267 / 325
第五章 大陸戦争編
第255話 シャガルム帝国編 地下ダンジョンの案内人
しおりを挟む
第4層の古い修道院の地下に、
ダンジョンへの扉はあった。
古めかしい扉は溶けた鉄で固められていた。
「どうやって中に入れば……」
そうモカルが呟くと、
ヘルツォークは狂戦士化し、
扉を殴り飛ばした。
轟音と共に入り口が出来た途端、
周囲の空気がダンジョン内に吸い込まれた。
ヘルツォークの身体から出た蒸気が、
暗闇の中に細い糸となって吸い込まれてゆく。
「行こうか」
フル装備に着替えた一行は、
暗闇の中へ入っていった。
「では皆さん、ご武運を祈っています」
ベサワンとレビア商会ハンツの姿が見えなくなった頃、
通路の奥から得体のしれない鳴き声が聞こえてきた。
「……魔物か?」
ベティが眉をしかめる。
兵達が剣に手を掛けた。
「じきに分かる」
ヘルツォークは50匹の機械蜂を放った。
しかし、いつまで待っても視界に映像が出てこない。
終いには信号が途絶してしまった。
「ちっダメか」
「機能……しませんね」
「ユウリナ様も現在繋がらんしな」
モカルとヘルツォークは顔を見合わせる。
「……まあいい。進むぞ」
ヘルツォークは地図を出し、歩き出した。
モカルは思い出す。
このダンジョンの地下には旧知の機械人がいる、
とユウリナ様は言っていた。
長年、腐樹の研究をしてきたので、
治療薬の作り方、
もしくは治療薬そのものを持っているかもしれない、
との事だった。
機械人同士なら離れていても話が出来るのではないか、
そう言ったのはオスカー様だった。
しかし、訳あってそれは出来ないらしい。
直接会いに行かなければ情報を得ることは出来ない。
とりあえずユウリナ様の名を出せば、
攻撃はしてこないと聞き、安心していた。
だが……なぜ魔物がいるのか?
薄暗い通路の先の方では、
早速魔物との戦闘が始まっている。
けたたましい鳴き声、
斬撃音、怒声。
「なんで町のすぐ下に、
こんな大量の魔物がいるんだ」
誰かの声が響く。
モカルとヘルツォークは後方、
先頭はベティに任せている。
機械蜂が作動しないので、
明かりは松明、
それと古代文明が遺した、
小さく光る機械類だけだ。
足元や頭上を、
赤や緑の光が淡く照らしてくれている。
ベティたちが駆除した魔物の死骸をいくつも見ながら、
モカルは動悸が早くなるのを感じた。
慌てて名剣ベルルッティの柄を握る。
この剣には精神を安定させる霊石が埋められている。
大丈夫、私は必ず使命を全うする。
そう自分に言い聞かせると、
雑念が消え、恐怖がなくなった。
通路をいくつか曲がると、
開けた場所に出た。
見える範囲に魔物はいない。
それでも数名が各所に散らばり、
安全を確保する。
両脇には透明のガラス部屋がずらりと並び、
広い通路はかなり先まで伸びていた。
通路の中央には長椅子があり、
大きなガラス板が奥まで等間隔に立っている。
所々割れたり欠けたりしているが、
小さな光がまだ点灯していた。
「地図だとここを真っ直ぐ行って……
下に下がる階段があるはずだ」
その時誰かの悲鳴が上がった。
「精霊だ!!」
通路の真ん中に透けている人型が浮かび上がる。
モカルは思わず剣を抜く。
精霊に剣など効かない、
などその時は考えもしなかった。
「散らばれ! 触れたら全滅だ!」
しかし、人型は精霊ではなく、
見たこともない服を着た人間の男になった。
「ああ~~~!!!人間なんて久しぶりです!!
お探し物ですか?
私にお手伝いさせて下さい!!」
男は通路中央のガラス板の中にいた。
そして隣のガラス板に移動した。
「な、なんだこいつは」
「精霊ではなさそうだ……」
実体のない、ガラスの中だけに存在する、
珍妙な男に、全員武器を上げたまま動けなかった。
「失礼しました。
……久しぶりの訪問者で舞い上がってしまいました」
「何者だ?」
ヘルツォークが険しい顔で聞く。
「私はこのエイジス社製〝グラバス5000〟の案内人、
ジェラドリアと申します。
どのような商品をお探しですか?……
って申し訳ありません、冗談ですよ。
もう何千年も前に墜落したんですよね……
今では船内にこんなにたくさんのワーマーが……
あれ、すいません、喋り過ぎました、私。
皆さんどのようなご用件で?」
場にそぐわない楽観的な声で、
ジェラドリアは楽しそうにまくし立てた。
まるで祭りの道化だ。
皆が唖然とする中、一歩前に出たのはモカルだった。
「このダンジョン内にいるという機械人、
“ダスケンウェール〟さんに会いたいのです」
ジェラドリアは眉を大げさに上げる。
「……ああ、彼ですか!!
いいですよ、案内しましょう」
軽やかに飛び跳ねながら、
ガラス板からガラス板に移動するジェラドリアを見て、
「罠だろ、絶対」とベティが囁いた。
「方向は一緒だな」
ヘルツォークは部下たちに顎で合図すると、
通路の奥へ足を進めた。
ダンジョンへの扉はあった。
古めかしい扉は溶けた鉄で固められていた。
「どうやって中に入れば……」
そうモカルが呟くと、
ヘルツォークは狂戦士化し、
扉を殴り飛ばした。
轟音と共に入り口が出来た途端、
周囲の空気がダンジョン内に吸い込まれた。
ヘルツォークの身体から出た蒸気が、
暗闇の中に細い糸となって吸い込まれてゆく。
「行こうか」
フル装備に着替えた一行は、
暗闇の中へ入っていった。
「では皆さん、ご武運を祈っています」
ベサワンとレビア商会ハンツの姿が見えなくなった頃、
通路の奥から得体のしれない鳴き声が聞こえてきた。
「……魔物か?」
ベティが眉をしかめる。
兵達が剣に手を掛けた。
「じきに分かる」
ヘルツォークは50匹の機械蜂を放った。
しかし、いつまで待っても視界に映像が出てこない。
終いには信号が途絶してしまった。
「ちっダメか」
「機能……しませんね」
「ユウリナ様も現在繋がらんしな」
モカルとヘルツォークは顔を見合わせる。
「……まあいい。進むぞ」
ヘルツォークは地図を出し、歩き出した。
モカルは思い出す。
このダンジョンの地下には旧知の機械人がいる、
とユウリナ様は言っていた。
長年、腐樹の研究をしてきたので、
治療薬の作り方、
もしくは治療薬そのものを持っているかもしれない、
との事だった。
機械人同士なら離れていても話が出来るのではないか、
そう言ったのはオスカー様だった。
しかし、訳あってそれは出来ないらしい。
直接会いに行かなければ情報を得ることは出来ない。
とりあえずユウリナ様の名を出せば、
攻撃はしてこないと聞き、安心していた。
だが……なぜ魔物がいるのか?
薄暗い通路の先の方では、
早速魔物との戦闘が始まっている。
けたたましい鳴き声、
斬撃音、怒声。
「なんで町のすぐ下に、
こんな大量の魔物がいるんだ」
誰かの声が響く。
モカルとヘルツォークは後方、
先頭はベティに任せている。
機械蜂が作動しないので、
明かりは松明、
それと古代文明が遺した、
小さく光る機械類だけだ。
足元や頭上を、
赤や緑の光が淡く照らしてくれている。
ベティたちが駆除した魔物の死骸をいくつも見ながら、
モカルは動悸が早くなるのを感じた。
慌てて名剣ベルルッティの柄を握る。
この剣には精神を安定させる霊石が埋められている。
大丈夫、私は必ず使命を全うする。
そう自分に言い聞かせると、
雑念が消え、恐怖がなくなった。
通路をいくつか曲がると、
開けた場所に出た。
見える範囲に魔物はいない。
それでも数名が各所に散らばり、
安全を確保する。
両脇には透明のガラス部屋がずらりと並び、
広い通路はかなり先まで伸びていた。
通路の中央には長椅子があり、
大きなガラス板が奥まで等間隔に立っている。
所々割れたり欠けたりしているが、
小さな光がまだ点灯していた。
「地図だとここを真っ直ぐ行って……
下に下がる階段があるはずだ」
その時誰かの悲鳴が上がった。
「精霊だ!!」
通路の真ん中に透けている人型が浮かび上がる。
モカルは思わず剣を抜く。
精霊に剣など効かない、
などその時は考えもしなかった。
「散らばれ! 触れたら全滅だ!」
しかし、人型は精霊ではなく、
見たこともない服を着た人間の男になった。
「ああ~~~!!!人間なんて久しぶりです!!
お探し物ですか?
私にお手伝いさせて下さい!!」
男は通路中央のガラス板の中にいた。
そして隣のガラス板に移動した。
「な、なんだこいつは」
「精霊ではなさそうだ……」
実体のない、ガラスの中だけに存在する、
珍妙な男に、全員武器を上げたまま動けなかった。
「失礼しました。
……久しぶりの訪問者で舞い上がってしまいました」
「何者だ?」
ヘルツォークが険しい顔で聞く。
「私はこのエイジス社製〝グラバス5000〟の案内人、
ジェラドリアと申します。
どのような商品をお探しですか?……
って申し訳ありません、冗談ですよ。
もう何千年も前に墜落したんですよね……
今では船内にこんなにたくさんのワーマーが……
あれ、すいません、喋り過ぎました、私。
皆さんどのようなご用件で?」
場にそぐわない楽観的な声で、
ジェラドリアは楽しそうにまくし立てた。
まるで祭りの道化だ。
皆が唖然とする中、一歩前に出たのはモカルだった。
「このダンジョン内にいるという機械人、
“ダスケンウェール〟さんに会いたいのです」
ジェラドリアは眉を大げさに上げる。
「……ああ、彼ですか!!
いいですよ、案内しましょう」
軽やかに飛び跳ねながら、
ガラス板からガラス板に移動するジェラドリアを見て、
「罠だろ、絶対」とベティが囁いた。
「方向は一緒だな」
ヘルツォークは部下たちに顎で合図すると、
通路の奥へ足を進めた。
0
お気に入りに追加
241
あなたにおすすめの小説
ガチャからは99.7%パンが出るけど、世界で一番の素質を持ってるので今日もがんばります
ベルピー
ファンタジー
幼い頃にラッキーは迷子になっている少女を助けた。助けた少女は神様だった。今まで誰にも恩恵を授けなかった少女はラッキーに自分の恩恵を授けるのだが。。。
今まで誰も発現したことの無い素質に、初めは周りから期待されるラッキーだったが、ラッキーの授かった素質は周りに理解される事はなかった。そして、ラッキーの事を受け入れる事ができず冷遇。親はそんなラッキーを追放してしまう。
追放されたラッキーはそんな世の中を見返す為に旅を続けるのだが。。。
ラッキーのざまぁ冒険譚と、それを見守る神様の笑いと苦悩の物語。
恩恵はガチャスキルだが99.7%はパンが出ます!
異世界最強の賢者~二度目の転移で辺境の開拓始めました~
夢・風魔
ファンタジー
江藤賢志は高校生の時に、四人の友人らと共に異世界へと召喚された。
「魔王を倒して欲しい」というお決まりの展開で、彼のポジションは賢者。8年後には友人らと共に無事に魔王を討伐。
だが魔王が作り出した時空の扉を閉じるため、単身時空の裂け目へと入っていく。
時空の裂け目から脱出した彼は、異世界によく似た別の異世界に転移することに。
そうして二度目の異世界転移の先で、彼は第三の人生を開拓民として過ごす道を選ぶ。
全ての魔法を網羅した彼は、規格外の早さで村を発展させ──やがて……。
*小説家になろう、カクヨムでも投稿しております。
転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~
ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。
異世界転生しちゃいました。
そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど
チート無いみたいだけど?
おばあちゃんよく分かんないわぁ。
頭は老人 体は子供
乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。
当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。
訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。
おばあちゃん奮闘記です。
果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか?
[第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。
第二章 学園編 始まりました。
いよいよゲームスタートです!
[1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。
話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。
おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので)
初投稿です
不慣れですが宜しくお願いします。
最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。
申し訳ございません。
少しづつ修正して纏めていこうと思います。
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
異世界道中ゆめうつつ! 転生したら虚弱令嬢でした。チート能力なしでたのしい健康スローライフ!
マーニー
ファンタジー
※ほのぼの日常系です
病弱で閉鎖的な生活を送る、伯爵令嬢の美少女ニコル(10歳)。対して、亡くなった両親が残した借金地獄から抜け出すため、忙殺状態の限界社会人サラ(22歳)。
ある日、同日同時刻に、体力の限界で息を引き取った2人だったが、なんとサラはニコルの体に転生していたのだった。
「こういうときって、神様のチート能力とかあるんじゃないのぉ?涙」
異世界転生お約束の神様登場も特別スキルもなく、ただただ、不健康でひ弱な美少女に転生してしまったサラ。
「せっかく忙殺の日々から解放されたんだから…楽しむしかない。ぜっっったいにスローライフを満喫する!」
―――異世界と健康への不安が募りつつ
憧れのスローライフ実現のためまずは健康体になることを決意したが、果たしてどうなるのか?
魔法に魔物、お貴族様。
夢と現実の狭間のような日々の中で、
転生者サラが自身の夢を叶えるために
新ニコルとして我が道をつきすすむ!
『目指せ健康体!美味しいご飯と楽しい仲間たちと夢のスローライフを叶えていくお話』
※はじめは健康生活。そのうちお料理したり、旅に出たりもします。日常ほのぼの系です。
※非現実色強めな内容です。
※溺愛親バカと、あたおか要素があるのでご注意です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる