【北の果てのキトゥルセン】 ~辺境の王子に転生したので、まったり暮らそうと思ったのに、どんどん国が大きくなっていく件について~

次元謄一

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第五章 大陸戦争編

第256話 シャガルム帝国編 秘密

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一行はジェラドリアの案内で深部までやって来た。



「さて、ダスケンウェールさんはこの先です」



ジェラドリアが指差した先には、



厳重な扉を守る2体の機械兵の姿があった。



「私は実体のないデータなので行けますが、



あなた方はあそこを通るしかないですね」



半分砕けたガラス板の中から、



こちらを覗くジェラドリアは、



呑気なものだ。



「襲ってきますか?」



モカルは剣を握りしめる。



「もちろん門番ですので」



ヘルツォーク達は、



おそらく神官と同じ類だろうと見当をつけた。



「俺が行きますよ」



声を上げたのは若い、ネッドという兵士だ。



ヘルツォーク、ベティと並び、



狂戦士化できる貴重な存在。



「最近腕がなまってたんで、



ちょうどいいですわ」



少々気が強く、お調子者だが実力は確かだ。



パキパキと指を鳴らし、



身体中から蒸気が立ち上る。



ネッドの身体が巨大化、



足の爪が固い床にめり込む。



そこからは一瞬だった。



言った通り、



ネッドは狂戦士化して、



瞬く間に二体の機械兵を倒した。



狂戦士化を解いたネッドは、



モカルに対して決め顔を向ける。



とりあえずモカルは愛想笑いをしといた。



扉を潜ると、そこは巨大な洞窟だった。



機械式の支柱が縦横無尽に走っており、



宙を飛ぶ運搬機械が数台見える。



青や赤い光が様々な箇所で点灯しているので、



全体像がぼんやりと見て取れた。



「なんだここは……」



「古代文明がまだ生きていますね」



ヘルツォークもモカルも、



ただただ呆然とするしかない光景だった。



かなり巨大な空間で、



ノーストリリア城が、



何十個も入ってしまうんじゃないかと、



モカルは思った。



一行は天然の岩肌を削って作った通路を進む。



「おい、マジか」



下には腐樹と魔物が蠢いていた。



「気を抜くな」



「かなりの数だ……」



大きな腐王らしきものも見えた。



「……どうなってんだ」



腐王は機械に繋がれ、



自由を奪われているように見える。



発光するチューブが身体に刺さっている魔物もいた。



「あ……」



モカルの声に数人が気付く。



目の前を飛んで移動している、



運搬機械が運んでいるのは、



腐樹の実だった。



腐樹の実は魔物の卵。



「町の下に何でこんな……」



「一体何をしてるんだ……」



ヘルツォーク達は混乱していた。



「私にもわかりません。



昔、この街の人達が来て作り上げました。



あれらは生体エネルギー抽出機械ですから、



どこか近くに有機転換炉があるはずですね」









しばらく進んだ先に半分崩れた部屋があった。



「兵士の詰め所みたいだな……」



ベティは剣先を無造作に壁に当てている。



「魔物がいるかもしれん。



警戒は怠るな」



部下たちは厳戒態勢を取る。



モカルも名剣ベルルッティを抜いた。



「はっ。あんたは別にいいよ。



こっちは期待してないし」



ベティは冷めた視線をモカルに寄越す。



「え、でも……」



モカルは委縮してしまった。



「いーんだよ。



手柄はあんたのモノって最初から決まってんだから。



安心して後ろからついてきな。



……なに、その顔。不満がありそうだね」



愉快そうにベティは笑う。



その時、壁一面に光が満ちた。



それは空間投射ディスプレイだったが、



理解できる者は誰もいなかった。



「下がれ」



全員反対側に移動したが、



「大丈夫です。



これはただのモニターです」



とジェラドリアが諭した。



誰かが偶然電源を入れたらしい。



よく見れば何十というモニターが、



地上の様子を映し出していた。



「暴動か……」



「壁を壊している!」



「見ろ、ベサワンだ」



「あいつは確かミュンヘルの……」



「バステロだな。第4軍の指揮官だ」



民衆に紛れ込んだ〝ラウラスの影〟工作員、



それにバステロたちが、



第2層と第3層の壁を突破し、



支配階層になだれ込んでいる。



民衆たちは北側勢力が密かに運び込んだ、



良質な剣や槍、弓で武装していた。



ヘルツォークは思い出す。



ベサワンからは、



だいぶ前から準備していた計画だと聞いていた。



自分たちの作戦が無くても、



いずれは開始していたものだったと。



未だ直接的な動きを見せないシャガルム帝国に向けた、



刃の内の一つ……。



第3層の衛兵たちは民衆の勢いに飲まれ、



いつの間にか姿を消した。



一際武器の扱いが上手いのは、



紛れ込んだ兵士たちだろう。



混乱に乗じて民衆をうまく操り、



あっという間に制圧してゆく。



すぐに第3層はスラムと一般層の住民でいっぱいになった。



「急ごう。この混乱の内に作戦を遂行して脱出する」



壁一面に投射されたディスプレイを、



食い入るように眺めていたヘルツォーク達は、



その部屋を出た。













「だいぶ潜りましたね」



「もうそろそろのはずだ」



長い階段を下り、最下層までやってきた。



道中、数匹の魔物を駆除しただけで、



あまり脅威はなかった。



「いよいよ……」



モカルは剣の柄をぎゅっと握る。



「さあ、着きましたよ。



あの門番を片付けたら、



ダスケンウェールさんの部屋です」



ジェラドリアは通路の奥を指差す。



古代文明の堅牢な扉と、



機械兵が見える。



「今度は私がやるよ」



ベティは一歩前に出て、



一気に狂戦士化、



目にも止まらぬ速さで一体目を壁に叩きつけると、



4本の腕で剣を振り回す二体目の攻撃を華麗にかわし、



こちらも腹を引きちぎって殲滅した。



「ご苦労、ベティ。では中に入ろう」



扉はジェラドリアが開けてくれた。



部屋の中を見た途端、モカルは息を呑んだ。



機械人、ダスケンウェールは下半身が引きちぎられ、



残った上半身はたくさんの剣で貫かれ、



壁に磔にされていた。



「い、生きてるのか……?」



誰かの声が上がる。



全員、恐る恐る部屋の中に入る。



その時、ギギッと頭が僅かに動いた。



「ひっ!」



近くにいたモカルら数人は反射的に剣を向けた。



ざらついた、機械の声が部屋に響く。



「……ヨウこソ、待っテイまシた」

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