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第五章 大陸戦争編
第211話 ベスキオ城跡での密会
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目の前に【千夜の騎士団】団員クガがいた。
黒装束が潮交じりの強風に激しく煽られているが、
その皮肉な笑みは以前見た時と変わらなかった。
ふらつく頭を誤魔化し立ち上がる。
クガの腰の剣からも魔素……。
魔人が魔剣を持ってるのか……ヤバすぎだろ。
「久しぶりだね、オスカー王子。
君とゆっくり話しをしなくちゃいけない。
少々強引な手だけど、許してくれ」
こいつは再生の力を持つ魔人だ。
それが、どんな能力か知らないが、
魔剣を装備している。
もし戦闘になったとしたら……
ちとキツイな……。
「ザヤネを返せってか?」
魔剣フラレウムに炎を宿し、
俺は苦笑しながら剣先を向けた。
クガは一瞬動きを止め、ニカっと笑いながら
「ああ、今回はそっちの話じゃないんだ」と
頭を掻く。
「敵意はないから魔剣を収めてくれ」
もう一人、白髪の【千夜の騎士団】の団員が、
クガの後ろでふらついて膝を付いた。
「大丈夫か? レオンギルト」
レオンギルトと呼ばれた男は、
ニ、三十代の根暗イケメンといった風貌だ。
「あと数回なら」
勝手に弱っている。
瞬間移動の能力には回数制限があるらしい。
貴重な情報だな、こりゃ。
「無理しなくていいからね。
……さて、実はもう一人呼んでるんだ。
着いてきて」
クガたちが通路から階段に歩き始めたので、
仕方なくついてゆく。
俺は千里眼を発動した。
ここはどうやら島のようだ。
周りは海に囲まれ、荒れ狂う波しか見えない。
この城も、周りに広がる城下町も、
廃墟となって久しいようだ。
いくつかの腐樹が生えている以外、
他に生き物はいない。
「ここは一体どこなんだ?」
「ここはベスキオ城跡。
場所は……言っても分らないと思うよ」
クガは意味ありげに言う。
視界のマップ情報はエラー表示だ。
今までは常に情報が視界に表示されていたが、
何も分からないということがこんなにも不安だなんて。
くそっ、手汗が半端ない。
久しぶりだな、この感じ。
階段を下りた先の広場には男が立っていた。
「お前か、オスカー」
「ゴッサリアっ!」
反射的に魔剣を構える。
ゴッサリアも魔剣フォノンに手を添えた。
同時に身体から黒霊種が滲み出る。
「まあ落ち着いて、二人共」
クガが間に入って手で制す。
「お前ら、ジョルテシアで殺し合いしてたろ。
いつ仲良くなったんだ?」
「仲良くはなってないよ。
決着つかなくてさ、お互い疲れただけ」
「三人目はお前か……
そんな気がしたぜ」
俺たちは一定の距離を保ち、
瓦礫にそれぞれ腰かけた。
「僕達三人には共通点がある」
クガは真面目なトーンで話し始めた。
白髪のレオンギルトという男は、
いつの間にか姿を消していた。
「僕の出身は長崎だ」
俺は思わず目を見開いた。
そっちの話か……。
「ゴッサリアは神戸、オスカー王子は……」
「多分、東京だ……」
ガラドレスでゴッサリアから神戸出身だと言われてから、
他にもたくさんいるのだろうと考えていた。
まさかクガもそうだったとは。
「僕らはいわゆる転生者だ」
「転生者はみんな魔剣使いか魔人なのか?」
まともな会話をするゴッサリアを見て違和感を感じる。
戦った時は内面の異常性が全開だったからな……。
しかもネネルのストーカーだし、こいつ。
「いや、ほとんどが一般人だったよ。
僕は400年くらい生きてるんだけど……」
「は? マジかよ」
「……オスカー王子は驚かないね」
クガは面白そうに俺を見る。
「不死身ってことはその可能性もあるだろうよ」
「さすが為政者」
何かムカつく。
「おい、なんだそれ。じゃあ俺が馬鹿みてーじゃねえか。
やっぱりあの時殺しておけばよかったぜ」
「君は血の気が多いねえ。
……この400年、僕はたくさんの転生者と出会ってきた。
彼らの話を聞いた結果、いくつかの共通点が分かったんだよ」
クガの目が輝きだす。
「僕らは前世をうまく思い出せない。
断片的な記憶があるだけだ。
それは皆共通している。
でも中には専門的な知識を記憶している者もいた。
例えば建築、薬学、天文学、数学、物理学なんかの知識が、
生まれながらに頭に入ってるんだ。
あとは少し特殊な能力を有している者も……。
異常な聴力、視覚、嗅覚、
寝なくても平気な身体、長時間息を止められる者もいた」
異常な……視覚は俺の千里眼か。
「これらを踏まえて、
僕は一つの結論に至ったよ。
……この世界を操作している存在がいる」
「機械人か」
クガと目が合う。
「オスカー王子、心当たりがあるのかい?」
「まあな。そっちにも機械人がいるんだろ?
直接聞いてみればいい」
「無理だ。そんなフランクな仲じゃないよ」
もう一つ伝えておきたい話があるんだ、
と言って懐から小さな機械を取り出した。
それは古代の遺物の機械で、
映像を空中に投影できる装置らしい。
「これを見てほしい」
映像は腐樹の森をゆっくり移動している。
木々を抜けた先に動くモノ。
魔物かと思ったが違うようだ。
なんだ……人か?
「これは人型の魔物だ。
腐人と言うべきか。僕らはオークと呼んでいるけど」
灰色の皮膚に凶悪そうな顔面、
体中から黒い枝を生やしている。
簡素な衣服や剣、槍、弓を持ち、
ある程度統制が取れた動きをしていた。
「気持ち悪い姿だな。こいつら知能はあるのか?」
ゴッサリアは眉間にしわを寄せている。
「ほとんど人間と同じくらいの知能はあると思うよ
で、今このオーク軍が海を渡る動きを見せているんだ」
「数は? こいつらが攻めてくるのはいつだ?
てかここはどこだ?」
「まぁ慌てないでオスカー王子。
映像はゼニア大陸。数は分からないけど、たくさんだ。
ゼニア大陸のほとんどは腐樹の森で覆われ、
彼らが支配している。
このオークの大軍が、400年の間に二度、
僕らのウルティア大陸に侵攻してきた。
古い国……例えばミュンヘル王国なんかは、
たくさん文献が残っていると思うよ。
僕も戦ったけど、それはそれは壮絶な戦いだった。
いくつもの国が滅んで、たくさんの人々が死んだ。
なんとか撃退できたけど、
やっぱりそれは僕ら魔人や魔剣使いの存在があるからなんだ。
人々を腐樹から守るために、僕らは存在している。
そのために作られたんだ……機械人に」
クガは神妙な面持ちで言う。
「……なおさら人間同士で争っている場合ではないな。
当時、お前は何者でどう戦ったんだ?」
「一度目は将軍として、二度目は国王として。
死力を尽くして戦ったよ。
僕は不死身だからね、夢中で剣を振り、
ふと気が付いて振り返ったら全員死んでいた。
二回ともさ。……あんなのは二度とごめんだ。
だから人類は結束しなきゃならない」
クガの内面を聞いて、
ならなぜ【千夜の騎士団】にいる? と疑問が湧いたが、
それは言わないでおいた。
「それはテアトラの……いや、聖ジオン教国の意見か?
はっきり言ってくれ、これは交渉なのか?」
「そうなら話は早いんだけどね、
残念ながらそうじゃない」
クガは苦笑する。
「僕もボスには内緒でここにきている。
ああ、彼は大丈夫。
レオンギルトは僕の協力者さ。
バレたら僕だって命が危ない」
「命がって……お前不死身だろ」
ゴッサリアが突っ込む。
「自分の能力は自分が一番知ってる。
やってほしくない事くらい僕にもあるさ」
高波のしぶきが強風に乗ってここまで入ってくる。
空は黒く、雷鳴が轟いていた。
「ん? おい、ちょっと待て。
お前の話が本当だという証拠は?」
ゴッサリアにしては鋭い。
「そうだ、俺と話をしたいだけなら、
なぜノーストリリア城に腐王を放った?
なぜ俺の部下を殺した?」
二人から責められクガは身を引いた。
「うーん、困ったな。この映像が証拠と言うしかない。
あと、一つ言っとくけど、僕らも一枚岩じゃないんだ。
キトゥルセン連邦の心臓部に腐王を送る作戦は、
前から決まっていた……。
その作戦の隙を突いて今この会談は実現している。
もう少ししたら僕も帰らなくちゃいけない。
君たちも元通りの場所に返す、約束するよ」
「確たる証拠はないが信じてくれ、ってことか」
「その代わり僕らの手の内を明かすよ。
聖ジオン教国はテアトラを使ってゼニア大陸から腐王を運び、
敵国に放つという作戦をする。
更にオークをこの大陸に迎え入れるつもりだ。
僕はそれを阻止したい」
嘘は言ってないように見える。
クガの目からはゆるぎない意志を感じた。
「……停戦でも結ぼうってか?」
クガの熱意はゴッサリアにも通じたようだ。
態度が軟化した。
「本音はそうさ、けどそれは難しい。
僕も難しい立場でね。
他の団員の手前、敵と出会ったら攻撃するし、殺しもする。
だが目的は、この大陸と人々の救済だ」
「アーキャリーは無事なのか?」
「……それはまた別の話だね。
無事なはずだよ、ザヤネとの交換用だから。
ザヤネの能力はとても強力だから団長のお気に入りなんだ。
あ、今回僕は関与してないよ。
ジョルテシアで失敗しちゃったからね」
さあ、そろそろお開きだ、クガはそう言い立ち上がった。
いつの間にかレオンギルトが背後にいた。
「もう時間がない。
聞いてくれてありがとう。
停戦も同盟も結べない。
けど各々準備は出来るはずだ。
彼が元居た場所に送るよ。
じゃあまた」
レオンギルトが肩に触れた瞬間、視界が揺らぐ。
くそ、部下を殺した奴の世話になるなんて。
一瞬、そんなことが頭をよぎったが、
目の前に広がった景色にかき消された。
ん? ここは……?
見覚えがないぞ。
……あの旗は…………テアトラっ!
まさかここは敵の城内じゃ……。
レオンギルトが耳元で囁く。
「キトゥルセンの王子。
俺はクガに恩がある。
だから危険な橋を渡り協力した。
だか団長や聖ジオン教にも恩がある。
これが俺の精一杯だ。
行きはいいが、帰りは自分で帰りな。
殺さないだけありがたく思えよ」
振り向くともうレオンギルトの姿はなかった。
黒装束が潮交じりの強風に激しく煽られているが、
その皮肉な笑みは以前見た時と変わらなかった。
ふらつく頭を誤魔化し立ち上がる。
クガの腰の剣からも魔素……。
魔人が魔剣を持ってるのか……ヤバすぎだろ。
「久しぶりだね、オスカー王子。
君とゆっくり話しをしなくちゃいけない。
少々強引な手だけど、許してくれ」
こいつは再生の力を持つ魔人だ。
それが、どんな能力か知らないが、
魔剣を装備している。
もし戦闘になったとしたら……
ちとキツイな……。
「ザヤネを返せってか?」
魔剣フラレウムに炎を宿し、
俺は苦笑しながら剣先を向けた。
クガは一瞬動きを止め、ニカっと笑いながら
「ああ、今回はそっちの話じゃないんだ」と
頭を掻く。
「敵意はないから魔剣を収めてくれ」
もう一人、白髪の【千夜の騎士団】の団員が、
クガの後ろでふらついて膝を付いた。
「大丈夫か? レオンギルト」
レオンギルトと呼ばれた男は、
ニ、三十代の根暗イケメンといった風貌だ。
「あと数回なら」
勝手に弱っている。
瞬間移動の能力には回数制限があるらしい。
貴重な情報だな、こりゃ。
「無理しなくていいからね。
……さて、実はもう一人呼んでるんだ。
着いてきて」
クガたちが通路から階段に歩き始めたので、
仕方なくついてゆく。
俺は千里眼を発動した。
ここはどうやら島のようだ。
周りは海に囲まれ、荒れ狂う波しか見えない。
この城も、周りに広がる城下町も、
廃墟となって久しいようだ。
いくつかの腐樹が生えている以外、
他に生き物はいない。
「ここは一体どこなんだ?」
「ここはベスキオ城跡。
場所は……言っても分らないと思うよ」
クガは意味ありげに言う。
視界のマップ情報はエラー表示だ。
今までは常に情報が視界に表示されていたが、
何も分からないということがこんなにも不安だなんて。
くそっ、手汗が半端ない。
久しぶりだな、この感じ。
階段を下りた先の広場には男が立っていた。
「お前か、オスカー」
「ゴッサリアっ!」
反射的に魔剣を構える。
ゴッサリアも魔剣フォノンに手を添えた。
同時に身体から黒霊種が滲み出る。
「まあ落ち着いて、二人共」
クガが間に入って手で制す。
「お前ら、ジョルテシアで殺し合いしてたろ。
いつ仲良くなったんだ?」
「仲良くはなってないよ。
決着つかなくてさ、お互い疲れただけ」
「三人目はお前か……
そんな気がしたぜ」
俺たちは一定の距離を保ち、
瓦礫にそれぞれ腰かけた。
「僕達三人には共通点がある」
クガは真面目なトーンで話し始めた。
白髪のレオンギルトという男は、
いつの間にか姿を消していた。
「僕の出身は長崎だ」
俺は思わず目を見開いた。
そっちの話か……。
「ゴッサリアは神戸、オスカー王子は……」
「多分、東京だ……」
ガラドレスでゴッサリアから神戸出身だと言われてから、
他にもたくさんいるのだろうと考えていた。
まさかクガもそうだったとは。
「僕らはいわゆる転生者だ」
「転生者はみんな魔剣使いか魔人なのか?」
まともな会話をするゴッサリアを見て違和感を感じる。
戦った時は内面の異常性が全開だったからな……。
しかもネネルのストーカーだし、こいつ。
「いや、ほとんどが一般人だったよ。
僕は400年くらい生きてるんだけど……」
「は? マジかよ」
「……オスカー王子は驚かないね」
クガは面白そうに俺を見る。
「不死身ってことはその可能性もあるだろうよ」
「さすが為政者」
何かムカつく。
「おい、なんだそれ。じゃあ俺が馬鹿みてーじゃねえか。
やっぱりあの時殺しておけばよかったぜ」
「君は血の気が多いねえ。
……この400年、僕はたくさんの転生者と出会ってきた。
彼らの話を聞いた結果、いくつかの共通点が分かったんだよ」
クガの目が輝きだす。
「僕らは前世をうまく思い出せない。
断片的な記憶があるだけだ。
それは皆共通している。
でも中には専門的な知識を記憶している者もいた。
例えば建築、薬学、天文学、数学、物理学なんかの知識が、
生まれながらに頭に入ってるんだ。
あとは少し特殊な能力を有している者も……。
異常な聴力、視覚、嗅覚、
寝なくても平気な身体、長時間息を止められる者もいた」
異常な……視覚は俺の千里眼か。
「これらを踏まえて、
僕は一つの結論に至ったよ。
……この世界を操作している存在がいる」
「機械人か」
クガと目が合う。
「オスカー王子、心当たりがあるのかい?」
「まあな。そっちにも機械人がいるんだろ?
直接聞いてみればいい」
「無理だ。そんなフランクな仲じゃないよ」
もう一つ伝えておきたい話があるんだ、
と言って懐から小さな機械を取り出した。
それは古代の遺物の機械で、
映像を空中に投影できる装置らしい。
「これを見てほしい」
映像は腐樹の森をゆっくり移動している。
木々を抜けた先に動くモノ。
魔物かと思ったが違うようだ。
なんだ……人か?
「これは人型の魔物だ。
腐人と言うべきか。僕らはオークと呼んでいるけど」
灰色の皮膚に凶悪そうな顔面、
体中から黒い枝を生やしている。
簡素な衣服や剣、槍、弓を持ち、
ある程度統制が取れた動きをしていた。
「気持ち悪い姿だな。こいつら知能はあるのか?」
ゴッサリアは眉間にしわを寄せている。
「ほとんど人間と同じくらいの知能はあると思うよ
で、今このオーク軍が海を渡る動きを見せているんだ」
「数は? こいつらが攻めてくるのはいつだ?
てかここはどこだ?」
「まぁ慌てないでオスカー王子。
映像はゼニア大陸。数は分からないけど、たくさんだ。
ゼニア大陸のほとんどは腐樹の森で覆われ、
彼らが支配している。
このオークの大軍が、400年の間に二度、
僕らのウルティア大陸に侵攻してきた。
古い国……例えばミュンヘル王国なんかは、
たくさん文献が残っていると思うよ。
僕も戦ったけど、それはそれは壮絶な戦いだった。
いくつもの国が滅んで、たくさんの人々が死んだ。
なんとか撃退できたけど、
やっぱりそれは僕ら魔人や魔剣使いの存在があるからなんだ。
人々を腐樹から守るために、僕らは存在している。
そのために作られたんだ……機械人に」
クガは神妙な面持ちで言う。
「……なおさら人間同士で争っている場合ではないな。
当時、お前は何者でどう戦ったんだ?」
「一度目は将軍として、二度目は国王として。
死力を尽くして戦ったよ。
僕は不死身だからね、夢中で剣を振り、
ふと気が付いて振り返ったら全員死んでいた。
二回ともさ。……あんなのは二度とごめんだ。
だから人類は結束しなきゃならない」
クガの内面を聞いて、
ならなぜ【千夜の騎士団】にいる? と疑問が湧いたが、
それは言わないでおいた。
「それはテアトラの……いや、聖ジオン教国の意見か?
はっきり言ってくれ、これは交渉なのか?」
「そうなら話は早いんだけどね、
残念ながらそうじゃない」
クガは苦笑する。
「僕もボスには内緒でここにきている。
ああ、彼は大丈夫。
レオンギルトは僕の協力者さ。
バレたら僕だって命が危ない」
「命がって……お前不死身だろ」
ゴッサリアが突っ込む。
「自分の能力は自分が一番知ってる。
やってほしくない事くらい僕にもあるさ」
高波のしぶきが強風に乗ってここまで入ってくる。
空は黒く、雷鳴が轟いていた。
「ん? おい、ちょっと待て。
お前の話が本当だという証拠は?」
ゴッサリアにしては鋭い。
「そうだ、俺と話をしたいだけなら、
なぜノーストリリア城に腐王を放った?
なぜ俺の部下を殺した?」
二人から責められクガは身を引いた。
「うーん、困ったな。この映像が証拠と言うしかない。
あと、一つ言っとくけど、僕らも一枚岩じゃないんだ。
キトゥルセン連邦の心臓部に腐王を送る作戦は、
前から決まっていた……。
その作戦の隙を突いて今この会談は実現している。
もう少ししたら僕も帰らなくちゃいけない。
君たちも元通りの場所に返す、約束するよ」
「確たる証拠はないが信じてくれ、ってことか」
「その代わり僕らの手の内を明かすよ。
聖ジオン教国はテアトラを使ってゼニア大陸から腐王を運び、
敵国に放つという作戦をする。
更にオークをこの大陸に迎え入れるつもりだ。
僕はそれを阻止したい」
嘘は言ってないように見える。
クガの目からはゆるぎない意志を感じた。
「……停戦でも結ぼうってか?」
クガの熱意はゴッサリアにも通じたようだ。
態度が軟化した。
「本音はそうさ、けどそれは難しい。
僕も難しい立場でね。
他の団員の手前、敵と出会ったら攻撃するし、殺しもする。
だが目的は、この大陸と人々の救済だ」
「アーキャリーは無事なのか?」
「……それはまた別の話だね。
無事なはずだよ、ザヤネとの交換用だから。
ザヤネの能力はとても強力だから団長のお気に入りなんだ。
あ、今回僕は関与してないよ。
ジョルテシアで失敗しちゃったからね」
さあ、そろそろお開きだ、クガはそう言い立ち上がった。
いつの間にかレオンギルトが背後にいた。
「もう時間がない。
聞いてくれてありがとう。
停戦も同盟も結べない。
けど各々準備は出来るはずだ。
彼が元居た場所に送るよ。
じゃあまた」
レオンギルトが肩に触れた瞬間、視界が揺らぐ。
くそ、部下を殺した奴の世話になるなんて。
一瞬、そんなことが頭をよぎったが、
目の前に広がった景色にかき消された。
ん? ここは……?
見覚えがないぞ。
……あの旗は…………テアトラっ!
まさかここは敵の城内じゃ……。
レオンギルトが耳元で囁く。
「キトゥルセンの王子。
俺はクガに恩がある。
だから危険な橋を渡り協力した。
だか団長や聖ジオン教にも恩がある。
これが俺の精一杯だ。
行きはいいが、帰りは自分で帰りな。
殺さないだけありがたく思えよ」
振り向くともうレオンギルトの姿はなかった。
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