剣を抜いた。
「まさかほんとに【千夜の騎士団】のユレトとはな。
こんなところにいるはずないと思って、
しばらく観察していた」
ひげ面は話しながらも隙が無い。
機械化兵は厄介だ。
一人一人仕様が違う。
「本人だと確証が取れないと、
報告できないからな」
若い方が苦笑する。
「そしたらあんたが出てきた、
アラギン将軍。
……だが、今はそんなことなどどうでもいい」
二人はキュィィィンと音を鳴らしながら、
腕を、足を、戦闘形態に移行した。
腕はカマキリの鎌のように変形し、
足は複数の筒から蒸気が噴出している。
ひげ面は盾を構え、若い方は両手に剣を握る。
フェシアは身構え、
手に水の渦を出した。
二組の間に緊張が走る。
しかし、
二人はフェシアとエイクから視線を外し、
波打ち際まで移動した。
「お前たちの事は報告しない」
そう言って矢筒を背中から降ろす。
「会話を聞かせてもらった」
若い方がふりむく。
おもむろに機械蜂が肩に止まった。
「俺たちはアレと戦う。
お前たちも一緒に戦うか?」
工作員たちはニヤリと笑う。
フェシアとエイクは顔を見合わせ、
「始めからそのつもりだ」
と、こちらも小さく笑う。
水平線を埋め尽くす黒い船団が、
すぐ沖合にまで迫る。
フェシアが手をかざすと、
海岸の波が逆を向いた。
浜から沖に向かって、
徐々に大きな波になってゆく。
一番手前の十数隻が大きく揺れ出した。
フェシアは一際大きく魔素を送り込む。
途端、辺り一面の海水が壁のようにせり上がり、
やがて大波となって進みだした。
巨大な津波は沖へ向かっていく。
波が去った後には何も残っていなかった。
巻き込まれた船はおよそ50を超えた。
巨大な水の力にあらがえず、
まるで小さな木の葉のように、
海の藻屑となって海底に消えていった。
「大丈夫か、フェシア」
荒くなった息を整えながら
「まだ大丈夫」とフェシアは頷いた。
前方の船団は砕け散り、姿を消したが、
その両脇には、
まだ数えきれないほどの船団が控えている。
先頭集団は既に島を通過している。
もうどこかから上陸されているかもしれない。
フェシアの回復を待っている間に、
大波で空いた海が、また船団で埋め尽くされた。
フェシアは頭の中で戦略を組み立てる。
大波で大量の魔素を使ってしまった。
岸に近づいた船から片付けてゆくしかない。
フェシアは海蛇で2隻の船底に穴を開けた。
きしむ音を出しながら、黒い船はゆっくりと傾く。
船上で慌てる無数のオークが目に入った。
それらのゆっくり沈んでいく船を助けもせず、
後方からどんどん船が進んでくる。
30分ほど攻防を続け、
フェシアが沈めた船は100を超えた。
船から投げ出され、
浜辺まで泳いできたオークを、
エイク達3人は弓で片付ける。
「きりがないな」
泳いで、あるいは波に揉まれて、
岸にたどり着くオークの数はどんどん増える。
すでに矢は尽きそうだった。
「ついに来たぞ!後ろだ!」
どこかから上陸したオークの軍勢が、
ここまで来たということは、
町は既に荒らされているのだろう。
エイクは弓を引き、
最後の一本を向かってくるオークに放った。
そして剣を抜いて乱戦に突入する。
機械化兵の二人は強かった。
エイクが一体倒す間に、
4、5体は簡単に屠っている。
海上の船を破壊しながらも、
フェシアはエイクのカバーも忘れない。
エイクに群がるオークは、
時折飛んでくる水の槍に貫かれて死んでゆく。
途中からエイクは音が聞こえなくなった。
自分の身体が勝手に動く。
槍を躱し、首を掻っ切る。
腕を落とす。
受けた斧を剣でいなし、
腹に突き刺す。
蹴りを入れ、体当たりし、頭突きをし、
血を撒き散らした。
「二人共!名前は!?」
同じく隣で暴れまわる機械化兵に声をかけた。
「俺たちは影だ!教えられない!」
「こんな時まで……真面目な奴らだ」
「ユウリナ様に救ってもらった。
役立たずになった俺たちに、
もう一度命を吹き込んでもらった!
俺たちは、恩を返すんだ!」
若い方は恐ろしい速さで動き回りながら、
二刀流でオーク共をバラバラにしてゆく。
「そうだユレト!
あんたかもしれないって思った時、
調べといたんだ!」
巨大な鎌で、
一気に4体のオークを真っ二つにしたひげ面は、
振り返ってフェシアに声をかけた。
「……何を!?」
海から上がってくる大勢のオークを、
大量の水の刃で串刺しながら、
フェシアもまた振り返る。
「あんたの事を!
全てのデータを読んだ。
あんたの家族、
ガスレ―王族は!
生存が確認されている!」
一瞬フェシアの動きが止まる。
「……そう」
一言静かに呟いたフェシアは、
また戦いに戻った。
「なんだこいつは!!」
若い機械化兵が、
他とは様子の違うオークに捕まっている。
足を掴まれたようで、身動きが取れない。
そいつは肌の色が黒いオークで、
周りの灰色のオークより一回り身体が大きかった。
そして足が人型ではなく、
肉食の獣のような足だった。
「我は〝骨の王〟ザンギ。
〝ジュグ〟の力を感じる……だがお前ではないな」
ザンギと名乗った黒オークは
「フンッ!!」と全身に力を入れ、
腕や背中から先のとがった骨を出した。
そしておもむろに、
手首から出た骨をズルズルと引き抜く。
エイク達はその光景から目が離せなかった。
それは骨で出来た剣だった。
ザンギは自ら作り出した骨の剣を、
力いっぱい機械化兵に振り下ろす。
機械の足が砕け、地面に叩きつけられる。
起き上がろうとしたところを、
ザンギは足で踏みつける。
助けに入ったひげ面も、
たやすく骨の剣で機械腕を破壊され、
吹っ飛ばされた。
途端にオーク共が群がる。
ザンギは足で押さえつけている、
若い機械化兵を骨の剣で刺した。
残るエイクをオーク共は囲んだ。
だが向かってこない。
背中にはフェシア。
フェシアは、
続々と海から上がってくるオークの相手で手一杯だ。
既に水の動きにキレはない。
息も荒く、
腕には鼻から落ちる血を拭った跡がある。
陸から、海から、挟まれた。
……ここまでか。
波が膝から下を濡らす。
フェシアが膝をつく。
聞いたこともない呼吸音が聞こえる。
「〝ジュグ〟はお前か」
ザンギの目はエイクの肩ごしのフェシアを射止める。
「……エイク。愛してる」
「俺もだ、姫様」
二人は一瞬だけ目を合わせ、互いに微笑んだ。
「来い。一対一だ」
ザンギのその一言に、
エイクは勢いよく斬り込んだ。
頭上から振り下ろされた剣はしかし、
骨の剣で難なく受け止められる。
ザンギは一瞬でエイクの懐に入り、
肩で体当たりをしてきた。
腹の辺りが熱くなる。
ザンギの身体中から生えた骨が、
いくつも自分の身体に刺さっていた。
「エイクっ!!」
エイクがその場に倒れるのと入れ替わりに、
フェシアが自らの血を使って攻撃を仕掛ける。
腕から血の鎌を出し、素早く斬りつけるが、
ザンギは後ろに飛んで逃げた。
魔素を使い果たし、息も絶え絶えなフェシアは、
遂にその場に倒れた。
波内際にうつ伏せで、腕が波に揺れている。
オーク達は敵がいなくなったと武器を降ろし、
フェシアに近づいた。
瞬間、周囲のオーク達の目や口や皮膚から、
細い糸のような血が吸い出される。
オーク達は苦しみながら次から次へと倒れていく。
他にも海水や近くの雑草、エイクの身体、
ありとあらゆる水分が吸い出され、
フェシアの上で渦を巻き始めた。
やがて渦は竜巻となる。
小さいが強力だった。
周囲のオークは粉々に掻き消えた。
他の全ての物も。
しばらくの静寂の後、
砂浜に残ったのは青く輝く魔石だけだった。
離れた場所に避難していたザンギが、
砂浜をゆっくり歩いてくる。
身を屈ませ、
ゴツイ手で魔石をつまみ上げた。
興味深そうに眺めた後、
その魔石を自らの口の中に放り込んだ。
マハルジラタン諸島 カロ島
漁師の男は早朝の漁を終えて、
船着き場で網を直していた。
ふと顔を上げ、海の方を見ると、
水平線が黒く染まっていた。
なんだ、あれは。
今まで見たことがないぞ。
男は立ち上がった。
他の漁師も異変に気付く。
時間が経ち、
やがてそれらは大量の船だということが分かる。
いつの間にか、
町からも大勢の人が見物に来ていた。
誰かが叫ぶ。
「オークの船団だ!」と。
人々は慌てて対岸まで駆け出した。
大通りを逃げてくる人々に逆らって、
海岸に続く道を歩く二人がいた。
「いいんだね……フェシア」
男が女に問いかける。
男は帯刀していた。
「私はたくさんの人を殺してきた。
ここで死なせて」
女の目は決意に満ちていた。
「あの時助けた事、まだ怒ってるか?」
「……ううん。もういいよ。
短い間だったけど、
ここであなたとのんびり暮らせて幸せだった。
最後に、いい思い出ができたわ」
二人はそっと手を繋いだ。
「始めからここで二人で暮らして、
今みたいに魚獲って最低限のお金だけ稼いでさ、
後は自給自足で暮らしていれば、
どんなに幸せだったのかしら」
女は目に涙が溢れそうになって、
ぐっと堪えた。
「君の能力ならいつでも魚取り放題だったからな。
たくさん稼ごうと思えば稼げたさ」
男は優しく笑いかけた。
「ダメよ、私たちは目立ってはいけないの」
女は繋いだ手に力を入れる。
「……ナザロ教ではね、
死んだら別の世界に生まれ落ちるのよ」
「フェシア、ナザロ教徒になったの?」
「ううん。
知り合いがナザロ教徒でね、
よく話を聞いていたの。
……その人だけは、
まぁある程度信用できたのよね」
「その人、男?」
男は眉間にシワを寄せる。
「こんな時まで嫉妬してくれるの?」
女がからかうように言うと、
二人は同時に笑った。
「……同じ世界に行けるといいね」
男がそう呟いた時、
二人は浜辺に到着した。
「おい、お前ら」
振り向くと二人の武装した男がいた。
人相の悪いひげ面の方は腕が機械化されていた。
やや若く小ざっぱりした方は両足が機械だ。
「……〝ラウラスの影〟の工作員か」
こんな時に……
そう思いながらエイクは剣を抜いた。
「まさかほんとに【千夜の騎士団】のユレトとはな。
こんなところにいるはずないと思って、
しばらく観察していた」
ひげ面は話しながらも隙が無い。
機械化兵は厄介だ。
一人一人仕様が違う。
「本人だと確証が取れないと、
報告できないからな」
若い方が苦笑する。
「そしたらあんたが出てきた、
アラギン将軍。
……だが、今はそんなことなどどうでもいい」
二人はキュィィィンと音を鳴らしながら、
腕を、足を、戦闘形態に移行した。
腕はカマキリの鎌のように変形し、
足は複数の筒から蒸気が噴出している。
ひげ面は盾を構え、若い方は両手に剣を握る。
フェシアは身構え、
手に水の渦を出した。
二組の間に緊張が走る。
しかし、
二人はフェシアとエイクから視線を外し、
波打ち際まで移動した。
「お前たちの事は報告しない」
そう言って矢筒を背中から降ろす。
「会話を聞かせてもらった」
若い方がふりむく。
おもむろに機械蜂が肩に止まった。
「俺たちはアレと戦う。
お前たちも一緒に戦うか?」
工作員たちはニヤリと笑う。
フェシアとエイクは顔を見合わせ、
「始めからそのつもりだ」
と、こちらも小さく笑う。
水平線を埋め尽くす黒い船団が、
すぐ沖合にまで迫る。
フェシアが手をかざすと、
海岸の波が逆を向いた。
浜から沖に向かって、
徐々に大きな波になってゆく。
一番手前の十数隻が大きく揺れ出した。
フェシアは一際大きく魔素を送り込む。
途端、辺り一面の海水が壁のようにせり上がり、
やがて大波となって進みだした。
巨大な津波は沖へ向かっていく。
波が去った後には何も残っていなかった。
巻き込まれた船はおよそ50を超えた。
巨大な水の力にあらがえず、
まるで小さな木の葉のように、
海の藻屑となって海底に消えていった。
「大丈夫か、フェシア」
荒くなった息を整えながら
「まだ大丈夫」とフェシアは頷いた。
前方の船団は砕け散り、姿を消したが、
その両脇には、
まだ数えきれないほどの船団が控えている。
先頭集団は既に島を通過している。
もうどこかから上陸されているかもしれない。
フェシアの回復を待っている間に、
大波で空いた海が、また船団で埋め尽くされた。
フェシアは頭の中で戦略を組み立てる。
大波で大量の魔素を使ってしまった。
岸に近づいた船から片付けてゆくしかない。
フェシアは海蛇で2隻の船底に穴を開けた。
きしむ音を出しながら、黒い船はゆっくりと傾く。
船上で慌てる無数のオークが目に入った。
それらのゆっくり沈んでいく船を助けもせず、
後方からどんどん船が進んでくる。
30分ほど攻防を続け、
フェシアが沈めた船は100を超えた。
船から投げ出され、
浜辺まで泳いできたオークを、
エイク達3人は弓で片付ける。
「きりがないな」
泳いで、あるいは波に揉まれて、
岸にたどり着くオークの数はどんどん増える。
すでに矢は尽きそうだった。
「ついに来たぞ!後ろだ!」
どこかから上陸したオークの軍勢が、
ここまで来たということは、
町は既に荒らされているのだろう。
エイクは弓を引き、
最後の一本を向かってくるオークに放った。
そして剣を抜いて乱戦に突入する。
機械化兵の二人は強かった。
エイクが一体倒す間に、
4、5体は簡単に屠っている。
海上の船を破壊しながらも、
フェシアはエイクのカバーも忘れない。
エイクに群がるオークは、
時折飛んでくる水の槍に貫かれて死んでゆく。
途中からエイクは音が聞こえなくなった。
自分の身体が勝手に動く。
槍を躱し、首を掻っ切る。
腕を落とす。
受けた斧を剣でいなし、
腹に突き刺す。
蹴りを入れ、体当たりし、頭突きをし、
血を撒き散らした。
「二人共!名前は!?」
同じく隣で暴れまわる機械化兵に声をかけた。
「俺たちは影だ!教えられない!」
「こんな時まで……真面目な奴らだ」
「ユウリナ様に救ってもらった。
役立たずになった俺たちに、
もう一度命を吹き込んでもらった!
俺たちは、恩を返すんだ!」
若い方は恐ろしい速さで動き回りながら、
二刀流でオーク共をバラバラにしてゆく。
「そうだユレト!
あんたかもしれないって思った時、
調べといたんだ!」
巨大な鎌で、
一気に4体のオークを真っ二つにしたひげ面は、
振り返ってフェシアに声をかけた。
「……何を!?」
海から上がってくる大勢のオークを、
大量の水の刃で串刺しながら、
フェシアもまた振り返る。
「あんたの事を!
全てのデータを読んだ。
あんたの家族、
ガスレ―王族は!
生存が確認されている!」
一瞬フェシアの動きが止まる。
「……そう」
一言静かに呟いたフェシアは、
また戦いに戻った。
「なんだこいつは!!」
若い機械化兵が、
他とは様子の違うオークに捕まっている。
足を掴まれたようで、身動きが取れない。
そいつは肌の色が黒いオークで、
周りの灰色のオークより一回り身体が大きかった。
そして足が人型ではなく、
肉食の獣のような足だった。
「我は〝骨の王〟ザンギ。
〝ジュグ〟の力を感じる……だがお前ではないな」
ザンギと名乗った黒オークは
「フンッ!!」と全身に力を入れ、
腕や背中から先のとがった骨を出した。
そしておもむろに、
手首から出た骨をズルズルと引き抜く。
エイク達はその光景から目が離せなかった。
それは骨で出来た剣だった。
ザンギは自ら作り出した骨の剣を、
力いっぱい機械化兵に振り下ろす。
機械の足が砕け、地面に叩きつけられる。
起き上がろうとしたところを、
ザンギは足で踏みつける。
助けに入ったひげ面も、
たやすく骨の剣で機械腕を破壊され、
吹っ飛ばされた。
途端にオーク共が群がる。
ザンギは足で押さえつけている、
若い機械化兵を骨の剣で刺した。
残るエイクをオーク共は囲んだ。
だが向かってこない。
背中にはフェシア。
フェシアは、
続々と海から上がってくるオークの相手で手一杯だ。
既に水の動きにキレはない。
息も荒く、
腕には鼻から落ちる血を拭った跡がある。
陸から、海から、挟まれた。
……ここまでか。
波が膝から下を濡らす。
フェシアが膝をつく。
聞いたこともない呼吸音が聞こえる。
「〝ジュグ〟はお前か」
ザンギの目はエイクの肩ごしのフェシアを射止める。
「……エイク。愛してる」
「俺もだ、姫様」
二人は一瞬だけ目を合わせ、互いに微笑んだ。
「来い。一対一だ」
ザンギのその一言に、
エイクは勢いよく斬り込んだ。
頭上から振り下ろされた剣はしかし、
骨の剣で難なく受け止められる。
ザンギは一瞬でエイクの懐に入り、
肩で体当たりをしてきた。
腹の辺りが熱くなる。
ザンギの身体中から生えた骨が、
いくつも自分の身体に刺さっていた。
「エイクっ!!」
エイクがその場に倒れるのと入れ替わりに、
フェシアが自らの血を使って攻撃を仕掛ける。
腕から血の鎌を出し、素早く斬りつけるが、
ザンギは後ろに飛んで逃げた。
魔素を使い果たし、息も絶え絶えなフェシアは、
遂にその場に倒れた。
波内際にうつ伏せで、腕が波に揺れている。
オーク達は敵がいなくなったと武器を降ろし、
フェシアに近づいた。
瞬間、周囲のオーク達の目や口や皮膚から、
細い糸のような血が吸い出される。
オーク達は苦しみながら次から次へと倒れていく。
他にも海水や近くの雑草、エイクの身体、
ありとあらゆる水分が吸い出され、
フェシアの上で渦を巻き始めた。
やがて渦は竜巻となる。
小さいが強力だった。
周囲のオークは粉々に掻き消えた。
他の全ての物も。
しばらくの静寂の後、
砂浜に残ったのは青く輝く魔石だけだった。
離れた場所に避難していたザンギが、
砂浜をゆっくり歩いてくる。
身を屈ませ、
ゴツイ手で魔石をつまみ上げた。
興味深そうに眺めた後、
その魔石を自らの口の中に放り込んだ。
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大学2年生の誠一は、大学生活をまったりと過ごしていた。
それが何の因果か、異世界に突然、転生してしまった。
生まれも育ちも恵まれた環境の伯爵家の嫡男に転生したから、
まったりのんびりライフを楽しもうとしていた。
しかし、なぜか脳に直接、神様ぽいのから、四六時中、依頼がくる。
無視すると、身体中がキリキリと痛むし、うるさいしで、依頼をこなす。
これって異世界ブラック企業?神様の社畜的な感じ?
依頼をこなしてると、いつの間か英雄扱いで、
いろんな所から依頼がひっきりなし舞い込む。
誰かこの悪循環、何とかして!
まったりどころか、ヘロヘロな毎日!誰か助けて
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