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第255話 シャガルム帝国編 地下ダンジョンの案内人
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第4層の古い修道院の地下に、
ダンジョンへの扉はあった。
古めかしい扉は溶けた鉄で固められていた。
「どうやって中に入れば……」
そうモカルが呟くと、
ヘルツォークは狂戦士化し、
扉を殴り飛ばした。
轟音と共に入り口が出来た途端、
周囲の空気がダンジョン内に吸い込まれた。
ヘルツォークの身体から出た蒸気が、
暗闇の中に細い糸となって吸い込まれてゆく。
「行こうか」
フル装備に着替えた一行は、
暗闇の中へ入っていった。
「では皆さん、ご武運を祈っています」
ベサワンとレビア商会ハンツの姿が見えなくなった頃、
通路の奥から得体のしれない鳴き声が聞こえてきた。
「……魔物か?」
ベティが眉をしかめる。
兵達が剣に手を掛けた。
「じきに分かる」
ヘルツォークは50匹の機械蜂を放った。
しかし、いつまで待っても視界に映像が出てこない。
終いには信号が途絶してしまった。
「ちっダメか」
「機能……しませんね」
「ユウリナ様も現在繋がらんしな」
モカルとヘルツォークは顔を見合わせる。
「……まあいい。進むぞ」
ヘルツォークは地図を出し、歩き出した。
モカルは思い出す。
このダンジョンの地下には旧知の機械人がいる、
とユウリナ様は言っていた。
長年、腐樹の研究をしてきたので、
治療薬の作り方、
もしくは治療薬そのものを持っているかもしれない、
との事だった。
機械人同士なら離れていても話が出来るのではないか、
そう言ったのはオスカー様だった。
しかし、訳あってそれは出来ないらしい。
直接会いに行かなければ情報を得ることは出来ない。
とりあえずユウリナ様の名を出せば、
攻撃はしてこないと聞き、安心していた。
だが……なぜ魔物がいるのか?
薄暗い通路の先の方では、
早速魔物との戦闘が始まっている。
けたたましい鳴き声、
斬撃音、怒声。
「なんで町のすぐ下に、
こんな大量の魔物がいるんだ」
誰かの声が響く。
モカルとヘルツォークは後方、
先頭はベティに任せている。
機械蜂が作動しないので、
明かりは松明、
それと古代文明が遺した、
小さく光る機械類だけだ。
足元や頭上を、
赤や緑の光が淡く照らしてくれている。
ベティたちが駆除した魔物の死骸をいくつも見ながら、
モカルは動悸が早くなるのを感じた。
慌てて名剣ベルルッティの柄を握る。
この剣には精神を安定させる霊石が埋められている。
大丈夫、私は必ず使命を全うする。
そう自分に言い聞かせると、
雑念が消え、恐怖がなくなった。
通路をいくつか曲がると、
開けた場所に出た。
見える範囲に魔物はいない。
それでも数名が各所に散らばり、
安全を確保する。
両脇には透明のガラス部屋がずらりと並び、
広い通路はかなり先まで伸びていた。
通路の中央には長椅子があり、
大きなガラス板が奥まで等間隔に立っている。
所々割れたり欠けたりしているが、
小さな光がまだ点灯していた。
「地図だとここを真っ直ぐ行って……
下に下がる階段があるはずだ」
その時誰かの悲鳴が上がった。
「精霊だ!!」
通路の真ん中に透けている人型が浮かび上がる。
モカルは思わず剣を抜く。
精霊に剣など効かない、
などその時は考えもしなかった。
「散らばれ! 触れたら全滅だ!」
しかし、人型は精霊ではなく、
見たこともない服を着た人間の男になった。
「ああ~~~!!!人間なんて久しぶりです!!
お探し物ですか?
私にお手伝いさせて下さい!!」
男は通路中央のガラス板の中にいた。
そして隣のガラス板に移動した。
「な、なんだこいつは」
「精霊ではなさそうだ……」
実体のない、ガラスの中だけに存在する、
珍妙な男に、全員武器を上げたまま動けなかった。
「失礼しました。
……久しぶりの訪問者で舞い上がってしまいました」
「何者だ?」
ヘルツォークが険しい顔で聞く。
「私はこのエイジス社製〝グラバス5000〟の案内人、
ジェラドリアと申します。
どのような商品をお探しですか?……
って申し訳ありません、冗談ですよ。
もう何千年も前に墜落したんですよね……
今では船内にこんなにたくさんのワーマーが……
あれ、すいません、喋り過ぎました、私。
皆さんどのようなご用件で?」
場にそぐわない楽観的な声で、
ジェラドリアは楽しそうにまくし立てた。
まるで祭りの道化だ。
皆が唖然とする中、一歩前に出たのはモカルだった。
「このダンジョン内にいるという機械人、
“ダスケンウェール〟さんに会いたいのです」
ジェラドリアは眉を大げさに上げる。
「……ああ、彼ですか!!
いいですよ、案内しましょう」
軽やかに飛び跳ねながら、
ガラス板からガラス板に移動するジェラドリアを見て、
「罠だろ、絶対」とベティが囁いた。
「方向は一緒だな」
ヘルツォークは部下たちに顎で合図すると、
通路の奥へ足を進めた。
ダンジョンへの扉はあった。
古めかしい扉は溶けた鉄で固められていた。
「どうやって中に入れば……」
そうモカルが呟くと、
ヘルツォークは狂戦士化し、
扉を殴り飛ばした。
轟音と共に入り口が出来た途端、
周囲の空気がダンジョン内に吸い込まれた。
ヘルツォークの身体から出た蒸気が、
暗闇の中に細い糸となって吸い込まれてゆく。
「行こうか」
フル装備に着替えた一行は、
暗闇の中へ入っていった。
「では皆さん、ご武運を祈っています」
ベサワンとレビア商会ハンツの姿が見えなくなった頃、
通路の奥から得体のしれない鳴き声が聞こえてきた。
「……魔物か?」
ベティが眉をしかめる。
兵達が剣に手を掛けた。
「じきに分かる」
ヘルツォークは50匹の機械蜂を放った。
しかし、いつまで待っても視界に映像が出てこない。
終いには信号が途絶してしまった。
「ちっダメか」
「機能……しませんね」
「ユウリナ様も現在繋がらんしな」
モカルとヘルツォークは顔を見合わせる。
「……まあいい。進むぞ」
ヘルツォークは地図を出し、歩き出した。
モカルは思い出す。
このダンジョンの地下には旧知の機械人がいる、
とユウリナ様は言っていた。
長年、腐樹の研究をしてきたので、
治療薬の作り方、
もしくは治療薬そのものを持っているかもしれない、
との事だった。
機械人同士なら離れていても話が出来るのではないか、
そう言ったのはオスカー様だった。
しかし、訳あってそれは出来ないらしい。
直接会いに行かなければ情報を得ることは出来ない。
とりあえずユウリナ様の名を出せば、
攻撃はしてこないと聞き、安心していた。
だが……なぜ魔物がいるのか?
薄暗い通路の先の方では、
早速魔物との戦闘が始まっている。
けたたましい鳴き声、
斬撃音、怒声。
「なんで町のすぐ下に、
こんな大量の魔物がいるんだ」
誰かの声が響く。
モカルとヘルツォークは後方、
先頭はベティに任せている。
機械蜂が作動しないので、
明かりは松明、
それと古代文明が遺した、
小さく光る機械類だけだ。
足元や頭上を、
赤や緑の光が淡く照らしてくれている。
ベティたちが駆除した魔物の死骸をいくつも見ながら、
モカルは動悸が早くなるのを感じた。
慌てて名剣ベルルッティの柄を握る。
この剣には精神を安定させる霊石が埋められている。
大丈夫、私は必ず使命を全うする。
そう自分に言い聞かせると、
雑念が消え、恐怖がなくなった。
通路をいくつか曲がると、
開けた場所に出た。
見える範囲に魔物はいない。
それでも数名が各所に散らばり、
安全を確保する。
両脇には透明のガラス部屋がずらりと並び、
広い通路はかなり先まで伸びていた。
通路の中央には長椅子があり、
大きなガラス板が奥まで等間隔に立っている。
所々割れたり欠けたりしているが、
小さな光がまだ点灯していた。
「地図だとここを真っ直ぐ行って……
下に下がる階段があるはずだ」
その時誰かの悲鳴が上がった。
「精霊だ!!」
通路の真ん中に透けている人型が浮かび上がる。
モカルは思わず剣を抜く。
精霊に剣など効かない、
などその時は考えもしなかった。
「散らばれ! 触れたら全滅だ!」
しかし、人型は精霊ではなく、
見たこともない服を着た人間の男になった。
「ああ~~~!!!人間なんて久しぶりです!!
お探し物ですか?
私にお手伝いさせて下さい!!」
男は通路中央のガラス板の中にいた。
そして隣のガラス板に移動した。
「な、なんだこいつは」
「精霊ではなさそうだ……」
実体のない、ガラスの中だけに存在する、
珍妙な男に、全員武器を上げたまま動けなかった。
「失礼しました。
……久しぶりの訪問者で舞い上がってしまいました」
「何者だ?」
ヘルツォークが険しい顔で聞く。
「私はこのエイジス社製〝グラバス5000〟の案内人、
ジェラドリアと申します。
どのような商品をお探しですか?……
って申し訳ありません、冗談ですよ。
もう何千年も前に墜落したんですよね……
今では船内にこんなにたくさんのワーマーが……
あれ、すいません、喋り過ぎました、私。
皆さんどのようなご用件で?」
場にそぐわない楽観的な声で、
ジェラドリアは楽しそうにまくし立てた。
まるで祭りの道化だ。
皆が唖然とする中、一歩前に出たのはモカルだった。
「このダンジョン内にいるという機械人、
“ダスケンウェール〟さんに会いたいのです」
ジェラドリアは眉を大げさに上げる。
「……ああ、彼ですか!!
いいですよ、案内しましょう」
軽やかに飛び跳ねながら、
ガラス板からガラス板に移動するジェラドリアを見て、
「罠だろ、絶対」とベティが囁いた。
「方向は一緒だな」
ヘルツォークは部下たちに顎で合図すると、
通路の奥へ足を進めた。
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