【北の果てのキトゥルセン】 ~辺境の王子に転生したので、まったり暮らそうと思ったのに、どんどん国が大きくなっていく件について~

次元謄一

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第五章 大陸戦争編

第231話 パルセニア帝国編 ゼノン城での戦い

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パルセニア北部の城、ゼノン城



パルセニア帝国軍、7000の兵が城の前に布陣。



対峙するのはミルコップ軍3000、



そしてマルヴァジア軍2000の計5000名。



生暖かい風が、両軍の間を流れている。



雲一つない晴天の空を、渡り鳥の群れが横切り、



開戦の笛が響き渡った。



ミルコップ軍から赤毛竜が十頭、飛び出した。



風貌は白毛竜だが、背中から首回り、



そして目から頬までの毛が朱色に染まっている特別な個体だ。



十頭は散らばり、7000の敵軍に迫った。



敵軍から複数の矢が飛んでくる。



当たったようにも見えたが赤毛竜たちは倒れない。



もう一度矢が放たれたが、結果は同じだった。



赤毛竜たちはぐんとスピードを上げ、



ついに前線に突っ込んだ。



竜たちは敵兵を次々と爪で切り裂き、牙で噛み砕く。



前線が乱れる。



パルセニア兵たちは焦り、恐怖に慄く。



目の前の竜は剣も槍も効かず、血も出ないのだ。



体重を乗っけて刺しても、刃が皮膚を貫くことはない。



竜たちは横に広がり、



弓兵を中心に次々と血祭りにあげてゆく。



後方にいる将官たちもようやく前線の異常に気が付いたようだ。



「そろそろいいだろう」



キトゥルセン軍七将帝、ミルコップの合図で、



全軍が進軍を開始する。



半分ほど来たところで矢を放った。



赤毛竜の事は心配しなくてもよかった。



なにせ矢は刺さらないのだ。



矢は混乱している敵軍前線を破壊した。



ミルコップにユウリナから通信が入る。



「どう? グリオンたちハ?」



「完璧です。一頭たりとも傷を負っていません」



赤毛竜はユウリナによって魔獣化された白毛竜だった。



身体強化され、人間の力では傷も負わず、力も数倍になった。



僅か十頭の赤毛竜に隊列と指揮系統を乱されたパルセニア軍は、



ミルコップ軍の圧力に耐えきれなかった。



城の中に敗走するのに、そう時間はかからなかった。







城の廊下を進むミルコップ軍の小隊が、



バタバタと一斉に倒れる。



中庭を望む石造りの廊下は外から丸見えで、



敵からしたら狙いやすいことこの上ない。



槍兵の一人がそっと顔を出し確認する。



中庭を挟んだ反対側の廊下に、



敵の弓兵が20名ほどこちらを狙っていた。



「おい、どうだ? 見えるか?」



「……ああ、ここは狙われてる。



通れそうにないな」



「盾を掲げていけば……」



「いや、こんな小さな盾では防ぎきれん」



「だが俺たちの制圧区域はこの先だ。



何としてでも行かなければ……」



敵兵が二名、待機中の彼らに襲い掛かったが、



何とか処理する。



眼下の中庭から白毛竜の鳴き声が、



城内の至る所では剣の衝突音や怒号が聞こえてくる。



「レイガン隊長!」



その時、別動隊が現れた。



「どうした?」



「ここは矢で狙われてます」



レイガンはちらりと壁から覗き込み確認すると、



足元の瓦礫を機械の腕で掴んだ。



「下がってろ」



機械の腕の肘の後ろから一瞬蒸気が噴き出すと、



レイガンは手のひらを反対側の廊下に向けた。



バシュゥゥゥゥッ!!と音がしたかと思うと、



敵の弓兵たちは廊下ごと吹っ飛び、



階下に崩れ落ちていった。



「よし行くぞ」









正門前を確保した副将ディアゴは、



集まった小隊長たちに指示を飛ばしていた。



視界の半分は蜂から送られてくる城内の映像で埋められており、



どこに何人いるか、敵兵が赤いマーカーで表示されている。



刻一刻と変わる戦況の中、正しい戦力を配分しなければならない。



ディアゴは早口でぶつぶつ呟きながら、



部下たちを送り出してゆく。









中庭にて7,8人の敵兵が血飛沫を上げながら倒れ込む。



その中心には二刀流のミルコップ将軍。



片足は刃物が飛び出た、金色に光る機械仕掛け。



「ミルコップ~~!!



てめえはなんてしつこい奴なんだよぉ」



声のした方を見ると赤いモヒカンの男がボウガンを構えていた。



ミルコップの視界に『ギバ軍幹部、ジェズ』と表示される。



体格はミルコップとほぼ同じ。



筋骨隆々の大男だ。



「お前がこの城の城主か」



気付けば上階から20名ほどの弓兵にも狙われていた。



「お前の首を持っていけば、俺は将軍だな」



ジェズは額に大粒の汗をかいていた。



俺を恐れている、とミルコップは気が付いた。



悟られまいと必死に強がっている。



そんな印象だ。



「無理だ。この程度では俺に勝てない」



ミルコップは冷たく言い放つ。



「ははっ……お前の女はギバの子を産んだぞ。



もう身も心もギバのものだ。



遅かったなあ。えぇ?」



ミルコップは動じない。



冷徹な目でジェズを射抜く。



「……生きているならそれだけでいいさ。



これからの彼女の長い人生全てを、



俺が責任をもって幸せにしてやるよ。



お前たちを欠片も思い出せないほどにな」



言うや否や、機械足から蒸気が爆発、



ミルコップは凄まじい速さで駆け、



壁を走ってジェズに迫る。



放たれた矢はミルコップの軌跡を辿るが、



到底追い付かなかった。



驚愕の表情を浮かべたジェズに、



「お前の首をギバに持ってってやる」



と言ってから、その首を刎ねた。









遅れて部下たちも中庭に入ってきた。



「ミルコップさん、早いですって……



あれ、もう敵将やっちゃったんですか」



古株の部下が息を切らしているとき、



地響きと共に地面に大穴が開いた。



「なんだ? 魔物か?」



部下たちは盾を構え迎撃態勢に入る。



穴の中から強烈な獣臭が漂ってきた。



「来るぞ!」



現れたのは巨大なモグラタイプの魔獣だ。



ミルコップの視界に『魔獣 ガラツキ』と表示される。



真っ黒な体毛は脂で光沢があり、耐久力が高そうだった。



目は無く、代わりに長いひげと大きな鼻が、



絶えず細かく動いている。



ガラツキは口をもごもご動かすと、



ベッ!!っと黒い塊を物凄い速さで吐き出した。



ミルコップの傍にいた古株の部下の頭部が消し飛ぶ。



「なっ……!!」



ガラツキは間髪入れず、押し固めた土の弾を吐き出してくる。



多くの兵が反応する間もなく、



身体を吹っ飛ばされ絶命してゆく。



目は無いが確実に感知されていた。



「伏せろ!」



生き残った部下たちは地面に這いつくばって物陰に隠れた。



迂闊に動けない状況の中、



クーワッ!! クーワッ!!と赤毛竜の声が響いた。



見上げると崩れかけた2階の廊下にグリオンの姿。



グリオンはガラツキに襲い掛かった。



空中で土の弾を食らったがなんともないようだ。



頭部に噛みついたグリオンは深く牙を突き立て、



激しく首を振る。



ガラツキは不快そうに鳴いて身をよじる。



ミルコップは機械足をフルパワーにして、



地面を蹴った。



ガラツキはこちらに気が付いたが、



グリオンに皮膚を噛み千切られ、注意が逸れる。



その隙にミルコップは高く飛び、全身を回転させ、



かかと落としを脳天に炸裂させた。



機械足から飛び出た細長い刃はガラツキの脳を破壊した。



「よくやった、グリオン」



立ち上がったミルコップの機械足が、



蒸気を噴出しながら標準仕様に折り畳まれ、



口元を真っ赤に染めたグリオンが勇ましく鳴き声を上げる。



ガラツキはその巨体を地面に沈めた。



「ゼノン城は落ちた!! 我らの勝利だ!!」



部下たちが勝利の勝ち鬨を上げた。

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