【北の果てのキトゥルセン】 ~辺境の王子に転生したので、まったり暮らそうと思ったのに、どんどん国が大きくなっていく件について~

次元謄一

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第四章

第189話 ペトカルズ共和国編 二人の魔人

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「現在、首都とその周辺4つの街で魔物が確認されている。



最初の報告から10日が経っている。



これ以上グールが増える前に、各国協力して駆除の方を進めてもらいたい」



作戦指揮所の大きな机には各国の指揮官が集まっている。



キトゥルセン軍〝七将帝〟マーハント将軍は、



今回の魔物討伐合同軍の総大将を任されていた。



マーハント軍1000名の他、



キトゥルセン軍からはベミー軍300名も参加している。



「カサスは相変わらずの日和見主義ですな。



僅か800の兵しか出さぬとは。



我らは2000の兵を出したというのに」



ひげもじゃ大男のタシャウス軍将軍、リンゼイは、



カサス軍将軍のエイブに嫌味たらしく話しかけた。



「はっはっは。面白いことを言いますな、リンゼイ大将軍殿。



我が兵は精強な精鋭兵。貴軍の3倍は強いので、



そちらが2400の兵を出しているのと同じですぞ」



涼しい表情で返したエイブに、



リンゼイは苦虫を噛み潰したような顔をした。



「あの傲慢な女王に会えないのが残念です。



ここにはその犬しか来ていないようだ」



エイブの目が鋭くなる。



「犬と言えば、南の犬に国を引っ掻き回されたそうで。



私が貴軍を動かす立場なら、早々に対処していたでしょうな。



誰にでも出来る簡単な仕事だ」



二人はバチバチと視線をぶつけ合う。







「おや、ハリンストン。



将軍なんて称号を名乗るなんて、



まるでレジュ自治区が立派な国になったみたいじゃないか」



あごひげを生やしたまだ若めのシルギィ将軍が壮年のハリンストンに絡む。



「これはこれは、お久しぶりですな、坊ちゃま」



余裕の笑みでハリンストンは返す。



「その名で呼ぶな」



シルギィ将軍は睨む。



「ルートヴィアから我らレジュが独立してもう5年ですか。



時が流れるのは早いですな」



「よく1000も出せたな。守りは大丈夫か?



我らルートヴィア軍は1600で行軍してきたんだ。



青砂街道からお前の街……いや悪い国か、南下してきたんだが、



兵をなだめるのに苦労した。俺がいなけりゃ略奪三昧だっただろうな」



「ふふ、我らは数は少ないが竜人と狼人族が多く住んでいます。



それを坊ちゃんもご存じだから、何も起きず今ここにいるのでしょう」



二人は険悪な雰囲気で対峙する。





「……マーハント、みんなもう仲良くなってるなー。



おれも後であいさつしてこよー」



骨付き鶏肉をもっちゃもっちゃしながら、



ベミーは呑気に机の上に座っている。



「まったくだ。過去に色々あったんだろうな。



それが仲のいい原因だろう。仲が良すぎて何も起きなきゃいいが」



マーハントはため息をついた。







作戦会議は進む。



「では、各軍の担当区域はこのように」



リンゼイは地図の周りに集まった各国の指揮官を見回した。



「首都のヌビワはキトゥルセン軍、



西のタントラ市はカサスのエイブ将軍、



北のロンガ市はレジュのハリンストン将軍、



中央のホジュレー市はわしらタシャウス軍、



東のモコパ市はルートヴィアのシルギィ将軍が担当。



これで決定となるが、マーハント殿、よろしいか?」



「ああ、問題ない。



ここで食い止めなければ我らの国も感染者で溢れかえる。



人間間の争いは一旦棚上げして、



団結してこの地域から魔物を殲滅しよう」













「ガイス! どっち行けばいい!?」



ベミーは短剣の二刀流でグールの頭を飛ばしながら、



少し後ろにいる兎人族の男に訊いた。



彼はペトカルズの兵士だ。



昨日街から避難してきたが、またベミー軍の案内で討伐隊に加わった。



「どちらも同じ通りに出ます! 右の方が道幅が広い!」



感染防止の重装甲装備を付けた獣人兵達が、



グールの群れを削りながら進軍する。



「うーん、じゃあマーナ左行って! 



リューズ! 後ろからも来てるから反転!



ウチらは右! 後で合流な!」



ベミーは大声で指示を出した。



リューズは新生〝十牙〟の一人で、若き牛人族の戦士だ。



今回の遠征からマーナ・ツウェニアと同じ副将になった。



牡牛の角を生やした剛腕が、鉄の棍棒でグールをバラバラに千切り屠る。



ベミー軍300名は3手に分かれ、生き残った住民を救助しながら、



グールと魔物の駆除を進めていく。



各兵たちは外の通りでは槍、建物の中では盾と短剣と使い分け、



群れや魔物には火矢と油で処理、



連携を取りながら素晴らしい動きで仕事をした。



救助した住民は馬車に乗せ、水と食料を与え、



住所と名前を記録し、次々と後方へ送る。



『おい、ベミー。



商会の倉庫にたくさんの魔物がいる。合流できそうか?』



チグイを殴り飛ばしたベミーに、マーハントから通信が入る。



『いいよ。今から向かうよ』



ベミーの視界にマップが表示された。



マップの脇に先日ユウリナから送られてきた電子文書の欄がある。



ベミーは文書の中身を思い出してため息をついた。



〝狂戦士化〟は心臓を肥大化させる。



もうすでに限界値を突破している。



絶対に〝狂戦士化〟しない事。



帰還したら手術をする、との内容だった。



『到着したら裏口を固めてくれ。俺たちが正面から行く』



『……分かった』







担当区画のほとんどを駆除し終わったベミー軍は集結し、



マーハントから要請のあった商会倉庫へと向かう。



「ねえマーナ、この前ノーストリリア城行ったんでしょ?



アーキャリーに会った?」



「ええ、数時間でしたけど。お腹少しだけ大きくなってましたよ」



兎人族のマーナは自分のお腹を擦った。



「うわー会いたいなー、アーキャリー。



子供出来るってどんな感じなんだろー」



「え、ベミー将軍、子供欲しいんですか? 



あなたがまだ子供じゃないですか」



「むかー。おれもアーキャリーもオスカーもメミカも同じくらいだろ」



ベミーは頬を膨らます。



「見えました。倉庫の裏口です」



案内のガイスが振り返る。



その時ベミーの視界に魔素の反応があった。



ちょうど馬に乗った黒装束の二人組が出てくる。



視界に『千夜の騎士団』と表示された。



「おい! お前たち何者だ!?」



ガイスが大声で聞く。



「あら、間が悪いわ。



ギルギット、あんたがモタモタしてるから」



「はあ、時間ねぇってのに……」



兵士たちが裏門と二人を包囲した。



「何者だと聞いている!」



怒鳴るガイスの横からベミーが前に出た。



「お前ら【千夜の騎士団】だろ?」



パキパキと指を鳴らすベミーの発言に兵士たちがざわつく。



「お! 知ってる奴がいたか……



あれ? お前キトゥルセンの……あー確か……ベミー・リガリオンか?」



「誰それ?」



女の方がめんどくさそうに呟く。



「資料見とけ。七将帝の一人だ。



名のある首は好きだぜ。……やるか」



ギルギットと呼ばれた大男が黒衣を脱ぎ捨てた。 



「ちょっと本気? もう出発しなきゃ間に合わないのよ?



それに今回の仕事に戦闘は入ってないはず……」



「まぁまぁ、すぐ終わるから。



パムはやらなくていいからよ。下がってろ」



扉の奥から魔物の鳴き声が聞こえる。



ベミーは鎧を外し、軽装備になった。



「多分、今回の騒動はお前らが仕組んだんだろうけど、



訊いてもどうせ答えないだろ?」



「はて、何の話だ? ベミー・リガリオン」



筋肉モリモリのギルギットはわざとらしく笑う。



ベミーは目にも止まらぬ速さで全力の拳をギルギットに叩き込んだ。



大型の腐王でさえ吹っ飛ばす破壊力だが、



ギルギットは一歩後退しただけで、その場に留まった。



ニタっと笑ったギルギットはおもむろに指を突き出し、



ベミーをデコピン一発で吹き飛ばした。



「あっ……ぐッ!!」



兵士数人を巻き込んで止まったベミーはしかし、よろよろと立ち上がる。



「ベミー将軍!」



額からは血が流れ、顔が真っ赤に染まる。



「ほう、驚いた。獣人だから頑丈なんだな。



人間なら脳みそぶちまけてたぞ」



「お前、なんの能力だ……?」



「俺は単純に身体が丈夫で力が強いだけの地味な魔人だよ」



ギルギットはつまらなそうに吐き捨てた。



「あんた、なんで簡単に自分の能力ばらすのよ……」



ため息をついたパムに



「俺はもっと派手な能力が欲しかったんだよ」と悪態をつく。



『ベミー聞こえるか?』



その時、脳内通信でオスカーから連絡が入った。



『魔人二人の相手は無理だ。機械蜂を爆発させて一旦退くんだ』



ベミーは迷った。



確かに勝てないけど……あの大男もまだ退かないだろ。



そしたら仲間がやられるじゃんか……。



『……ごめんオスカー、これはちょっと退く訳にはいかないよ』



『おい、ベミー!』



ベミーは一気に〝狂戦士化〟した。



もってくれよ、おれの心臓……。



「おお、こりゃ楽し……ぶふぉお!!」



ギルギットを殴り飛ばしたベミーは、



間髪入れず何発も渾身の拳を浴びせた。



塀が崩れ、ギルギットを倉庫の中にまで吹っ飛ばしたベミーは、



今度はパムに向かって地を蹴った。



「ちょっとぉ! 私はやらないって言ったでしょ!」



ベミーがパムの目前にまで迫った時、地面から何かが生えた。



その何かに当たり、宙に飛ばされたベミーだったが、



体勢を立て直して何とか着地した。



パムは手を前にかざす。



「はあ面倒くさい……私は言われた仕事以外はしない主義なのに!」



途端、地面から蛇のような土の塊がいくつも飛び出す。



土を操る魔人……そうベミーが気付いた時には四方八方から襲われていた。



いくつかは力づくで粉砕したものの、数が多く、途中から飲まれた。



まるで土石流だ。



土が引くと、そこには〝狂戦士化〟が解かれ、



意識の無いベミーが横たわっていた。



「やるじゃねえか、久々に俺を吹っ飛ばす奴が……あれ?」



瓦礫からグールに噛まれながら出てきたギルギットは、



倒れたベミーを見て肩を落とした。



ギルギットの肌はグール如きの歯を通さない。



したがって感染しない。



うるさそうに腕を振ると、グールはバラバラに吹っ飛んだ。



「お前……人の獲物取るなよ……」



「知らないわよ、向こうから来たんだから。



それよりもういい加減行かなきゃ……」



「ちっ……」



崩れた塀からグールが出てきた。



リューズ達の混乱をしり目に、



ギルギットとパムの二人は悠々と去っていく。



倒れたベミーに絶望の表情でマーナが近寄る。



マーナの視界にはベミーのバイタルが表示されていた。



心臓は動いていなかった。

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