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第五章 大陸戦争編
第253話 オーク上陸
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旧ブロトール王国内 北部 マーハント軍野営地
キトゥルセン連邦内、及び北ブリムス連合内の、
腐樹の森を焼き払って回っていた3000人の軍は、
これまでに12の森と7の腐王を駆除した。
夜の野営地には大型テントが整然と並び、
各所で焚火の明かりが揺れている。
「おい、【千夜の騎士団】を一人仕留めたらしいぞ」
「ほんとか? 誰だ?」
中央の食堂テントで兵士たちが興奮して騒いでいる。
「裏切り者のカフカスだ。
ネネル将軍が仕留めたらしい」
「おお! 前線が押されている中で朗報だ」
「さすがネネル様だ」
「あとハイガー旅団も壊滅させたらしい。
ルガクト副将が団長を……」
騒ぐ兵士たちの横で険しい顔の者がいた。
ザヤネだ。
ユウリナによって身体に小型爆弾を入れられ、
捕虜になっている元【千夜の騎士団】で影を操る魔人。
黒衣に身を包み、野菜と豆のスープとパンを前に、
少女の身体はこわばっていた。
カフカスとは日が浅いが、
ハイガーはザヤネを育ててくれた親のような存在だった。
「おい、大丈夫かザヤネ」
横の席に副将リユウが座った。
「何が?大丈夫よ」
ザヤネは努めて明るい声を出した。
「私はもうあなた達の仲間よ。
あれだけ一緒に死線を潜ったのに、
まだ疑ってるのリユウ?」
「いや、悪い。そうじゃない。
敵味方関係なく、昔の仲間の死は……
こたえるだろうと思って」
リユウは眉根を寄せた。
「私たちは戦士。死も仕事の一部。
違う? 私はそう教えられた」
ザヤネは語気を若干強めた。
「そうか……いらぬ心配だったか」
リユウは目を伏せる。
「でもありがと。リユウはいつも私にやさしいね」
「ザ、ザヤネの管理も俺の仕事だからな」
慌てて目を逸らす。
ザヤネはリユウの腰にある革製の袋に視線を止める。
中に入ってるのは魔素抑制装置だ。
他にもマーハント将軍、数名の部隊長が、
同じものを持っている。
誰に聞かなくても分かる。
ザヤネ用だ。
おまけに6体の神官も同様のものを装備している。
今だって2体の神官が目の届く距離にいる。
衛兵のように立っているが、
どう見てもザヤネの監視だ。
心臓に爆弾を設置して、なおこの用心深さ。
ザヤネはユウリナとオスカーを見くびっていた、
過去の自分に腹が立った。
自分はもう逃げられない。
笑顔で会話をしながら、
ザヤネの拳はギリリと固く握られていた。
翌日、マーハント軍は海辺を北に進軍していた。
既にマルヴァジア領内に入り、
自国に帰ってきた形となる。
昨夜マーハントに指令が入った。
ザサウスニア領内の海岸線にて、
見たこともない船が数隻発見された。
機械蜂からの映像を見る限り、
オークの可能性が高いということだ。
「既にこの大陸に入ってきていたとは……」
馬を走らせながらリユウは危機感をあらわにした。
「大部隊ではあるまい。
あの船の大きさ、数なら先遣隊と言ったところだろう」
マーハントは落ち着いている。
「斥候は基本戦闘はしない。
拠点づくり、そして調査が主な仕事……」
普段であればユウリナの機械蜂が、
国内を常に哨戒飛行していたのだが、
前線にかなりの数を送ってしまっているので、
どうしても管理の行き届かない〝穴〟が出来ていた。
今回は運悪くそこを突かれた形だ。
「見つけたら生け捕りですか?」
「数体でいいらしい。だがやることは変わらん。
魔物と同じく駆除すればいい」
マーハントは淡々と答える。
報告のあった地域を手分けして調査するのに、
丸二日を費やした。
分かったことは、
3つの小さな漁村が壊滅状態という事、
生き延びた十数名の村人を保護した事、
農村の家畜が食い散らかされていた事、
大きな犬に乗った化物どもが、
山に入ったとの目撃情報があった事、
以上の4点だ。
マーハント軍は漁村の腐樹とグール対策に、
一部の部隊を派遣し、残りの全軍で山に入った。
道中、機械蜂が半日ほどでねぐらを突き止めた。
どうやらオーク共は、
洞窟の内部を掘り進めているようだ。
表にいるのは灰色のオークが30体ほど。
大型の犬のような魔物が20体ほど。
そして内部にはおよそ倍以上が潜んでいる。
マーハントは軍を4つに分けた。
山のふもとに一軍を待機、
これは一匹たりとも逃さないためだ。
そして残りの3軍で包囲する。
戦力差はだいぶあるが容赦はしない。
見くびりもしないし、油断もしない。
それがマーハント軍の特徴だ。
周囲の森で見張りのオークを弓で仕留め、
静かに接近する。
洞窟前の広場にいるオーク共は、
まだ気づいていないようだ。
マーハント達は静かに剣を鞘から抜いた。
「不測の事態にはザヤネ、頼んだぞ」
「任せて」
『よし、準備はいいか? ……突撃!』
「うおおおお!!」
限界まで接近していた兵達は、
一斉に襲い掛かった。
慌てたオーク共は大した反撃も出来ないまま、
重装甲兵達に蹂躙されてゆく。
灰色のオークはガタイがよく、
人間よりも一回り大きい。
奴らが万全の状態だったら、
この奇襲も上手くいくかどうか……
オークの首を飛ばしながらマーハントは考える。
『そろそろ頃合いだ』
洞窟の中には神官5体を突入させた。
視界をリンクする。
洞窟内部は小柄で緑色のオークが多い。
洞窟の奥を掘っていたようだった。
神官は次々とオーク共を屠ってゆく。
洞窟前の広場にいたオークをあらかた片付け、
部下を内部へ進ませようとした時だった。
洞窟内から黒いオークが勢いよく飛び出してきた。
「うわああ!!」
兵士たちがなぎ倒される。
下半身は強靭な獣、竜のような尻尾、
両手には鋭い爪。
間違いない、上位のオークだ。
黒いオークはマーハントと目が合うと、
すぐさま襲ってきた。
「うお!」
凄い速さだ。
何とか剣で爪を受け、踏みとどまる。
「我はヴェルリム。〝血肉の王〟
……貴様が王か?」
「人語を理解するか……!!」
マーハントは爪を弾き飛ばし、二刀流で斬りかかる。
ヴェルリムと名乗ったオークは爪と尻尾で剣を受け、
弾き、いなして器用に防衛する。
短剣ほどもある鋭い爪が喉元を掠り、
マーハントは少し引いた。
その機を逃さず、今度はヴェルリムが猛攻を仕掛ける。
鞭のようにしなる太い尻尾を辛うじて躱したが、
真横から迫った爪に剣を弾き飛ばされた。
がら空きのわき腹に反対の爪が刺さる寸前、
ヴェルリムの動きが止まった。
ザヤネが影で手足を抑え、動きを止めたのだ。
この機を逃さず、
マーハントはヴェルリムの右腕を斬った。
「グオオオオオッッ!!!!」
物凄い雄叫びを上げるヴェルリム。
「うう、凄い力……」
ザヤネの額に汗が流れる。
ヴェルリムは何とか尻尾を抑えていた影を引きちぎり、
近くにいた数名の兵士たちを吹き飛ばす。
「ぎゃあああ!」
一人の兵士がザヤネに当たり、
その拍子にヴェルリムを押さえつけていた影が消える。
「ちっ!!」
すかさずマーハントは首を狙ったが、
ヴェルリムは上に飛び、
岩肌を駆けあがって木々の合間に消えた。
キトゥルセン連邦内、及び北ブリムス連合内の、
腐樹の森を焼き払って回っていた3000人の軍は、
これまでに12の森と7の腐王を駆除した。
夜の野営地には大型テントが整然と並び、
各所で焚火の明かりが揺れている。
「おい、【千夜の騎士団】を一人仕留めたらしいぞ」
「ほんとか? 誰だ?」
中央の食堂テントで兵士たちが興奮して騒いでいる。
「裏切り者のカフカスだ。
ネネル将軍が仕留めたらしい」
「おお! 前線が押されている中で朗報だ」
「さすがネネル様だ」
「あとハイガー旅団も壊滅させたらしい。
ルガクト副将が団長を……」
騒ぐ兵士たちの横で険しい顔の者がいた。
ザヤネだ。
ユウリナによって身体に小型爆弾を入れられ、
捕虜になっている元【千夜の騎士団】で影を操る魔人。
黒衣に身を包み、野菜と豆のスープとパンを前に、
少女の身体はこわばっていた。
カフカスとは日が浅いが、
ハイガーはザヤネを育ててくれた親のような存在だった。
「おい、大丈夫かザヤネ」
横の席に副将リユウが座った。
「何が?大丈夫よ」
ザヤネは努めて明るい声を出した。
「私はもうあなた達の仲間よ。
あれだけ一緒に死線を潜ったのに、
まだ疑ってるのリユウ?」
「いや、悪い。そうじゃない。
敵味方関係なく、昔の仲間の死は……
こたえるだろうと思って」
リユウは眉根を寄せた。
「私たちは戦士。死も仕事の一部。
違う? 私はそう教えられた」
ザヤネは語気を若干強めた。
「そうか……いらぬ心配だったか」
リユウは目を伏せる。
「でもありがと。リユウはいつも私にやさしいね」
「ザ、ザヤネの管理も俺の仕事だからな」
慌てて目を逸らす。
ザヤネはリユウの腰にある革製の袋に視線を止める。
中に入ってるのは魔素抑制装置だ。
他にもマーハント将軍、数名の部隊長が、
同じものを持っている。
誰に聞かなくても分かる。
ザヤネ用だ。
おまけに6体の神官も同様のものを装備している。
今だって2体の神官が目の届く距離にいる。
衛兵のように立っているが、
どう見てもザヤネの監視だ。
心臓に爆弾を設置して、なおこの用心深さ。
ザヤネはユウリナとオスカーを見くびっていた、
過去の自分に腹が立った。
自分はもう逃げられない。
笑顔で会話をしながら、
ザヤネの拳はギリリと固く握られていた。
翌日、マーハント軍は海辺を北に進軍していた。
既にマルヴァジア領内に入り、
自国に帰ってきた形となる。
昨夜マーハントに指令が入った。
ザサウスニア領内の海岸線にて、
見たこともない船が数隻発見された。
機械蜂からの映像を見る限り、
オークの可能性が高いということだ。
「既にこの大陸に入ってきていたとは……」
馬を走らせながらリユウは危機感をあらわにした。
「大部隊ではあるまい。
あの船の大きさ、数なら先遣隊と言ったところだろう」
マーハントは落ち着いている。
「斥候は基本戦闘はしない。
拠点づくり、そして調査が主な仕事……」
普段であればユウリナの機械蜂が、
国内を常に哨戒飛行していたのだが、
前線にかなりの数を送ってしまっているので、
どうしても管理の行き届かない〝穴〟が出来ていた。
今回は運悪くそこを突かれた形だ。
「見つけたら生け捕りですか?」
「数体でいいらしい。だがやることは変わらん。
魔物と同じく駆除すればいい」
マーハントは淡々と答える。
報告のあった地域を手分けして調査するのに、
丸二日を費やした。
分かったことは、
3つの小さな漁村が壊滅状態という事、
生き延びた十数名の村人を保護した事、
農村の家畜が食い散らかされていた事、
大きな犬に乗った化物どもが、
山に入ったとの目撃情報があった事、
以上の4点だ。
マーハント軍は漁村の腐樹とグール対策に、
一部の部隊を派遣し、残りの全軍で山に入った。
道中、機械蜂が半日ほどでねぐらを突き止めた。
どうやらオーク共は、
洞窟の内部を掘り進めているようだ。
表にいるのは灰色のオークが30体ほど。
大型の犬のような魔物が20体ほど。
そして内部にはおよそ倍以上が潜んでいる。
マーハントは軍を4つに分けた。
山のふもとに一軍を待機、
これは一匹たりとも逃さないためだ。
そして残りの3軍で包囲する。
戦力差はだいぶあるが容赦はしない。
見くびりもしないし、油断もしない。
それがマーハント軍の特徴だ。
周囲の森で見張りのオークを弓で仕留め、
静かに接近する。
洞窟前の広場にいるオーク共は、
まだ気づいていないようだ。
マーハント達は静かに剣を鞘から抜いた。
「不測の事態にはザヤネ、頼んだぞ」
「任せて」
『よし、準備はいいか? ……突撃!』
「うおおおお!!」
限界まで接近していた兵達は、
一斉に襲い掛かった。
慌てたオーク共は大した反撃も出来ないまま、
重装甲兵達に蹂躙されてゆく。
灰色のオークはガタイがよく、
人間よりも一回り大きい。
奴らが万全の状態だったら、
この奇襲も上手くいくかどうか……
オークの首を飛ばしながらマーハントは考える。
『そろそろ頃合いだ』
洞窟の中には神官5体を突入させた。
視界をリンクする。
洞窟内部は小柄で緑色のオークが多い。
洞窟の奥を掘っていたようだった。
神官は次々とオーク共を屠ってゆく。
洞窟前の広場にいたオークをあらかた片付け、
部下を内部へ進ませようとした時だった。
洞窟内から黒いオークが勢いよく飛び出してきた。
「うわああ!!」
兵士たちがなぎ倒される。
下半身は強靭な獣、竜のような尻尾、
両手には鋭い爪。
間違いない、上位のオークだ。
黒いオークはマーハントと目が合うと、
すぐさま襲ってきた。
「うお!」
凄い速さだ。
何とか剣で爪を受け、踏みとどまる。
「我はヴェルリム。〝血肉の王〟
……貴様が王か?」
「人語を理解するか……!!」
マーハントは爪を弾き飛ばし、二刀流で斬りかかる。
ヴェルリムと名乗ったオークは爪と尻尾で剣を受け、
弾き、いなして器用に防衛する。
短剣ほどもある鋭い爪が喉元を掠り、
マーハントは少し引いた。
その機を逃さず、今度はヴェルリムが猛攻を仕掛ける。
鞭のようにしなる太い尻尾を辛うじて躱したが、
真横から迫った爪に剣を弾き飛ばされた。
がら空きのわき腹に反対の爪が刺さる寸前、
ヴェルリムの動きが止まった。
ザヤネが影で手足を抑え、動きを止めたのだ。
この機を逃さず、
マーハントはヴェルリムの右腕を斬った。
「グオオオオオッッ!!!!」
物凄い雄叫びを上げるヴェルリム。
「うう、凄い力……」
ザヤネの額に汗が流れる。
ヴェルリムは何とか尻尾を抑えていた影を引きちぎり、
近くにいた数名の兵士たちを吹き飛ばす。
「ぎゃあああ!」
一人の兵士がザヤネに当たり、
その拍子にヴェルリムを押さえつけていた影が消える。
「ちっ!!」
すかさずマーハントは首を狙ったが、
ヴェルリムは上に飛び、
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