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第五章 大陸戦争編

第233話 パルセニア帝国編 内なる声

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帝都ルーハイブ城が燃えている。



ゴッサリア・エンタリオンは、



山中の高台から帝都を見下ろしていた。



千里眼で戦況を見る。



深紅の巨鳥が燃え盛る城の上空を飛んでいる。



あれがオスカーの操る魔獣カカラルか……。



赤く揺らめく炎で身体が構成されているようだ。



敵の矢は身体をすり抜け、燃えてしまう。



「ありゃ無敵だな……」



ぼそりと呟いたゴッサリアは、



この先自分がなすべきことを思案していた。



(オマエ、裏切ルツモリカ?)



突然、脳内に響いた低い声に、



ゴッサリアは思わず舌打ちした。



体内に寄生している黒霊種だ。



勝手に出てくるんじゃねえ……。



険しい顔でこめかみを押さえる。



後ろには私兵が待機していた。



地道に集めたその数、約200名。



隊長のメルス・ジャハナムが声をかける。



「……行かなくていいのですか?」



「……休んでろ」



ゴッサリアはうるさそうに言い放つ。













ギバの事は好きではなかった。



(ナゼ共ニ行動シテイタノカ?)



(ナゼ誘イニ乗ッタノカ?)



ナルガセに誘われたからだ。



ザサウスニアの時もそうだった。



好きでいたわけではない。



(オ前ハ何ガシタイ?)



俺は……何がしたい?



俺は……何を欲している?



俺は俺が嫌いだった。



どうしてこんな性格で、



どうしてこんな思考回路をしているのか。



昔から人の言う事が信じられなかった。



(誰モ彼モ馬鹿ニシテイタノダロ?)



そうかもしれない。



自分が一番正しいと思っていた。



思えば前世の時から同じ性格だった。



神戸での最後の記憶は16歳だった。



なぜ死んだのか思い出せない。



そもそも死んだのかも疑問だ。



断片的な記憶は数えられるくらいしかない。



俺は学校や社会のはみ出し者だった。



人を殴る記憶、殴られる記憶、



漠然とした怒りと孤独と悲しみの感覚、それしかない。



こっちの世界で25年生きたが、



恐ろしいほど俺の内面は変わらなかった。



(知ッテルサ。ズット見テイタカラナ)



違う奴になりたかった。



いつもイライラしていた。投げやりだった。



(コチラニハ都合ガイイ)



オスカーキトゥルセンがうらやましかった。



あいつはなんであんなに周りから慕われてるんだ。



(気付イテイルハズダ)



……ああそうだ。だがどうしようもない。



あいつになりたかった。あいつのものが欲しかった。



(ダカラ〝ネネルラピストリア〟ヲ欲シタ)



(タダアイツヲ困ラセタイダケナンダロ?)



そうなのか? ……そうなのかもしれない。



醜い嫉妬に食い潰される。



(ダカラオ前ノ中ハ居心地ガイイ)



黙れ黙れ黙れ!! もう出ていけ。



(私ノ〝力〟ヲ使ッタダロウ?)



(私ノ〝力〟ヲ欲シタダロウ?)



(ナノニ今更出テイケトハ都合ガイイナ)



(ダガ、ソレモオ前ラシイ)



(オ前ハ私ノ入レ物ダ)



(私ノセイニスルナ)



(元ヨリオ前ノ真ッ黒ナ心ハオ前ガ作ッタモノダ)



(オ前ト私ハ一心同体)



(溶ケ合イ絡ミ合イ、モウ引キ離セナイゾ)



頭の中に黒霊種の不気味な声が響く。



でかい鐘の中にいるみたいに、



グワングワンと声が反芻している。











丁度ルーハイブ城から離れる時だった。



突然突風が吹いたかと思うと、



目の前にゴッサリア・エンタリオンが現れた。



「ここで来るかっ!!」



俺はフラレウムに炎を宿した。



リンギオとソーンも剣を構える。



護衛の有翼人兵と獣人兵も慌てて戦闘の準備をする。



だがゴッサリアは魔剣を抜かなかった。



クガとの話もある。



おそらく戦闘にはならない、と俺は踏んだ。



「久しぶりだな」



「……ああ」



少しの沈黙。



相変わらず身体から黒い影が出たり入ったりしている。



いつ見ても黒霊種は気味が悪い。



「お前はどうするんだ?」



「……何がだ?」



急に何の話だ。



「クガの言った事を信じるのか?」



ゴッサリアはどこか決意のある目つきだった。



「……まあな。



準備しておいて損はないだろ」



また少しの沈黙。



「……確かにな。



それに聖ジオン教の思うつぼってのは胸糞悪い」



ゴッサリアが何か投げた。



俺の足元に落ちる。



それは銀色のカードだった。



「シャガルム帝国の第4層に入れる許可証だ」



「第4層?」



「貴族などの支配者層が住むエリアだ。



今後お前らがシャガルムを攻めるかどうかは知らん。



だが持っていても無駄にはならないはずだ」



ゴッサリアは一方的にそう言うと、



一瞬で姿を消した。



「……なんだよアイツは」



リンギオは剣を収めた。



「敵ではなくなったようですな」



ソーンも安堵のため息をつきながら剣を収めた。



「……不器用な奴だ」



敵ではなくなった……そうかもしれないが、



仲間でもない。



警戒は怠らないようにしなきゃな……。



俺たちは燃え盛るルーハイブ城を後にした。
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