【北の果てのキトゥルセン】 ~辺境の王子に転生したので、まったり暮らそうと思ったのに、どんどん国が大きくなっていく件について~

次元謄一

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第四章

第198話 ジョルテシア連邦編 思い出は心の中に

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「ん? なんだ? こりゃ俺たちの他にも襲撃者がいたってことか?」



壁を破壊し、突風と共に乱入してきたのは、



魔剣フォノンを持つ風使い、ゴッサリア・エンタリオンだった。



武装した私兵がテラスに次々登ってくる。外は竜巻が荒れ狂ったままだ。



「情報は正しかったが、これは予想外だ。



……それにしても人気者だな、ネネル」



床に押し付けられているネネルを見てゴッサリアは笑顔を見せる。



「僕ら相手に乱入とはいい度胸だね……」



そう言って近づいたクガの背後に、



ゴッサリアは一瞬で移動、肩から腹にかけて深く剣を入れていた。



ふん、と鼻で笑うゴッサリア。



「……〝境壊〟」



カフカスが呟く。



「……それとも自首しに来てくれたのかな?」



斬ったはずの男が何事もなかったかのように話し、



ゴッサリアは驚いた。クガはシェイクルーパを向け、



振動波を放つがゴッサリアはその場から消えた。



代わりに私兵数人がはじけ飛ぶ。



そして部屋中に突風が吹き荒れる。



天井が落ち、部屋のある塔全体が崩れた。



自由になったネネルは上空に飛んだ。



体中が痛い。呼吸も荒かった。



ビュオッ! と風が吹き、



気が付けばゴッサリアがネネルの後ろにいた。



翼の付け根に手をかけ、首に手を回す。



「さあ、俺と行こうネネル。



お前はキトゥルセンより俺の元でより輝く」



自信たっぷりの言い方に腹が立つ。



「……私の気持ちは無視なのね。私は荷物じゃないわ!」



振り向きざまネネルの出した雷剣と魔剣フォノンがぶつかる。



それを予想していたネネルは、腹部目掛けて片手でレーザーを発射した。



ほぼゼロ距離射撃だったが、レーザーはゴッサリアを貫くことなく横に逸れる。



驚いたネネルだったが、



ゴッサリアの腹部から黒霊種の黒い手が生えていた事に気付き、苦い顔をした。



「ふう、焦ったぜ……ぐおっ!!」



空中にいた二人は急に地面に引っ張られた。



カフカスの重力に捕まったと気付いた時にはすでに遅く、



半壊した城の瓦礫に叩きつけられた。



「お主、中々危険な奴じゃの……」



カフカスの元にクガもやってきた。



「やられましたね……予定が大幅に狂ってしまいました。



あー、あちゃーもう来ちゃったかー」



クガの視線の先には大軍を率いたセトゥ将軍の姿があった。



ゴッサリアの私兵、ハイガーの部下と、3つ巴の混戦が始まり、



カフカスとクガも戦乱に巻き込まれる。



重力ですりつぶされる兵士、シェイクルーパではじける兵士、



血と臓物が降り注ぎ、辺りは地獄と化す。



ネネルにも大量の血が降り注ぎ、



あっという間に頭からつま先まで真っ赤に染まる。



しばらくすると物量作戦が効いたのか、



カフカスの力が弱まり、



その隙を突いてゴッサリアのかまいたちがカフカスに入った。



重力が解け、ネネルとゴッサリアはその場から逃れる。



ゴッサリアの前にはクガが立ち塞がった。



「せっかくの作戦が君のおかげで台無しだ。



でも……よりにもよって君とはね。



君、今もうちらの捕獲対象なんだよ。



その魔剣くれるなら許すけど、どうする?」



クガは笑みを浮かべながらシェイクルーパをゆらりと構える。



「お前ら【千夜の騎士団】だったか……



俺が以前始末した二人の魔人も大したことなかったぜ……



お前も逃げるなら今のうちだぞ」



ゴッサリアもニヤリと笑う。



逃れたネネルはカフカスと対峙した。



「……もう敵ってことですね」



険しい表情のネネルは両手に電気を纏った。



バチバチと青白い光が爆ぜる。



ドシャっと、近くに兵士が落ちてきた。



「腹を括ったか。将軍になって大人になったようじゃな」



かまいたちを受けたカフカスだったが、腕に血がにじんでいる程度で、



それほど深手ではないようだ。



「私はあなたに救われました。心より感謝しています。



……ですが今は、キトゥルセン軍の将軍として行動します」



カフカスは穏やかな表情だった。



「お主と大陸を廻った思い出は忘れぬよ。



子供は持たなかったが、お主は自分の子のように思っておる。



わしもお主から学んだことは多い。



だが、思想が違うのであれば仕方ない。



……思い出はお互い心の中にしまおうぞ。



最後の授業をしてやろう、来い!」



ネネルは勢いよく宙に舞い、上空から雷撃を放った。



しかし、全てカフカスの周りに落ち、一つも命中しない。



自身の周りに強力な重力渦を発生させ、空間を捻じ曲げたカフカスは、



飛び回るネネルに手をかざした。



重力に捕まり、ぐんっと引っ張られ慌てたネネルは機械蜂を放ち、自爆させる。



爆炎が上がり、重力から解放されたネネルは、間髪入れずレーザーを発射した。



放たれたレーザーはカフカスの肩を貫く。



「ぐうぅぅっ!!」



思わず傷口に手をやり膝をついたカフカスだったが、



強力な重力波でネネルを引き寄せ、



その勢いのまま、腹に重い拳を見舞った。



「いかんいかん、死ぬところじゃった。



手加減するともはや危ういとは……



成長したようでわしは嬉しいぞ、ネネル」



カフカスは口元の血を拭い、



あまりの激痛に息が出来ず、喘いでいるネネルの肩を持ちあげた。



「お主は〝夜喰い〟との交換用らしいからの」



だがネネルは隙を突いて辺り一面に電撃を放ち、



カフカスを振りほどいて、上空へ逃れた。



空中戦の中を潜り抜けるとき、誰かの血しぶきが顔にかかった。



少しだけ周囲の状況を確認する。



セトゥ将軍の軍はハイガー達を数で押している。



だが地上に落ちる兵の比率が違った。



ハイガー兵1人に5~6人が犠牲になっている。



城の右側では竜巻が発生して、次々と建物が崩れていた。



ゴッサリアとクガが激しい戦いを繰り広げている。



ネネルはギカク化した。



周囲に電気の渦が発生し、上空に雷雲が渦巻く。



戦場が一瞬止まり、多くの兵が上を向く。



ゴロゴロと黒い雲が唸り声を上げ、



無差別に落雷を落とし始めた。



同時に豪雨も振り出し、視界が悪化する。



「ギカク化したようじゃな……わしもこのままじゃまずいかの……」



その時カフカスの傍に落雷が落ちた。



そこにはギカク化の解けたネネルがいた。



ゆらりと立ち上がり、カフカスに向き直る。



そこで初めて、カフカスは自らの身体に大きな裂傷があることに気が付く。



遅れて肩から腹部にかけて激痛が襲った。



「まさか、雷に乗って……」



驚いた表情のまま、カフカスはその場に倒れた。







少し離れた所にルガクトが倒れている。



青く光るネネルの右目にルガクトの心肺が表示された。



目と腹の傷を、変形した機械蜂が覆い、



止血と応急措置をしてくれたようだった。



かろうじてまだ生きている。



ネネルはフラフラのまま、倒れたカフカスを見つめる。



吐き気と頭痛で目が霞む。魔素はほとんど使ってしまった。



土砂降りの中、ネネルはその場に膝をついた。



頭の中にカフカスとの思い出が溢れる。



魔素を感じるのでまだ生きているのだろう。



だが、既に敵同士。



もう駆けつけることは出来ないのだ。



心が張り裂けそうだった。



ネネルは自らを抱きしめる格好で、肩を揺らして咽び泣いた。



声は、雨に消された。



全身に浴びた兵士達の血は、既に洗い流されていた。

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