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第五章 大陸戦争編
第246話 古代浮遊遺跡編 奇襲
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古代浮遊遺跡の森の中に、
ハイガー旅団の旗がたなびいている。
「全員が集まるのは久しぶりですね」
埋もれた瓦礫を覆うように下草が生え、
遺跡群を自然が飲み込もうとしている。
樹々には天幕が張られていた。
「ギュルダンはジョルテシアで?」
あごひげが立派な第二部隊の隊長ドルトロが、
ハイガーと話している。
「ああ、誰にやられたのかは分からん。
雷魔か、例の風使いか……」
古城の跡地で焚火を囲んで十人ほどが酒を飲んでいる。
ハイガー旅団の幹部たちだ。
「気づいたら死んでいた。
いい死に様だった」
ハイガーは当時を思い出し笑顔になる。
「第一部隊長、ギュルダンに」
二人は杯を掲げ、酒を煽った。
「嫌な奴だった」
「そうだな」
ドルトロの言葉にハイガーも答える。
二人は静かに笑った。
「俺も死ぬなら戦いの中で死にたい」
「俺もお前も何年も前から中々死ねないな」
ドルトロは苦笑する。
「殺される前に殺す術が身についちゃってますからね」
「だからこそ長く続けられる」
森の中には6部隊、
計300の部下たちが集まっていた。
森の奥には古代都市の跡地が広がっていた。
巨大な城と城下町だったことが伺える。
昔、ここに住み着いた一族の王国なのか、
今となっては知る由もない。
前方には平原が広がり、
川が光を反射して光っている。
細い石畳の道も数本見えた。
至る所に鳥や蝶が飛んでいた。
牧歌的な風景はとても雲の上とは思えない。
地上では見ることのできない固有種ばかりが生息していて、
独自の生態系が作られていた。
地下内部は何層にも古代文明遺跡があるが、
外側は土や岩がむき出しになっているところが大半で、
長い木の根や草で覆われているところもあった。
古代浮遊遺跡は今日も雲の上を人知れず移動している。
古代遺跡の城の上階、
浮遊遺跡全体を見渡せる部屋に、
南側勢力の主要メンバーが集まっていた。
朽ちかけた城は主にテアトラの資金で、
最低限の部分だけ修理保全されていた。
窓辺の椅子には【千夜の騎士団】カフカスが、
まどろみながら本を読んでいる。
「これはこれはますますお美しくなられまして……
まさかメキア家当主のジュールダン殿が、
直々に軍を率いてこられるとは……」
「久しぶりだなウィド。
その媚びへつらった笑みも、
その大きな腹も変わってなくて嬉しいよ」
長い赤髪のジュールダンは、
特注の黒い鎧に身を包み、
豪華な剣を腰に差している。
かなり高価な名剣だと誰でも分かる代物だ。
「ははは、相変わらず手厳しいですな」
ウィドは禿げ上がった頭をポリポリと掻いた。
……小娘が。調子乗るなよ。
心の内を悟られないように柔和な笑顔を返す。
「ブリムス連合の将軍なんて大した出世だな。
いくらはらったんだ?」
ジュールダンは、
ウィドの無駄に豪華な鎧を見下ろしながら冷笑する。
「ジュールダン殿、ご冗談が過ぎますぞ、はははっ。
それはそうと、あちらがホルダ王国のダキュラ国王です。
北側の侵攻に危機感を持ち、
新たに連合軍に参加してくれました」
「ほう、竜翼人の国だな……」
人の2倍はあろうかという巨体に大きな翼があるので、
圧迫感と迫力が凄い。
部屋がことさら狭く感じる。
「ジュールダン様、そろそろ……」
部下に促され、ジュールダンは全員を長机に集めた。
空中要塞は南側の各勢力が、
一定数の軍を派兵して共同運営していた。
今回、前任の軍の任期切れに伴い、
新たにテアトラとホルダ王国から交代で派兵された。
なお、総司令は常にテアトラ軍出身者が担う。
議題は各戦線への補給、援軍、奇襲などについてだった。
「セキロニア付近は主力軍が充実している。
この辺りからの要請はしばらくないと考えていいだろう」
本営の事情を知っているジュールダンの言葉には説得力があった。
「今はゴーレムが配備されているので、
攻め込まれているところは少ないですな」
ウィドは地図の上に置かれた、
ゴーレムの駒を指差す。
「しかし、半数は破壊されておる」
発言内容とは裏腹に、
カフカスの言い方に危機感はそれほどない。
「苦戦しているのはノクトリア共和国」
ジュールダンは短剣の先で地図を指す。
「獣人の国か……確かに厄介だ」
「キトゥルセンの援軍も来ている」
「誰ですか?」
ウィドがカフカスに訊く。
「七将帝バルバレスの軍だ」
ウィドは苦い顔をした。
「敵側の総大将ではないですか……」
「そうだ。だが仕留めれば……」
ジュールダンは不敵な笑みを浮かべた。
「ダキュラ殿にはここを制圧してもらいたい」
ずっと黙っていた竜翼人は
「よかろう」
と唸るような声で応えた。
「ジョルテシアの占領に、
この浮遊遺跡を使う案が上層部から出ている」
「あそこは陸から行けんからの」
紅茶を飲みながら、
のんびりとカフカスは合いの手を入れた。
「その場合は一旦ガルガンチュアに戻り、
3万ほどの兵を乗せ向かうことになっている」
「それはいつ頃ですか?」
「ひと月ほど先だ。
カフカス殿、古巣とて手加減無きよう……」
ジュールダンは冷たい視線をよこす。
「カフカス殿がいれば安心です」
ピリついた空気を和ませようと、
ウィドは努めて明るい声を出した。
「わしとて〝雷魔〟に瀕死の重傷を負わされた。
あそこには彼女の姉がいる。
襲撃がバレればきっとまた来るじゃろうな。
ほれ、そん時の傷じゃ」
カフカスは上着の前ボタンを外した。
上半身のほとんどが複数の大きな亀裂で埋まっていた。
肉が抉れて焼け焦げた跡に、
ウィドはおろかジュールダンさえも顔が引き攣る。
「我々【千夜の騎士団】にも既に犠牲者が出ておる。
敵を侮らない事じゃ」
「それは……ご自身でも勝てないと申されてるのか?」
ジュールダンは厳しい視線を向ける。
「そうではない。
勝負は時の運ということじゃな。
生きても死んでも楽しんだ者勝ちじゃ」
あっけらかんと笑うカフカスに、
ジュールダンは「呑気なジジイだ」と小さく呟いた。
窓辺に腰掛け、
いつの間にか眠ってしまったカフカスは、
昔の夢を見ていた。
「なんで、こんな力を私は与えられたの?」
隣を飛ぶ少女はよく泣く子だった。
「そう悪く捉えんでもいいんじゃよ。
他の人と違うということは、
他の人には出来ないことが出来るという事」
眼下には大きな街が広がり、
その先には砂漠が見えた。
「……他の人が出来ない事って?」
「例えばほら、
一番ありがたがられるのは魔物退治じゃな。
訓練した兵士だとて、
魔物一匹駆除できないこともままある。
後は敵国に侵攻されたとき、
わしら魔人が前線に立てば、
多くの味方を救えるぞ。
その兵士の両親や奥さんや子供も安心じゃ」
少女は複雑な顔をこちらに向ける。
「でもそれって人を殺すって事ですよね……」
この少女は能力の暴走で、
父親を殺めてしまった。
それを思い出したのか、
急に血の気が引いて、
身体中からバチバチと放電し始めた。
「……今の世では、何もしなければ、
ただ奪われるだけ。
最後は力を持っている人間が笑い、
嘘も真実となり、正しい歴史として残る。
それが残酷な事実なんじゃよ」
「力で解決なんて……
まるで動物……。何のために……」
放電は収まったが、納得していないようだった。
「まあ、わしの言った事は極論として、
わしらはその力を持っているということじゃ。
ただ、魔人の先輩として言える事は、
そんなに細かく考えない方がいいということじゃな。
心をやられてしまう。
魔人として生まれてしまったことはもう変えられん。
ならばこの力を、
何のために使うかを考えた方が良い」
少女はしばらく考え込んだ。
素直な子だと思った時、
「カフカスさんは?」と聞かれた。
「わしは祖国ジョルテシアのためと……
〝大義〟のためじゃな」
「大……義?」
「ネネル、お主は何のためにその力を使う?」
少女は再び考え込む。
「私……私は……」
唐突に爆発音が聞こえ、カフカスは目を覚ました。
更に複数の爆発音。続く振動。
グラスがカタカタと音を立てる。
しばらくして兵士が駆けこんできた。
「敵襲です!!!」
カフカスの目に生気が宿り、
自然と笑みが浮かぶ。
「……来たか、ネネル!」
ハイガー旅団の旗がたなびいている。
「全員が集まるのは久しぶりですね」
埋もれた瓦礫を覆うように下草が生え、
遺跡群を自然が飲み込もうとしている。
樹々には天幕が張られていた。
「ギュルダンはジョルテシアで?」
あごひげが立派な第二部隊の隊長ドルトロが、
ハイガーと話している。
「ああ、誰にやられたのかは分からん。
雷魔か、例の風使いか……」
古城の跡地で焚火を囲んで十人ほどが酒を飲んでいる。
ハイガー旅団の幹部たちだ。
「気づいたら死んでいた。
いい死に様だった」
ハイガーは当時を思い出し笑顔になる。
「第一部隊長、ギュルダンに」
二人は杯を掲げ、酒を煽った。
「嫌な奴だった」
「そうだな」
ドルトロの言葉にハイガーも答える。
二人は静かに笑った。
「俺も死ぬなら戦いの中で死にたい」
「俺もお前も何年も前から中々死ねないな」
ドルトロは苦笑する。
「殺される前に殺す術が身についちゃってますからね」
「だからこそ長く続けられる」
森の中には6部隊、
計300の部下たちが集まっていた。
森の奥には古代都市の跡地が広がっていた。
巨大な城と城下町だったことが伺える。
昔、ここに住み着いた一族の王国なのか、
今となっては知る由もない。
前方には平原が広がり、
川が光を反射して光っている。
細い石畳の道も数本見えた。
至る所に鳥や蝶が飛んでいた。
牧歌的な風景はとても雲の上とは思えない。
地上では見ることのできない固有種ばかりが生息していて、
独自の生態系が作られていた。
地下内部は何層にも古代文明遺跡があるが、
外側は土や岩がむき出しになっているところが大半で、
長い木の根や草で覆われているところもあった。
古代浮遊遺跡は今日も雲の上を人知れず移動している。
古代遺跡の城の上階、
浮遊遺跡全体を見渡せる部屋に、
南側勢力の主要メンバーが集まっていた。
朽ちかけた城は主にテアトラの資金で、
最低限の部分だけ修理保全されていた。
窓辺の椅子には【千夜の騎士団】カフカスが、
まどろみながら本を読んでいる。
「これはこれはますますお美しくなられまして……
まさかメキア家当主のジュールダン殿が、
直々に軍を率いてこられるとは……」
「久しぶりだなウィド。
その媚びへつらった笑みも、
その大きな腹も変わってなくて嬉しいよ」
長い赤髪のジュールダンは、
特注の黒い鎧に身を包み、
豪華な剣を腰に差している。
かなり高価な名剣だと誰でも分かる代物だ。
「ははは、相変わらず手厳しいですな」
ウィドは禿げ上がった頭をポリポリと掻いた。
……小娘が。調子乗るなよ。
心の内を悟られないように柔和な笑顔を返す。
「ブリムス連合の将軍なんて大した出世だな。
いくらはらったんだ?」
ジュールダンは、
ウィドの無駄に豪華な鎧を見下ろしながら冷笑する。
「ジュールダン殿、ご冗談が過ぎますぞ、はははっ。
それはそうと、あちらがホルダ王国のダキュラ国王です。
北側の侵攻に危機感を持ち、
新たに連合軍に参加してくれました」
「ほう、竜翼人の国だな……」
人の2倍はあろうかという巨体に大きな翼があるので、
圧迫感と迫力が凄い。
部屋がことさら狭く感じる。
「ジュールダン様、そろそろ……」
部下に促され、ジュールダンは全員を長机に集めた。
空中要塞は南側の各勢力が、
一定数の軍を派兵して共同運営していた。
今回、前任の軍の任期切れに伴い、
新たにテアトラとホルダ王国から交代で派兵された。
なお、総司令は常にテアトラ軍出身者が担う。
議題は各戦線への補給、援軍、奇襲などについてだった。
「セキロニア付近は主力軍が充実している。
この辺りからの要請はしばらくないと考えていいだろう」
本営の事情を知っているジュールダンの言葉には説得力があった。
「今はゴーレムが配備されているので、
攻め込まれているところは少ないですな」
ウィドは地図の上に置かれた、
ゴーレムの駒を指差す。
「しかし、半数は破壊されておる」
発言内容とは裏腹に、
カフカスの言い方に危機感はそれほどない。
「苦戦しているのはノクトリア共和国」
ジュールダンは短剣の先で地図を指す。
「獣人の国か……確かに厄介だ」
「キトゥルセンの援軍も来ている」
「誰ですか?」
ウィドがカフカスに訊く。
「七将帝バルバレスの軍だ」
ウィドは苦い顔をした。
「敵側の総大将ではないですか……」
「そうだ。だが仕留めれば……」
ジュールダンは不敵な笑みを浮かべた。
「ダキュラ殿にはここを制圧してもらいたい」
ずっと黙っていた竜翼人は
「よかろう」
と唸るような声で応えた。
「ジョルテシアの占領に、
この浮遊遺跡を使う案が上層部から出ている」
「あそこは陸から行けんからの」
紅茶を飲みながら、
のんびりとカフカスは合いの手を入れた。
「その場合は一旦ガルガンチュアに戻り、
3万ほどの兵を乗せ向かうことになっている」
「それはいつ頃ですか?」
「ひと月ほど先だ。
カフカス殿、古巣とて手加減無きよう……」
ジュールダンは冷たい視線をよこす。
「カフカス殿がいれば安心です」
ピリついた空気を和ませようと、
ウィドは努めて明るい声を出した。
「わしとて〝雷魔〟に瀕死の重傷を負わされた。
あそこには彼女の姉がいる。
襲撃がバレればきっとまた来るじゃろうな。
ほれ、そん時の傷じゃ」
カフカスは上着の前ボタンを外した。
上半身のほとんどが複数の大きな亀裂で埋まっていた。
肉が抉れて焼け焦げた跡に、
ウィドはおろかジュールダンさえも顔が引き攣る。
「我々【千夜の騎士団】にも既に犠牲者が出ておる。
敵を侮らない事じゃ」
「それは……ご自身でも勝てないと申されてるのか?」
ジュールダンは厳しい視線を向ける。
「そうではない。
勝負は時の運ということじゃな。
生きても死んでも楽しんだ者勝ちじゃ」
あっけらかんと笑うカフカスに、
ジュールダンは「呑気なジジイだ」と小さく呟いた。
窓辺に腰掛け、
いつの間にか眠ってしまったカフカスは、
昔の夢を見ていた。
「なんで、こんな力を私は与えられたの?」
隣を飛ぶ少女はよく泣く子だった。
「そう悪く捉えんでもいいんじゃよ。
他の人と違うということは、
他の人には出来ないことが出来るという事」
眼下には大きな街が広がり、
その先には砂漠が見えた。
「……他の人が出来ない事って?」
「例えばほら、
一番ありがたがられるのは魔物退治じゃな。
訓練した兵士だとて、
魔物一匹駆除できないこともままある。
後は敵国に侵攻されたとき、
わしら魔人が前線に立てば、
多くの味方を救えるぞ。
その兵士の両親や奥さんや子供も安心じゃ」
少女は複雑な顔をこちらに向ける。
「でもそれって人を殺すって事ですよね……」
この少女は能力の暴走で、
父親を殺めてしまった。
それを思い出したのか、
急に血の気が引いて、
身体中からバチバチと放電し始めた。
「……今の世では、何もしなければ、
ただ奪われるだけ。
最後は力を持っている人間が笑い、
嘘も真実となり、正しい歴史として残る。
それが残酷な事実なんじゃよ」
「力で解決なんて……
まるで動物……。何のために……」
放電は収まったが、納得していないようだった。
「まあ、わしの言った事は極論として、
わしらはその力を持っているということじゃ。
ただ、魔人の先輩として言える事は、
そんなに細かく考えない方がいいということじゃな。
心をやられてしまう。
魔人として生まれてしまったことはもう変えられん。
ならばこの力を、
何のために使うかを考えた方が良い」
少女はしばらく考え込んだ。
素直な子だと思った時、
「カフカスさんは?」と聞かれた。
「わしは祖国ジョルテシアのためと……
〝大義〟のためじゃな」
「大……義?」
「ネネル、お主は何のためにその力を使う?」
少女は再び考え込む。
「私……私は……」
唐突に爆発音が聞こえ、カフカスは目を覚ました。
更に複数の爆発音。続く振動。
グラスがカタカタと音を立てる。
しばらくして兵士が駆けこんできた。
「敵襲です!!!」
カフカスの目に生気が宿り、
自然と笑みが浮かぶ。
「……来たか、ネネル!」
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