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第四章
第194話 ジョルテシア連邦編 それぞれの思惑
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大陸中央、ジョルテシア連邦。
大陸の北と南を二つに分かつピャレダヤ山脈の山頂付近に、
有翼人の城塞都市が五つある。
人口は六万。
ウルティア大陸にある有翼人国家では最大規模の国だ。
首都のジョルテシア城の窓の外には雪が降り積もる。
「パラス様、そろそろ我々もどちらにつくかはっきりしないと、
食料や資源の交易に問題が出ます」
窓の外を見る国王は宰相の言葉に振り向いた。
「分かっておる、ザン」
円卓に座る小柄な男、宰相のザンの前には様々な書類が置かれている。
「まさかブリムス同盟が北と南に分裂するとは……」
隣に座る筋骨隆々の将軍、セトゥはため息交じりだ。
「我が国は大陸のちょうど中間……
人間にはこの山脈を超えるのは厳しいが、
辺り一帯が戦場になれば国政に多大な影響がでるじゃろう……」
初老のカフカス議長の言葉は重い。
「そもそも人間の争いに我ら有翼人が入るべきかという意見もありますな」
ザンはうんざりしたような口調だ。
「もうそんなことを言っている場合ではないだろう」
セトゥ将軍もまたうんざりした言い方で制した。
「カフカス殿、大臣たちの見解は?」
王のパラスが二人を黙らせる。
「ブリムス同盟を二つに割ったのは間違いなく南のテアトラ、
ということで意見が一致しております。
南部はテアトラの息がかかっています。
北部はキトゥルセン派と言ったところでしょうな。
今までは南が優勢だったが、西の大国、ミュンヘルがキトゥルセンに併合し、
戦局は一気に分からなくなった感じですね」
「明日、キトゥルセンから使者が来ます。
私の妻、ヴィッキーの妹ですので、多少はやりやすいかと」
セトゥ将軍はパラス国王の不安を取り除こうとするような口調だ。
「大丈夫なのか、あの雷魔だぞ?
実の父親を殺したそうじゃないか。信用できるのか?」
ザンは懐疑的な意見だ。
「カフカス議長がいる。彼女は彼の弟子。
昔二人で大陸を旅していたそうだ。ですよね?」
「いかにも。まだ子供だと思っていたが、
今じゃキトゥルセンの将軍だ。
時が流れるのは早い……。
個人的には会うのが楽しみじゃよ」
ヴィッキーは将軍の別邸である小城にて、
接待の準備に追われていた。
会合はジョルテシア城で行うが、
キトゥルセンからの訪問団の宿泊は、
ヴィッキーとセトゥの城と決まった。
城の者たちが机やランプ、寝具などを準備し、大忙しだ。
「奥様、妹様とは何年振りで?」
ヴィッキーの隣に城で働くお局のチリアが立った。
「ああ、チリア……。そうね、もう5年、6年になるかしら。
懐かしいわ」
使用人たちが忙しく動くのを見つめながらヴィッキーは言った。
「私は当時ラピストリア家に起こった事を伝え聞いております。
再会されることに迷いはなかったのですか?」
細身で眉のつり上がった顔つきのチリアは、周囲にきつめの印象を与える。
特に若くてよそから嫁に来たヴィッキーにはことさらだ。
「迷いは……正直あるわ。事故とはいえ父を殺めた事実に憎さもある。
けどあの力をもって生まれた不幸に同情の気持ちもある。
私の運命を変えたのもあの子だし、
でもやはり血を分けた姉妹だから力になってあげたいとは思うわ。
自分でもあの子に対する感情が分からないのよ」
ヴィッキーは苦笑した。
「奥様は本来他の国の王子と婚姻する予定でしたものね」
「ええ……あぁ、そういう意味じゃないわ。
私はここに嫁いでよかったと思ってる。
夫のセトゥも皆さんもよくしてくれるし、
もちろんチリアにも感謝してる」
「……そうですか」
少しの沈黙。そこでヴィッキーは気付いた。
チリアは個人的な感情で国益を削ぐようなことをしないように、
と言いたかったのではないか、と。
その辺、心の整理はついているのかと。
「国王は完全にキトゥルセンと手を結ぶ腹積もりだ」
宰相のザンは自らの執務室で暖炉の前に座りながら険しい顔だ。
「まあそう焦るな」
もう一人の男がグラスにワインを注ぎ、ザンに手渡す。
「明日の会合が終わればもう決まったも同然だ。
何とか潰さなければ……」
「潰すさ。明日【千夜の騎士団】が一人来る手筈だ」
もう一人の男は余裕たっぷりの笑みを見せる。
「結局武力か……しかし、相手はあの雷魔ネネルだぞ?
雷を操れるなんて魔人の中でもかなり上位じゃないのか?
それに加えカフカス議長もいる。高齢だがれっきとした魔人だ。
この二人を相手にさすがの千夜の騎士団とは言え、
たった一人で抑えられるとは到底思えん」
「……俺がその準備をしていないとでも思ったか?
ザン殿、この国を狙ってるのなら、もう少し己の器を大きくしたらどうだ?」
そう言って皮肉たっぷりに笑う男は窓の傍に移動し、夜の雪を眺める。
ザンは不機嫌そうに眉根を寄せた。
「ここも変わったな。俺がガキの頃は人も建造物ももっと威厳に溢れていた……」
男は翼をゆっくり広げた。
片方の翼は機械製だ。動かす度、小さくキュウゥゥゥと音が鳴る。
「お前は確か、ジャベリン出身だったな、ハイガー。
あそこから見たらそう感じるだろうよ。
しかし……なんだか随分嬉しそうだな。こっちは不安が拭えてないというのに……」
「まあな……斧手の旧友と会えるのが楽しみなんで」
窓に映ったハイガーは凶悪な笑みを浮かべていた。
大陸の北と南を二つに分かつピャレダヤ山脈の山頂付近に、
有翼人の城塞都市が五つある。
人口は六万。
ウルティア大陸にある有翼人国家では最大規模の国だ。
首都のジョルテシア城の窓の外には雪が降り積もる。
「パラス様、そろそろ我々もどちらにつくかはっきりしないと、
食料や資源の交易に問題が出ます」
窓の外を見る国王は宰相の言葉に振り向いた。
「分かっておる、ザン」
円卓に座る小柄な男、宰相のザンの前には様々な書類が置かれている。
「まさかブリムス同盟が北と南に分裂するとは……」
隣に座る筋骨隆々の将軍、セトゥはため息交じりだ。
「我が国は大陸のちょうど中間……
人間にはこの山脈を超えるのは厳しいが、
辺り一帯が戦場になれば国政に多大な影響がでるじゃろう……」
初老のカフカス議長の言葉は重い。
「そもそも人間の争いに我ら有翼人が入るべきかという意見もありますな」
ザンはうんざりしたような口調だ。
「もうそんなことを言っている場合ではないだろう」
セトゥ将軍もまたうんざりした言い方で制した。
「カフカス殿、大臣たちの見解は?」
王のパラスが二人を黙らせる。
「ブリムス同盟を二つに割ったのは間違いなく南のテアトラ、
ということで意見が一致しております。
南部はテアトラの息がかかっています。
北部はキトゥルセン派と言ったところでしょうな。
今までは南が優勢だったが、西の大国、ミュンヘルがキトゥルセンに併合し、
戦局は一気に分からなくなった感じですね」
「明日、キトゥルセンから使者が来ます。
私の妻、ヴィッキーの妹ですので、多少はやりやすいかと」
セトゥ将軍はパラス国王の不安を取り除こうとするような口調だ。
「大丈夫なのか、あの雷魔だぞ?
実の父親を殺したそうじゃないか。信用できるのか?」
ザンは懐疑的な意見だ。
「カフカス議長がいる。彼女は彼の弟子。
昔二人で大陸を旅していたそうだ。ですよね?」
「いかにも。まだ子供だと思っていたが、
今じゃキトゥルセンの将軍だ。
時が流れるのは早い……。
個人的には会うのが楽しみじゃよ」
ヴィッキーは将軍の別邸である小城にて、
接待の準備に追われていた。
会合はジョルテシア城で行うが、
キトゥルセンからの訪問団の宿泊は、
ヴィッキーとセトゥの城と決まった。
城の者たちが机やランプ、寝具などを準備し、大忙しだ。
「奥様、妹様とは何年振りで?」
ヴィッキーの隣に城で働くお局のチリアが立った。
「ああ、チリア……。そうね、もう5年、6年になるかしら。
懐かしいわ」
使用人たちが忙しく動くのを見つめながらヴィッキーは言った。
「私は当時ラピストリア家に起こった事を伝え聞いております。
再会されることに迷いはなかったのですか?」
細身で眉のつり上がった顔つきのチリアは、周囲にきつめの印象を与える。
特に若くてよそから嫁に来たヴィッキーにはことさらだ。
「迷いは……正直あるわ。事故とはいえ父を殺めた事実に憎さもある。
けどあの力をもって生まれた不幸に同情の気持ちもある。
私の運命を変えたのもあの子だし、
でもやはり血を分けた姉妹だから力になってあげたいとは思うわ。
自分でもあの子に対する感情が分からないのよ」
ヴィッキーは苦笑した。
「奥様は本来他の国の王子と婚姻する予定でしたものね」
「ええ……あぁ、そういう意味じゃないわ。
私はここに嫁いでよかったと思ってる。
夫のセトゥも皆さんもよくしてくれるし、
もちろんチリアにも感謝してる」
「……そうですか」
少しの沈黙。そこでヴィッキーは気付いた。
チリアは個人的な感情で国益を削ぐようなことをしないように、
と言いたかったのではないか、と。
その辺、心の整理はついているのかと。
「国王は完全にキトゥルセンと手を結ぶ腹積もりだ」
宰相のザンは自らの執務室で暖炉の前に座りながら険しい顔だ。
「まあそう焦るな」
もう一人の男がグラスにワインを注ぎ、ザンに手渡す。
「明日の会合が終わればもう決まったも同然だ。
何とか潰さなければ……」
「潰すさ。明日【千夜の騎士団】が一人来る手筈だ」
もう一人の男は余裕たっぷりの笑みを見せる。
「結局武力か……しかし、相手はあの雷魔ネネルだぞ?
雷を操れるなんて魔人の中でもかなり上位じゃないのか?
それに加えカフカス議長もいる。高齢だがれっきとした魔人だ。
この二人を相手にさすがの千夜の騎士団とは言え、
たった一人で抑えられるとは到底思えん」
「……俺がその準備をしていないとでも思ったか?
ザン殿、この国を狙ってるのなら、もう少し己の器を大きくしたらどうだ?」
そう言って皮肉たっぷりに笑う男は窓の傍に移動し、夜の雪を眺める。
ザンは不機嫌そうに眉根を寄せた。
「ここも変わったな。俺がガキの頃は人も建造物ももっと威厳に溢れていた……」
男は翼をゆっくり広げた。
片方の翼は機械製だ。動かす度、小さくキュウゥゥゥと音が鳴る。
「お前は確か、ジャベリン出身だったな、ハイガー。
あそこから見たらそう感じるだろうよ。
しかし……なんだか随分嬉しそうだな。こっちは不安が拭えてないというのに……」
「まあな……斧手の旧友と会えるのが楽しみなんで」
窓に映ったハイガーは凶悪な笑みを浮かべていた。
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