【北の果てのキトゥルセン】 ~辺境の王子に転生したので、まったり暮らそうと思ったのに、どんどん国が大きくなっていく件について~

次元謄一

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第四章

第202話 セキロニア帝国編 クハナ村のアジト

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北セキロニア帝国、国境沿いのクハナ村。



この辺りはいつも砂塵が舞っている。



茶色い土壁の民家が連なり、



遠目に見れば朽ち果てた集落に見える。



この村にレジュの用意したアジトがあった。



入り組んだ細い通路の住宅地が途切れる村のはずれ、



半分瓦解した砂避けの塀に隣接する建物。



入り口の前は井戸のある広場になっており、



二階建ての家が円型に広場を囲む。



乾燥に強い植物や痩せた犬、洗濯物などが視界に入る。



タイタスはアジトの入り口前に座り、



リンゴを齧りながら広場を眺めていた。



昨夜のことを思い出す。



囲まれたとき、ウォルバーの助けがなかった場合、



自分はどう動いていたか。



タイタスは頭の中で何パターンもイメージしていた。



自然と小さく手が剣の動きを真似る。



ふと気づくと、傍らに少女が立っていた。



10歳くらいで長い黒髪に緑色の瞳。



白いゆったりとした一枚布の服に青い石のベルト。



そして彫りの深い顔立ち。



昔からこのあたりに住む民族の特徴だ。



民族の名前はなんだっけと考えていると、



少女は「あなたが新しい人?」と聞いてきた。



「そうだよ。この前引っ越してきたんだ」



そう優しい笑みを浮かべた。



タイタスは子供が嫌いだった。



子供とはそもそもまだ人間になっていない、



虫でいえば幼虫だと思っている。



だからまともに話しても意味がない。



村になじむのも仕事のうちなので演技をするだけだ。



タイタスは人当たりのいい子供好きのお兄さんになりきる。



「君の名前は?」



「モナ・ジャハースク」



モナの服は所々擦り切れていたり、破れていたりした。



体つきも細い。



「あなたは?」



「タイタスだ」



「タイタス。……なんの仕事?」



風が吹き、目を細めながらモナは聞いてきた。



興味津々と言った感じだ。



モナにとって自分はおそらく、



単調な毎日に突然やってきた刺激なのだろう、と思った。



タイタスは貿易商だ、と答えた。



リンゴをあげるとモナは可愛らしい笑顔を見せて喜んだ。











『〝ナザロの翼〟の発見、ご苦労だった。



それとネグロスも。



ここまで深く絡んでいることが分かっただけでも大手柄だ』



アジトの壁には機械蜂から投影された〝ラウラスの影〟長官、



ユーキンの顔が映っていた。



「確保できなくて申し訳ありません。



動力も目の前にあったのに……」



タイタスはため息交じりに答えた。



投影された画面の前にはタイタス、レジュ、ウォルバーが立っている。



その脇には山積みにされた木箱があった。



中身は武器と食料などだ。



『ガイロン鉱山から移動できる範囲は限られているし、



ネグロスの隠れ家もいくつか当たりはつけてる。



身元がバレなかっただけよかった。



下手に動くと大事になるからな、慎重に越したことはない』



撤退せずにネグロスを誘拐すべきだった、



タイタスが呟いた。



「……誰かが犠牲になっていたぞ」



ウォルバーは厳しい声だ。



「この仕事に犠牲はつきものだよ」



タイタスもまた鋭い目つきで返す。



「囚われたら拷問を受ける。死んだほうがましだと思うほどの。



分かってるのか?」



ウォルバーは元キトゥルセン軍の将軍だった、



ギバ・グレイヤーに捕まり拷問で両腕を無くしたらしい。



そしてユウリナ神に機械の腕を与えられたと聞いた。



「結果として〝神の腕〟を手に入れたんだからいいじゃないか」



「……貴様っ!」



ウォルバーは一瞬頭に血が上ったが長官の手前何とか怒りを収めた。



「……お前は知らないからそんなことが言えるんだ」



二人のやり取りの間でレジュは腕を組みながら肩をすくめた。



『もういいだろう。そこら辺にしておけ』



ユーキン長官もため息交じりだ。



「僕は初めから暗殺要員だった。



連絡要員だったあんたとは覚悟が違う」



「捕まって拷問を受けても平気だと?



ふん、経験が無いからそんなことが言えるんだ。



お前の言葉には説得力がない」



『おい! いい加減にしないか!』



長官の叱責にようやく二人は黙った。



レジュのため息が静寂に響く。



「はあ、まったく、先が思いやられるよ」













『ネグロスが潜伏していると思われるのは、



このメデュス寺院、もしくはトゥーロン城だ。



メデュス寺院の方が可能性がある』



上空からの画像が映し出された。



「ふむ、市街地のど真ん中か。



周辺の建物に兵士が潜んでいそうだな」



レジュはあごを手で擦る。



「おそらく聖ジオン教騎士団を連れて来ている。



私服で町民に紛れているだろう」



ウォルバーは腕組して眉間にしわを寄せていた。



「ネグロスを誘拐した後が大変だね、こりゃ」



タイタスは笑いながら画面を見つめる。



『〝ナザロの翼〟の映像を見た。ユウリナ神にも見てもらった。



動力を入れればすぐに動く状態だそうだ。そうなれば……』



「北セキロニアを攻撃……その後は北ブリムスの同盟国……」



レジュは厳しい顔だ。



「そしてキトゥルセン連邦」



ウォルバーがため息交じりに繋いだ。



『ユウリナ神曰く、一機あれば複数の中小国を一晩で堕とせるらしい。



あの禁書に書かれていたことは本当だったわけだ』



「しかし……襲撃するにはいささか人数が足りないな。



我々北セキロニア帝国軍は正式に動けないし……」



『レジュ殿、心配は無用だ。



こちらから既に援軍が向かっている。



【護国十二隊】の三番隊。



隊長はシボ・アッシュハフ。



あのルレ隊長の副官だった女性で、



先の戦争でもいくつもの功績を残している優秀な将官だ』



画面にシボのプロフィールが映し出された。



「お、可愛い」



レジュは笑顔になった。

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