【北の果てのキトゥルセン】 ~辺境の王子に転生したので、まったり暮らそうと思ったのに、どんどん国が大きくなっていく件について~

次元謄一

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第五章 大陸戦争編

第222話 ビスチェ共和国戦線編 未来の約束

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ビスチェ共和国内 キトゥルセン軍野営地







早朝、テントが並び、煙が立ち上る中、



先発隊が空へ舞い上がろうとしている。



ミーズリー達少数の部隊が、



有翼人兵の背に乗り、



一組、また一組と羽ばたいていく。



この戦線には【王の左手】キャディッシュが来ていた。



指揮能力のある将官が不足していたので、



ザサウスニア戦争で特殊部隊を指揮していた、



キャディッシュに白羽の矢が立った。



キャディッシュは元ウルエスト軍最強“三翼〟の一人で、



武力でも七将帝に引けを取らない。



ミーズリーの前にキャディッシュがやってきた。



「さあ出発だ。乗ってくれ」



「……いや、別の人に乗せてもらうはずなんだが……」



「彼には僕から言っておいた。さあ、早く」



歯がキラリと光る。



ミーズリーはおずおずとキャディッシュの背に乗った。



「お、重くはないか? 飛べるか?」



ミーズリーは七将帝とは思えないほど動揺している。



「有翼人は強いんだ。君一人くらい訳ないさ」



言葉通り、ぶわっと力強く宙に舞い上がる。



「で、でかい女で済まないな……」



「なぜ謝る? 僕は素敵だと思っているよ」



ミーズリーは一人顔を赤くする。



「……そんな事言う奴は初めてだ。



私は幼少の頃からデカ女と呼ばれ……



おまけに腕力もあるからな、



化物扱いされてきた」



「辛かったろう……



まったく、君を悪く言った奴をたたっ斬りたいね」



トクンと胸が脈打ち、ミーズリーの心は温かくなる。



さっきまでいた野営地が、もう小さな点になった。



地上部隊は副将バハラに任せてある。



あとから軍事資材を馬車で運んできてくれる手筈だ。







「私の家は貧しかった。



私が軍で活躍すれば親兄弟たちが食べていける。



そう思ってがむしゃらだった」



しばらく飛んでいるうちにお互いの身の上話になった。



「僕の家もあまり裕福ではなかった」



「そうなのか? 有翼人はみんな貴族かと思っていた」



「ふふ、そんなことはないさ」



眼窩には深い森が延々と続いている。



山の稜線には濃い霧が出ていた。



「……将軍になって食べるものに困らなくなったが、



私が美味しいと思うものは、



いつだって貧しい子供時代に家族全員で囲んで食べた、



芋のスープだった」



「ああ、分かるよ。その感覚。



大人になっていい食べ物を食べても、



思い出の食事には敵わないよな。



僕も子供の頃食べた鶏肉のミルク煮が忘れられなくてね。



でも最近リリアンフードで見つけたんだ」



キャディッシュが羽ばたくのを止めた。



翼を水平にして風に乗る。



「もしよかったら、今度二人で食べに行かないか?」



急な誘いに驚いて身体が一気に熱くなる。



「わ、私でよければ……」



キャディッシュの翼が再び羽ばたきだす。



「よかった。断られたらどうしようかと……」



「ミーズリー将軍! キャディッシュ殿!



ありました! もうすぐです!」



先を飛ぶ兵士が振り返り剣で地表を指した。



その方向に目を向けると、



山間の平地に町があった。



「見えてきた。ミーズリー、準備はいいか?」



「ああ。行こう」









北ブリムス軍1万vs南ブリムス軍1万7千が、



ここビスチェ共和国の北で戦っている。



この国はジョルテシアの南に位置し、



標高の高い森林地帯が国土の大半を占める。



魔剣使いリリーナ女王率いるカサス軍三千も、



後方支援部隊として数日以内に戦線に合流予定だった。



キャディッシュ達とジョルテシア軍の計300名ほどは、



潜入部隊として、



ビスチェ共和国南部の村々を制圧、



敵軍の補給線を断つ任務に就いていた。



既に28の村や町を占領していた。







「しかし、この作戦、個人的にはあまり乗り気はしないな。



武器を持たぬ一般人に剣を向けるなど……」



「僕も同じ気持ちだけどね……



でもここら辺一帯の住民を難民にして、



補給の中継都市……ウォバ市に集めるまでが作戦だからね」



「分かっている。



難民たちに戦線に送るはずの食料を消化してもらい、



軍の士気を落とし、瓦解させ撤退させるって魂胆だろう。



オスカー様も中々妙な作戦を立てるな」



「なんでも、オーセンがギョウを攻めた時の……



とか言って興奮してたけど、



何のことかさっぱりだった。



まあ、ともかく、



あのお方は出来るだけ血を流させたくないだけだろうね。



征服した国の住民は、いずれ自分の国民になるんだから」



「そうだな。信じよう」





作戦に支障が出たのは二週間ほど経った日だった。



敵の特別遊撃部隊だろうか、約500名の竜人軍が襲ってきた。



竜人はトカゲと人を混ぜたような外見の種だ。



狂暴な見た目とは裏腹に、



知性的で勤勉な種族性を持っている。







夜明け前の野営地を急襲されたが、



見張りがすぐに気付いてくれたおかげで、



なんとか上空に退避出来た。



被害は最小に抑えられたが、



竜人たちの装甲も皮膚も固く、



中々数が減らない。



おまけに火にも耐性があり、



上空からの火矢でもあまり倒れない。



「……山に誘い込もう。



せり出した崖があっただろう。



あの崖を崩落させるんだ」



「いい案だが、誘い込むためのおとりが必要だな」



「それは私の隊がやる。作戦の発案者だからな」



「危険だぞ」



「戦士に危険なんて言葉を使うな。



軍に入った日から覚悟している」



山間の林道にミーズリー達を降ろすと、



キャディッシュは崖の岩盤の隙間に機械蜂を潜り込ませた。



視界に出てきた情報は『崩壊確率47%』



これだけでは不十分だということだ。



崖の大きさは家が7,8軒乗る大きさだ。



崖が落ちれば真下も土砂崩れで、



相当広範囲に広がる。



有翼人達は人力で崖の土を掘り、岩を削り、



隙間に剣や槍を差し込んだ。



ミーズリー達は後退しながら、



進軍してくる竜人部隊を、



なんとかさばいている。



幸運だったのは道幅が狭いので、



一気に包囲される危険性がなく、



両軍の衝突部分が限定的だったことだ。



それでも、



優秀な精鋭部隊であるミーズリー兵が、



バタバタ倒れていく。



敵の部隊長は周りの兵より一回り大きく、



身体中傷だらけだ。



中央から動かず、



ただこちらをじっと睨んでいる。



『ミーズリー、こちらは準備できた。



もう少し後退してくれ』



『了解した。



しかし、敵の将は怪しんでいる。



このままいくと直前でバレるかもしれない』



『……分かった。僕たちが反対側から攻撃を加える。



あと数分、敵から考える時間を奪えればいい』



キャディッシュは有翼人兵を従えて、



側面の森から攻撃を加えた。



猛禽類が獲物を狙うかの如く、



猛スピードで竜人兵を槍で突いて、



上空へと飛び抜ける。



「よし、そろそろいいだろう。



お前たち、出来るだけ惨めで情けなく敗走しろ」



ミーズリーの合図と共に、



兵たちが徐々に剣を下げて後方に走り始めた。



ある者は腰を抜かし、ある者は四つ足で地を這うように、



指揮系統も崩れ、部隊が崩壊したように見せつけた。



当然、好機と見た竜人兵たちは駆けて追ってきた。



『今だ!』



キャディッシュは機械蜂を起爆させた。



腹に響く地響きと共に崖が大量の土と共に落下してくる。



一斉に有翼人兵たちは上空へ逃げた。



思惑通り、竜人兵のほとんどが土砂に飲み込まれ、



生き残った後方の数十人は、



呆然としている間に包囲され、投降した。



「終わったな……」



ミーズリーがそう呟いた時、



土砂の中から一人の竜人兵が、



雄叫びを上げながら立ち上がった。



一回り大きい兵士……部隊長だ。



血と泥にまみれ、憤怒の表情でミーズリーを睨む。



剣を抜き、怒りを滾らせながら向かって来た。



ミーズリー兵が一斉に矢を放つも、



固い鱗の皮膚には刺さらない。



近くにいた三人の兵が斬りかかったが、



竜人の一振りで腕や首が宙に舞う。



「みんな下がれ! 私がやる」



こいつは桁外れの強さだ。



私でも勝てるかどうか……。



ミーズリーの額に汗がつうっと流れる。



「ミーズリー様も危険です。



アイツは尋常じゃない!」



副将のバハラが止めるも、ミーズリーは前に出た。



竜人兵は何も言葉を発せず、



ただ怒りの相貌を向けながら剣を振り下ろす。



受けたミーズリーはその重さに驚いた。



ぎりぎりと力で押し込まれ、



たまらず片膝をつき、



そして自分の剣が肩に食い込む。



「くっ!! なんて力だ……」



腕や胸の辺りが生温かい。



肩から血が流れている。



ミーズリーは剣をねじり、何とか身を躱したが、



すぐに拳が飛んできて吹っ飛ばされた。



まずい、勝てない。こいつは圧倒的過ぎる……



竜人がゆっくり近づいてくる。



ミーズリーは初めて恐怖を覚えた。



その時、竜人の背後の空から、



一人の有翼人兵が飛んでくるのが見えた。



「僕のっ! ミーズリーに! 手を! 出すなっ!!」



猛スピードで突っ込んできたのはキャディッシュだった。



手に持っているのは槍……いや、大型弩の鉄矢だ。



キャディッシュは鉄矢を投げた。



降下スピードが乗り、



とてつもない威力を纏った鉄矢は、



竜人を背中から貫いた。

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